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平成十四年二月二十二日提出
質問第三一号

原子力・エネルギー教育支援事業交付金の創設が憲法及び教育基本法に違反する疑いがあることに関する質問主意書

提出者  山 内 惠 子




原子力・エネルギー教育支援事業交付金の創設が憲法及び教育基本法に違反する疑いがあることに関する質問主意書


 政府は平成十四年度予算において「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」の創設を求めているが、これは憲法及び教育基本法に定められた教育を受ける権利及び教育の自由等に違反する疑いがあり、次のとおり質問する。

一 原子力推進政策を学校で宣伝・教育することの是非について
1 憲法第十三条「個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重」、同第二十三条「学問の自由」及び同第二十六条「教育を受ける権利」は、国家が教育を思想統制の手段として用いることを禁じている。旭川学テ事件最高裁判決でも、「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法二十六条、十三条の規定上からも許されない」との判断を示している。文部科学省は、二月十四日衆議院第二議員会館で行われた市民団体への説明の中で、「旭川学テ判決の判例の中に『一般に社会的公共的な問題について国民の意思を組織的に決定・実施すべき立場にある国は、国政の一部としてひろく適正な教育政策を樹立・実施すべく、また、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有しており、前述のような子どもの教育内容に対する国の正当な理由に基づく合理的な決定機能を否定する』ものではないとされておりますので、一般的に許される範囲すなわち、国の正当な理由に基づく合理的な決定権能の範囲であれば許されると考えている」と答弁した。原子力を基軸とするエネルギー政策は普遍的な真理でもなく、争う余地のない科学的真実でもなく、現に国民世論を二分し国民の間で深刻な対立のある政策である。政治・経済の情勢が変わり、また、政権が変われば政策も変わりうる。もし、このような特定の政策の推進を子どもに教育することが「必要かつ相当と認められる範囲」であるとするのであれば、かつてのような軍国主義教育も許されることになると考えられる。原子力推進教育や軍国主義教育のようにその時々の政権担当者が自らの政策を宣伝・教育するために学校教育を利用することは、「必要かつ相当と認められる範囲」を逸脱し、「一方的な観念を子どもに植え付ける」性格のものであり、憲法の右条項に違反すると考えられるが、それに相違ないか。
2 教育基本法第一条には「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」と記され、この教育の目的を達成するために、教育基本法第十条には「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。A教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。」と教育行政のあり方に制限と義務が付されている。したがって、教育行政において「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」以上に教育内容へ深く介入し、教育委員会や学校に対し、原子力推進政策のように国民を賛成・反対で二分している特定の政策を教育の場で宣伝・教育するよう求めること、及び「諸条件の整備確立」を手段としてこのような特定の政策の宣伝・教育を促すこと、あるいは事実上強制することは、教育への「不当な支配」を行うものであり、教育基本法の右条項に違反すると考えられるが、それに相違ないか。
3 小泉政権は前政権に続き、そのエネルギー政策として原子力発電を基幹電源に据え、これを推進している。一昨年十一月に原子力委員会が策定した原子力開発利用長期計画では、第二部第二章三項に「原子力に関する教育は、エネルギー、環境、科学技術、放射線等の観点から、体系的かつ総合的にとらえることが重要である。このため、各教科における学習の充実とともに新しい学習指導要領において新設された『総合的な学習の時間』等の活用、教育関係者の原子力に関する正確な資料や情報の提供、教員への研修の充実、さらに、教員が必要な時に適切な情報や教材等が提供されるよう、教員、科学館、博物館、原子力関係機関、学会等を繋ぐネットワークの整備を図ることが重要である。また、原子力やエネルギー問題については、学校のみならず、施設の見学等の体験的な学習や、科学技術に関する理解増進のための方策の一環としての取組を充実させることも重要である。」と記している。原子力委員会は「原子力の研究、開発及び利用に関する国の政策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため」設置され、原子力開発利用長期計画は、原子力を計画的に推進するための計画である。したがって、この計画に記載された「原子力に関する教育」とは原子力推進政策を計画的に進めるための教育にほかならず、「各教科における学習の充実」、「『総合的な学習の時間』等の活用」、「資料や情報の提供、教員への研修の充実」などは、原子力推進政策を学校において宣伝・教育することを求めるものであり、また、「原子力に関する教育」を「遂行するに必要な諸条件の整備確立」を通じてそれを助長するものである。これは憲法及び教育基本法の右条項に違反すると考えられるが、それに相違ないか。
