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平成十年四月二十四日受領
答弁第二二号

  内閣衆質一四二第二二号
    平成十年四月二十四日
内閣総理大臣 橋本(注)太郎

         衆議院議長 伊(注)宗一郎 殿

衆議院議員寺前巖君提出ヤコブ病問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員寺前巖君提出ヤコブ病問題に関する質問に対する答弁書



(1)について

 厚生省として、お尋ねのヒト乾燥硬膜の毎年の販売量及び販売金額については、把握していないが、ヒト乾燥硬膜の輸入販売業者である日本ピー・エス・エス株式会社において、同社が薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第二十三条において準用する同法第十四条第一項の規定による承認を得て輸入したドイツのB・ブラウン社のヒト乾燥硬膜の枚数は、昭和四十八年から平成八年までの間に約四十万枚から五十万枚程度と推測していると承知している。また、厚生省として、お尋ねのヒト乾燥硬膜の移植件数については、把握していない。
 御指摘の移植を受けた者の追跡調査については、クロイツフェルト・ヤコブ病の発症前においては、その原因と考えられる異常プリオンたんぱく質に感染しているか否かの判定が医学的に不可能であること等から、厚生省としては、全医療機関を対象に発症の段階で患者の発生状況等を把握するという手法による「クロイツフェルト・ヤコブ病及びその類縁疾患調査」(以下「類縁疾患調査」という。)を引き続き実施することによって、クロイツフェルト・ヤコブ病の実態の把握に努めてまいりたい。
 なお、厚生省の特定疾患調査研究事業において設置されたクロイツフェルト・ヤコブ病等に関する緊急全国調査研究班(以下「緊急全国調査研究班」という。)が平成八年に実施した「クロイツフェルト・ヤコブ病等に関する緊急全国調査」(以下「緊急全国調査」という。)及び類縁疾患調査においてクロイツフェルト・ヤコブ病と報告された患者に使用されたヒト乾燥硬膜のロットは、特定できない。

(2)について

 緊急全国調査及び類縁疾患調査においては、ホルモン製剤の投与等ヒト乾燥硬膜を使用した手術以外を原因とするものについても調査対象としたところであるが、ホルモン製剤の投与歴のあるクロイツフェルト・ヤコブ病患者の発症事例は報告されていない。
 御指摘の諸外国において報告されているホルモン製剤の使用によるクロイツフェルト・ヤコブ病の発症事例は、ヒト下垂体由来成長ホルモンの使用によるものであるが、厚生省としては、文献調査により、これらの事例は米国、イギリス又はフランスの特定の研究機関で精製されたヒト下垂体由来成長ホルモンの使用による事例に限定されているものと承知している。我が国の文献又は調査においてホルモン製剤の投与歴のあるクロイツフェルト・ヤコブ病の発症事例の報告がないのは、これらのホルモン製剤について薬事法に基づく輸入の承認が行われていないことから、これらのホルモン製剤が我が国に輸入されていないことによるものと考えられる。
 御指摘の追跡調査については、実施していないが、御指摘の発症事例と同じホルモン製剤については薬事法に基づく輸入の承認が行われていないことから、我が国においては使用されていないものと考える。

(3)について

 クロイツフェルト・ヤコブ病については、昭和五十一年から厚生省の特定疾患調査研究事業の中で調査研究を進めているところであり、お尋ねの研究については、現在、遅発性ウイルス感染研究班及び特定疾患に関するQOL研究班において行われているところである。平成十年度においては、特定疾患に関するQOL研究班に係る予算を大幅に増額するとともに、クロイツフェルト・ヤコブ病の原因と考えられる異常プリオンたんぱく質に関し、「家族性プリオン病及び外因性プリオン病の発症遅延方策に関する介入研究」を特定疾患調査研究事業の重点研究の課題の一つとして指定することにより、研究体制の強化を図ったところである。
 御指摘の緊急全国調査研究班は、いわゆる狂牛病問題を契機に平成八年度の研究班として設置され、近年のクロイツフェルト・ヤコブ病患者数の動向や狂牛病との関連性が疑われている新型クロイツフェルト・ヤコブ病患者の有無等を把握するため、全国的な疫学調査を行い、平成九年三月に報告書をとりまとめたところである。厚生省においては、引き続き疾患の発生等に関する情報を的確に収集し、新型クロイツフェルト・ヤコブ病の発生状況を把握するため、平成九年二月に公衆衛生審議会成人病難病対策部会にクロイツフェルト・ヤコブ病等専門委員会を設置し、類縁疾患調査を実施しているところである。

