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昭和六十二年五月十八日提出
質問第四〇号

 水産用の医薬品の使用等に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和六十二年五月十八日

提出者  寺前 巖

          衆議院議長 原 健三郎 殿




水産用の医薬品の使用等に関する質問主意書


 今日、養殖業は魚の生産が年々増加するのに伴い、魚病の多発といわゆる“薬漬け”による安全性の問題で、消費者の不安を高めている。また、これらの社会問題化は養殖魚価の低下を引き起こし、漁場の老朽化も伴つて養殖経営を一層の困難に追い込んでおり、早急な魚価の安定と養殖漁場の整備を求めている。
 水産用の医薬品の内抗生物質等抗菌剤については、人体用・家畜用の場合と違つて要指示医薬品として指定されていないため、その使用が資格を持つ専門家の判断を受けることもなく、誰でも自由に購入・使用することができることから医学の素人によつて濫用の危険性がある。この濫用による汚染は海水・河川だけでなく土壌中にも染み込み土壌汚染など自然環境の破壊も懸念され、これらの環境汚染を通じて水産業の破滅及び公衆衛生上重大な問題の発生を招くことになる。従つて水産業の振興と、国民の健康と食品の安全を守るためには、その安全性に疑いのある医薬品は使用しない、また使用する場合でも医学の専門家によつて正しく使用する必要がある。
 今後、ますます養殖魚の生産が発展するなかで魚病の発生・水産用の医薬品の使用も急増すると見られるが、こうした現状は「とる漁業からつくる漁業へ」と安全の技術・制御の技術をないがしろにして性急な増産を進めた国の無策の責任である。
 国民の健康と食品の安全を守り、また養殖漁民の暮らしと経営を守る立場から、魚病の防止、水産用の医薬品の使用及び漁場環境保全などの対策は緊急を要すると考える。
 従つて次の事項について質問する。