4 原子力開発利用長期計画において「原子力に関する教育」が強調されるようになったのは最近のことである。新潟県巻町住民投票での原発立地反対派勝利、芦浜原発立地計画の白紙撤回、高速増殖炉「もんじゅ」ナトリウム漏洩火災事故、MOX燃料ペレットデータねつ造事件と高浜原発でのプルサーマル計画中止、JCO臨界事故と作業員二名の被曝死、新潟県刈羽村住民投票でのプルサーマル反対派勝利、三重県海山町住民投票での原発誘致反対派勝利など、ここ数年の間の出来事は政府の原子力推進政策が行き詰まり、破綻に瀕していることを示している。とくに、原発立地やプルトニウム利用を推進する政策に対する賛成と反対が争われた住民投票では、政府側の完全敗北に終わっている。このような政府側の劣勢を学校教育を通じて巻き返すために「原子力に関する教育」の重要性が原子力開発利用長期計画で強調され、その具体化が図られようとしている。このような教育を促すことは為政者による教育への「不当な支配」そのものであると考えられるが、それに相違ないか。
5 このような「原子力に関する教育」は旧文部省と旧科学技術庁が文部科学省へ統合されたことにより、強められている。旧科学技術庁は原子力を推進する立場にあり、旧文部省は原子力推進行政が教育へ不当に介入するのを阻止すべき立場にある。この両者が統合されたために、原子力推進行政による教育への不当な介入を阻止する歯止めがなくなる恐れがある。文部科学省は先の二月十四日の説明で「私ども(科学技術庁と文部省は)統合されまして、それぞれ教育、科学技術・学術、文化・スポーツいろんなものを合わせて振興できる立場の役所になりましたので、融合というか施策の調和を発揮させて統合の効果を上げたいと思っている」と回答したが、このような「融合」は、原子力推進という特定の科学技術政策が文部行政にストレートに反映され、教育への「不当な支配」を促す危険性を高めている。憲法と教育基本法に規定された行政による教育への不当な支配を阻止するためには、文部科学省から原子力推進行政を分離させるべきだと考えるが、どうか。
二 原子力・エネルギー教育支援事業交付金の来年度創設計画について
1 政府は来年度予算に「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」の創設を求めている。文部科学省の説明によれば、これは一の3に記載の原子力開発利用長期計画に基づき、その具体化を図るものである。文部科学省は、原子力開発利用長期計画は原子力批判派からも意見を聴いた上で策定されたものだから原子力推進一辺倒ではないとごまかしているが、誰から意見を聴取したかは原子力開発利用長期計画の性格を変えるものではない。また、文部科学省は、「原子力に関する教育」は「エネルギーに関する教育」であり、原子力はその中心であるに過ぎないと弁明しているが、これは詭弁である。原子力開発利用長期計画における「原子力に関する教育」は、原子力を基幹電源とするエネルギー政策への理解を促すための教育であり、原発立地・プルサーマル計画・高レベル廃棄物埋設処分計画などへの理解を学校の場で宣伝・教育することを求めるものであり、それ以外のなにものではない。
 これはすなわち、原子力・エネルギー教育支援事業交付金を創設して、教育への不当な支配を強めようとするものであると考えられるが、それに相違ないか。
 文部科学省はまた、原子力・エネルギー教育支援事業交付金の対象事業は「副教材の作成・購入、指導方法の工夫改善のための検討、教員の研修、見学会、講師派遣、等」であり、都道府県教育委員会からの申請を受けて交付するものであり、申請がなければ交付されないから強制ではないとも説明している。これは逆に、申請内容が交付金の趣旨に合致しているかどうかを判断して交付するものであり、申請要件が右の「原子力に関する教育」を推進するものでなければならないことは明白である。原子力・エネルギー教育支援事業交付金は、まさに、原子力推進政策に沿った交付申請を促し、それに関連した教育を行うことを促すものであると考えるが、それに相違ないか。
2 原子力・エネルギー教育支援事業交付金は、電源開発促進対策特別会計の中の電源立地勘定、電源立地対策費、電源立地等推進対策交付金の一環として計上されている。この特別会計は電源開発促進対策特別会計法第一条第一項に規定されているとおり「電源開発促進税の収入を財源として行う電源立地対策及び電源多様化対策に関する」特別会計であり、同条第二項には「電源立地対策」とは「発電用施設の設置の円滑化に資するための財政上の措置」であると明記され、実際に、原子力施設立地など原子力推進を主たる使途としている。したがって、原子力・エネルギー教育支援事業交付金の性格は、同特別会計の設置目的である電源立地対策に限定されており、原子力施設等の立地を促進することが大前提である。このような予算を交付金としてであれ、学校教育予算として計上することは、教育行政としてふさわしくなく、憲法及び教育基本法の右条項に違反していると考えられるが、それに相違ないか。
