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平成十八年十一月二十四日提出
質問第一八〇号

ひろしまドッグぱーくの動物愛護管理法上の取扱い等に関する質問主意書

提出者  松本大輔




ひろしまドッグぱーくの動物愛護管理法上の取扱い等に関する質問主意書


 平成十五年四月に開園し、経営難から平成十七年六月に閉園した広島市佐伯区の民間テーマパーク「ひろしまドッグぱーく」において、劣悪な飼養環境のために衰弱した約五百頭の犬が本年九月二十六日に発見され、さらに十月六日には栄養失調から衰弱死した疑いのある三十四頭の犬の死骸が敷地内で埋められているのが見つかった。十月一日、私は現地を視察し、健康な犬の半分以下にやせ細った犬及び栄養失調により皮膚病等の疾病にかかった犬など、見るも無惨な状態の犬が多数いることを確認し、動物虐待以外の何ものでもないとの認識に至ったものである。
 一方、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四十八年十月一日法律第百五号、以下「法」という。)に基づき、事業者を監督する立場にある広島市は、本件を早くから把握しながら、法に基づく適正な指導監督を怠り、結果的に事態の深刻化を招いた。そればかりか、本件発覚後も刑事告発を見送り、事業者が提出した廃業届を受理することで事態の幕引きを図るなど、我が国の国民の間に一つの法規範にまで高められた動物愛護の精神を一つの社会的秩序として保護するという法の保護法益に相反する行為を取っており、国民の批判も大きい。事業者の責任は当然のことながら、斯様な事態を防ぐことのできなかった行政の責任も極めて重いものと考える。また、本件は海外でも報道され、我が国の動物愛護行政のお粗末さを世界に宣伝する結果となっている。
 以上を踏まえ、本件について原因究明、広島市の対応の適否の確認及び再発防止の観点から政府にお尋ねする。答弁に当たっては必ず一質問につき一答弁とし、複数の質問に対しまとめて答弁することは厳に控えられたい。

