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答弁本文情報

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平成十年五月十五日受領
答弁第二七号

  内閣衆質一四二第二七号
    平成十年五月十五日
内閣総理大臣臨時代理
 国務大臣 小渕恵三

         衆議院議長 伊(注)宗一郎 殿

衆議院議員保坂展人君提出子どもの国籍取得に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員保坂展人君提出子どもの国籍取得に関する質問に対する答弁書



一の(1)について

 平成七年十二月三十一日現在、国籍を無国籍として外国人登録されていた四歳以下の者は四百六十四人であったが、この数は、平成八年十二月三十一日現在では七百三十四人、平成九年十二月三十一日現在では九百三十三人となっている。外国人登録事務上、無国籍として登録されている者の中には、本来的な意味での無国籍者のほか、国籍不明の者もかなり含まれているが、無国籍として登録されている四歳以下の外国人が増加している理由については判然としない。

一の(2)について

 平成十年三月三十一日現在の統計はないが、同九年十二月三十一日現在、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)又はタイ王国(以下「タイ」という。)国籍として外国人登録されている者で二十歳未満のものは、フィリピンについて七千四百十六人、タイについて千六百四十九人である。
 右外国人登録をされている者のうち、フィリピン政府又はタイ政府により旅券の発行を拒否されている者の数は承知していない。

一の(3)について

 外国人登録事務上、ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)旅券を所持する者については、ブラジル国籍として登録しており、無国籍として登録することはない。
 なお、平成十年三月三十一日現在の統計はないが、同九年十二月三十一日現在、ブラジル国籍として外国人登録されている者で二十歳未満のものは四万九千九十六人である。

一の(4)について

 外国人である母から生まれた子は、出生後日本国民である父の認知を受けても日本国籍を取得しない。その人数についての統計はない。

二の(1)について

 御指摘の最高裁判決においては、「(国籍)法二条三号にいう「父母がともに知れないとき」とは、父及び母のいずれもが特定されないときをいい、ある者が父又は母である可能性が高くても、これを特定するには至らないときも、右の要件に当たるものと解すべきである。」とされている。右最高裁判決のような事案において母親を特定するには、外国人出入国記録の調査のみによってできるとは考えていない。

二の(2)について

 子の父又は母を特定するための調査は、具体的事案に即した方法により行うべきものであり、外国人出入国記録もその資料の一つとはなり得るものである。したがって、同記録の調査を行うことが右最高裁判決に反するものとは考えていない。

二の(3)について

 外国大使館の旅券の発給については、当該国が決定するものである。また、日本国籍の付与は、我が国の国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)の定める要件を充足しているか否かにより決せられるものであり、外国政府と協議する必要があるとは考えていない。

二の(4)について

 我が国の国籍法は、父又は母が日本国民であれば日本国籍を取得するとの原則を採りつつ、日本で生まれた子の父母が共に知れないとき、あるいは父母が共に無国籍であるときにも日本国籍を取得するとの制度を採っており、無国籍児の発生をできるだけ防止することに考慮を払っている。また、各国における国籍立法が同一でないため、限られた範囲で無国籍児が生ずる場合があるが、このような場合には、特に要件を緩和した簡易な手続で帰化することができるとしており、無国籍の解消についても配慮しているところである。
 御指摘の最高裁判決は、国籍法第二条第三号に規定する「日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき」の解釈に関するものであるが、この判決の考え方を十分咀嚼し、今後とも、無国籍児の発生をできるだけ防止するのが望ましいことに十分考慮を払って国籍行政を行ってまいりたい。