一 水産用の医薬品の過剰投薬・耐性菌の出現等について
 1 水産庁は、水産用の医薬品について、かつて、用法・用量などを無視して多量に投薬した例があるが現在は適正な使用を行つていると言つている。しかし、例えばブリ養殖の場合、五十五年を一〇〇として五十九年の伸びを比較すると生産額で一〇六・七%と横這い状態であり、推計被害率も、九・四%へと〇・三%も減少しているにもかかわらず、抗菌性水産用医薬品は二三七・九%と二・四倍も使用している。これは、過密養殖、漁場の老朽化等による魚病の多発によるとは言え、被害額の伸びが四億五千万円に対して十五億四千六百万円分の抗菌性水産用医薬品が使用されており、しかも年々増加している。これはどうみても過剰な投薬と言う実態があると考えざるを得ない。このことから水産庁が適正使用されていると言うのであれば、疾病別に医薬品別の使用量を明らかにされたい。
 2 水産庁は、水産用の抗菌性医薬品の残留については使用規制を行つているから問題はないとしている。しかし、四十七都道府県に対して医薬品適正使用及び医薬品残留検査を行う水産用医薬品指導事業は、三千万円(六十二年度予算の国庫補助)も計上されているが、残留検査の指導、検査体制が十分などとはとても言えたものではない。まさに年一回の講習会・持ち込まれたサンプルを検査する程度の体制でしかないと言わざるを得ないが、これでどうして使用規制を守らせることができ、水産用の抗菌性医薬品が残留することはないと言い切れるのかその根拠を明らかにして頂きたい。
 3 水産庁は耐性菌について、一概に増加しているわけではなく薬剤選択の励行、一斉投薬などの対策で抑えていると言うが、このような医薬品の使用を具体的にどこで、どのような方法で実施したのか伺いたい。さらに薬剤選択に当たつてその根拠を併せて伺いたい。
   三重県水産技術センターが実施したブリ養殖の薬剤感受性試験でも、クロラムフェニコールなどの耐性菌が長期間に広範囲の地区に見られたと報告している。しかもそれによつて一時的には類結節症によるへい死魚が増加したとも述べている。また現在、類結節症に対する水産用医薬品として使用している薬品には既に耐性菌の出現で薬剤効果の少ないものもあるとしている。これは、従来のサルファ剤 ― 抗生物質 ― 合成抗菌剤という薬剤選択の図式が単純には適用できないばかりか、同一漁場内同一薬剤の一斉投薬も十分ではない状況であり、過密養殖及び漁場の老朽化への抜本的対策を講じないと耐性菌の抑制及び魚病の減少がますます困難になつていくとともに、養殖漁業自体がたちゆかなくなるおそれがあると考えるが、どのような耐性菌対策をとるのかお聞きしたい。さらにフラゾリドン・クロラムフェニコールについては、昭和五十九年の再評価で使用禁止となつたにもかかわらず、滋賀県の六十一年度の耐性菌検査で検出されたことは、使用の規制が遵守されずその後も使用されていると考えられるがどうか。
 4 水産庁は、魚の耐性菌が人の病原菌に耐性を移す問題について、人・家畜と魚とではその体温及び生息環境等が違うのでそのおそれは無いと言つているが、耐性を持つた魚病病原菌が、人・家畜の病原菌と混在して増殖するさいR因子を伝達して薬剤耐性を人の病原菌に耐性を移すおそれがあると指摘する専門家もいる。これは公衆衛生上も重要な問題であり早急に検討し対策を打ち出すべきではないか。
二 水産用の医薬品の不正使用・使用規制対象の拡大等について
 1 六十年一月の水産用の医薬品の使用規制の強化についての総務庁勧告では、使用量が増加しているオキソリン酸を新たに規制の対象にしたが、オキソリン酸の二倍以上使用されているアンピシリンは規制対象になつていない。また、アジ・クロダイ等の対象外魚種の占める割合が八%と少ないとしても、食用に供されるのは違わないし、水産用の抗菌性医薬品もそのうち四五%が使用規制対象外となつており、水産用の医薬品の適正な使用を図るためには、規制対象の医薬品、魚種等について見直しを図り、その対象を拡大する必要があるのではないか。少なくとも動物用の要指示薬となつている医薬品及び食用に供している魚種については早急に規制対象にすべきと考えるがどうか。
   使用規制の対象になつているからといつて国民の健康と食品の安全が守られているということにはならないので、随時に規制対象の見直しが必要である。例えば、五十九年の水産用の医薬品の再評価の結果、発癌性物質及びその疑いがあることから「公衆衛生上の問題から有用性は認められない」として使用禁止になつたフラゾリドン及びクロラムフェニコールなどは、五十六年四月の使用規制の施行以前から大量に長期間使用されていた。また、ジフラゾン、ニトロフラゾンなどが「安全性及び残留性に関する試験成績が不十分である」として、いずれも使用禁止されており、再評価の結果それまでの二十有効成分のうち八成分は有効性を認められず、十二成分は使用基準、連続投与を避けるなどの条件付で認められている。
