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昭和五十三年五月十七日提出
質問第三七号

 水俣病及び水俣病に関連する諸施策に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十三年五月十七日

提出者  馬場 昇

          衆議院議長 保利 茂 殿




水俣病及び水俣病に関連する諸施策に関する質問主意書


 水俣病問題は、その事実判明後二十数年を経た今日、なおいまだ混迷の状態にあります。
 直接加害者はチッソ株式会社(以下「チッソ」という。)でありますが、しかし、想像を絶する不知火海一帯の汚染の広がり、患者・被害の増大は、ひとえに行政対応の不十分さ、原因究明の懈怠、被害の隠蔽、諸施策に対する不作為に起因していることは
  認定棄却にかかわる行政不服審査請求裁決(昭和四十六年八月六日)
  水俣病被害者補償金内払請求仮処分申請事件決定(昭和四十九年六月二十七日)
  不作為の違法確認行政訴訟判決(昭和五十一年十二月十五日)
  被告川本輝夫氏に対する控訴審公訴棄却判決(昭和五十二年六月十四日)
等々、もろもろの事実において明白であります。
 政府はその事実を認め、責任を明らかにして、諸施策を国民の前に明らかにすべきでありますが、いまだに国民の前に明示していません。それ故、いまなお患者及び国民は大きな不安の中に立たされ、行政不信、政治不信に陥つている感は免れがたいものがあります。
 政府はことの重大さを認識し、公平な責任ある回答を、広く患者、国民に明らかにして、緊急に対策をすべき義務があると考え、以下の質問を致します。