一 基本的事項について
 本件に関する平成十七年改正前の法(以下「旧法」という。)第八条第一項の規定による届出について、事業所名称「ひろしまドッグぱーく」の届出者を「事業者A」、事業所名称「ドッグプロダクション」の届出者を「事業者B」とする。
 1 旧法第八条第一項の規定による事業者Aの届出について、届出者の法人・個人の別、事業所の所在地、動物取扱業の種別、業の具体的内容、届出日及び営業開始年月日を示されたい。
 2 事業者Aは、旧法第八条第一項に違反して同項の規定による届出をせずに業を営んでいた時期があると思料されるところ、旧法第二十九条第一号に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 3 旧法第八条第一項の規定による事業者Bの届出について、届出者の法人・個人の別、事業所の所在地、動物取扱業の種別、業の具体的内容、届出日及び営業開始年月日を示されたい。
 4 事業者Bは、旧法第九条第二項に違反して同項の規定による届出をせずに、事業所の名称を「ドッグプロダクション、『ドッグパーク』」から「ドッグプロダクション」に変更したと思料されるところ、旧法第三十一条に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 5 事業者A及び事業者Bは、狂犬病予防法(昭和二十五年八月二十六日法律第二百四十七号)第五条第一項に規定する予防注射を犬に受けさせていたのか。受けさせていない場合、同法第二十七条第二号に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 6 右記2、4及び5について、違法状態を放置してきた広島市の対応は適切と言えるか、政府の見解を示されたい。
二 原因究明について(事件発覚までの広島市の対応)
 「ひろしまドッグぱーくの犬たちについて」(平成十八年十月二十五日広島市ホームページ掲載文書、以下「広島市発表」という。)によれば、広島市は事業者Bに対し口頭を含め二十三回指導したとしているが、事態の深刻化を防げなかった以上、指導の効果は疑問と言わざるを得ない。一方で、広島市には法第二十三条第一項に基づき改善勧告を、事業者がそれに従わない場合は同条第三項に基づき改善命令を出す権限があり、法第四十六条第四号において命令違反に対し罰則を設けることで命令に強制力を持たせていると承知している。しかし、広島市は本件が大きく報道されるまで法に基づく改善勧告を行わず、改善命令も出さなかった。動物愛護の精神を社会的秩序として保護すべき広島市が、強制力のある命令権を行使せず、かかる深刻な事態を招いたことは、法の存在意義や法規範性を危うくするものであり、不作為及び怠慢は明らかである。
 1 事業者Bは、少なくとも本年九月の時点において、法第二十一条第一項、動物の愛護及び管理に関する法律施行規則(平成十八年一月二十日環境省令第一号、以下「規則」という。)第八条及び動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目(平成十八年一月二十日環境省告示第二十号、以下「告示」という。)に規定する動物の健康及び安全を保持するための基準に違反していたのではないか。違反が疑われる規則及び告示の条項をすべて示されたい。
 2 事業者Bが法第二十一条第一項に規定する基準遵守義務に違反していた場合、度重なる指導にも事業者が従っていないことを踏まえ、広島市は事業者Bに対し法第二十三条第一項に基づき勧告を出すべきであったと思料されるところ、政府の見解を示されたい。
 3 事業者Bは、少なくとも本年九月の時点において、法第十二条第一項に規定する動物の健康及び安全の保持その他動物の適正な取扱いを確保するための基準のうち、規則第三条第一号に規定する事業の実施に必要な権原を有していなかったと承知している。広島市は事業者Bに対し、法第十九条第二号に基づき業務の停止を命ずるべきであったと思料されるところ、政府の見解を示されたい。
 4 広島市が法第二十四条第一項に基づく立入検査を行った年月日をすべて示されたい。その際、同条第二項に基づく身分証明書を関係人に提示していたのか。提示していない場合、広島市は同項に規定する身分証明書提示義務に違反していたと思料されるところ、政府の見解を示されたい。
 5 法第二十四条第一項に基づく立入検査権限はいわゆる行政調査であり、犯罪捜査権のような直接強制権限ではないが、法第四十七条第二号において立入検査忌避に対し罰則を設けることで検査の実効性を担保する、間接強制権限であると承知している。広島市発表によれば、深刻な状態の犬の発見が遅れた理由として、「業者側から立入りを拒まれた場所」があるためとしているが、広島市は立入りを拒んだ事業者Bに対し、法第四十七条第二号に規定する罰則の存在を伝えていたのか。
 6 本件に鑑み、法第二十四条第一項に規定する立入検査の運用における課題は何か。解決策とともに示されたい。例えば立入検査マニュアルや事例集を作成して各都道府県等に配布することなども考えられる。
三 広島市の対応について(虐待の判断根拠)
 内閣総理大臣官房管理室長名で警察庁保安部防犯企画課長宛に発出された「動物の保護及び管理に関する法律第十三条第一項に規定する虐待の解釈について(回答)」(平成元年四月十三日総管第百四十七号)によれば、警察庁より照会事項一として法に規定する虐待の一般的見解を求められたのに対し、「動物の保護及び管理に関する法律第十三条第一項に規定する虐待とは、同条第二項各号に掲げる保護動物に対して、一般的に、不必要に強度の苦痛を与えるなどの残酷な取扱いをすることをいい、虐待に当たるか否かの具体的判断は、当該行為の目的、手段、態様等及び当該行為による苦痛の程度等を総合して、社会通念としての一般人の健全な常識により判断すべきものであると解する」と回答していると承知している。
