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平成七年十一月十日提出
質問第一二号

国立公衆衛生院、人口問題研究所、国立多摩研究所の統廃合案に関する質問主意書

提出者  岩佐恵美




国立公衆衛生院、人口問題研究所、国立多摩研究所の統廃合案に関する質問主意書


 厚生省は一九九五年一月二十三日、厚生省所管の七国立試験研究機関の組織再編計画の骨子「二十一世紀に向けた厚生科学研究の総合的推進について」を発表し、続けて厚生省厚生科学課は三月六日と四月十一日の厚生科学課による「国立試験研究機関の重点整備・再構築(案)」を提示した(以下一括して「再編案」と呼ぶ)。
 この再編案は厚生省の七試験研究機関及び特殊法人社会保障研究所を統廃合するというものである。十月二十四日の衆議院厚生委員会での質疑でも指摘したが、当事者である研究者・職員との事前の話し合いがないままに、またオープンな議論もないままに、トップダウンに一方的・唐突に提示されたものであり、現場の研究者・職員の意見・構想がほとんど反映されていない。
 本来、国民の健康と暮らしを守ることを使命とする厚生省は、国民生活に最も密着した官庁として、国民にとって必要な試験・研究・教育を実施する責務がある。しかし、再編案は国民本位の厚生行政の推進という理念が根本的に欠如しており、本来厚生省において必要な試験・研究・教育を充実・発展させる方向ではなく、後退・縮小・切り捨てへと向かわせるものである。これでは国民のニーズが高い領域や専門職員が失われ、国民的な不利益が生じることが懸念される。
 とりわけ、@国立公衆衛生院の廃止、A人口問題研究所と特殊法人社会保障研究所との統合、B国立多摩研究所と国立予防衛生研究所との統合、という三つの統廃合案には、当該各職員のみならず国民の各界、各方面から驚きと大きな疑問が投げかけられている。
 以上の立場にたって、次の事項を質問する。

