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平成二十年九月二十五日提出
質問第一九号

風力発電施設に関する質問主意書

提出者  保坂展人




風力発電施設に関する質問主意書


 日本政府は、風力発電に対して、二〇〇二年に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)を制定、さらに同年「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令」を改正補完、補助金交付による風力発電等の誘導、利用促進を図ってきた。なお、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」は二〇〇五年の最終改正を経て現在に至っている。また、二〇〇七年三月、経済産業省の調査会「新エネルギー部会報告」において、二〇一〇年度の風力発電導入設備容量目標を三〇〇万kwと定め、補助金による政策誘導のもと、風力発電施設建設の拡大を図っている。二〇〇八年三月現在の導入風力発電施設容量は約一六八万kw、設置基数は一四〇九基と発表されている。
 これらの風力発電施設は、環境影響評価、地元同意手続きなどが法的に位置づけられていないため、十分な調査・評価、精査・検証がなされないまま、やみくもに建設されてきたきらいがある。これまでは北海道、東北など建設地周辺に民家が少なく、地形的にも比較的平坦な地域に建設され、バードストライク(野鳥が風車に衝突する現象)が問題になる程度で済んでいた。しかし最近では、風況の良い伊豆半島や遠州灘沿岸、愛知、和歌山、三重、長野など東海地方から中部地方山岳地帯に建設されるようになり、施設の建設、稼動に伴う問題が露呈してきている。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の報告(二〇〇八年四月二十八日海外情報)にも触れられているように、風車騒音・低周波音による近隣住民の健康被害、国立・国定公園等の景観破壊、生態系への影響、観光等地域産業への影響など問題は多岐にわたる。とりわけ近隣住民の健康被害は、政策的誘導を進めてきた政府の責任が問われる深刻な問題である。
 よって以下、問題を項目ごとに質問し、政府の見解を求める。

