衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和四十四年三月二十五日提出
質問第二号

 安保条約と防衛問題等に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十四年三月二十五日

提出者  松本善明

          衆議院議長 石井光次郎 殿




安保条約と防衛問題等に関する質問主意書


 日米安保条約の「固定期限終了」期をひかえ、沖繩返還問題と関連して、あらためて現安保条約の諸問題が国会で論議されている。
 わたくしは、国会論議のなかでは十分明確にならなかつた諸問題について、以下政府の見解をただすものである。

一 政府は安保条約の「長期堅持」を言明しているが、どのようなかたちにするかはまだきまつていないとしている。
  最近沖繩返還問題の論議のなかでこの問題が提起されているので、さらに政府の見解をあきらかにするため以下質問する。
 1 佐藤首相は三月十日の参議院予算委員会で「(沖繩に関する)特別なとりきめをすれば安保の改定になる」と答えている。
   これは、安保条約の条文はそのままでも、交換公文、沖繩返還協定などによつて岸・ハーター交換公文の内容に制約を加える特別のとりきめがおこなわれれば、事実上も法制上も安保条約改定であるという趣旨か。
 2 佐藤首相は同委員会で「(沖繩が)その機能をそのまま今後持続するということになればたいへんな変化である。それが条約改定なしにそういうものがあろうとは思わない」と答え、十一日の同委員会で「安保条約は堅持する。……どういう形で堅持するかはまだきめていない」と答えているが、首相の考えている「安保条約堅持」とは、安保条約の本文改定の場合もあるということか。
 3 共同声明あるいは特別のとりきめをおこなうことによつて、現行安保条約の第十条の効力を変更することはできるか。
二 沖繩返還に関連して「事前協議」に応諾を与える日本政府の「基準」が論議されているが、政府の言明によれば「事前協議」に該当する事例は過去一度もなかつたとしている。
  佐藤首相は三月十一日の参議院予算委員会で「事前協議を沖繩返還によつてゆるめることはしない」と答えているが、過去において適用のなかつた「事前協議」をどのような「基準」からゆるめないのかあきらかでないので、その「基準」について以下質問する。
 1 「非核三原則」は「事前協議」に応諾を与える「基準」となつているか。
 2 昭和四十三年三月十二日の衆議院予算委員会第二分科会で三木外相は「(事前協議で)日本自身がそれ(戦闘作戦行動)を認めるというときには、日本の自衛のためである。それだけの危険が日本に迫つたという事態であろう。日本にたいして重大な脅威が生じ広い意味で日本の自衛手段を必要とするような時期である」と答えているが、これは「事前協議」に関する政府の「基準」であるか。
 3 岸・ハーター交換公文によれば、戦闘作戦行動の事前協議は第五条の場合は除外される。前項における米軍の出動と第五条による米軍の出動とを区別する「基準」はどのようなものか。
三 最近の政府の言動を見ると自衛権を拡大解釈して憲法の平和的条項をなしくずしに改悪しようとする意図があきらかであるので、「海外派兵」「憲法上もつことのできる兵器」について、政府の見解をただすため以下質問する。
 1 三月十日の参議院予算委員会で高(注)法制局長官は、海外派兵と憲法の関係について「(海外派兵を)自衛権の限界をこえた海外における武力行動という定義を下すことになれば、自衛権の限界を越えないものはよろしい」「要するにそれが自衛権発動の三要件に該当する場合であるかないかだけにかかる問題であろう」と答えている。
   これは自衛権発動の三要件に該当する場合には海外における武力行動も合憲であるということか。
 2 昭和二十七年十一月二十五日に内閣法制局が示した「戦力に関する統一見解」によれば「憲法第九条第二項は侵略の目的たると自衛の目的たるとを問わず、戦力の保持を禁止している」となつている。
   この見解はその後変更されたか。変更したとすればいつから変更しているか。
 3 昭和四十四年三月十日の参議院予算委員会において高(注)法制局長官は「今後兵器の発達によつてその兵器が性能から見てもつぱら防衛の用に供するものであるか、侵略の用以外には用がないものであるか区別のつけられないものがふえるであろう。そういうものについては、使用するものの意思によつて制約を加える以外に方法はない」という趣旨の答弁をしている。
   これは、自衛のために使用する意思をもつてさえおれば、もつぱら侵略の用に供する以外にない性能をもつた兵器のほかは憲法上もつことを許されるということか。
 4 これは「自衛の目的であろうと戦力の保持を禁止している」というさきの「統一見解」を否定したものではないか。
四 政府は今国会で「米軍の軍事行動で過去において国連憲章にもとづかないものはなかつた」と明言し、国連に認められないことを米軍はやるはずがないという立場に立つている。
  「米軍の国連憲章にもとづく軍事行動」については憲章第五十一条に規定された集団的自衛権をどのように判断するかにかかつてくる問題であり、集団的自衛権の概念を明確にする必要がある。
  国連憲章第五十一条にもとづく集団的自衛権の発動の要件をあきらかにしたいので以下について政府の見解を示されたい。
 1 内乱の場合、憲章第五十一条にある「武力攻撃の発生」にあたるか。
 2 「武力攻撃の発生」があつた国からの要請があれば、その国との間に条約上の約束がなく、また地理的、歴史的に特別の関係がない場合でも集団的自衛権を発動することができるか。
 3 「武力攻撃の発生」があつた国との間に集団的自衛権を行使する条約上の約束があれば、その国からの要請がなくても発動することができるか。
