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平成二十五年五月三十日提出
質問第八七号

MMRワクチン薬害事件における因果関係の判断と安全対策に関する質問主意書

提出者  阿部知子

 




MMRワクチン薬害事件における因果関係の判断と安全対策に関する質問主意書

 本年五月二十一日、参議院決算委員会でおこなわれた、はたともこ議員の子宮頸がん予防ワクチン接種の中止を求める等の質疑のなかで、接種を受けた三百二十八万人の全例調査を求めた際に「かつて、おたふくかぜワクチンを含むMMRワクチンの場合は、数千人から三万人に一人の割合で無菌性髄膜炎の症例が発生した段階で都道府県における症例発生状況の調査を開始した」と、過去の薬害事件が参照されている。これに対して田村厚生労働大臣は「MMRワクチンは、髄膜炎、接種後、髄膜炎との関係というものは、これ、検査によってこれが、因果関係が明確になった事例が多いということがわかってきたわけでありまして、その結果、これを中止したわけですね。」と答弁している。
 しかし、平成十八年十月、大阪高等裁判所の判決において、賠償責任が確定したにもかかわらず、国は賠償金を負担せず、謝罪及び再発防止策の明示もしないという、そのMMR事件の検証がなされているのかという問題が根底にある。右、田村大臣の答弁にある、検査により因果関係がわかったのは、MMR中止の平成五年ではなく、平成元年である。接種後に健康被害を疑う症例が続発してもなお、因果関係不明を理由に安全対策に躊躇する等の、繰り返されてきた日本の薬害の構図が、幾度めになろうか、またここに見え隠れしている。
 平成二十四年六月十九日提出質問第三〇九号「MMRワクチン薬害事件における国の責任及び予防接種法の目的に関する質問主意書」(前回質問という)に対する答弁書「平成二十四年六月二十九日受領 答弁第三〇九号(前回答弁という)が不十分極まりないものであったため、その後の調査により明らかになった資料にも依拠し、再質問とする。