一 国立公衆衛生院の廃止に関して
 1 「公衆衛生」の理念と国立公衆衛生院の組織について
  (1) 日本国憲法第二十五条は、国民の生存権の保障について定めており、同条第二項は、その生存権を具現するための三大シビル・ミニマムの一つとして「公衆衛生」を掲げている。したがって「公衆衛生」という言葉には、国民の健康に対する国の公的責任という意味が含まれているのではないか。
  (2) 「公衆衛生」という言葉には、人間のまた人間社会の健康を願うすべての人々(ヒトの健康に関わるすべての職種及び市民)が共同で取り組む、という意味が含まれており、このように国の公的責任(公共性)並びに総合性(学際性)という要素を含む「公衆衛生」という言葉は、他のどんな類語(たとえば、保健医療、地域保健、健康科学など)によっても置き換えのできないものではないか。
  (3) 憲法第二十五条第二項は「国は、公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。国がこの責務を果たすためには、今後とも厚生省において公衆衛生の研究・教育が推進されなければならないのではないか。
  (4) 国立公衆衛生院は先に述べた公衆衛生の総合性を担保するために@情報政策系、対人保健系、環境衛生系など公衆衛生の全部門をそろえ、かつA研究と教育を一体化する、という理念にもとづいて設立され、今日までわが国における公衆衛生の一大拠点として活動してきた。公衆衛生の向上及び増進のために、また公衆衛生の国際協力のために、今後とも国立公衆衛生院を存続すべきではないか。
  (5) 公衆衛生のシンボルともいえる国立公衆衛生院の廃止・解体は、憲法第二十五条第二項に違反しないといえるか。
  (6) 公衆衛生教育の面から見ると、国立公衆衛生院は日本における唯一の総合的な公衆衛生教育機関であり、WHO(世界保健機関)からも日本における唯一の公衆衛生大学院(スクール・オブ・パブリックヘルス)として認められている。これまでの修業者は二万六千人を超え、公衆衛生の各分野において活躍してきた。国立公衆衛生院を廃止すれば、わが国の公衆衛生教育の水準・内容が大きく後退し、地方自治体や国民の期待に応えることができなくなるのではないか。
 2 国立公衆衛生院の移転について
  (1) 一九八八年当時はいわゆる「バブル」期であったが、その後「バブル」経済の崩壊、政府内における首都移転論議の高まりなど社会情勢に大きな変化がみられている。特々会計(現在地の売却により移転費用を捻出)を前提とした一九八八年の閣議決定「国の行政機関等の地方移転」は、「バブル」崩壊による都心の土地の値下がりにより前提が崩れており、また政府内の首都移転推進論議と整合性を欠くなど現実に合わなくなっており見直すべきではないか。
  (2) 特に国立公衆衛生院の場合、特々会計における土地の評価額が当初の見込みより極端に低く、特々会計だけでは不足し、移転には一般会計予算も必要という。現在の建物で十分間に合うというのに、移転となると、職員百人ほどの施設を東京都港区白金台から埼玉県和光市まで直線距離にしてわずか一〇キロほど移転させるだけなのに、数百億円の国費が必要となる。財政難のおり、一九八八年の閣議決定に機械的に従って不要不急と思える移転を行うのは、適正な国費の支出といえないのではないか。
  (3) 国立公衆衛生院の現在の建物は、日本建築学会が保存必要建物に指定するなど、重要文化財に指定される可能性のある価値ある文化財であり、移転の前に保存問題が検討されなければならないのではないか。
  (4) 一九八八年の閣議決定により移転対象機関とされたのは国立公衆衛生院であって、再編案により国立公衆衛生院が廃止されるとなれば、この移転は自体が白紙に戻るのではないか。
  (5) 再編案に基づく移転は即、国立公衆衛生院の廃止・解体の実現であり、再編案について職員の十分な納得なしに移転がなされてよいはずがない。職員との十分な話し合いがなされるべきではないか。
  (6) 一九八八年の閣議決定により移転対象機関とされた七十九機関中、予め移転を計画していた機関を除いて、未解決の問題をいくつも抱えている国立公衆衛生院の移転のみ急ぐのは合点がいかない。少なくとも上記の問題が解決するまで、移転の予算化は見送るべきではないか。
二 人口問題研究所の統廃合に関して
 1 一九九四年の国連主催の国際人口・開発会議(カイロ会議)は、人口研究の重要性を各国政府に勧告しており、わが国政府もこの分野での国際貢献を公約している(河野副総理兼外務大臣演説=一九九四年九月六日)。このように国際的にも人口研究は今後ますます重要性を強めていく中で、現在わが国で唯一の総合的人口研究機関である人口問題研究所はその分野における研究を充実していくべきではないか。
 2 特殊法人社会保障研究所と統合する理由は何か。社会保障研究が必要であるのならば本来、社会保障研究所自体を充実すべきことであり、これを廃止する理由はない。「行政改革」の名目で特殊法人社会保障研究所を「廃止」したとみせかけて国に繰り入れるのは、ニセ「行政改革」であり、国民を愚弄するものではないか。ましてやその分の定員を現在の七試験研究機関の定員でまかなうのは、従来の七試験研究機関が責務として担ってきた分野の研究水準を悪化させるものであり、厚生行政の後退ではないか。
 3 世界において持続的な経済開発・環境保全と爆発的に増加する人口との調和という難問、国内においては少子化・人口高齢化という難問に直面している現在、人口問題研究は独自の、しかも今後いっそう重要性を増す研究分野であり、社会保障研究に統合できるものではないのではないか。
三 国立多摩研究所の統廃合に関して
 1 世界には約千二百万人のハンセン病患者がおり、新患発生も約六十九万人で減少傾向にはない。人類をハンセン病から解放するため、「らいの免疫機構の解明」「予防ワクチンの開発」「らい末梢神経障害の研究」「早期診断技術の開発」「新治らい薬の開発」など解決すべき研究課題が多く残されているが、「らい研究の必要性」についてどのように考えているのか。
 2 国立多摩研究所の現在の組織・定員と予算を維持・継続し、現在地に「ハンセン病治療研究センター(仮称)」として残すのであれば、なぜ多くの反対意見やらい研究が縮小されるとの危惧の指摘があるのに、国立予防衛生研究所と統合し支所としなければならないのか。
 3 国立多摩研究所がハンセン病単一疾患研究所としてハンセン病療養所に隣接して設立された歴史的経緯がある。また大学等でのらい研究施設は研究者の反対にもかかわらずそのほとんどが閉鎖を余儀なくされた。
   「厚生科学研究の大いなる飛躍をめざして・新たな重点研究分野の設定と推進(厚生科学会議)」で「感染症、多剤耐性の結核菌に関する研究」の重点化を答申しているが「結核・非結核性抗酸菌症」研究は、本来国立予防衛生研究所で強化すべきもので、なぜ「ハンセン病治療研究センター」の職務として行わなければならないのか。

 右質問する。





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