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昭和四十三年二月二日提出
質問第三号

 特殊教育に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十三年二月二日

提出者  鈴木 一

          衆議院議長 石井光次郎 殿




特殊教育に関する質問主意書


 昭和四十二年十二月八日付で、特殊教育に関する質問主意書を提出したが、右に対する答弁は、かならずしも満足しうるものではないので、ここに再び質問主意書を提出する。

一 学校教育法第七十四条によれば、都道府県は、養護学校の設置義務をおうにもかかわらず、法施行後二十年を経過する昭和四十二年五月一日現在において、養護学校未設置の都道府県数は精神薄弱養護学校が三十三府県、肢体不自由養護学校が二県、病弱虚弱養護学校が二十九府県であり、養護学校設置義務の施行期日を定める政令がいまだに公布されていない。
  右事実に関し、いかなる理由をもつて、今日まで放置しているのか政府の説明を伺いたい。
二 文部省の資料によれば、昭和四十二年五月一日現在、学齢児童生徒のうち、特殊教育の対象となる障害児数が九十万五千九百五十九名、就学者数が十三万九千九百八十四名、就学率が十五・四%である。
  右の事実は、約七十六万六千名に達する障害児が、義務教育就学率九十九・八%世界一の誇りの陰に、入学すべき養護学校、特殊学級が不足しているために、やむなく普通学級において、不適切な教育に泣かされていることを示している。
  最近数年間の特殊学級の増設推移については、昭和三十九年度(昭和三十八年五月一日 ― 昭和三十九年四月三十日)が千三百十六学級で一万一千三百三十二名、昭和四十年度が千四百九十八学級で一万一千百五十五名、昭和四十一年度が千七百四十学級で一万三千七百七十五名、昭和四十二年度が千三百九十三学級で一万九百九十四名となつている。
  これでは、わが国の特殊教育が欧米の水準に達するには、今後なお数十年の努力を必要とすることを物語るものである。
  しかるに、政府は昭和四十三年度予算案において、特殊学級の増設を、わずか千二百学級にとどめているが、いかなる理由によるものか明確なる説明を伺いたい。
三 今日特殊教育行政が進展をみせる重大原因の一つは、特殊教育における一貫した教員対策が樹立されず、教員の不足に悩まされているがためである。日本の義務教育制度が世界一になつた陰には、師範教育行政の確立があつた。しかるに、現在の特殊教育行政には、教員の養成並びにその身分、待遇に関し、一貫した体系が存在せず、十分な考慮が払われていない。待遇を例にとれば、従来四%にすぎなかつた特別手当が、昭和四十二年度にいたり、ようやく八%に増額されたにすぎず、ソヴィエトが一般教員の二割五分増の加算を行ない、養成課程にあつては、一般養成課程の学生の五割増の手当を支給するにもかかわらず、なお教員の不足に悩んでいる現状よりしても、いかにわが国の教員対策が無策であるか明らかであろう。
  元来、一般教員にくらべ、特殊の専門的知識を必要とし、仕事の内容もじみで手数がかかり、その割にむくわれない上、身分関係においても不利な条件を忍ばなくてはならないのでは、けだし教員の不足は、無理からぬことである。多くの人にとつて魅力ある職場に改善されない限り、教員の不足は解消されず、教員の確保なくして特殊教育の発展は望まれない。
  (イ)待遇の改善(ロ)一般教員とは別個に独立した身分制度の確立(ハ)需要に見合う養成課程の拡充こそ特殊教育におけるかなえの三本足である。
  文部省の資料によれば、現在特殊教育を担当する教員総数二万二千七百十八名中、特殊教育免許状所有者は七千六十八名(三十一・一%)にとどまり、特に特殊学級にあたつては一万二千八百五名中、わずかに千七百十五名(十三・三%)を占めるにすぎない。
  他方政府の教員養成の方法は、(イ)大学の養成課程(昭和四十二年三月の卒業生は、一級、二級をあわせて七百三十一名)(ロ)内地留学生派遣制度(昭和四十二年度内地留学生百五名)(ハ)初心者に対する短期研修制度の三本立であり、新規有資格者数はまさに焼石に水の感がある。さらに、早急に設置すべき養護学校、特殊学級の要求に加えて、将来の特殊教育制度の拡充を考慮するならば、特殊教育における教員養成行政の刷新、拡充は焦眉の急と信ずる。
  政府は、現状の不足を解消し、将来の必要に備えて、いかなる方針と対策を用意されているのか具体的な説明を伺いたい。
四 次に幼児期における特殊教育についてお尋ねしたい。
  『早期発見の早期教育』は特殊教育の基本的鉄則であり、特に大脳が発育途上にある幼児期に適切なる補完教育を施すことは、就学前の障害者に顕著な教育効果を与える。新生児の際は、わずかに三百三十五グラムにすぎなかつた大脳も、三歳児になると千六十四グラムに達し、『三つ子の魂百まで』のことわざにもあるとおりこの時期に人格の基礎が固まつてくる。さらに七歳 ― 八歳のころに至つて、視覚、聴覚、運動、言語中枢が完成する。