一 前回質問の一は、旧国立予防衛生研究所ムンプス室により、ワクチン後髄膜炎等患者から分離されたウイルスを、PCR法によって野生株由来かワクチン株由来かを鑑別する方法が確立され、同時にMMRワクチン接種を開始する際に、耳下腺腫脹や髄膜炎がどの程度の頻度で発症するかを監視する必要があるとの警告、提言がなされていた(平成元年三月)。それを踏まえ、その情報提供と情報収集の体制を整えるなどの対応をとらなかったことが、MMRワクチンによる被害拡大薬害事件の原因であり、国の責任が重いことを指摘し、見解を問うた。
 それに対する前回答弁は、全く的外れであり、MMRワクチンを定期接種に導入する経過を答えたにしか過ぎないものであった(前回答弁、一について)。
 まず、なぜそのような答弁になるのか、釈明を求めたい。
二 前項PCR法を用いた鑑別法は国立予防衛生研究所(以下、予研という、現在の国立感染症研究所)の山田章雄氏が室長を務めるムンプス室において、昭和六十二年ころより開発研究が始まり、平成元年三月の予防接種研究班総会の場でその完成が発表された(山田章雄ら「Polymerase chain reactionを用いたムンプスウイルス株の鑑別」、予防接種副反応研究班「予防接種の効果と副反応の追跡調査及び今後の予防接種方式の策定に関する研究」平成元年三月、二十五ページ所収)。
 この報告は、厚生省に対してなされたものといえる。
 右の事実から、厚生省は平成元年三月に、PCR法の完成を知りえたことになるが相違ないか。
三 前項に示した予研のPCR法開発研究の過程で、三つの製造所で製造されたムンプスワクチンの接種を受け、その後一定の期間内に耳下腺腫脹や髄膜炎を発症した患児より分離された八つのウイルスについてPCR法で鑑別したところ、それらすべてがワクチン株と同一の塩基配列を示し、ワクチン接種によって耳下腺腫脹や髄膜炎が発生したことが明らかにされた。
 その発表の結論として、「(前略)今後、ウイルス分離並びに塩基配列の検索を行いどの程度の頻度でワクチン株による耳下腺腫脹や髄膜炎が起きるのかを監視してゆく必要があると思われる。」と述べられている。それは、発表月の翌四月から始まるMMRワクチンの接種において耳下腺腫脹や髄膜炎が多発する危険性を明らかにしたものであり、国による、国民、医療機関・市町村等への情報提供と監視体制の構築が必要であることを警告、提言したものである。
 右の通り、三月に警告、提言がなされたにもかかわらず、即座に情報提供や髄膜炎等の監視体制を整えることなく、MMR接種を継続した国の責任は重い。
 前回質問の一において示した通り、徳島県保健環境センターの山本保男氏が、同県内で発生したムンプスワクチン後髄膜炎患児から分離されたウイルスが、予研のPCRによってワクチン由来であることを知り、MMRワクチン接種により同様のことが起こりうる旨、県内医療機関に注意喚起を行なった(山本保男ほか「徳島県におけるMMRワクチン接種後ムンプス性髄膜炎の発生について」徳島県保健環境センター年報 平成二年八月十九日、および地方衛生研究所全国協議会のWebサイト「健康危機管理事例集」概要版No.4の事例)。このことは、最近の調査から厚生労働省に現存する文書によっても確認されている。すなわち、平成元年五月二十五日、山本氏が予研ムンプス室の山田氏に検体を送りPCRを依頼、山田氏はPCRの結果、分離されたウイルスがワクチン株であったことを電話で回答、のち六月七日に文書で回答したことが記録されている(平成元年八月二十五日付、予研ムンプス室長山田氏から、薬務局生物製剤課課長補佐國枝氏あてFAX文書、厚生労働省医薬食品局総務課医薬品副作用対策室保管文書)。山本氏が一例の結果から注意喚起を行なったことからしても、予研で八例の鑑別結果を得ているわけであり、厚生省はそれをもって対応を迫られていたと解される。
 右のことを参照すれば、さらに国の責任は明確である。政府の見解はいかがか。
四 前項に示した通り、予研ムンプス室が平成元年三月に「警告・提言」したことに国が迅速に対応しなかったがために、発見が遅れた症例が記録されている事例が東京都にある(平成二年五月一日付で区市町村から東京都へ提出された「健康被害発生報告書」、MMR大阪訴訟弁護団編著「MMRワクチン薬害事件」所収)。
 左にその概要を抜粋する。
 一才七か月の女児。
 平成元年四月五日、MMR接種。同年四月十七日発熱・発疹、同二十五日高熱、翌二十六日高熱、症状から髄膜炎を疑い入院。症状と検査結果から無菌性髄膜炎との診断。
 五月十六日、後遺症なく軽快、退院、その後、経過観察で六月、八月外来受診。
 MMRワクチンの副作用発見の動機は、元年十一月十六日の二才児歯科検診に来所した母親の話から、MMR接種後髄膜炎で三週間入院したことが判明。
 平成二年四月二十一日付で正式に報告を受理。
 同年五月一日付で東京都へ報告。(それが後に国へ報告されたことになる。)
 (抜粋を終わる。)