 4 「武力攻撃の発生」があつた国からの要請がなく、またその国との間に集団的自衛権の行使についての条約上の約束がない場合で、なおかつ集団的自衛権を発動できる場合があるか。あるとすれば例示されたい。
 5 昭和四十四年二月二十六日の衆議院予算委員会第二分科会で佐藤条約局長は「アメリカのベトナムにおける軍事行動はSEATO条約にもとづく集団的自衛権の発動である」と答えているがこれは政府の公式見解であるか。このような見解をとる根拠を示されたい。
五 われわれは現安保条約が適法に成立したとは考えないし、「事前協議」条項があるといえども現安保条約の違憲性が消滅するものとは考えない。
  しかし沖繩返還問題と関連して示された「事前協議」条項に関する政府の憲法解釈が、憲法の平和的条項をさらに空文化するものであると考えるので、とくに「日本国から行なわれる戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用」を米軍に許す場合の日本国憲法との関係について、政府の見解をただすため以下質問する。
 1 二月十日の衆議院予算委員会で高(注)法制局長官は「ベトナムの問題であろうと、あるいはどこの問題であろうと国連憲章の認める行動の範囲内のものであれば、米軍の日本国からの戦闘作戦行動に基地を使わせることは憲法の精神からいつて問題はなかろう」という趣旨の答弁をしている。
   これをさらに日本の自衛との関連で質問した二月二十六日の衆議院予算委員会第二分科会において、愛知外相と佐藤条約局長は「米軍の集団的自衛権の行使であれば、日本の自衛と関係がなくても日本を基地とする戦闘作戦行動にイエスということは憲法上はできる」と答えたが、これは政府の公式見解であるか。
 2 日本国から行なわれる戦闘作戦行動は、その主体が米軍であつたとしても、それを日本政府が諾否の権限を行使して許す限り日本の意思が参加する行動である。
   昭和三十五年のいわゆる安保国会において岸首相は「現条約(旧安保)ではアメリカ軍の行動については日本政府としてはなんらの意思表示ができない。アメリカの思うままに行動ができる。……今回の条約においてはそういう場合、日本に事前に協議して日本の承諾をえない限りは米軍は行動できないという制約が設けられている」(昭和三十五年三月十一日安保特別委員会)と答え、高橋条約局長も「アメリカは他国の主権や管轄権を無視して自衛権を行使できるというものではない。日本の主権下にある施設・区域からアメリカの自衛権が行使される場合、当然日本の主権管轄下にあるのであり、われわれはその権能として、事前協議でノーということができる」(昭和三十五年四月二十七日安保特別委員会)と答えている。
   このように日本政府は「日本国から行なわれる戦闘作戦行動」を米軍に許すか、それとも拒否するかという明確な権限をもつておりこれに反する米軍の行動は「重大なる条約義務違反である」(昭和三十五年四月二十八日安保特別委員会高橋条約局長)としている。
   このような権限は「砂川判決」の判断の基礎になつた旧安保条約にはなかつたものである。
   また「事前協議」条項について岸首相は「今回のこの事前協議の場合において、日本のこれに対する態度というものは、日本の平和と安全ということに直接に、またきわめて緊密な関係を持つているような事態に対しては米軍の基地使用を認めるが、そうでない場合はこれを拒否する」(昭和三十五年五月十二日安保特別委員会)と答えている。
   われわれはこの答弁についても違憲であると考えるが「現安保条約は国会で承認されたからその範囲内の行動は合憲」とする立場から見ても、この岸首相答弁をも含めた「承認」であつて、米軍の集団的自衛権の行使としての、日本国から行なわれる戦闘作戦行動を応諾する日本政府の行為がすべて合憲であるとする根拠にはなりえない。
   日本政府が「事前協議」で応諾を与える権限の行使にあたつては、歴代外相が言明している報復攻撃のおそれを考慮しなければならず、そのうえで憲法前文の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすること」及び憲法第九条の「国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」という条項にてらして判断しなければならない。これを憲法上許されるとすることはとうてい考えられないものである。
   日本の自衛と関係のない米軍の集団的自衛権の行使としての日本国から行なわれる戦闘作戦行動のために、日本を基地として許すことが憲法上許される政府の行為であるとする根拠を、前述の政府答弁の経過を考慮にいれて明確に示されたい。
 3 いわゆる安保国会以来歴代政府は「事前協議」の運用は重大な主権行為であるとして自主的におこなうことを言明してきた。
   政府の言明によれば、「事前協議」の諾否の決定にあたつては、国連憲章に適合するかどうか、日本国憲法に適合するかどうかを考慮しなければならず、したがつて米軍の行動のひとつひとつについて個別的に判断しなければならないことになると考える。
   このことについての政府の見解を示されたい。
 4 現安保条約のもとで、憲法が適用される地域にたいし、共同声明或は特別のとりきめによつて「事前協議」条項の適用を排除したり、「事前協議」について具体的事例の発生する前に一般的に、包括して承認を与えることは、前項に示した自主的、個別的判断を排除することになるので、自国の主権を維持し平和を希求する憲法の精神に反することになると考えるが、政府の見解はどうか。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.