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平成十一年三月十六日提出
質問第一七号

重債務低所得国への援助のあり方と累積債務削減問題に関する質問主意書

提出者  大野由利子




重債務低所得国への援助のあり方と累積債務削減問題に関する質問主意書


 二十一世紀が目前に迫っている。二十世紀が「戦争の世紀」であったとしたら、二十一世紀は「平和の世紀」「人道の世紀」「人権の世紀」にすることが人類の悲願である。しかし現実世界は、南北間格差が拡大し貧しい国はさらに貧しくなるという構造的欠陥が存在する。このような構造的欠陥を是正し、平和創出、人類の安全保障を実現していかなければならない。
 現在、発展途上国では十億人以上の人々がいまだ絶対的貧困や飢えに喘いでおり、その絶対的貧困の大きな原因の一つとなっているのが、それらの国々の先進国、国際金融機関に対する巨額の累積債務であるといわれる。貧しい国々は借金を返済するために新たに借金をするような状態で、この二十年間途上国の債務返済負担は先進国からの援助額よりも膨らみ、先進国からの途上国へ流れたODAの一ドル分に対し、途上国から先進国への三ドルの債務返済が行われた試算になる。
 世界銀行によれば、GNPに対する債務返済額が八十%以上、輸出に対する債務返済額が二百二十%以上に達する、特に債務負担の大きい貧困国、すなわち重債務低所得国(SILIC)は四十力国近くあり、多くはアフリカに集中している。それらの国々は常に借金に追われ、その結果、教育、衛生、保健医療などへの予算が削減され、特に最貧困層が打撃を受けた。
 二国間公的債務に関しての救済は、パリ・クラブ(債権国会議)で始まり、一九八八年カナダ・トロントサミットでのトロントスキーム、一九九四年イタリア・ナポリサミットでのナポリスキーム、一九九六年のHIPCイニシアティブなど、二国間および多国間債務の返済繰延べや削減に関する取決めが次々打ち出されてきた。しかし、これらは厳しい条件のもとに審査・実行されるため、適応される国は限られてくる。また、過去二十年間最貧国の累積債務額が増え続けている現実を鑑みれば、債務救済という観点ではこれらの政策は殆ど効果がなかったといわざるを得ない。
 このような中、二十一世紀を目前に、二〇〇〇年を契機にして最貧国の累積債務帳消しに本気で取り組もうというキャンペーンが世界各国の市民の間で発生してきたことは、当然の帰結であった。特に、国際協力NGO等を中心としたジュビリー二千と呼ばれる国際キャンペーンはすでに四十力国に拡大し、日本でもNGOを中心に署名運動などが展開されている。今年五月のケルンサミットに多くの署名を提出する予定である。
 これら市民運動の盛り上がりと同時に、市場経済至上主義による市場の暴力に対しセーフティネットを要求する社民勢力の台頭が著しいヨーロッパ諸国では、二国間援助の削減の動きが始まっている。昨年のバーミンガムサミットでは、イギリス・ブレア首相がジュビリー二千の代表と面会し、支持を表明している。スウェーデン、フィンランドも支持を表明した。ノルウェイ、スイス、アイルランドなどの国では何らかの形で、独自の債務帳消しもしくは大幅削減策を実行している。フランス、オランダ、スペイン、アメリカ、カナダなどは、昨年ハリケーン災害にあった中米諸国の債務救済に乗り出している。
 これに対し、これまで日本とドイツは債務削減にむけての国際的な動きに消極的であった。昨年のバーミンガムサミットでは、ジュビリー二千にイギリスを始め他の先進諸国が積極姿勢だったのに対し、日本、ドイツ等が反対したために、合意に至らなかったと報告されている。しかし、昨年ドイツでは社民党と債務帳消し問題に以前から積極的な姿勢を示していた緑の党の連立政権が誕生し、また、ドイツ国際開発相が、ジュビリー二千キャンペーンの提案に支持を表明している。次回のサミットでドイツが賛成の立場に転じれば、この取組みに関してわが国が非常に出遅れてしまったという印象を世界に与えることは否めない。
 さらに、日本政府がもし、この債務帳消し運動に少しでも歩調を合わせていきたいと考えるのであれば、日本政府自身が抱えるこれら重債務最貧国に対する貸付けについて検討されねばならない。平成十一年二月二日の予算委員会で、借款が資金運用部(郵便貯金、年金など)から出ている等、財源の問題を主な理由に、債務の削減は難しいと説明されている。重債務低所得国の債務残高の総額は年々増加しており、現在、日本が保有するこれら重債務低所得国四十カ国への債権は、およそ七千億円程度といわれ、帳消しや削減を実現するのであれば、基本的にはこれに対する特別な予算を設けなければならないだろう。しかし、七千億円の債務のうち数%でも削減され、その分最貧国の基礎的社会サービス部門に配分されるとしたら、これは貧困層の多くの人々の生死に直接関わる人道上の問題である。低所得国の累積債務急増という問題が改めて浮上してきている今、先進諸国の中でも、飛びぬけて有償比率が高い日本型援助の背後にある「自助努力原則」が幻想や建前に終わらないよう、より柔軟で人道的な海外援助のあり方が問われている。
 以上のような背景に基づいて、次の質問をする。