 本事例は、髄膜炎の診断から七ヶ月後の歯科検診で自治体が知り、正式受理が十か月後、東京都への報告までに一年以上が経過している。報告書に記載されている接種液の情報から武田薬品工業製統一株ワクチン(ロット番号H001)であることが確認できるし、厚生労働省「MMRワクチン健康被害救済申請一覧(平成十六年一月二十七日作成)」と照合して、平成二年十二月十日に被害認定された症例であることがわかる。母親が検診で話題にしたのは、おそらく報道により髄膜炎のことを知ったからだろうと推測される。右の経過からして、髄膜炎を診断した医師もワクチンの副作用の可能性に気づいていなかったとみるのが自然である。
 この事例は、危険性もしくはその疑いが生じた時には、迅速にその情報が開示・提供されなければ副作用情報が集まらないし、適切な安全対策を講じられないことを見事に示しているが、政府の見解はいかがか。
五 次に、本事件訴訟において、大阪地方裁判所、同高等裁判所のいずれにも提出されていない次の文書にもとづきお尋ねする。
 厚生労働省医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室に現存する文書「MMRワクチンに関する資料の提出について」(平成五年六月三日付、阪大微生物病研究会観音寺研究所の某氏から厚生省新医薬品課厚生技官平山佳伸あて、平成xx年x月xx日開示請求、受付番号開第三九四二号、同xx年x月xx日開示決定)に添付された、「別添資料2 自社株MMRワクチン治験時の無菌性髄膜炎について」によれば、PCR法の完成が発表された平成元年三月、「予研杉浦部長の依頼により、分離ウイルス二十五株を送付(上記二株を含む)。」とあり、同年六月「上記二株を含め、分離ウイルスの多くは、ワクチン株に由来との報告を(予研から−引用者注)受ける。」とも記載されている。つまり、山田らによる八例のウイルスの他に、阪大微研会が保有していた、ワクチン接種後に髄膜炎等を発症した患児から分離されたムンプスウイルス二十五株が、予研に提供され、PCR法による鑑別試験の結果、それらの多くがワクチン株である、すなわちそれまで自然感染による髄膜炎等とされてきた症例が、実はワクチン由来だったことが判明したのである。平成元年三月までに、ワクチンで髄膜炎等が起こっていたことが八例確認され、六月末日までにさらに二十五例近くで起こっていたことが判明、合計三十三例近い症例が確認されたことになる。予研杉浦部長とは、MMRワクチンの開発研究に携わった杉浦昭氏であり、ムンプス室長山田章雄氏の上司であった。
 右の事実から、平成元年六月末までには、三十三例近いワクチン株由来の症例が予研に集まった。すなわち厚生省がそのことを知りえたことになる。見解はいかがか。
六 前項五の通り、平成元年六月末までには、三十三例近いワクチン株由来の症例が厚生省直轄の予研に集まったにもかかわらず、厚生省は、その時点でも対策を講じることなく漫然とMMR接種を継続したことが被害拡大の最大の原因と言える。はしか予防の定期接種に際し、ただちにMMRワクチンの使用を中止し、はしか単味ワクチンに戻すべきであった。見解はいかがか。
七 杉浦昭氏及び、予研所長大谷明氏は、その部下、山田章雄氏らがPCR法の開発研究を進めていることを当然把握する立場にあり、厚生省はその二人を経由するルートで開発研究の経過、実験結果等を知りえたともいえる。厚生省科学研究費によって行われていた昭和六十三年度における山田らのPCR法開発研究の内容を、厚生省が把握するのは、同研究費の申請手続きに即して推定した場合、早ければいつごろであったといえるか。
八 予研、杉浦昭部長及び大谷明所長の、MMRワクチンの製造承認や定期接種への導入に関する中央薬事審議会、公衆衛生審議会の委員委嘱に関する事実を明らかにされたい。
九 予研、杉浦昭部長、大谷明所長らは、製造承認の審査過程において、また、定期接種への導入を決定するまでの審議過程に関与したとすれば、部下が実施しているPCR法の開発に関する研究の経過、実験の結果などを逐次厚生省に報告し、審議会の審議に反映させるべきだったといえるが、MMRワクチン製造承認に関する審議会及び定期接種への導入を決定する審議会議事録等から、予研でPCR法の開発研究がおこなわれているという類の発言、その研究結果により、承認後に何らかの対応が必要になるとか、定期接種でMMRを開始する際に、同様に対応が必要になるなどの発言等があったことを確認できるか。
十 前回質問の三において指摘した、都道府県が独自に髄膜炎発症率の情報開示を行わないよう、国が圧力をかけたことに関して、さらに具体的な資料を示して再び見解を問うこととする。
 左に、平成元年十一月二十一日付、静岡新聞の記事を示す。
 (見出し)
 新三種混合ワクチン副作用の発表  厚生省が静岡県に“圧力”
 (記事本文)
 静岡県は二十日、副作用による無菌性髄膜炎が問題となっている、はしか、おたふくかぜ、風しんの新三種混合ワクチン(MMR)について静岡県内で実施した発生状況調査結果を発表する予定でいたが、当日になって厚生省が「これは厚生省の調査。公衆衛生審議会にも資料として提出するので各県で個別に発表するな」と“圧力”をかけてきたため急きょ発表を取りやめた。これについて静岡市内の市民団体「静岡予防接種を考える会」(鈴木美子代表)は「子供の健康を心配しているからこそ県も接種延期を打ち出したのに肝心の調査結果が公表できないなんて。厚生省は一体国民か審議会か、どっちの方角を見ているのか」と同省の姿勢を批判している。