 原子力・エネルギー教育支援事業交付金は、電源開発促進対策特別会計の中の電源立地勘定、電源立地対策費、電源立地地域における安全対策等の推進に必要な経費の中の「原子力発電施設等が設置されている地域等における放射線監視施設の設置に必要な事業費等に充てるための都道府県等に対する交付金等」に含まれる。原子力・エネルギー教育支援事業交付金は全国の四十七都道府県を対象としているが、この場合の「原子力発電施設等が設置されている地域等」には、従来からの原子力施設の立地市町村及びその隣接・隣隣接市町村の範囲を超え、これら以外の市町村さらには原子力施設が立地されている十八道府県以外の都府県まで含まれることになる。このような電源立地地域以外への適用範囲の一挙拡大は「電源立地地域における」という目的税の使途に反すると考えるが、それに相違ないか。もし、本目的税の使途に合致するというのであれば、その法的根拠はどこにあるのか、その説明を求める。
 また、原子力・エネルギー教育支援事業交付金は「放射線監視施設の設置に必要な事業費等」の一環とされているが、「放射線監視施設の設置」と関係があるとはとうてい考えられない。目的税の中に分類規定された費目と関係のない使途で予算を組むことは目的税本来の趣旨に反すると考えるが、それに相違ないか。
3 文部科学省は、来年度から「総合的な学習の時間」を小・中学校へ導入し、再来年度から高等学校へ広げようとしている。そのために「必要な諸条件の整備確立」を行うのであれば、総合的な学習の時間のための予算を、その趣旨に合わせて、一般会計を財源とし、使途を限定せず、広く使えるようにすべきである。原子力・エネルギー教育支援事業交付金は、特定の政策である原子力の推進政策に寄与する教育にのみ予算をつけるものであり、総合学習の時間の趣旨にも反すると考えられるが、それに相違ないか。
4 文部科学省は、「原子力・エネルギー教育支援事業交付金は新学習指導要領に基づいている」とも主張する。しかし、小学校新学習指導要領には「原子力」という用語すら出てこず、中学校では、理科第一分野の「科学技術と人間」の項で「人間が利用しているエネルギーには水力、火力、原子力など様々なものがあることを知るとともに、エネルギーの有効な利用が大切であることを認識すること。」と記載されているだけである。
 高等学校新学習指導要領でも、理科総合Aで「人間生活にかかわりの深い化石燃料、原子力、水力、太陽光などの利用の際見られる現象は、エネルギーという共通概念でとらえられることを理解させる。」「蓄積型の化石燃料と原子力及び非蓄積型の水力、太陽エネルギーなどの特性や有限性及びその利用などについて理解させる。」とされ「多様なエネルギー資源が発電や熱源に利用されていること及び蓄積型のエネルギー資源の成因、分布、埋蔵量の有限性並びにこれらがエネルギーとして利用できる過程についての概略を扱い、環境への配慮が必要であることにも触れること。その際、羅列的な扱いはしないこと。原子力に関連して、天然放射性同位体の存在やα線、β線、γ線の性質にも触れること。」とされているのみである。また、物理Uの原子核の項で「放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること。」とされているだけである。
 いずれにせよ、原子力の推進もしくは原子力施設の立地を促進するための教育を行うという位置づけは全く与えられていない。万が一、そのような記載が新学習指導要領に含まれるとすれば、それ自身が憲法と教育基本法に違反することになる。したがって、「原子力・エネルギー教育支援事業交付金は新学習指導要領に基づく」との文部科学省の主張は成り立ち得ないと考えられるが、それに相違ないか。
5 財団法人・日本原子力文化振興財団は、日立製作所、三菱重工業、三菱電気、日本原電、電力中央研究所などの協力のもと、「高等学校『総合的な学習の時間』のためのワークシート教材」として「エネルギーと環境」という教員向け冊子を作成し、全国の希望する高校七二八校に対し、昨年四月二十三日付で無料配布した。しかし、この中では、各エネルギー源の長所と短所が記述されているにもかかわらず、チェルノブイリ事故、JCO臨界事故、もんじゅ事故などは取り上げられず、放射線や放射性物質は低線量または微量でも人体に有害であることが全く触れられていない。これは原子力の危険性を意図的に隠し、原子力の利点のみを強調するものである。このようなワークシート教材の作成を文部科学省の予算で委託することは、教育行政としてふさわしくない。それは、教育基本法第一条の教育の目的、とりわけ「真理と正義を愛」するとの精神に反し、最高裁判決の禁じた「誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制する」ものであり、「不当な支配」を行うものだと考えられるが、それに相違ないか。旧科学技術庁時代には許されたかも知れないが、このような教育行政上不適な委託は、厳正な教育行政に携わるべき文部科学省としては許されるものではない。即刻中止すべきであると考えるが、どうか。
6 文部科学省が管轄している全国の大学では「原子力工学科」の看板が降ろされ、原子力研究者は大幅に減少し、大学や企業での原子力教育は後退の一途をたどっている。他方で、文部科学省は、原子力・エネルギー教育支援事業交付金を創設し、小・中・高等学校に「原子力に関する教育」を押しつけようとしている。これは明らかに、破綻に瀕する原子力推進政策を教育で巻き返そうという本末転倒の反動的な教育行政である。憲法及び教育基本法を遵守し、原子力・エネルギー教育支援事業交付金の創設を断念すべきであると考えるが、どうか。

 右質問する。



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