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平成二十二年六月十四日提出
質問第五九一号

大学院博士課程修了者の就職確保と研究条件改善に関する質問主意書

提出者  宮本岳志




大学院博士課程修了者の就職確保と研究条件改善に関する質問主意書


 大学院博士課程を修了しても安定した研究職につけず、ポストドクター(ポスドク、短期雇用の博士研究員)や大学の非常勤講師を繰り返すなど、「博士の使い捨て」という事態が広がっている。研究者としての夢をもてない現実に、大学院博士課程への進学者も減少している。これは、日本の学術と社会の発展にかかわる重大問題である。
 菅首相は、六月十一日の所信表明演説で「若者が夢を抱いて科学の道を選べるような環境整備」をいっていたが、それを可能にするためにもこの問題の解決は急務である。
 そこで、大学院博士課程修了者の就職確保と研究条件改善に関し、次の事項について質問する。

一 日本学術会議は、今年四月に発表した『日本の展望−学術からの提言二〇一〇』で、「大学院で研究者として育った者が研究者として働く場を適切な形で十分に確保できないという点で、若手研究者問題は深刻」「博士課程に進学すると就職の間口が狭まり、博士号を取ってもキャリアにおいてそれほど有利にならないと信じられている」と指摘し、「こうした状況を部分的にでも打開できないと、『科学技術立国』としての日本の将来は暗い。放置すれば欧米諸国のみならず新興諸国に対しても、日本は学術の国際的な地位を喪失しかねない」と警告している。政府は、こうした認識を共有するか。
二 政府は、昨年末に発表した「新成長戦略」で、「理工系博士課程修了者の完全雇用」をかかげたが、未だに具体的な対策は見えてこない。どのような対策をとろうとしているのか明らかにされたい。「理工系博士課程修了者の完全雇用」を達成するためには、大学や独立行政法人研究機関の若手研究者ポストを増やすことが欠かせないと考えるがいかがか。
三 「新成長戦略」は、人文・社会科学系の博士課程修了者の就職問題について触れていないが、それはなぜか。人文・社会科学系の博士課程修了者の就職難も深刻だ。博士課程修了後、大学非常勤講師など不安定雇用と低賃金にあえいでいる研究者も数万人にのぼる。人文・社会科学系の博士課程修了者の就職難の問題について、どのような対策をとろうとしているか。
四 博士課程を修了しても就職できない「博士の就職難」は、大学院生倍加政策による院生の増加に見合って、政府が、就職先を確保する施策をとってこなかったことによるものと考えるが、政府の見解はどうか。とりわけ、大学や独立行政法人研究機関が、若手の新規採用を激減させたことが事態を深刻にしたと考えるがいかがか。
五 三十五歳未満の大学教員の割合が十五年前の十九%から十三%に減少しているように、大学の若手研究者ポストは減少している。これは、国立大学に国が交付する運営費交付金が、自公政権下の五年間で七百二十億円も削減され、また、行政改革推進法による「二〇〇六年度以降五年間で五%以上の人件費削減」が国立大学に義務付けられたことによるものと考えるが、どうか。
六 独法研究機関の正規雇用の若手研究者ポストも減少している。独法研究機関として最大規模の産業技術総合研究所(産総研)も人件費削減の義務付けによって正規雇用の研究者が一割減少し、「ポスドク」など任期付きの研究者が倍増している。独法研究機関の若手研究者ポストの減少も、運営費交付金の削減と人件費削減の義務付けによるものと考えるがいかがか。
七 国立大学法人法案の国会審議において、政府は、平成十五年七月一日の参議院文教科学委員会で、畑野君枝議員の「文部科学省が各法人に対して教職員を増やせとか減らせとか、こういう指示もなくなるわけですね」との質問に対して「基本的には定員管理ということはしない」と答弁している。行政改革推進法による人件費削減の義務付けは、事実上、定員削減を強制するものであり、「定員管理はしない」という法人化の趣旨と矛盾するのではないか。
八 博士課程修了者の雇用を拡大していくためには、国立大学と独法研究機関への行革推進法の人件費削減の義務付けを撤廃すべきと考えるがいかがか。
九 国立大学がこの間に削減した人件費総額の七百五十八億円を、新たに運営費交付金に上乗せすれば、若手教員一万五千人の雇用を増やせる。私立大学の教員一人当たり学生数(十九・九人)が国立大学の二・七倍もある現状を二倍に下げるように国庫助成をすれば、あらたに三万人の雇用を増やせる。独法研究機関が法人化後に削減した人件費を元にもどせば、多くの若手研究者ポストを増やせる。博士課程修了者の就職難を解決するためにも、国立大学と独法研究機関の運営費交付金を増額し、私立大学への国庫助成を増やすことが必要と考えるがいかがか。
十 博士課程修了者の就職難を解決するには、大学以外の公的部門の専門職にも、博士の採用を広げることが必要と考えるがいかがか。国家公務員や地方公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教師や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用することが必要と考えるがいかがか。