 MMRはことし四月から新規導入されたが、その後、副作用とみられる無菌性髄膜炎の発症報告があり、厚生省が十月二十五日付で各都道府県に「MMRの使用は慎重に」と通知したため十日現在十八府県が接種を見合わせている。本県でも「慎重に対応では市町村がかえって混乱する」として同省が調査結果に沿って最終判断を示すまでは接種を延期するよう県内十七保健所長と静岡、浜松両市長に要請していた。
 一方、県では各保健所を通して四月から十月末までのワクチン接種後の副作用発症例について調査。この結果、同ワクチンの接種が原因とみられる無菌性髄膜炎の症例が見つかったため二十日、同省に調査結果を報告するとともに結果の公表の準備を進めていた。
 ところが、同省保健医療局結核感染症対策室から発表に関し「待った」がかかり急きょ中止。県保健予防課では「患者のプライバシーを除けばなんら発表に問題はないはず。厚生省の調査といっても実際は県や市の機関が調査したもので、こんなことは異例」として厚生省の姿勢に疑問を投げ掛けている。
 (記事引用を終わる)
 左に厚生労働省に現存する、平成元年十二月二十日開催の公衆衛生審議会伝染病予防部会予防接種委員会の議事メモ(医薬食品局総務課副作用被害対策室所蔵、ただし本文書は旧保健医療局に保管されていたものの写しとみられる)から抜粋して示す。
 (一枚目)
 伝染病予防部会予防接種委員会
 元年十二月二〇日
 共用第一〇会議室
 1、室長あいさつ
 経緯の説明‐‐‐‐‐‐‐‐別紙参照
 2、資料説明(省略−引用者注)
 (以下に委員ごとの発言メモ−引用者注)
 平山 髄液検査をしたものとしないものが一緒にカウントされると混乱するのでは?
 (二枚目から九枚目省略−引用者注)
 (十枚目より、保健医療局疾病対策課結核・感染症対策室室長の発言およびその前後一名の委員発言を抜粋−引用者注)
 国枝 薬務のまとめは、六〇〇〇人に一人
  二〇〇〇人に一人から六〇〇〇人に一人ということから、医薬品としては容認できるだろうということになった
 室長 今日までは、県独自で頻度の発表をするなと言っているが、今日の夜以降はおさえられない。群馬の一/四〇〇というのも出てくるだろう
 大谷 いろいろな頻度が出てくる方がよいかもしれない
 (抜粋を終わる)
  右の新聞報道および議事メモは見事に符合し、室長発言のメモ「発表をするな」「おさえられない」の表現が如実に物語っている、まさに情報開示を抑制する「圧力」としかいいようがない。前回質問三の(二)この制限が国民に受け入れられる十分に合理的な理由はあるのか説明されたい。に対して「厚生労働省が現時点で把握している限りでは、御指摘の同省医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室が保存する議事メモ以外に当時の具体的な状況を確認できる資料がなく、当該議事メモの記述からは、お尋ねについてお答えすることは困難である。」との答弁があったが、新聞報道と議事メモが見事に一致しているのであるから、情報開示の制限をかけたという前提で、そのことに十分合理的な理由が認められるのか見解を述べよ。
十一 一市民の開示請求によると、現在の厚生労働省健康局にはMMR事件関連文書の保存状況は、訴訟記録とMMRワクチン導入から当面見合わせに至る経過を示す通知類をのぞいては多くが廃棄されていたとのことであった。本来健康局にあったはずの文書が、かろうじてその写しが医薬食品局に保管されているというものもある。
 健康局において、MMR事件関連の文書について、いつ、どのような文書を廃棄したのか記録に基づいて回答されたい。
十二 以上、総じて、厚生省は平成元年三月になされた前述の予研の警告・提言を受けて、MMRワクチン接種後に髄膜炎等が起こりうることを国民、市町村、医療機関、同ワクチン製造元(特に阪大微研会以外に統一株MMRワクチンを製造していた北里研究所、武田薬品工業)等へ情報提供し、あわせて予防接種法に基づき市町村が、及び薬事法に基づき医療機関、製造元が、それぞれが副作用情報を漏れなく報告するよう促す手だてを講じるなど、安全対策が必要であったにもかかわらず、平成元年四月から同年九月に関係審議会を開催するまでの間、いずれの対応もとることなく接種を開始、継続したことが、その後の被害を拡大させる最大の原因となった。
 国は、その責任を自覚し、同種の薬害再発防止のために、MMRワクチン薬害事件の検証を実施すること。そのために現存する関係の行政資料を永年保存扱いとし、常時閲覧可能な体制を整えることを強く要求するものである。
 右、被害拡大の責任及び検証の必要性や資料の扱いについて、政府見解はいかがか。

 右質問する。



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