一 水俣病の認識について
  水俣病は世界最大の水汚染公害であり、チッソの有機水銀汚染がもたらした健康被害、環境破壊並びに漁業被害などその広さ、深さは、原爆被害にも匹敵する人類の経験した最も残虐、悲惨な被害であります。政府は、水俣病についてどのような認識を持つていられるのか。
二 水俣病被害の実態について
  水俣病二十年の歴史の中で、個々の行政調査は行われたことはあるが、行政の総合調査は一度も行われていないため、被害の全体像はいまなおとらえられていない。言語に絶する水俣病の医学的病像さえも、今日なお未解明であります。水俣病被害の完全な実態把握なしには、真の水俣病対策の樹立はあり得ません。
  次の諸点について、政府の見解と施策を明らかにされたい。
 (1) 有機水銀に汚染された住民の数と今後水俣病患者がどの位認定されると見通していられるのか。
 (2) 水俣病像の解明、治療方法の開発などどのようにしようとされるのか、現在の水俣病研究センターでは不十分であり、元三木環境庁長官が約束された文字どおり、世界的規模に強化すべきであります。政府の施策をお尋ねします。
 (3) 健康被害だけでなく環境破壊、漁業被害、更には社会学的課題、教育問題などすべてを含めた水俣病にかかわる「総合調査法(仮称)」の特別立法制定を私が提案したのに対して、山田環境庁長官は、水俣病関係閣僚会議での検討を約束されましたが、これはどのようになつているのか、説明をされたい。
三 水俣病に対する行政の責任について
  水俣病に対する行政の対応は不十分であるばかりでなく、その原因究明を怠り、被害を覆い隠し、諸施策に多くの不作為を指摘することができます。
  前石原環境庁長官も「水俣病は、行政が積極的に動かず百人で済んだかも知れない患者を千人以上も出してしまつた。水俣病に何もしなかつた行政に責任がある。国を代表して患者にお詫びする。」と現地水俣で言われました。
  行政の責任について次の点をお尋ねします。
  昭和五十二年六月十四日、東京高裁において下された昭和五十年(う)第四六〇号事件判決(被告川本輝夫・主文公訴棄却)は次のように述べています。
  「さて、水俣病の前に水俣病はないといわれ、その原因究明に年月を要した水俣病であるが、はたしてこれを防ぐ手だてはなかつたであろうか。先に『水俣病原因究明の過程』で指摘した事項をみるとき、患者が続発し、胎児性患者まであらわれている状況のもとで、当初奇病といわれた段階から十五年間も水銀廃液が排出されている状態を放置しておかなければならない理由は見出せない。熊大研究班による地道にして科学的な原因究明が行われた経過の中で、熊本県警察本部も、熊本地方検察庁検察官も、その気がありさえすれば、水産資源保護法、同法等に基づいて定められた熊本県漁業調整規則、工場排水等の規制に関する法律、漁業法、食品衛生法等弁護人が引用する各種の取締法令を発動することによつて、加害者を処罰するとともに、被害の拡大を防止することができたであろうと考えられるのに、何らそのような措置に出た事蹟がみられないのは、まことに残念であり、行政、検察の怠慢として、非難されてもやむを得ないし、この意味において国・県は水俣病に対して一半の責任があるといつても過言ではない。のみならず、チッソの水銀廃液の放流の原因となつたアセトアルデヒドの製造は国家によつて容認されていたのであるから、被害民の立場からすれば、チッソと異なる意味で国家もまた加害者であるといえよう。」
  右判決は、司法裁判所の判断として国は水俣病に対して一半の責任があると断じ、水俣病の加害者であることを明らかにしています。政府も国もまた水俣病の加害者であることを認めるべきであると考えますが、いかがですか。
四 水俣病の認定制度の改善について
  現在、熊本県の水俣病認定審査会には、五千名以上の患者が認定を申請しており、月に百名以上の申請者が続いている状況であります。申請後何ヵ年も処分がなされない状況であります。現在の月百五十人検診、百二十人審査態勢では処分の見通しさえ立たず、熊木県の知事は、申請者が二十数県にも広がつていることも含めて、この認定業務は一県の能力をはるかに超えるものであると表明し、また熊本県の認定業務担当者は、現在の認定制度は「破綻」していると言明しており、申請患者の不安は増大しています。
  次の諸点について政府の見解を明らかにされたい。
  昭和五十一年十二月十五日、熊本地裁において、水俣病認定申請者らが提起していた不作為の違法確認の訴えに対して、被告熊本県の不作為の違法が確認される判決がありました。
 (1) この判決は確定判決となつていますが、被告熊本県はもとより、国の責任において施行されている法律にかかる不作為の違法が確認されたのでありますから、その責任は国にあると考えますが、いかがですか。
 (2) 法にいう速やかな処分とは、申請後どの位の期間をめどに考えていられるのか。
 (3) この国の責任を果たす具体的方策を明らかにされたい。
 (4) 昭和四十六年厚生次官通達を患者救済の立場で具体化し、発展させる考えはないのですか。
 (5) 特に、不作為の違法状態の下に未認定のまま死亡した認定申請者に対しては、いかなる方策を講ずるのかを明らかにされたい。
 (6) 認定促進のための特別立法を検討されていられるというが、その内容と成案のめどを明らかにされたい。
五 水俣病患者の補償の完遂について
  水俣病患者の第一の願いは、一日も早い健康回復でありますが、その健康被害の救済と共に、生活救済は必要不可欠の重要なことであります。最近加害企業であるチッソの経営危機が伝えられており、患者の補償に対する不安は増大しています。
  補償問題について、次の諸点について明らかにされたい。
 (1) 従来、政府は公害問題の処理方針としてPPPの原則によるべきことを再々言明してきています。ところで、公害問題におけるPPPの原則とは、いかなる意味ですか。
     また、この原則は何に由来しており、どのような経緯をもつて我が国は適用しているのですか。
 (2) PPPの原則に照らし、国、地方自治体が汚染の原因者ないしは人の生命、健康に被害を及ぼした当事者である場合、国、地方自治体がそれら被害者に賠償をすることは、この原則に反するのかどうか明らかにされたい。
     国に対してはこのPPPの原則は適用されるのか、されないのか、政府の見解を明らかにされたい。適用がないとすればその理由を明らかにされたい。
 (3) 我が国においてPPPの原則は「公害対策基本法」及びそれに基づく「公害防止事業費事業者負担法」「公害健康被害補償法」を通じて確立しているが、原因者企業が支払い能力がなくなつた場合は想定されていない。原因者企業が支払い能力がなくなつた場合、被害者救済について、国はいかなる考えを持つていられるか。
 (4) チッソ水俣工場は、患者補償の完遂、従業員及び家族の生活、地域振興に決定的な影響を持つています。このチッソ水俣工場の強化発展について政府はできる限りの指導援助を行うべきであると考えますが、政府の基本的態度を明らかにされたい。
 (5) 政府はチッソ援助救済問題について、関係閣僚会議で対策を検討されていますが、その検討内容と成案の時期について明らかにされたい。
六 有機水銀被汚染者全員の健康管理と生活補償について
  質問二の総合調査をすれば、不知火海沿岸の三十万の住民は、有機水銀の被汚染者と認定されるであろうと思います。被汚染者三十万人に対する対策こそ水俣病対策の原点であると思います。この対策には、医学的にも社会学的にも現在の法令ではなし得ないと思います。
  そこで「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」更には「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」を参考にして、「水俣病の汚染に曝露された住民の救済に関する特別措置法(仮称)」を制定して、医療救済、生活救済をすることを検討すべきであると思うがいかがですか。
七 水俣湾堆積汚泥処理事業について
  水俣湾及び不知火海のヘドロをしゆんせつし、きれいな海を取り戻し、健康被害の心配をなくし、豊かな漁場で漁業振興を図ることは、住民が等しく望んでいるところでありますが、現在の工事計画に疑問が提出されています。
  次の諸点について明らかにして頂きたい。
 (1) 汚泥の除去規準を二五PPM以上とした理由を示されたい。
 (2) 熊本県が設置した技術検討委員会、企画委員会の検討内客を明らかにされたい。
 (3) 二次公害を起こさない対策を具体的に示すと共に、二次公害を心配する住民をいかにして納得させようと考えていられるか、その対策を明らかにされたい。
八 水俣・芦北地域の振興について
  有機水銀に汚染され、生活環境が破壊された水俣・芦北地域は、経済的、社会的にも脆弱化しており、他地域より大きく落ち込んでいます。
  そこで、水俣・芦北地域振興を図るため特別立法を制定すべきであると思いますが、政府の考えを明らかにされたい。

 右質問する。





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