  しかるに、人間の人格形成に最も重要なる地位を占める幼児期の障害者に対し、政府の配慮は全く欠け、幼児期の対策は貧困をきわめている。欧米の状況と比較すれば、わが国の幼児対策は、ようやくスタートラインについたところである。普通児が満六歳で小学校に入学するまでに、自然に四千語より五千語の言葉を使うことができるようになる。聾児に対し、小学校入学前一年保育を施すと、約千五百語を覚え、二年保育では、二千から二千五百語に達し、三年保育では、ほぼ四千語の言葉が使用できる。アメリカにおいては、千九百六十二年すでに三百二十一校の聾幼稚園をかぞえ、中には一歳児保育の幼稚園すら存在する。
  悲しいかな、日本においては昭和四十二年五月一日現在にて、幼稚園に通園する幼児の数は、盲児三十名、聾児千三百九十六名、精神薄弱児二十名、肢体不自由児五名、病弱虚弱児六名にすぎない。
  幼児教育を欠く日本の特殊教育を、まさに画竜点晴を欠くというべきである。政府は幼児の特殊教育を、いかに評価されているのか、また、いかなる対策を講じようとしているのか見解を承りたい。
五 日本の特殊教育の欠陥は、職業教育の軽視にある。教育の本義は、将来有為の人材を養成することを目的とし、将来の効用を期待する先行投資の性格をもち、しかも教育無償の原則の上に立つ。特殊教育またしかりである。障害をもつ人たちは、国家に対し保護保償を求め、自立の機会を求める権利をもつ。逆に国家の側にすれば、障害をもつ人たちを放置しておくことは社会的にも大きな負担になる。もし、国家がかれらに社会復帰の道を開き、かれらが社会で自立できる機会と能力を与え得るならば、将来かれらの収入から税金として、国家に復帰に要した経費の払い戻しを期待することができ、双方にとり得策である。
  ここに、特殊教育における職業教育の積極的意義があり、現にアメリカの障害者対策が、非常な成果をあげている理由は、実にこの民主的な合理精神が、根底に働いているからである。
  キリスト教的な人道主義を背景にして、アメリカの特殊教育における職業教育は、非常に充実した内容をもつている。
  それに反して、わが国においては、社会復帰への道をなす職業教育は、まことに貧弱をきわめ、昭和四十二年度における特殊教育における職業教育に投ぜられた予算は、わずかに四千五百万円にとどまつている。職業教育の充実があつて、はじめて特殊教育が首尾一貫した体系を整えることができるのであるが、職業教育を軽視している現状は、いかなる理由に基づくものか所見を伺いたい。
六 最後に、日本の特殊教育行政の最大の欠陥である言語障害児、情緒障害児対策についてお尋ねしたい。
  学校教育法第六章特殊教育に関する規定には、両者を規定する条項が全くない。この両者を欠く特殊教育は、あたかも法学部、医学部を欠く総合大学のごときものである。特殊教育が障害者の社会復帰を目標とする以上、固有の永続的障害である盲者、聾者、精神薄弱者、肢体不自由者よりも、一時的障害たる言語障害児、情緒障害児に対する教育は一層重要な意義を持つ。現行法規のあり方は、まことに理解に苦しむ。欧米諸国においては、いずれも教育治療制度が確立しているにもかかわらず、ひとりわが国のみが、全くその存在を無視している。
 (A) 言語障害児
     現在アメリカに二百万人に及ぶ言語障害児が存在し、その内三十四%が、一万人以上に達する専門の言語治療教師の教育をうけている。また、教員養成のため、二百以上の大学に、専門の言語治療教師を養成する課程が設けられている。
     これに反して、わが国においては、言語障害児(十八歳未満)は約百七十万人、学齢児童生徒約七十五万人以上存在すると推定されているにもかかわらず、特殊学級わずかに小学校二十五学級、中学校三学級あるにすぎず、教師も五十名にとどまり、就学率五千人に一人の割である。まさに雲泥の相違である。
 (B) 情緒障害児
     情緒障害児対策については、欧米十五箇国において、すでに治療教育制度が確立されている。特に少年非行化の要因として重視され、犯罪少年の再教育には、情緒障害の治療に重点がおかれている。
     イギリス文部省社会不適応児委員会は、情緒障害児の出現率が、治療を要する者、診断を要する者、援助を要する者を含め五・四%から十五・八%あると報告してある。
     東京都教育委員会の調査によれば、いわゆる問題児中十%は、専門の精神科医の治療を必要とし、五% ― 十%が治療をした方がよいという結論がでている。
     スイスにおいては、重症児に対しては小児専門の精神診療所が設置され、すべて州費で治療が施され、軽症者に対しては、特殊学級において治療教育が施されている。わが国においては全く特殊学級が存在していない。非行化防止の見地よりみても放置しておくことは、ゆゆしき社会問題といわなければならない。
     政府は、いかなる理由でこの問題に全然手をつけられないのであるか説明を願いたい。

 右質問する。





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