 また、警察庁より照会事項二として「(1)動物にエサや水を与えなかったことにより、それが起因して当該動物を死に至らしめた場合、(2)動物が疾病にかかり、いずれ病死するかも知れないことを承知で何ら治療行為等を施さなかったことにより、それが起因して当該動物を死に至らしめた場合」について、それぞれ法に規定する虐待に該当すると解してよいかとの照会に対し、「上記照会事項一についての見解に沿って判断すべきものであり、動物にエサや水を与えない(1)のようなケースについては、動物の態様、エサや水を与えなかった理由等の点について、また、何ら治療行為等を施さないという(2)のような不作為のケースについては、一般に疾病にかかった動物について飼い主に治療義務があるとの社会通念が成立しているかどうか、治療等を施さない正当な理由があるかどうか等の点について、十分検討を加えた上で、虐待に当たるか否か判断すべきものと思料する」と回答していると承知している。
 1 この解釈について現在も変更はないか。
 2 この解釈は都道府県及び地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市に対し周知されているのか。周知の方法、頻度なども含めて示されたい。
 3 本件は右記(1)のケースに該当すると思料されるところ、動物の態様、エサや水を与えなかった理由等の点について、広島市は十分な検討をしたのか。検討している場合はその内容を具体的に示されたい。政府として把握していない場合は把握すべきと考えるが、その必要の有無について見解を示されたい。
 4 現地を視察した際、重度の栄養失調を原因とする皮膚病などの疾病にかかった犬や失明の疑いのある犬もいたと承知しており、右記(2)のケースにも該当すると思料されるところ、飼い主に治療義務があるとの社会通念が成立しているかどうか、治療等を施さない正当な理由があるかどうか等の点について、広島市は十分な検討をしたのか。検討している場合はその内容を具体的に示されたい。政府として把握していない場合は把握すべきと考えるが、その必要の有無について見解を示されたい。
四 広島市の対応について(虐待の解釈の妥当性)
 「『ドッグプロダクション』の行為に対する広島市の方針について」(平成十八年十一月十三日広島市ホームページ掲載文書、以下「広島市方針」という。)によれば、本件において約五百頭の犬を栄養失調等で衰弱させた行為が、法第四十四条第二項に規定する虐待に該当するか否かについて、「この『みだりに』には、秩序を乱して・むやみに・故意にといった意味が含まれています。従って、ドッグプロダクションが「みだりに給餌、給水をやめた」かどうかが問題となります。(中略)ドッグプロダクションは資力の範囲で犬の飼養を続けており、犯意・悪意を持って『みだりに』給餌・給水をやめたという事実は確認できないことから、刑罰がかけられる『虐待』にはあたらないと判断」したとしている。
 一方、平成十四年(ろ)第四号平成十五年三月十三日伊那簡易裁判所判決において、法第四十四条(旧法第二十七条)第二項に規定する虐待について、「愛護動物の飼育者としての看護を著しく怠る行為を指すものであり、その代表的な行為として『みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる行為』が例示されているものと解される」とした上で、「著しく不衛生な場所で飼育し、給餌又は給水を十分与えず愛護動物を不健康な状態に陥らせるといった行為も、上記『虐待』に該当する」と判示されている。
 1 広島市の解釈にある「秩序を乱して・むやみに・故意に」は、一般語としての「みだりに」の意味と思われるが、法令上の「みだりに」の解釈は「社会通念上正当性があると認められる範囲を超えて」であるとされる。広島市の判断に従えば、約五百頭の犬に対し十分な給餌・給水をしなかった行為は、社会通念上正当性があると認められる範囲内ということになるが、その正当性とは何か。政府の見解を示されたい。
 2 法第四十四条第二項にある「みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる行為」は例示された行為に過ぎない。しかし広島市は、「犯意・悪意を持って『みだりに』給餌・給水をやめたという事実は確認できないことから、刑罰がかけられる『虐待』にはあたらない」としており、例示行為の有無のみをもって虐待の判断根拠としている。虐待の概念については、動物の被る苦痛を中心に捉え、これに人間の側の目的ないし必要性等の事情を加えて総合的に判断すべきであり、例示行為の有無だけに着目した広島市の判断は安易であると思料されるところ、政府の見解を示されたい。
 3 一般的に「著しく不衛生な場所で飼育し、給餌又は給水を十分与えず愛護動物を不健康な状態に陥らせる行為」は、法第四十四条第二項に規定する虐待に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 4 事業者Bが約五百頭の犬を栄養失調等で衰弱させた行為は、右記判決の事案と同様、「著しく不衛生な場所で飼育し、給餌又は給水を十分与えず愛護動物を不健康な状態に陥らせる行為」に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
