衆議院

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昭和五十四年七月六日受領
答弁第四五号
(質問の 四五)

  内閣衆質八七第四五号
    昭和五十四年七月六日
内閣総理大臣 大平正芳

         衆議院議長 (注)尾弘吉 殿

衆議院議員寺前巖君提出金大中拉致事件に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員寺前巖君提出金大中拉致事件に関する質問に対する答弁書



一について

 金大中氏事件のいわゆる政治決着は、その当時政府が大局的見地に立つて決断を下したものであつて、現在もこれを引き続き尊重する態度を維持している。
 本事件につき我が国捜査当局は、刑事事件としての捜査をその後も継続しており、将来捜査の結果、韓国側の日本国内における公権力の行使を明白に裏付ける重大な証拠が新たに出てきた場合には右のいわゆる政治決着を見直すこともあり得るとの立場には変更はない。何がこのような証拠に当たるかは、あらかじめ一般的に予測することは困難である。

二について

@ 一九七五年一月十日付けのいわゆるスナイダー電報については、当事者である米韓両国政府に照会したが、米国政府からは一切コメントできない旨の回答があり、また、韓国政府からは、「通常外務部長官が韓国駐在の大使と会見したときは記録が作成されるが、一九七五年一月九日の金東祚外務部長官とスナイダー駐韓米大使との会見の記録は存在しない。金東祚元外相に本件を聞いてみたが同氏は記憶にないと述べた。したがつて、いかなる経緯でスナイダー大使がかかる報告を行つたのか推測がつかない。」旨の回答があつた。右照会の結果にかんがみ、政府としては、事実関係を確認することができない状況である。
  政府の立場は一についてで述べたとおりのものであつて、韓国政府の公然たる自認以外はすべて証拠と認めないという方針で臨んでいるわけではない。

A スナイダー氏及び金東祚氏については、それぞれ米国国務省及び韓国外務部を通じて照会を行つたところ、スナイダー氏は電報の内容につきコメントすることはできないと述べた旨の回答があり、また金東祚氏は記憶にないと述べた旨の回答があつた。
  その後、スナイダー氏及び金東祚氏に直接聞いてみたところ、右の米国国務省及び韓国外務部を通ずる照会に対する回答と同様のものであつた。

B 米国政府が不公表としている資料についてその公表を求めることは適当でない。

三について

@ 昭和四十八年十月九日付けの「金大中事件について」という報告書は、民間の韓国問題専門家が外務省の依頼を受けて作成したものであり、通常外務省が行つている同種の委託調査の場合と同様、一つの参考資料とされたものにすぎない。
  外務省が調査を民間人に依頼する場合に、当該民間人が外務省における特別の身分を有することはない。また、報告作成者の氏名を明らかにすることは適当でないと考える。

A 本件報告書は、外務省の入手する一つの参考資料として取り扱われた。
  いわゆる政治決着は、真相解明に努力したにもかかわらず、なお韓国による公権力の行使があつたことを裏付けるに足る証拠が得られていない状況の下で、当時の政府が日韓関係の重要性を考慮して熟慮の末に大局的見地から行つたものである。

B 在韓国大使館からの公電、報告等の文書を公表することは、外交活動の円滑な遂行に支障を来すおそれがあるので適当でない。

C 金大中氏事件については、これまでのところ、韓国による我が国の主権侵害があつたと断定するに至つていない。昭和四十八年十一月のいわゆる政治決着後今日までの間明らかにされた資料及び情報等については、その都度関連の照会を行うことを含め各般の検討を行つてきたが、右の状況に変更をもたらすには至つていない。

四について

@ 金大中氏事件については、我が国捜査当局の捜査の結果、金東雲書記官(当時)が犯行に加担した容疑が濃厚となつたが、なお韓国側の公権力の行使があつたことを断定し得ない状況にあつた。他方日韓関係全般がこの事件のために停滞することは我が国の外交上放置し得ないと考えられた次第であり、韓国が当時の金鐘泌国務総理を我が国に派遣し、遺憾の意を表する等の措置を採つたことを評価し、当時の政府が大局的見地に立つていわゆる政治決着をすることを決断したものである。