二の(5)について

 二の(4)についてでお答えしたとおり、現行国籍法における無国籍児の発生の防止や無国籍を解消するための措置は相当なものであり、改正の必要はないと考えている。

三の(1)について

 御指摘の最高裁判決は、現行国籍法の基本的な解釈を変更するものではなく、戸籍の記載上、嫡出の推定がされなければ胎児認知されたであろうと認めるべき特段の事情がある場合には、国籍法第二条第一号の規定を合理的に解釈適用するのが相当である旨を判示したものである。
 このような例外的な場合についての同規定の適用に関しては、その指針となる右最高裁判決の趣旨を踏まえ、「外国人母の夫の嫡出推定を受ける子について、日本人男から認知の届出があった場合の日本国籍の有無について(通達)(平成十年一月三十日付け法務省民五第百八十号)」に基づく取扱いにより適切に対処することができるものと考える。

三の(2)について

 右通達における認定の一応の判断基準である期間は、右最高裁判決の事例を踏まえて、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)上の出生届及び国籍の留保届の届出期間等を考慮して示されたものである。
 なお、仮定の裁判結果を想定した御質問について答弁することは差し控えたい。

三の(3)について

 右最高裁判決の法廷意見は、現行国籍法の基本的な解釈を変更するものではなく、戸籍の記載上、嫡出の推定がされなければ胎児認知されたであろうと認めるべき特段の事情がある場合には、国籍法第二条第一号の規定を合理的に解釈適用するのが相当である旨を判示したものであり、例外的な場合について同規定の合理的な解釈の範囲内で対応するとの考え方に立つものと考えられるので、国籍法の改正を行う必要はないものと考える。

三の(4)について

 国籍法第二条第一号による国籍の取得は、出生時に日本国民である父又は母との間に法律上の親子関係が存在することが要件とされ、出生後に認知により日本国民との間に親子関係が生じても、日本国籍取得の効果は生じないこととされている。
 嫡出でない子についてお答えすると、婚姻していない日本国民である父と外国人である母との間の子は、準拠法たる日本民法(明治二十九年法律第八十九号)上原則として右父との間の法律上の親子関係が存在しないので、出生により日本国籍を取得することはない。これは、親子関係により我が国との結合関係が生じるのは、子が日本国民の家族に包含されることによって日本社会の構成員となることによるのであるから、日本国民の嫡出子については、当該日本国民が父であるか母であるかを問わず、日本国籍を付与することが適当であるのに対し、嫡出でない子については、法律上の婚姻関係にはない男女間から生まれた子であって、あらゆる場合に、嫡出子と同様の親子の実質的結合関係が生じるとは言い難いことから、嫡出子とは別個の考慮が必要となるからである。すなわち、民法上嫡出でない子は母の氏を称し(民法第七百九十条第二項)、母の親権に服する(同法第八百十九条第四項)ものとされていることからも明らかなとおり、嫡出でない子の父子関係は、通常、母子関係に比して、実質上の結合関係すなわち生活の同一性が極めて希薄である。このような点等が考慮されて、原則として、日本国民である父の嫡出でない子は出生により日本国籍を取得しないこととされているものと解される。
 次に認知の点についてお答えすると、日本国民である父の嫡出でない子でも父が出生前に認知したものは日本国籍を取得するところ、これは、出生前に父から認知があった場合には、父子関係の実際は通常の嫡出でない子の父子関係と異なると考えられること等によるものである。これに対し、生後認知によっては日本国籍取得の効果が生じないのは、嫡出でない父子関係に基づく子の生来国籍の取得につき、認知の遡及効を認めて、子の出生時にさかのぼって国籍の変動を生ぜしめることは、嫡出でない子の国籍を父の認知があるまで不安定なものにし、子本人にとっても好ましくないと考えられるからである。このように、国籍法が、子の生来国籍の取得につき、子の出生の時点における親子関係の存在を要求しているのは、国籍の安定性の要請等によるものと解される。
 以上のとおり、嫡出子と嫡出でない子との間又は胎児認知と生後認知との間において、国籍取得について差異があることは、合理的な理由に基づくものであり、法の下の平等に反するものとは考えていない。
 なお、国籍法には、準正による国籍取得や簡易帰化等の補完的な制度が設けられていることも併せ考慮されるべきである。