(4)について

 厚生省においては、発症から半年以内に自発運動はほとんどなくなり寝たきりの状態になるクロイツフェルト・ヤコブ病の特性にかんがみ、クロイツフェルト・ヤコブ病が原因となって介護を要する状態となった者について、平成元年から「難病患者地域保健医療推進事業の実施について」(平成元年八月四日付け健医発第九百五十号厚生省保健医療局長通知)に基づく難病患者地域保健医療推進事業の対象として都道府県を実施主体とする医療相談、訪問診療等の事業を、また、平成九年一月から「難病患者等居宅生活支援事業の実施について」(平成八年六月二十六日付け健医発第七百九十九号厚生省保健医療局長通知)に基づく難病患者等居宅生活支援事業の対象として市町村を実施主体とする訪問介護員の派遣、短期入所、日常生活用具の給付等の事業を推進してきたところである。平成十年度においては、難病患者地域保健医療推進事業を拡充して新たに難病特別対策推進事業を創設し、都道府県において、重症難病患者の入院の受入れのため、拠点病院及び協力病院による医療提供体制を確保するとともに、都道府県並びに保健所を設置する市及び特別区において、在宅の難病患者の生活の質の向上を図るため、在宅療養支援計画の策定及び評価、訪問相談事業の実施等在宅療養支援体制を大幅に強化することとしている。また、平成九年一月に「特定疾患治療研究事業について」(昭和四十八年四月十七日付け衛発第二百四十二号厚生省公衆衛生局長通知)に基づく特定疾患治療研究事業の対象疾患としてクロイツフェルト・ヤコブ病を指定したところであり、同月から患者の医療保険制度による自己負担部分について公費負担が行われているところである。

(5)の@について

 お尋ねのB・ブラウン社のヒト乾燥硬膜に係る輸入の承認については、昭和四十八年当時の薬事法第二十三条において準用する同法第十四条第一項の規定に基づき、その名称、成分、分量、用法、用量、効能及び効果を審査して行ったところであるが、当時においては、クロイツフェルト・ヤコブ病に関しては、その発症原因に関する病原体プリオン仮説もまだ提唱されておらず、異常プリオンたんぱく質に汚染されたヒト乾燥硬膜によってクロイツフェルト・ヤコブ病が伝播するおそれがあることについての知見が全くなかったことから、このような知見を前提とした審査は行われていなかったところである。

(5)のAについて

 米国疾病対策予防センター(以下「CDC」という。)によりヒト乾燥硬膜の移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病に関する世界で最初の報告(以下「第一症例報告」という。)が行われた昭和六十二年当時、御指摘のライオデュラの輸入販売業者であった日本ビー・ビー・エム株式会社は、厚生省に対し、ライオデュラによるクロイツフェルト・ヤコブ病の発症が疑われる症例についての報告をしておらず、プリオンたんぱく質を不活化するための水酸化ナトリウム処理工程の導入についても報告していない。
 日本ビー・エス・エス株式会社は平成八年六月に、平成三年七月から平成八年二月までの間に輸入したライオデュラについて自主回収する旨の記者発表を行ったが、厚生省としては、平成九年三月二十七日に世界保健機関(WHO)が「ヒト硬膜の移植例から五十例以上のクロイツフェルト・ヤコブ病が発症していることにかんがみ、今後ヒト硬膜を使用しないこと」との勧告を行ったのを踏まえて、直ちに同月二十八日付けで日本ビー・エス・エス株式会社等に対し、薬事法第六十九条の二の規定に基づき、ヒト乾燥硬膜の販売等の一時停止、回収及び納入医療機関に対して直ちにヒト乾燥硬膜の使用を停止すべき旨の連絡を行うことを内容とする緊急命令を発したところである。
 医療用具の輸入販売業者に対する輸入の承認後の品質の確保に関する指導については、厚生省において、平成六年四月から「輸入医薬品及び医療用具の品質確保に関する基準」(平成五年四月十九日付け薬発第三百八十号厚生省薬務局長通知)に基づき、医療用具輸入販売責任技術者の業務の明確化、製品標準書及び品質保証基準書の作成等について指導の徹底を図っているところである。