一 政府は、債務削減や帳消しが、借り手の返済に対するモラルを崩壊させる危険性を指摘する。しかし、過去二十年間に先進国から途上国への援助額よりも、途上国から先進国側へ流れた債務の返済額の方がはるかに上回っていたこと、その間多くの途上国では債務返済のために保健、医療、教育などへの公共支出が削減され、例えばザンビアでは、一九九〇年度前半に債務の利子支払いのために初等教育費が十年前の六分の一に減らされ、退学者の数が増加したことなど、これらの問題は上記のようなモラルの問題が論じられる際には、決して触れられることはない。政府は、債務返済に伴う公共支出の削減によって途上国の貧困層がしばしばより困難な状況に置かれることについて、どのような道徳的見解をお持ちか。
二 これまで、外務省やOECF、大蔵省などは、高度成長をとげた東アジアでの成功例などを挙げて、借款型援助の有効性、自助努力への寄与を説明してきている。しかし、東アジアなどの地域は経済的基盤、行政処理能力、政策立案能力などの点で他の途上国よりも優れており、高度成長への初期条件は比較的整っていた。一方で、債務返済額がGNPの八十%にも昇る最貧国の経済・政治状況を鑑みるに、決して東アジアと同じような初期条件にあるとはいえず、返済能力が心許ない。そのため、これらの国々に自助努力の原則を当てはめるのは間違いであるというのが多くの専門家の意見である。この意見に従えば、重債務低所得国向けの円借款は今後廃止し、代わりに無償援助で補っていくべきと考えるが、どうか。
三 九〇年代後半から始まった深刻なアジア諸国の経済危機により、これらの国々でも返済の遅延が目立ち始め、四千億円以上が不良債権化していると報告されている。日本政府は円借款の金利引下げや「宮澤構想」など対応を検討中であるが、ここにおいて再びあがってきたのが、援助の半分以上が借款であり大型プロジェクト向けであるということの効率性に対する疑問の声である。国際的にも、援助の流れはインフラストラクチャー整備など大規模なものよりも、社会開発や参加型に代表されるような代替開発戦略といった、より小規模でソフト面を重視したものに移行している。また、国民からの多額の借入金による途上国大規模プロジェクトへの融資を、不透明なプロセスで決定してきたことに対する責任や、援助内容の検証に関する責任も問われ始めている。これらの状況を踏まえれば、社会開発等を重視したより小規模なプロジェクトに対する無償援助を増加しつつ、借款の比率を引き下げるとともに、必要な巨額借款に対してはその有効性や返済能力を十分に検証していくことが、今後求められる方向性であると思われる。これに関する政府の見解、また具体的な方針、検討中の施策等あれば、説明いただきたい。
四 現在ODA予算の中に債務救済援助という枠があり、九七年度はODA予算の四%ほどを占めている。これは、円借款の返済を果たした国について、同額の無償援助を行うという形で実行されている。そうであるならば、この債務救済援助の主眼は債務返済を促すことであり、救済は二の次になると思われる。また、当然ながら既に債務の返済に困窮する国々が対象になることは難しくなってくるのではないだろうか。そこで、この債務救済援助の真の目的はどこにあるのかお尋ねしたい。また、債務救済という言葉を掲げるならば、まず返済ありきの考え方を検討し直し、重債務国に対してこれを優先的に振り向けていけるような条件や施策を講じるべきと考えるがどうか。
五 本年五月のケルンサミットではジュビリー二千の重債務低所得国の債務帳消し問題が議題に上るであろうと予想されているが、日本政府としてはどのような態度でのぞむつもりか。保健、医療、教育などへの公共支出を増やすことを条件に、債務帳消しを積極的に提案すべきではないか。

 右質問する。





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