四の(1)について

 我が国の国籍法は、出生による国籍の取得に関し、原則として、父母両系血統主義を採用しているが、国籍法第二条第三号により、補充的に生地主義を採用し、無国籍児の発生を防止するための配慮をしている。さらに、これによっても、極めて限られた範囲であるが、なお無国籍児が生じる場合があり得ることを念頭に置き、同法第八条第四号に定められているとおり、帰化条件を大幅に緩和した簡易帰化によって、日本国籍を取得するみちを開いている。
 以上のとおり、国籍法上無国籍の防止及び解消につき十分な配慮がされていると考えている。

四の(2)について

 外国人女の嫡出でない子が、日本国民男から胎児認知を受けておらず、母の外国国籍が付与されない場合、日本において生まれた外国人男女の嫡出子に父及び母の外国国籍が付与されない場合等が考えられる。

四の(3)について

 一般論として言えば、無国籍の発生とは、いずれの国籍も持たない状態に置かれることを指すと考えられるところ、御指摘のような場合には無国籍の発生はあり得る。

四の(4)について

 日本国への帰化については、国籍法第五条にその一般的な条件が定められているところ、無国籍児に関しては、日本で生まれ、かつ、出生の時から三年以上日本に住所を有する者について、同法第八条第四号により、右帰化許可条件のうち、能力条件(第五条第一項第二号)及び生計条件(同項第四号)を要しないこととし、かつ、住所条件(同項第一号)も緩和されている。
 無国籍児に関しては、国籍法第二条第三号により、補充的に生地主義を採用し、かつ、右のとおり、普通帰化より要件の少ない簡易帰化という制度を設けるなど、無国籍の防止及び解消のために十分な措置を講じていると考えている。

四の(5)について

 児童の権利に関する委員会への回答については、政府から同委員会へ提出するものであり、現在、政府部内で鋭意作成中であるが、嫡出でない子の国籍取得に関する我が国の法制度等について説明することを検討している。

四の(6)について

 御指摘の児童の権利に関する委員会で問題となったイギリスの制度の詳細については、承知していない。
 児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号。以下「条約」という。)第二条1は、締約国は、児童又はその父母等の出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する旨規定しているが、政府としては、これは不合理な差別を禁ずる趣旨であって、合理的な差異を設けることまで禁ずるものではないと解している。
 我が国の国籍法における嫡出子と嫡出でない子との間の国籍取得の差異は、三の(4)についてでお答えしたとおり合理的な理由に基づくものであり、条約第二条1で禁じられている差別には当たらないと考えている。
 また、条約第七条1は、児童は出生の時から国籍を取得する権利を有する旨規定しているが、これは、締約国が児童は国籍を取得する権利を有することを認めるという原則を規定したものであり、締約国に対し、自国内で出生する場合を含め、自国内にいるすべての児童に対し、自国の国籍を付与する義務を課したものではないと解され、合理的な理由により国籍が付与されない場合があっても、それをもって直ちに同条の規定に反するとは言えないと考えている。

四の(7)について

 条約第七条1及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)第二十四条3は、児童は国籍を取得する権利を有する旨規定しているが、これは現在の国際社会では国籍を有しない児童の地位が不安定であることにかんがみ、締約国が児童は国籍を取得する権利を有することを認めるという原則を規定したものである。出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものが、国籍不留保により日本の国籍を喪失したとしても国籍を有しないこととなるものではなく、何ら条約第七条1及び規約第二十四条3に反するものではない。
 また、条約第八条1は、締約国は、児童の法律によって認められた国籍等を含む身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利を尊重する旨規定している。これは、国籍を含む児童の身元関係事項が不法に干渉され又は不法に奪われた場合には児童の地位が不安定となり、児童が適当な保護を受けることが困難になること等から、締約国に対し、児童が身元関係事項を保持する権利を尊重することを義務づけたものであり、児童が自国の国内法に従って国籍を喪失したとしても同条に反するものではない。





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