   これらのことは、今現在使用規制の対象になつている医薬品が絶対に安全というものでなく、いわんや使用規制対象外の医薬品でも今すぐ使用規制の対象にいれなければならない事態も起こり得ることを示している。フラゾリドン及びクロラムフェニコールを長期間、大量に使用してきて幸いに今まで国民の健康と食品の安全を脅かす重大な事故がなかつたから良いものの、万が一にも事故が起こつていたなら、使用規制のみで指導も不十分など法的不備なところを棚上げして、ただ使用者のみを罰するだけでは済まない問題であり、当然長期間、法的不備を放置してきた政府の責任が問われると考えるがどうか。
 2 水産庁は、使用規制について魚類防疫士など水産試験場職員の指導によつて十分に守られているとしている。しかし滋賀県のある養殖場では、六十一年度に五十九年の再評価のさい発癌性物質及びその疑いがあることから、「公衆衛生上から問題があり有用性が認められない」として使用禁止になつたフラゾリドン及びクロラムフェニコールなどの耐性菌があらわれているが、県の魚病センターは年一回の講習会で発生を指摘しただけで、それ以上何らの指導改善もされずに放置されている。これは、現場の魚類防疫士も含めた水産試験場の職員には何らの強制的指導、検査の法的権限も無くただ県畜産課の薬事監視員に通報するしかないからである。こういつた状況のもとでただ罰則の適用や漁業者の自覚だけでは使用規制は守られないし、十分な指導をしているとはとても言えないと考えるが、どのような対策をとるのか伺いたい。
 3 マラカイトグリーン及びホルマリンの使用について、水産庁は十分な自粛指導を行つているとしている。しかし滋賀県のある養鱒場ではマス類の水生菌症の治療にマラカイトグリーンを使用しているが、やつてはならない流下浴を行つており、使用水が亜硫酸ナトリウムによる中和や活性炭による回収の排水処理装置を経ないまま場外へと流されている。マラカイトグリーンは、奇形発生因子(癌原性)があることが明らかにされているばかりでなく、河川等への薬物流出によつて自然界の生物に影響を及ぼし、特に有用植物プランクトンを涸死させ、魚類に悪影響を与えることが指摘されている。またこれらの汚染水の流出は、河川の汚染のおそれも懸念される。
   毒性が強いホルマリン及びマラカイトグリーンの使用については、これらに代わるべき安全性の高い水産用の医薬品の早急な開発が望まれていると考えるが、具体的な改善指導と開発状況を伺いたい。また、河川に流出して土壌汚染を起こすおそれについて具体的な安全対策を伺いたい。
三 水産用の医薬品の指導状況及び水産技術者の資格等について
 1 水産庁は、水産試験場及び魚類防疫士等の指導によつて十分に医薬品の用法、用量など使用規制が守られていると言われる。しかし実際に現場では担当職員が少なく、漁業者から持ち込まれたものには対応するがとても巡回などできないというのが実情である。日本水産資源保護協会主催の全国防疫推進会議での全国動物薬品器材協会の柴田氏の講演でも、「現場を魚病の専門家が常に巡回できれば問題はないが現在は必ずしも適切に判断できるとはいえない。漁民の声を聞くと水試の先生方にお願いしたいのは山々であるがとても間に合わない。答えがでる時には手遅れになることが多いと。こんな事から生産者はだんだんと水試から離れて行く」と実態を明らかにしている。指導の改善を具体的に示して頂きたい。
 2 魚類防疫士は、法的な資格、権限を持つていないのに医薬品の使用指示や魚病の診療行為を行うのは獣医師の権限を侵すものという意見がある。魚類防疫士の診療行為及び医薬品の指示は、どのような法的根拠で行つているのか示して頂きたい。
   また、法的資格、権限のない魚類防疫士は、現場において養殖業者に対して強制的指導力を有しないため、多くの職員が限界を感じており、たとえ使用規制に反する行為があつてもなかなか踏み込んだ指導ができない状況にあるし、養殖業者も指導を嫌つて職員を敬遠するありさまである。これらの具体的な改善対策を伺いたい。
 3 魚病対策事業に従事すべき技術者の総数は、五十三年の魚病対策総合検討会の検討結果によると、少なくとも専門技術者が五百名、現場の指導者が千名の合計千五百名以上が必要になるとしている。しかし、現在は約七百名であり大変な遅れになつている。具体的な対策を伺いたい。
四 水産用の医薬品の要指示薬制度の導入について
 1 水産庁は、水産用の医薬品を要指示薬とすることについて、要指示薬になつても違法行為及び不適正使用が起こるかのような見解を持ち要指示薬の導入を拒否しているが、これは要指示制度をとらせないがための本末転倒の見解と言わざるを得ない。本来、坑生物質等の要指示薬は副作用が強く、耐性を生じやすいため、濫用を防止しているものであつて、この要指示薬が対象動物によつて取扱いが異なるものではない。また、使用規制しかない水産用の医薬品より要指示制度とともに使用規制がある畜産用医薬品の方がはるかに法の遵守が図られるのは自明の理ではないか。国民の健康と食品の安全を守る立場から要指示があつて、しかる後にそれにふさわしい体制を築きあげるのが政府の責任であり、体制がないからと言つて永年にわたり放置することは許されない。体制がないままなし崩し的に使用を認めてきて国民の健康と食品の安全性を脅かすことは許されるべきではない。水産庁は、要指示制度について本来制度とすべきではないし、現在も体制が整備されていないので導入すべきでないと考えているのか明確にして頂きたい。
