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昭和五十五年十一月二十八日提出
質問第一四号

 原爆被爆者に対する「国家補償の理念」による援護法制定に関する再質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十五年十一月二十八日

提出者  大原 亨

          衆議院議長 福田 一 殿




原爆被爆者に対する「国家補償の理念」による援護法制定に関する再質問主意書


 政府の答弁書(十一月七日)は法解釈と事実の認識について、納得できない。改めて左記三点について再質問する。

一 広島市、長崎市に対する原爆の投下は「国際法違反であるとはいい切れないが、国際法の根底にある基本思想の一つたる人道主義に合致しないものであるとの意味において国際法の精神に反すると考えている。」と答えている。
  被爆者対策の基本理念と深いかかわりをもつ「原爆投下の違法性=犯罪性」について改めて次の点から政府見解を明確にされたい。
  第一は、原爆の投下は、日本が一九一二年に承認をしたへーグの「陸戦法規慣例に関する規則」に違反している。即ち実定法である戦時国際法に違反していると「いい切れる」のではないか。まずこの点について質問する。
  即ち一九四五年八月十日、広島に投下された原爆の使用について、当時完全な主権国であつた日本国政府は、正式の外交文書によつて中立国スイスを通じてアメリカ大統領「トルーマン」(原文のまま)に国際法の理念である「全人類及文明ノ名ニ於テ」「従来ノ如何ナル兵器、投射物ニモ比シ得ザル無差別性、残酷性ヲ有スル」 ― 無差別爆撃を行つたことを「糾弾」し、「人類文化ニ対スル新ナル罪悪ナリ」と抗議をしている。
  また、その正式外交文書の中には「米国政府ハ今次世界ノ戦乱勃発以来、再三ニ旦リ毒瓦斯乃至其ノ他ノ非人道的戦争方法ノ使用ハ文明社会ノ輿論ニ依リ不法トセラレ居レリトシ対手国側ニ於テ先ヅ之ヲ使用セザル限リ之ヲ使用スルコトナカルベキ旨聲明シタルガ米国ガ今回使用シタル本件爆弾ハ其ノ性能ノ無差別且残虐性ニ於テ従来斯ル性能ヲ有スルガ故ニ使用ヲ禁止セラレ居ル毒瓦斯其ノ他ノ兵器ヲ遙ニ陵駕シ居レリ」と明確に述べている。
  占領が終つた現在も、日本はヘーグの陸戦法規慣例に関する規定を承認した「主権国」として「原爆投下は明らかに国際法に違反する」といい切れないのか。なお、「交戦状態にあつた当時」と答弁書にあるが、戦時国際法は交戦国の守るべき規範である。
  第二は、毒ガス・細菌兵器等の使用を禁止した一九二五年のジュネーブ協定に関する国際法上の見解である。
  この点については昭和三十四年、国会で藤山外務大臣が原爆は毒ガス以上の非人道的兵器であることを認め、「国際法の精神に違反する」と答えて以来の政府答弁を今回内閣の統一的見解として答弁したものと思われる。
  原爆は新しい爆弾でジュネーブ協定で禁止していないことは歴史的事実としても、総括的な国際法であるヘーグの陸戦法規慣例に明らかに違反する原爆の使用について、唯一の被爆国であり、非核三原則を「国是」とする日本国政府の見解は、「原爆の投下」は「国際法自体にも違反する」という見解に立つことは当然と考えるがどうか。
  なお、ポツダム宣言を受諾して降伏した日本は極東軍事裁判と占領軍によつて戦争犯罪及び公職追放の処分を受けている。国際法は戦勝国に対してのみならず戦敗国に対しても当然適用され、交戦国の双方を規制することは当然であると考えるがどうか。
  第三は、一九七八年五月三十日、第一回国連軍縮特別総会における園田外務大臣の演説は東南アジアを含む全世界の代表から高く評価されたといわれる。
  園田外務大臣はその演説の中で、「三十三年前、広島及び長崎の両市に投下された二発の原子爆弾は、一瞬にして両市を灰儘に帰せしめ、あわせて三十万人に近い生命を奪いました。また幸いにして生命をとりとめた約三十七万人を数える被爆者の苦しみは、今日も続いております。」と述べ、さらに「我々は、人類の将来のためにも核兵器のもたらしたこの惨害の実相を忘れてはなりません。」と述べている。
  そうして演説のしめくくりの中で、「わが国自から平和に徹することを国の基本政策とし、核兵器についてはこれを持たず、作らず、持ち込ませずという厳しい非核政策を堅持し、武器の輸出はこれを慎しむという政策を実行しております。わが国は軍縮の分野では極めて先進的立場にあるとの誇りをもつております。」と全世界に宣言した。
  そうして核保有国に対して、「核兵器が人類の絶滅をもたらす恐るべき兵器であることは、核兵器を保有する国が最もよく知つておられると信じます。」と断じ、「マンモスがそれの牙の故に絶滅への道をたどらざるを得なかつたことに思いを至さざるを得ません。」として核保有国の自制ある態度を要請した。
