衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成二十年一月二十一日提出
質問第一三号

救急医療提供体制の充実に関する質問主意書

提出者  阿部知子




救急医療提供体制の充実に関する質問主意書


 わが国の救急医療は、一九六三年制定の改正消防法による救急搬送業務の法制化に始まり、翌一九六四年、厚生省が発令した救急病院等を定める省令により救急告示病院制度が導入された。高度成長期に、労災や交通事故などによる救急搬送が急増し、いわゆる「たらい回し」が社会問題化するなど深刻な状況があったが、一九七七年に救急病院を三段階にクラス分けし、初期救急としての休日・夜間診療体制や、生活圏の中に入院施設のある二次救急、高度な救急医療を担う中核的施設として救命救急センターが整備され、とりわけ自治体病院や中堅の民間病院などの二次救急病院が地域の中心的な担い手として機能してきた。
 しかし、一昨年頃から再び、救急搬送で「満床」や「治療中」などを理由とする受け入れ拒否の事例が相次いでいる。救急搬送をめぐっては、奈良県で昨年八月、分娩中に意識不明になった妊婦が十九病院から受け入れを断られ八日後に亡くなった事件が記憶に新しいが、昨年末から今年にかけて年末年始休暇のため搬送先が集中したこともあり、受け入れ拒否の事例が連日報道された。中でも、八十九歳の女性が三十病院から搬送を拒否され二時間後に亡くなった大阪府富田林市では、昨年一年間の救急搬送で十病院以上に受け入れを断られた例が、百二十三件にも上ったという。命の最後の砦ともいうべき三次救急医療機関での受け入れ拒否が全国で起きている。何故このような事態が生じているのかを明らかにし、喫緊の対策を講ずるべきと考え、以下質問する。

一 全国における二〇〇七年の一年間の救急搬送のうち、十カ所以上の医療機関に搬送拒否され、二十四時間以内に死亡に至った事例を都道府県ごとに調査し、その件数を明らかにされたい。
二 二〇〇六年六月に公布された改正医療法により、救急医療事業を含むいわゆる四疾患五事業についての医療体制の構築が新たに都道府県の医療計画に委ねられることとなった。
 しかし、地方財政の悪化や深刻な医師不足により、病院群輪番制などで地域の救急医療を担ってきた自治体病院などの二次救急医療機関が機能破綻し、救急医療から撤退あるいは倒産するなど、急速に医療の地域間格差が生まれつつある。
 二次救急(自治体が独自に指定している機関も含む)、三次救急医療機関は全国にそれぞれ何カ所登録されているか。都道府県ごとに直近十年間の経年推移を示されたい。
三 二〇〇七年七月二十日、医政指発第〇七二〇〇〇一号通知「疾病又は事業ごとの医療体制について」の中で、「救急医療の体制構築に関する指針」が都道府県に示された。三次救急医療機関を例にとると、「救急患者を原則として二十四時間三百六十五日必ず受け入れることが可能であること」とある。「必ず受け入れる」からには「常時」空床が確保されていなければならないが、三次救急医療機関は救急だけでなく、同病院の重症患者の治療や手術も行う。定期の手術を行いながら、なおかつ救急患者のために「常時」空床を確保するのは事実上不可能ではないか。また、急性期を脱した患者のための後方病床はどのように確保されているのか。救急ベッド二十床の背後には、三倍の六十床が必要という。二〇〇七年一年間の三次救急医療機関に係る後方病床の確保について、各医療機関の状況を早急に調査し公表すべきと考えるがどうか。さらに、それぞれの救急病床数、常勤医数(専任・併任の別、併任の場合はその担当科)、搬送受け入れ依頼数、受け入れ実数等についても速やかに調査し示されたい。
四 入院設備を持つ医療機関では医療法第十六条により、医師が必ず宿直しなければならないという規定がある。宿直は一義的には入院患者の急変に備えてのものであり、処置中に救急搬送患者の受け入れ依頼があったとしても、治療を中断するわけにはいかない。しかし一方で、医師の勤務実態は、救急に限らずその多くが日勤勤務医師が夜間にも続けて勤務する形態を余儀なくされている。産科や小児救急などでも、夜中に医師が一睡もできずに次の日勤帯の勤務に入るという事例も珍しくはなく、医師の過重労働、過労死、医療事故の一因とも言われている。厚生労働省は二〇〇二年三月十九日、基発第〇三一九〇〇七号通知「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」において、「医療機関において労働基準法における宿日直勤務として許可されるのは病室の定時巡回や検脈・検温等の軽度又は短時間の業務に限る」とし、通常労働が行われる場合は交代制の導入を図る必要があると述べている。しかし、この通知に従って勤務実態を改善するためには現在の医師数ではとうてい不可能だ。東北大研究チームの伊藤恒敏教授によれば、常勤医だけで現在の医療体制を維持するには少なくとも約四万人の医師が足りないというデータがある。
 救急医の勤務実態について早急に調査の上、調査結果に対してどのような方法で前段通知の徹底を図るのか、改善に向けての政府の見解を示されたい。
五 政府は救命救急センターのレベルアップを図るため、一九九九年から充実度評価を実施し補助金に反映させている。評価基準の項目はセンターの規模や診療体制及び診療実績などであるが、患者の受け入れ実態や、過酷な勤務実態に対する労働管理の評価項目がないなど、問題点を改善するものとはなっていない。例えば専任医師数の項目は五人で三点、五人未満で〇点である。しかし、わずか五人で三十床以上の病床と救命センター医療全般がカバーできるとは思えない。全国の三次救急を担うすべての医療機関に対し、救急医療体制の再評価を年ごとに適切に行い、救急医療事業に反映させるべきと考えるがどうか。また、そのためには調査項目を再検討するべきと考えるがどうか。
六 政府は平成二十年度予算に救急医療体制の確保として、ドクターヘリの整備と併せ、予後の影響が大きく初期の救命救急が重要な脳卒中、心筋梗塞その他重度外傷等に対応できるよう、高度の救命救急センターにおける専門医の確保を図るほか、小児の救急拠点病院の休日夜間診療体制の確保や救急電話相談事業などの小児救急医療体制を整備するとして九十五億円を計上しているが、その積算根拠は何か。現在把握されている、救命救急センターに在籍している循環器科、脳外科、麻酔科、小児科の常勤医師の数を、施設ごとに明らかにされたい。
 人口千人あたりの医師数をOECD加盟諸国と比較すると、三十カ国中二十七位である。日本が医療費抑制のために医師数を抑え続けて来た結果であり、二〇二〇年頃には最下位に転落するだろうとの試算がある(日本福祉大 近藤克典教授)。救急医療崩壊の背景に、医療給付費抑制と医師不足があることはもはや否定できない事実である。救急医療においても医学部定員を増やし、救命救急センター等、臨床の場での救急医の育成に補助金を支給するなど、大胆な方針転換を期待したい。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.