1 風力発電の二酸化炭素削減効果について
 風力発電の二酸化炭素削減効果について、電力の安定化を図るために必要とされるバックアップ発電との関係のもとで、どの程度の削減量が見込まれるのか。また、森林伐採等とのかかわりにおいて、風車稼動による全発電期間の二酸化炭素削減量を明らかにされたい。
2 風車騒音・低周波音による健康被害について
 (1) 近年の風力発電施設は、一基当たりの定格出力が二〇〇〇kw前後と大型化し、二〇〜四〇基もが集中的に配置されるようになってきている。そのため風車騒音・低周波音による近隣住民の健康被害は甚大である。事例として以下が生じている。
  ・愛知県豊橋市細谷
  二〇〇七年一月末、M&Dグリーンエネルギー(株)により一基の風車が稼動、稼働直後から点在して住む近隣住民二十六名から被害の訴えがあった。被害者の症状は、眠れない、めまい、頭痛、血圧上昇、耳鳴りなど多様な自律神経失調等の症状を示している。被害住民は、畑で農作業ができない、トマトの収穫がままならないなどの困難を訴えている。生殺しという言葉でそのつらさを表現する被害者もいた。
  ・愛知県田原市
  二〇〇七年一月末、M&Dグリーンエネルギー(株)により一基の風車が稼動、稼働直後から自宅に住むことができなくなり、アパート住まいを余儀なくされている被害者がいる。
  ・静岡県東伊豆町熱川
  二〇〇七年十二月、CEFにより天目山山稜に十基の風車が完成、直ちに試験運転、四〜六基の運転にもかかわらず近隣別荘地定住者四十八世帯、九十六名中二十一世帯、二十九名から健康被害の訴えが出ている。症状は前記同様であるが、外耳が腫れたり、体がふらつき歩行が困難になった方もいた。血圧の上昇でクモ膜下出血を起こして亡くなられた人もいる。
  政府主導の風車建設によるこうした風車騒音・低周波音の深刻な健康被害を政府はどのように受け止めるのか。責任ある見解を明らかにすることを求める。
 (2) 環境省は「低周波音による直接的な意味での生理的影響を明確に証明しうるデータは得られなかった。しかし、いろいろな条件下で、頭痛、吐き気などの生理的影響を起こす可能性について調査・研究が必要である。」(環境省−参考資料−)としながら、調査・研究をしている様子はみられない。
  調査・研究の必要性を認めながら、それをしないのは許されることではない。低周波音により健康をそこなわれている被害者の困難を考え、速やかに調査・研究を進めるべきである。政府の方針を明確に示されたい。風車騒音・低周波音被害者についても同様である。
 (3) 超低周波・低周波音の長期間曝露により生体の細胞レベルで回復困難な異変が起きることが、マウスを使った実験で確かめられている。実験によると、短期曝露により細胞外マトリックスが肥厚し、長期曝露では染色体異常(遺伝子毒性)を起こして細胞の癌化、催奇性の発現など重大な結果を招くことが実証されている。また疫学調査では、超低周波音曝露環境にある職場、たとえば航空機乗務員、特にコックピット内のクルーの間では、特定部位(右肺上葉)に扁平上皮癌が異常な割合で多発していることが判明している。調査では癌は声門にもできると報告されている(ポルトガル、アルヴェス・ペレイラ教授)。風車による超低周波・低周波音曝露においても、長期的には、このような人体への重大な影響が懸念される。政府は、こうした研究にも力を入れるべきと考えるが、国民の健康と安全を重視する観点から明確な見解を明らかにされたい。
3 健康被害者の救済と被害を出さないための対策について
 (1) 風車騒音・低周波音に悩まされ、健康をそこなっている被害者を救済するために一部風力発電施設の運転停止が求められている。居住区から一定の距離内にある風車を止めることによって、被害者は救済される。その距離は二〇〇〇mが必要と考えられるが、当面、夜間の運転を止めることで、とりあえず住民の健康は保たれる。このためには風車運転に関する法規制が早急に必要である。政府の誠意ある回答を求める。
 (2) さらなる被害者を出さないためには、風力発電施設の建設申請認可に当たっては、距離規制(ゾーニング)が必要である。このための法による立地規制が必要である。国民の生命の安全、健康な生活、福祉を重視し、それを保障することが政治に求められる。政府の誠実な回答を求める。
4 景観の破壊と国立・国定公園の維持について
 自然景観は観光地の資源として不可欠である。特に、国立・国定公園などに指定されている地域においては、主にその地の自然景観や特産物に惹かれる人たちが訪れることによって、地域産業の柱として観光産業が成り立っているところが多い。風車建設による景観の破壊は、こうした地域の主たる産業である観光を衰退に導きかねないものである。
 また、国民の保健・休養・教育化に資することを目的とする自然公園法の趣旨にも反する。国立・国定公園の現状を維持し、そのもとで地域が備える特性を生かして、観光産業等を発展させることができるよう政策的に配慮することが政治の任務と考える。国立・国定公園内では、第一種、第二種特別地域のみならず普通地域を含めて風車建設を認めない法的措置を講じることが必要であると考えるが、政府の見解を求める。
5 現状における風力発電施設建設の事業認定と補助金交付にかかわる問題について
 風力発電施設建設は、民間事業者の場合、事業費の三分の一近くの補助金交付を得て進められている。補助事業の根拠法は「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)及び「新エネルギー利用等に関する特別措置法」であるが、同法にもとづく「同法施行令」があり、さらに事業者に対する指針やら実施要綱がある。具体的手続きについては、「新エネルギー事業者支援対策費補助金を応募される事業者のための−新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法−第八条に基づく利用計画の認定について(経済産業大臣の認定申請手続き)」及び事業者への応募要項に定められている。
 手続き上は、補助金申請認定の条件として、「環境影響調査の実施」と「地元調整」が求められている。そこでは、環境影響調査結果にもとづき地元住民への説明・周知をおこない、住民の合意が得られていることを確認できる資料(地元市町村、地元自治会等の承諾書)を必ず添付することとされ、説明会の議事録などの提出も求めている。
 しかし実際は、これらの条件は満たされないまま、申請は認定され、補助金が交付されている。環境影響調査は、NEDOのマニュアルに従っておこなわれるが、法的に位置づけられていないため、環境影響調査が終っていない段階で補助金申請手続きがなされ、認定交付が決定されている。地元調整についても同様である。近隣住民への事前説明などまずない。住民が事業を知った時点ではすでに補助金の交付決定がなされ、森林伐採などの工事が開始されている事実がある。こうした事実に対して、資源エネルギー庁は、地元市町村長の同意印があれば、申請は外形的に整っているものとして認定し補助金交付を認め、自ら定めた申請条件、近隣住民への説明、周知にもとづく合意形成などを無視しているのである。事業者は、地元市町村長の同意印さえ獲得すれば、補助金の交付を得た上で建設に着手できることになっている。
 こうした事業認定、補助金申請交付決定のあり方は、民主的な国家において認められるものではない。政府の見識ある見解を求める。

 右質問する。



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