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令和五年十二月四日提出
質問第八九号

日本の薬価制度における新薬の有効性・安全性の評価に関する質問主意書

提出者  池下 卓




日本の薬価制度における新薬の有効性・安全性の評価に関する質問主意書


 近年我が国において、欧米では承認されているが日本では承認されていない医薬品が発生している事象である、いわゆるドラッグ・ラグや、このうち、特に日本での開発に着手されていない事象である、いわゆるドラッグ・ロスが問題視されている。医薬産業政策研究所の報告によると、二〇一六年〜二〇二〇年に欧米で承認された新薬のうち、国内で未承認のものは二〇二〇年時点で百七十六品目ある。これは、欧米で認められた新薬のうち七十二%に当たり、二〇一六年時点では五十六%であったものの増加している。また、同研究所の報告では、二〇一〇年〜二〇二〇年に欧米では承認されたが国内では未承認の新薬は二百六十五品目あるが、そのうち、国内で開発を中止、中断したものは三十三品目(十三%)、国内での開発情報がないものも百四十九品目(五十六%)あり、実に約七割が国内では開発が行われていないと指摘されている。
 このような状況を踏まえ、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスを解決する方策として、令和五年六月十二日に公表された医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会報告書(以下「有識者検討会報告書」という。)において、「世界的なモダリティの変化やこれに伴う創薬主体の変化に必ずしも現行の薬事制度や薬価制度が適合していないという現状があると考えられる。医療上特に必要な革新的医薬品が迅速に患者に届く環境を整備するためには、これらを大胆に見直すことが必要であり、また、現に患者に届いていない医薬品に対しても、現行制度を最大限活用することで、少しでも早く患者の元に届くよう、速やかに対策を講ずるべきである」としている。また、同年六月十六日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針二〇二三(骨太方針)においても、「保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置」や「小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化」等を推進するとしていることから、適切な薬価評価によるドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスへの対策は緊急を要すると考える。他方、株式会社日本総合研究所の「非効率な医療の特定とその改善に向けた提言」では、数兆円にも上る医療費の削減可能性が指摘されており、長期収載品の速やかな後発品への移行や一般医薬品として購入可能な薬剤等の給付対象の見直しや、過剰病床や長期入院、重複投薬・残薬の解決等、医療制度全体の効率性についても再評価を行い、持続可能な医療保険制度において質の高い医療を国民が受けられるよう検討すべきである。
 したがって、次の事項について質問する。