A 当時政府としてそのような報告を受けたという事実はない。また、田中元法相が示唆している高官がだれであるか明らかでない。

B 金大中氏事件について、政府が当時御指摘の日韓協力委員会のメンバーから提案等を受けたということはない。

C 政府としては、韓国中央情報部部員が日本国内に存在し、かつ活動を行つているとの事実は、いわゆる政治決着の当時においても現在においてもは握していない。去る五月三十日の衆議院外務委員会における園田外務大臣の答弁は、いわゆるスナイダー電報の文面からは、ひとつの可能性として金東雲が韓国中央情報部の要員ではなかつたかという推測はあり得るとの趣旨を述べたまでのことである。
  また、金大中氏事件について、これまでのところ、韓国による我が国の主権侵害があつたと断定するに至つておらず、御指摘の小林議員に対する答弁書はこのような状況を踏まえたものである。

D 金大中氏事件の捜査に関しては、いわゆる政治決着以前から被疑者金東雲並びに被害者及び重要な関係者が我が国内にいないという事実等が捜査を困難にしていたものであり、いわゆる政治決着が我が国の本件捜査に障害となつているものではない。

E 一九七五年七月二十二日付けの韓国側口上書は、韓国側が金東雲について行つた捜査の結果を述べたものである。
  右口上書を受け取つたことは、もとより同人につき我が国が独自の捜査を打ち切ることを意味するものではない。

F 御指摘の事件は、第三国の間で発生した事件なので、我が政府としては断定的なことは言えないが、西独政府が当該事件に関し、西独在住韓国人二名(空手教師)を逮捕するとともに、韓国側に事情説明を求めたのに対し、韓国政府は西独駐在の韓国大使館員三名が当該事件に関与したことを認め、右三名の本国召喚に応じたと承知している。
  当該事件に関与したといわれている大使館員が韓国においてどのような処罰を受けたか及び西独当局に逮捕された二名の韓国人がどのような処罰を受けたかについては、政府としても関心をもつて情報の入手に努めたが詳細は明らかでない。

五について

@ 日韓両国間の問題としての金大中氏事件の処理は、その性質上金大中氏の意向によつて決められるものではなく両国政府間でなされるものである。
  拉致事件の発生という結果のみに着目して、日本政府として金大中氏の身辺保護に関する義務と責任を果たさなかつたということは当たらないと考える。ちなみに、金大中氏は我が国への入国以来その所在を秘匿するなど隠密裡に滞在を続けていたことが後日判明した。
  また、政府としては、いわゆる政治決着の際に金大中氏については、「一般韓国人並に自由」であるとの了解を韓国側からとりつけており、この了解を折に触れて韓国政府との間で再確認するとともに、この点についての我が方の関心の表明を繰り返し行つてきている。政府としては、今後ともこのような方針で対処していく所存である。
  なお、拉致事件以来、後宮大使による同氏の見舞いを含め、大使館員が同氏側と累次接触してきている。

A 政府としては、金大中氏については「一般韓国人並に自由」であるとの了解があることから、この点についての我が方の関心を繰り返し韓国政府に対して表明する一方、在韓国大使館を通じて累次金大中氏側と接触を行つてきており、外務大臣が直接金大中氏に接触する考えはない。

B 昭和四十八年十一月のいわゆる政治決着の際の日韓両国政府間の了解は、「金大中氏は一般市民と同様出国も含めて自由である。日米両国滞在中の言動については責任を問わない。」というものである。
  その後、韓国内における金大中氏の行為について、同国において責任を問われることがあつたとしても、そのことは右の了解とかかわりのないことである。

C 金大中氏事件について、これまでのところ、韓国による我が国の主権侵害があつたと断定するに至つていない。したがつて、我が国の主権侵害について韓国の責任を追及し、その解除措置を採ることについて韓国政府に国際法上の権利として提起し得る立場にない。
  本件については、すでにいわゆる政治決着がつけられた経緯もあり、政府として金大中氏に来日を要請することは適当でない。

 右答弁する。


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