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平成十五年七月十五日受領
答弁第一一九号

  内閣衆質一五六第一一九号
  平成十五年七月十五日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 綿貫民輔 殿

衆議院議員伊藤英成君提出内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員伊藤英成君提出内閣法制局の権限と自衛権についての解釈に関する質問に対する答弁書



一及び三について

 お尋ねの「政府の統一解釈・統一見解」とは、憲法を始めとする法令の解釈に関する政府の見解を指すものと考えられるところ、一般的に、憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものである。政府による法令の解釈は、このような考え方に基づき、それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたものであり、御指摘のような国内外の情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮すべきことは当然であるとしても、なお、前記のような考え方を離れて政府が自由に法令の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えられる。中でも、憲法は、我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第九条については、過去五十年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならないと考える。
 行政府としての憲法解釈は最終的に内閣の責任において行うものであるが、内閣法制局は、内閣法制局設置法(昭和二十七年法律第二百五十二号)に基づき、「閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること」、「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること」等を所掌事務として内閣に置かれた機関であり、行政府による行政権の行使について、憲法を始めとする法令の解釈の一貫性や論理的整合性を保つとともに、法律による行政を確保する観点から、内閣等に対し意見を述べるなどしてきたものである。
 なお、御指摘の「武力行使との一体化」論とは、仮に自らは直接「武力の行使」をしていないとしても、他の者が行う「武力の行使」への関与の密接性等から、我が国も「武力の行使」をしたとの法的評価を受ける場合があり得るとするものであり、いわば憲法上の判断に関する当然の事理を述べたものである。これは、我が国の憲法が欧米諸国に例を見ない戦争の放棄等に関する第九条の規定を有することから生まれる解釈であり、「独りよがりの解釈となっている」との御指摘は当たらないと考える。

二の1及び4のアについて

 国際法上、一般に、「個別的自衛権」とは、自国に対する武力攻撃を実力をもって阻止する権利をいい、他方、「集団的自衛権」とは、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利をいうと解されている。
 このように、両者は、自国に対し発生した武力攻撃に対処するものであるかどうかという点において、明確に区別されるものであると考えている。
 「自衛権」については、その用いられる文脈により、個別的自衛権と集団的自衛権の両者を包括する概念として用いられる場合もあれば、専ら個別的自衛権のみを指して用いられる場合もあると承知している。

二の2のアについて

 我が国に対する武力攻撃が発生しこれを排除するため他に適当な手段がない場合に認められる必要最小限度の実力行使の具体的限度は、当該武力攻撃の規模、態様等に応ずるものであり、一概に述べることは困難である。
 憲法第九条の下で保持することが許容される「自衛のための必要最小限度の実力」の具体的な限度については、本来、そのときどきの国際情勢や科学技術等の諸条件によって左右される相対的な面を有することは否定し得えず、結局は、毎年度の予算等の審議を通じて、国民の代表である国会において判断されるほかないと考える。
 これらはいずれも、解釈によって示された「必要最小限」という規範に対する個別具体の事例の当てはめの問題であり、「内閣法制局は、法令解釈権を放棄した」との御指摘は当たらないと考える。

二の2のイについて

 憲法第九条第一項は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定し、さらに、同条第二項は、「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と規定している。
 しかしながら、憲法前文で確認している日本国民の平和的生存権や憲法第十三条が生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を国政上尊重すべきこととしている趣旨を踏まえて考えると、憲法第九条は、外国からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされるような場合にこれを排除するために必要最小限度の範囲で実力を行使することまでは禁じていないと解され、そのための必要最小限度の実力を保持することも禁じてはいないと解される。
 我が国がこのような自衛のために行う実力の行使及び保持は、前記のように、一見すると実力の行使及び保持の一切を禁じているようにも見える憲法第九条の文言の下において例外的に認められるものである以上、当該急迫不正の事態を排除するために必要であるのみならず、そのための最小限度でもなければならないものであると考える。

二の3について

 「専守防衛」という用語は、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものであり、我が国の防衛の基本的な方針である。この用語は、国会における議論の中で累次用いられてきたものと承知している。
 政府は、従来から、「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、(中略)そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」(衆議院内閣委員会鳩山内閣総理大臣答弁船田防衛庁長官代読、昭和三十一年二月二十九日)との見解を明らかにしてきており、石破防衛庁長官の平成十五年一月二十四日の衆議院予算委員会における答弁等は、このような従来の見解を繰り返し述べたものである。このような見解と、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめるなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいう専守防衛の考え方とが、矛盾するとは考えていない。
 前記のように、専守防衛の考え方は憲法の精神にのっとったものであり、政府としては、これを変更することは考えていない。

二の4のイについて

 御指摘の事態については、自衛権発動の三要件が満たされないことから、これに対応するために我が国が自衛権を発動することはできない。

二の4のウについて

 お尋ねは、仮定の事実を前提とするものであるが、一般論として述べると、憲法第九条の下において自衛権の発動としての武力の行使が許されるのは、自衛権発動の三要件が満たされる場合に限られる。



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