十一 博士課程修了者が民間企業で派遣労働者として劣悪な待遇で働かされている例を紹介したい。東京大学で博士号を取得したAさんは、独法研究機関でポスドクとして四年間研究し、アメリカに二年間留学した。帰国して多数の公募に応じたが、研究職に就けず、現在、「専門業務」の派遣労働者だ。これまで製薬会社、大学、家電メーカー、試薬メーカー、独法研究所に派遣されてきた。派遣先の分野も遺伝子、電子工学、有機化学、無機固体化学と専門分野と無関係に派遣されている。どこでも正社員の指示に従うだけで、研究の進め方を決める会議にも参加できず、Aさんが研究について自分の考えを述べる機会すらない。しかも、派遣先が払う派遣料のうち、Aさんに入るのは五割強。同じように仕事をしている正社員と待遇を比べるとかなりの格差がある。転職して正社員になりたいが、四十歳近いAさんを雇ってくれるところはないという。ある最大手の技術系派遣会社には、Aさんのような博士号取得者が、五万人も登録されているという。
 政府は、民間企業において、博士課程修了者が派遣や期間社員として劣悪な待遇で働かされている実態を把握しているか。また、民間企業において、博士課程修了者が派遣や期間社員として劣悪な待遇で働かされる実態について、調査をすべきと考えるがいかがか。
十二 民間企業の研究開発職にしめる博士の割合は三・八%にすぎない。これを十%に引き上げるだけで三万人以上の博士の雇用が増える。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任を果たさせるように、政府が働きかけることが必要と考えるがいかがか。
十三 大学などがプロジェクト研究のような期限付き資金で研究者を雇用する場合、プロジェクトの終了によって「使い捨て」になる事態はなくすべきだと考えるが、どうか。
 大学や独法研究機関が、期限付きで研究者を雇用する場合に、期限終了後の雇用先の確保を義務付ける制度を確立するべきと考えるがいかがか。
十四 我が国の大学院生は、諸外国と比べて学費が高いうえ、奨学金も貧困なために、学費を稼ぐためのアルバイトによって研究に集中できないことが多い。全国大学院生協議会の調査によると、「収入の不足により研究に支障をきたしている」と答える大学院生が年々増加し、六十四%に達している。欧州の多くの国は、学部から学費は無償となっており、米国も、大学院生の約四割が生活費相当分の支援を受けている。
 日本学術会議は「大学院博士課程在籍者を研究職業人と位置づけ、経済的自立を可能にする公的財政支援により、国際的な対等性を確保する必要がある」(『日本の展望−学術からの提言二〇一〇』)と提言している。このように、経済的自立を可能にする公的支援策を考えるべきだがどうか。
十五 大学院生を対象とするフェローシップ、ティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタント、無利子奨学金と返還免除枠、国立大学の学費免除枠、私立大学の学費減免制度支援について、現在の対象となっている人数と在学者に占める割合、今後、それぞれについて、どれだけ充実させるのか、明らかにされたい。
十六 研究費支援では、若手研究者に一定額の研究費を国が支給する特別研究員制度を大幅に拡充する必要がある。とくに、博士課程院生には六・四%しか適用されていない現状を改善し、二十%まで採用を増やすべきだと考えるがいかがか。また、大学院生に給付制奨学金を創設するべきと考えるがいかがか。
十七 研究者を志す若者は、高等教育を受ける期間が長くなり、借りる奨学金も多額となる。多くの博士課程修了者が、低収入で、返済したくとも返済できない状況に追い込まれている。これが博士課程進学者数の減少の大きな原因となっている。こうした現状を抜本的に改善するために、奨学金の返済猶予の期限が五年に限定されているのを改め、返済は、年収が一定額(三百万円)に達してから行い、収入がこれを下回った場合には中止する制度を創設すべきと考えるがいかがか。
十八 本務校を持たない、いわゆる専業大学非常勤講師は、首都圏大学非常勤講師組合の調査によると、約二万六千人と推測されている。同調査によると、七十八%が人文科学系を専門分野とし、平均年齢は四十五・三歳、平均年収は三百六万円で四十四%が二百五十万円未満となっている。九十六%が職場の社会保険に未加入で、七十五%が国民健康保険、十五%が扶養家族として家族の保険に入っている。老後は、国民年金(現行月六万八千円前後)だけでは暮らしていけないと不安を高めている。大半の専業非常勤講師は、複数の大学で「細切れ掛け持ち」パート(平均三・一校)として勤務し、半分は雇い止めの経験がある。こうした低賃金できわめて不安定な雇用のもとで働く講師によって、大学教育が支えられているのは、大学の兼務教員が全体の過半数を超え、本務教員が少ないことにある。私立大学では、授業の六割近くを非常勤講師が担当している。いわゆる「高学歴ワーキングプア」によって大学教育がささえられている国は、欧米諸国にはなく、極めて異常と考えるが、政府の見解はいかがか。
十九 専業大学非常勤講師の実態を明らかにするために、国公私別における高等教育における非常勤講師(本務校あるなしを区別して)への依存の実態(人数、コマ数)、賃金などの労働条件、研究・教育条件(研究室、研究費、コピー費、学会出張費、図書館利用など)、専業非常勤講師の生活実態について、調査を行うべきと考えるがいかがか。
二十 専業の大学非常勤講師やポスドクに対して、常勤の教員・研究員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかるべきと考えるがいかがか。
二十一 若手研究者育成の危機をうみだした根本的な要因は、大学関係予算が先進国で最低水準にとどまっていることにある。学術、教育の発展は「国家百年の計」であり、将来をみすえた大学への投資こそ、次代を担う若者を育み、二十一世紀の社会発展に貢献するものと考える。大学予算を欧米並みに、GDP比で一%程度まで引き上げるべきと考えるがいかがか。

 右質問する。



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