  また非核保有国に対しては、「核兵器のもたらす戦慄すべき惨禍については、我々は一日たりとも忘れていないはずであります。人類の一員として、核兵器の廃絶のため総力を結集しようではありませんか。」と述べている。
  私は唯一の被爆国日本が、核時代の今日、人類の存亡をかけた「核」に対する正しい理解、被爆の実相に対する正確な認識の下に、その原爆による犠牲者に対する国としての施策を全うすることは、すべての戦争犠牲者に対する国の補償の公平さを追及する政治の在り方として大切な意義をもつものと考えるが内閣の見解はどうか。
  当時の園田外務大臣は今、被爆者対策基本問題懇談会の答申を受ける厚生大臣である。また、七人委員会の委員であつた故西村熊男氏は昭和二十二年条約局長就任前は条約局長付きとして昭和二十年八月十日、米国に対する抗議の外交文書を起草された重要な一人であつた。
二 答弁書「二について」の文中、旧国民義勇兵役法施行により「国民義勇戦闘隊に編入するには召集を要し、その召集は主務大臣の定める方法をもつて本人に通達することとされていた。」と述べている。主務大臣はいかなる手順で召集下令するのか。十月二十日の私の質問書で述べた、昭和二十年六月十日、衆議院特別委員会での陸軍省那須兵務局長の答弁議事録によつても、政府の見解と「実際の法律の運用」とは全く違うのではないか。
  即ち「一々召集令状ヲ銘々ノ人ニヤルト云フヤウナコトヲ致シマセヌデ、平素連名簿ノヤウナモノニ名前ヲ付ケテ置イテ、召集担当官が「集マレ」ト言ツタナラバソレダケデ集マル」と述べている。臨機即応の臨戦体制にあつたものである。
  また、広島市の国民義勇隊本部の事務局長村上敏夫氏の証言によつても、昭和二十年三月の東京大空襲直後の三月二十三日の閣議で「国民義勇隊に関する件」、同年四月沖繩陥落後の「国民義勇戦闘組織に関する件」の決定がなされた経過を経て、同年六月二十二日の国民義勇兵役法の制定に至るまでの閣議の諸決定をみるならば、国民義勇隊が家屋疎開から戦闘参加協力に組織強化された経過が具体的に解明される。
  村上敏夫氏は、広島市内の町内会長、職域代表、各団体代表の出席する元広島市公会堂で行われた大集会で矢野少将が本土決戦の様相が濃くなつた情勢を話し、「米軍の日本本土上陸があれば広島と宮崎が予想される。その時第一線から第四線まで防衛線を置く。第一線及び第二線は正規兵(軍隊)で守り、第三線は国民義勇隊が守る。更に第四線は正規兵で守る計画である」「第一線、第二線をくぐつて来た者は国民義勇隊の竹槍で防いでもらいたい」と訓示したと記録している。
  広島市に原爆が投下される前夜の状態では軍人、官公吏、軍属及び国家総動員法による動員学徒、徴用工以外も、特定の人以外は疎開、移動を禁止されていた。
  現行援護法の「准軍属」の中には、雇用関係はないが命令服従の特別権力関係が存在していたとき原爆が投下されたのであつて、「国の責任」を回避する根拠 ― 国家補償の精神による補償責任がないと断言できるかどうか。
  特に私が疑問をもつのは、国民義勇隊に関する閣議決定以降の資料は戦後、占領期間中「極秘扱い」として自治体に対しても資料焼却を命じていた事実がある。私の資料要求に応じたのは昭和四十二年十二月十三日であつた。これは占領軍の公職追放を免れるための措置であつたが、結果としては軍属、准軍属の範囲をきめる「線引き」の根拠となつたと考える。資料が出されて義勇隊の閣議決定の日付が三月二十二日とされていたのを私の指摘によつて昭和四十三年国会で二十三日に改めた。
  沖繩では昭和十九年十月以降の空襲による六歳以上の被害者は准軍属として処遇されることとなつた。
  原爆が投下された当時、男子十五歳より六十歳まで、女子は十七歳より四十歳までとはいえ、常時戦場にあつたと同様の戦闘協力参加の条件にあつたものと考える。国民義勇隊関係資料を極秘扱いにした理由を含めて事実の認識について納得できる見解を求める。
三 「七人委員会」に対して厚生大臣が諮問するに当たり、現行二法について政府が「特別の社会保障制度」として対策を重ねてきたが、「被爆者及びその遺族が今なおおかれている状況にかんがみ国家補償の精神に立脚した被爆の援護対策についての要望が強く出されております」として最高裁判決を引用し、制度の根幹にふれる「基本理念を明確にするため」「各分野における第一人者」に検討を委ねるとしている。大平前総理もこれを尊重すると述べている。
  かかる重要問題に対する一つの結論として、この経過を尊重すべきものと思うがどうか。

 右質問する。





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