五 広島市の対応について(殺傷の解釈の妥当性)
 広島市方針によれば、本件において三十四頭の犬を栄養失調等から衰弱死させた行為が、法第四十四条第一項に規定する殺傷に該当するか否かについて、「本市はアークエンジェルズの代表者からの通報を受けて死体を確認した上で、西警察署の担当警察官に『みだりに殺した』ものかどうか、見解を求めました。その結果、『死体を見ただけではみだりに殺されたのか、虐待を受けて殺されたのか、老衰などの自然死なのかを判断するのは困難であり、これまでの飼養状況などから判断するしかない。』とのことでしたので、一点目でお示しした飼養状況や、『給餌の量が充分ではなく、衰弱して死亡したものを弔うために埋葬した』というドッグプロダクションの申し立てから、『みだりに殺した』ものではないと判断しました」としている。
 一方、警察庁によると、平成十七年に「元ペットショップ経営者が飼育に窮したことから、繁殖目的のため飼っていた犬四頭に対して給餌・給水を止め、放置したことにより餓死させた」事案を法第四十四条第一項に基づき北海道警察が、「ブリーダーが経営に窮したことから、飼っていた犬三頭に対して、給餌・給水を止めたことにより衰弱させた」事案を同条第二項に基づき宮城県警察が、それぞれ検挙したものと承知している。
 1 広島西警察署の担当警察官による発言は事実か。事実の場合、広島県警察はこれまでの飼養状況について、事業者A、事業者B及び通報者等から事情を聴取し、検挙の可能性を検討したのか。
 2 法令上、「みだりに」の解釈は「社会通念上正当性があると認められる範囲を超えて」であるとされるところ、広島市の判断に従えば、三十四頭の犬に対し十分な給餌・給水をせずに死に到らしめた行為は、社会通念上正当性があると認められる範囲内ということになるが、その正当性とは何か。政府の見解を示されたい。
 3 一般的に「経営に窮し、飼っていた犬に十分な給餌・給水をせずに死亡させた行為」は、法第四十四条第一項に規定する殺傷に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 4 事業者Bが三十四頭の犬を死に到らしめた行為は、「経営に窮し、飼っていた犬に十分な給餌・給水をせずに死亡させた行為」に該当するか否か、政府の見解を示されたい。
 5 事業者Bの申立てによれば、「給餌の量が充分ではなく、衰弱して死亡したものを弔うために埋葬した」とのことであるが、三十四頭の犬の死骸が埋められていた場所には、使用されていない木製の柵が多数積み重ねられていたと承知しており、証拠隠滅の疑いもあると思料されるところ、この申立ての正当性について、広島市は検証したのか。検証した場合はその内容を具体的に示されたい。政府として把握していない場合は把握すべきと考えるが、その必要の有無について見解を示されたい。
六 再発防止について(虐待への厳正な対処等)
 平成十七年六月七日の第百六十二回国会衆議院環境委員会において、政府参考人である警察庁長官官房審議官は、「昨年中、ペットショップの経営者が犬にえさや水を与えず死亡させた事案、あるいは、養鶏場の経営者が、経営不振のために鶏にえさを与えることができずに餓死をさせた事案などを動物愛護法違反として検挙した事例がございます。お尋ねのような適切な治療が行われず死亡させた事案がもしあれば、都道府県警察におきまして、法に基づいて厳正な対処がなされるものと認識をいたしております」と答弁している。
 また、広島市発表によれば、ひろしまドッグぱーくは土地の所有者である事業者Aと、犬を所有、提供する業者の事業者Bとが共同経営する業務形態とされている。
 1 直近五年間における、法第四十四条第一項に規定する愛護動物の殺傷、同条第二項に規定する虐待及び同条第三項に規定する遺棄(改正前の同趣旨の条項を含む。)に基づく検挙状況及び処分結果を示されたい。
 2 右記三で示した平成元年四月十三日総管第百四十七号による虐待の解釈は、都道府県警察に周知されているのか。周知の方法、頻度なども含めて示されたい。
 3 本件については、動物愛護団体が本年十月二十七日に告発状を広島県警察に提出し、今月十五日に受理されたと承知しているが、本件が経営不振のために犬にえさや水を与えず、殺傷及び虐待した事案であることに鑑み、共同経営者である事業者A及び事業者Bに対し、法に基づいて厳正な対処はなされるのか。政府の見解を示されたい。
 4 本件のような多数飼育の場合、廃業時の動物の取扱いにおいて虐待や遺棄を招くおそれが高いことから、業の規制として特別の配慮が必要である。そこで、動物取扱業の種別として「多数飼育」を新設するとともに、必要な遵守基準を整備するなど、多数飼育の規制強化のための規則及び告示の改正をすべきと思料されるところ、政府の見解を示されたい。
 5 虐待の解釈について警察庁から照会があったことからも明らかなように、虐待の定義が法文上明確になっていないことが、行政の不作為や警察の初動の遅れなどにつながっていると思料される。判例等の蓄積も踏まえた上で、虐待の定義を明確にするための法改正が必要ではないか。現行法のまま明確にしない場合と法改正により明確化する場合のそれぞれの利点、欠点を示した上で、政府の見解を示されたい。

 右質問する。



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