(5)のBについて

 平成八年八月に開催された中央薬事審議会伝達性海綿状脳症対策特別部会においては、御指摘の実験報告についても審議の対象とした上で、「ヒト乾燥硬膜の製造会社はドイツに二社あり、現在は、クロイツフェルト・ヤコブ病、B型肝炎、C型肝炎等に罹患している可能性のあるドナーを排除する基準及びクロイツフェルト・ヤコブ病の病原物質と考えられるたんぱく質の一種であるプリオンを不活化する水酸化ナトリウム処理工程を導入して」おり、「データ、プロセス及び両社からの説明による限り、現在適用されている安全対策により、現在供給されているヒト乾燥硬膜は、臨床的には安全と考えられる」との評価が行われたところである。

(5)のCについて

 厚生省において、第一症例報告が行われた昭和六十二年当時、保健医療局において疾病対策を担当していた職員及び感染症対策を担当していた職員並びに薬務局において医療用具の審査を担当していた職員及び安全対策を担当していた職員に対する調査を行ったが、当該職員の中で第一症例報告、昭和六十二年四月の米国食品医薬品局(FDA)のヒト硬膜移植材料に関する安全警告等ヒト乾燥硬膜とクロイツフェルト・ヤコブ病との関係に関する情報について、当時何らかの認識を有していた者は確認されていない。
 また、厚生省においては、(3)についてで述べたとおり、昭和五十一年から遅発性ウイルス感染研究班を設置し、クロイツフェルト・ヤコブ病等の疾患について調査研究を行っているところであるが、昭和六十二年当時、第一症例報告に関するCDCの週報(以下「MMWR」という。)、米国医師会雑誌(JAMA)の論文等について、当該研究班の班員から厚生省に報告がなされたことは確認されていない。
 昭和六十二年当時、国立予防衛生研究所(当時)においては、MMWRを入手し、これに掲載された記事のうち重要と認識されたものについては、同研究所が毎月発行している「病原微生物検出情報」に掲載することとしていた。厚生省において「病原微生物検出情報」の当時の編集関係者等に照会したところ、当時の編集責任者であった同研究所ウイルス中央検査部長(当時)から、「昭和六十二年二月及び同年六月のMMWRのヒト乾燥硬膜移植後のクロイツフェルト・ヤコブ病関連の記事については、当該記事を掲載するかどうか所内の編集会議で検討したが、当時、クロイツフェルト・ヤコブ病は発症原因としてのプリオン説がまだ確立しておらず、ヒトへの感染機構、病因論自体が極めて不明瞭であり、当該記事にも病原体及び病原診断としての情報が含まれていなかったことから、掲載する必要性の高いものとの認識はなく、編集責任者の判断でしばらく状況をフォローしてみることになったと思う。」との回答があり、このほかにも当該記事について、当時「病原微生物検出情報」の編集会議以外の所内の研究会で話題にしたことを記憶していると回答した者がいたが、当該記事について厚生省の担当部局に対して情報提供を行ったことを記憶していると回答した者はいなかった。また、同年十月に発行された「臨床とウイルス」第十五巻第三号には、当時の同研究所腸内ウイルス部長による同年六月のMMWRのクロイツフェルト・ヤコブ病に関連した記事の要約が掲載されているが、厚生省においてこの者に照会したところ、その内容について厚生省の担当部局に対して情報提供を行ったことはないとの回答があったところである。

(5)のDについて

 現在、ヒト乾燥硬膜の移植によってクロイツフェルト・ヤコブ病を発症したと主張する患者、遺族等から国、輸入販売業者等に対し損害賠償を求める訴訟が、東京地方裁判所及び大津地方裁判所に七件提訴されているところであり、御指摘の政府の責任及び被害者の救済の問題は、これらの訴訟において裁判所の判断を仰いだ上で解決されるべき問題と考えている。なお、これらの訴訟の中で最も早い時期に提訴された事案において、被告である国は、当該事案に係るヒト乾燥硬膜移植手術までに厚生大臣がヒト乾燥硬膜について薬事法第六十九条の二の規定に基づく使用禁止等の措置を講じなかったことが、国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)第一条第一項の適用上違法ということはできない旨の主張を行っているところである。





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