一 二〇〇〇年〜二〇一〇年代に社会的な問題となったドラッグ・ラグの対策として、国による独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)の体制整備等の薬事審査制度への支援や、新薬創出・適応外薬解消等促進加算を設ける等の薬価制度の支援等が行われ、一定程度の解消に貢献したことは評価できるが、二〇一六年以降の薬価制度は度重なるルール変更によって、透明性・予見性を著しく低下させた。現在、厚生労働省内の複数の会議体において薬事制度と薬価制度の両方の改革に向けた議論が進められており、更に、令和六年度厚生労働省の概算要求では、小児・希少疾病用医薬品等のドラッグ・ロス対応としてPMDAの体制整備の新規予算が記載され、薬事制度の課題への取組が行われようとしていることは評価できるが、薬価制度については、日本の医薬品市場に必要な医薬品が導入されるよう、革新的な医薬品の新規技術(モダリティ)を適切に評価する制度が必要であると考える。二〇二三年十一月十日の中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)薬価専門部会において示されているものの、二〇二四年度の薬価改定に向けて、医薬品承認時の初期価格に対する「有用性加算」と「外国平均価格調整」の設定及び発売後の薬価維持に対する「共連れ」等の課題について検討することが重要であることから、引き続き中医協で具体的に議論が進むことを期待しているが、特に医薬品承認時の初期価格設定について、政府が持つ課題意識を伺う。
二 有識者検討会報告書における現行の薬価算定基準における医薬品の評価については、「補正加算の適用については、薬機法に基づく製造販売承認に係る審査報告書で評価された臨床試験成績における評価を基本として判断されるが、当該報告書は品質、有効性及び安全性を確認、評価し、薬事承認の可否を判断するものであるため、「品質・有効性・安全性を判断するために必要ではないことから審査報告書に記載されないデータ」、「審査報告書に記載があっても、主要評価項目以外のデータ等であって有用性評価の根拠とされていないデータ」などについては、結果的に補正加算の判断に使用されない傾向がある。」とされている。補正加算はPMDAが作成した審査報告書を基に算定されると承知しているが、その結果、医薬品の有用性に係る情報のうち、審査報告書では評価されていない事項は、実際的には薬価に直接反映されない。具体的には、介護負担の軽減や治療による生活の質向上など医薬品の有用性は多様であり、審査報告書のみならず新たな評価対応が必要だと考えるが、政府の見解を伺う。
三 我が国における現行の薬価制度では、医薬品の画期性加算・有用性加算は、作用機序の新規性や有効性・安全性に関し、類似薬等との比較、治療方法の改善、製剤の工夫について評価し、加算の有無及び加算率の大きさで算定している。「医療用医薬品の薬価基準収載時の加算の定量的評価の方法等について」(平成二十六年五月九日付厚生労働省医政局経済課事務連絡)が発出された以降は、加算率の根拠について一層の透明化を推進する観点で、厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「薬価算定基準における画期性及び有用性加算の加算率の定量的算出法に係る研究」(成川衛)の報告書を参考として用いることで要件を細分化し、ポイント制にして積み上げる方法になっていると承知している。他方で、細分化された要件のうち、加算要件(ロ)の「A類似薬に比した高い有用性又は安全性」においては、A−2高い有効性・安全性は「a・ランダム化比較臨床試験による」、「b・その他、客観性及び信頼性が確保された方法による」(いずれか一つ)とされているが、「b・その他、客観性及び信頼性が確保された方法」が適用された医薬品は非常に少なく、その適用根拠は不明確である。近年は、医薬品の研究技術の発展も目覚ましく、遺伝子治療、細胞治療といった従前の医薬品とは異なる製品が開発、実用化されている。そのような製品では、投与方法が複雑であること、対象とする疾患が重篤で患者数が少ないこと、倫理的に実現が難しいこと等の理由より、ランダム化比較試験を実施することができない。海外では、ランダム化比較試験を実施できない医薬品の価格評価を行うに当たり、エビデンスの一つとしてネットワークメタアナリシス(NMA)やマッチング調整間接比較(MAIC)といった間接比較試験の手法を用いており、間接比較に関するガイドラインも作成されている。以上のようにドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消の観点でも、ランダム化比較試験ができない革新的な技術により創製された医薬品に関し、薬価算定時の有効性・安全性の評価(ロ)には間接比較のデータも積極的に活用して、有用性加算の評価を適切に行うべきと考えるが、政府の見解を伺う。
四 いずれの統計学的手法を用いるにしても、その客観性及び信頼性が確保された方法であることが肝要であると承知しているが、薬価算定において、客観性及び信頼性が満たされていると判断する具体的な基準が必要と考える。間接比較データを「b・その他、客観性及び信頼性が確保された方法による」加算評価に適用する場合には、ランダム化比較試験以外の客観性及び信頼性が確保された方法による加算要件の該当性について、判断の具体的な基準を明示する必要がある。すでに厚生労働科学特別研究事業にて薬価制度の研究が行われていると承知しているが、早急に基準を記載したガイドラインを作成し、速やかに実運用すべきと考えるが、政府の見解を伺う。
五 二〇二三年七月五日の中医協薬価専門部会にて、製薬業界団体が、国内に適切な比較薬がない新薬については、日本における早期上市で革新性や有用性が十分に評価されない可能性があり、欧米並みの薬価を目指すため、欧米での上市を待ち、外国平均価格の調整を待たざるを得ないとの指摘を行っているように、現行の薬価制度では、外国の医薬品価格と比べて安い算定傾向にあることが、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスを生じる根本的な問題である。これから国際的な臨床試験を計画する医薬品の国内への早期導入を促すためには、中医協で議論されている迅速導入加算が有効であると考えられる。しかしながら、現在ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスを生じている新規モダリティ医薬品は、既に海外で発売又は開発中であるため、これらの医薬品の国内開発をすぐに開始しても迅速導入加算の対象とならず、問題解決には至らない。既に生じているドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消及び将来生じ得るドラッグ・ラグやドラッグ・ロスへの懸念を払拭するためには、新規モダリティ医薬品を対象として、海外との薬価差を埋める外国平均価格調整の適用範囲の拡大等が必要と考えるが、政府の見解を伺う。

 右質問する。

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