質問本文情報
昭和六十三年四月四日提出質問第二一号
血液製剤によるエイズ感染に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
昭和六十三年四月四日
提出者 草川昭三
衆議院議長 原 健三郎 殿
血液製剤によるエイズ感染に関する質問主意書
私は、本年二月二十七日の衆議院予算委員会並びに同三月九日の予算委員会第四分科会において血液製剤によるエイズ感染に関する諸問題について取り上げた。これまでに政府は、昨年三月三十一日に後天性免疫不全症候群の予防に関する法律案いわゆるエイズ予防法を衆議院に提出したが、この法案は、我が国のエイズ患者並びに感染者の大部分を占める血友病患者に対する偏見・差別を固定化する恐れが強いとの批判がある。政府が、このような法案の立法化を推進しながら、一方で患者、感染者の救済措置等を後回しにしてきたことは極めて遺憾である。この際患者、感染者に対し速やかな救済措置が取られんことを求める立場から次の質問を行う。
二 私は、去る三月九日の予算委員会第四分科会において、厚生省エイズ対策専門家会議委員長が、財団法人「日本熱帯医学協会」の保存していた在外邦人八百六十三人分の血清を本人たちに無断でエイズの感染検査をし、その結果を学会で発表していた問題を取り上げた。これに対して厚生省は「(前略)個人を特定できない形でデータを発表しているわけでございますし、それから検体の検査の過程でも個人の名前は消去をした格好で取り扱つておるわけでございまして、人権への配慮は十分に考えられておると私どもは考えておるわけでございます。」と答弁し、同委員長が本人たちに無断でエイズ検査及びその結果の発表をしたことについて、人権上の問題がなかつたとの見解を示した。しかし、八百六十三人分の血清のうちビルマに在留している邦人の分はわずか五件のみで、個人を特定することが可能になるが、それでも人権上問題がないといえるのかどうか、政府の見解を明らかにされたい。
三 厚生省感染症対策室が監修し、市販されている「日本のエイズ症例」(一九八八年一月二十日財団法人日本公衆衛生協会発行)には、我が国における三十のエイズ症例が発表されている。いうまでもなく、エイズ患者並びに感染者のプライバシーは守られるべきであるが、同書の記述には、個人を特定できる内容が多く含まれており、患者並びに感染者のプライバシーを侵害している。政府提出のエイズ予防法が、我が国のエイズ患者並びに感染者の大部分を占める血友病患者に対する偏見・差別を固定化する恐れが強いとの批判がある今日、厚生省が監修をした同書の内容は、エイズ患者並びに感染者のプライバシーにかかわる問題の取扱いについて軽率であるとのそしりをまぬがれない。以下、同書に掲載された三十例のうち二例の要点をあげる。なお、原文では、○印の箇所に数字が入つている。
@ | 症 例 | ○○歳代、男性、日本人、独身。 |
既往歴 | 輸血歴、○○歳、○○歳時あり。 | |
現病歴 | 幼少時より出血傾向があり、昭和○○年(○○歳時)某大学病院にて血友病Aと診断された。○○年○月、○○年○月および○月外傷に際し、第VIII因子製剤計一万一千五百単位の輸注を受けた。○○年○月○日転倒事故により右耳介後部外傷を受け、容易に治癒しないため○月○日当大学内科を受診した。 初診時所見(昭和○○年○月○日、午前十時) 身長○○○・○cm、体重○○・○kg。体温正常。 |
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経 過 | ○○年○月末より労作時呼吸困難を覚えはじめ、○月初旬三十八度Cを超える発熱と下痢をきたす。○月○日入院。○月○日退院。(この患者が、挙動不審のため警察に補導された経過等の記述もあるが省略する)○月下旬、再入院。三十八度Cの発熱もあり、両側頸部、左腋か、両側鼠径部のリンパ節が五mm〜一cm大に腫脹していた。○月○日退院し、現在外来治療により経過良好である。 | |
その他この症例には、患者の口腔カンジタ症を記録するために患者自身の顎から鼻、眼にかけて撮影したカラーの顔写真と胸部X線写真が挿入されている。 | ||
A | 症 例 | ○○歳、日本人男児、血友病B患者。 |
既往歴 | 血友病Bにて乳児期後半より血友病製剤の投与を受けていた。 | |
現病歴 | 昭和○○年○月、発熱・頸部リンパ節腫脹・全身に及ぶ非定形紅斑の出現を約一週の経過で認めた。昭和○○年○月○日、発熱・下痢が出現。○月○日には一時軽快したが、○月○日より再び発熱し持続した。同時に十七%の体重減少を認め、○月○日某病院に入院となつた。○月○日、某病院を退院となつたが、○月○日、発熱、咳嗽、多呼吸が出現し、当院に入院となつた。 昭和○○年○月家族全員に対して行つたHIV抗体検索は、すべて陰性であつた。○月中旬より患児および家族の希望を取り入れ、状態の許す限り外泊を許可したが、○月○日、鼻翼呼吸、意識障害が出現し、胸部X線写真にて肺門部を中心とする斑状陰影を認めた。各種薬剤投与を行うも改善は得られず、○月○日死亡した。死亡時、身長○○○cm、体重は○○kgと健康時に比し三十一%の体重減少があり、るい痩は著明に全身に及んでいた。 |
四 三月二十九日付の毎日新聞によると、産業医科大学の坂本久浩輸血部副部長の研究で、市販されているグロブリン製剤の大半がエイズと梅毒の陽性反応を示し、しかも投与された患者も感染はしないものの、一時的にエイズ、梅毒の抗体反応で陽性になつたという。政府はこの事実について何らかの対応策を取るべきと考えるがどうか。また、イギリスではエイズ抗体陽性のグロブリンは販売を禁止しているが、日本でも回収措置を取るべきと考えるがどうか。併せて見解を求める。
五 血漿製剤のうち加熱処理されていないのはグロブリンだけである。そのためエイズ以外にも未知のウイルスが混入する恐れがある。一部のメーカーでは既にグロブリンの加熱処理化を実現させていると聞くが、この際早く承認をすべきではないか。政府の見解を具体的に示されたい。
右質問する。