 2 近々アユのビブリオ病ワクチンの承認申請が予定されていると聞いているが、ワクチンは、人や家畜については当然要指示薬及び劇薬になつており、水産用についても当然ながら副作用、耐性菌の発生及び使用に当たつて医学の専門知識を必要とすることなどから考えても要指示薬及び劇薬にするため中央薬事審議会で早急に検討し結論を出すべきではないか。
 3 さらに、昭和五十五年及び五十六年の予算委員会において農水大臣が「獣医師法の対象にすることについては十分前向きで検討したい」と答弁してから六年が経過した。この間、水産庁は、水産用の医薬品を要指示薬とすることについて反対姿勢をとり続けている。このことは大臣答弁をないがしろにするばかりか、国会も軽視するものである。水産用の医薬品の不正流通、国民の安全確保についても、何ら無策であり、この責任は重大であると考えるがどうか。
   また、水産庁は、魚類防疫士によつて魚病対策は十分であるとの意見を有しているが、専任で魚病対応している防疫士は全国でごくわずかであり、かつ漁業者からあまり相手にされない現状では、その存在意義を有していないものと考えざるを得ない。従つて、漁業者から頼りにされる魚類防疫士の養成を行うとともに、防疫士の業務は防疫を含む養殖管理全般の指導とし、医薬品の使用の判断は米国同様に医学の専門家である獣医師に委ねるべきと考えるがどうか。
五 農・漁協等の無許可販売による薬事法違反について
 1 六十年九月に昭和薬品化工が動物用アンピシリン、テラマイシンやクロラムフェニコールなどをディーラーと一緒に、三重県南島町の漁協幹部を通じてハマチ養殖業者に大量横流しし、無許可販売の薬事法違反で三名が逮捕されている。この問題は、水産用の医薬品が要指示医薬品として指定されていないため誰でも自由に購入することができるという現在の薬事法及び獣医師法上の不備を土壌にして発生したと考えられるが、こうした問題の発生に対する見解及び再発防止の対策を伺いたい。
 2 薬事法上、何人も許可を受けなければ医薬品を販売してはならないことになつており、当然ながら水産用の抗菌剤もその販売に当たつては一般販売業の許可が必要にもかかわらず、全漁連の単位漁協のほとんどは依然として無許可販売を行つている。例えば漁協等が一般販売業の許可を受けているのは全国でたつた八ヵ所にすぎない。
   大部分の漁協は、一般販売業の許可を受けていないにもかかわらず漁業者の注文に応じて直接販売しているか、又は形式だけは許可を受けている県漁連・ディーラーなどに漁業者からの要請を取り次ぐようにして漁協が代金決済で一〇〜一五%の手数料をとつていることは、何ら一般の販売行為とかわらない。昭和六十年六月二十六日付け畜産局薬事室長から全農への「系統農協の家畜衛生対策と動物薬取扱について」という通達で、「一般販売業許可の取り扱い農協が殆どない等、農協段階に於ける動物薬取り扱い体制には問題があり、薬事法上疑義が生じ易い実態となつている」とさえ明記している。この実態は農協だけでなく漁協も同様である。このような不正流通の温床ともなつていると言われる薬事法の違反を何時までも放置するわけにはいかないと考える。農林水産省の見解と早急な具体的取締りの対策を伺いたい。
 3 モイストペレットは、捕食率が高く、散逸量も小さいことから漁場汚染防止に大きな効果があるなどで、ここ二〜三年生産量が大きく伸びている。モイストペレットは色上げ用着色成分や薬品の混合が簡単にできる特徴を持つている一方、モイストペレット製造機が「大変高価なもの」であることから、漁協等ではモイストペレットにあらかじめ医薬品を混入して製造・販売していると言われるが、これは薬事法上製造業に当たると考えられる。農林水産省の見解と対策を伺いたい。
六 養殖漁場の整備と薬品残留検査公表による魚価安定対策について
 1 水産用の医薬品問題を根本的に解決するためには、放養密度の改善、投餌の内容や回数の見直し、環境保全などを行い、抗菌剤等の医薬品を必要としない健康な魚をつくり、魚病をなくすことである。そのためには養殖場の環境を保全し、深刻なヘドロ汚染問題を解決することによつて、魚病と投薬の悪循環を断ち切る必要がある。現在は、三〜四年に一回、生簀の場所を移動しているが、狭い内湾では既に限界にきており、近い将来内湾全体が死滅するとさえ言われている。三重県のある魚協がヘドロの回収を試算したところ養殖場全体で十二〜十三億円かかり、漁協自体ではどうにもならないので、財政援助を要望している。
   これまで回収は、生産者の受益者負担によるという考えがあつたが、しかし漁協自体には負担能力はなく、なによりも漁場汚染が深刻化しており、政府は養殖漁業の発展と漁場環境の保全の立場から、これらの回収事業を検討すべきであると考えるがどうか。
 2 マスコミの報道などもあり、養殖ハマチ、マダイの魚価が下がり、出荷が減少して現地の養殖漁民の経営に深刻な打撃を与えている。
   消費者は、食品の安全性には大変に敏感であり、正確な情報を知らせる必要がある。農水省は、消費者の不安を解消し魚価を安定させるためにも、養殖魚の残留医薬品検査結果の詳細を公表すべきであると考えるがどうか。

 右質問する。





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