質問本文情報
平成三十年七月十七日提出質問第四五三号
「旧テロ特措法」の位置付けに関する質問主意書
提出者 篠原 豪
「旧テロ特措法」の位置付けに関する質問主意書
旧テロ特措法の第一条が、「この法律は、平成十三年九月十一日にアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃が国際連合安全保障理事会決議第一三六八号において国際の平和及び安全に対する脅威と認められたことを踏まえ」と述べているように、政府は自衛隊派遣の正当性の主要な根拠を九・一一テロ攻撃の翌日に採択された国連安保理決議一三六八号に置いている。
また、同安保理決議が本文第四項で「テロ行為を防止し抑止するため一層の努力をするよう国際社会に求める」としていることを根拠に、政府が「不朽の自由作戦下で諸外国の軍隊等が行っている活動は、国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組みの一環」であると解釈してきた。
従って、「旧テロ特措法」は、国連(集団安全保障)に関わる防衛法制であって、米軍の「不朽の自由作戦」(OEF)を支援するためインド洋で海上自衛隊が行った補給支援活動は、国連安保理決議に基づく集団安全保障上の行動と思い込まれているが、これは誤った解釈で、未だに広く普及していると思われるので、改めて「旧テロ特措法」の法律的な位置付けについて以下、質問する。
米国政府がアフガニスタン空爆開始当日の十月七日に国連憲章第五十一条に従って安保理議長宛に提出した書簡(S/2001/946)の中でも言及しているように、不朽の自由作戦は、米国の法理として、「米国及び米国国民に対する今も続いているアルカーイダの脅威」に対する「個別的又は集団的な固有の自衛の権利の行使として」開始された。このことは、武力行使の米国内法上の根拠である「武力行使容認法P.L.107-40」が国連安保理決議を引用していないことからも明らかである。
さらに、九・一一米同時多発テロ攻撃翌日の二〇〇一年九月十二日、NATO(北大西洋条約機構)の最高意思決定機関である北大西洋理事会が、「この攻撃が外国から米国に対して行われたものであると断定された場合には、欧州または北米の一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすと規定したワシントン条約第五条が想定する行為であるとみなされるべきである」との声明を出しており、また、オーストラリア政府も九月十四日に、集団的自衛権を規定したANZUS条約を発動する旨を明らかにしているように、「不朽の自由作戦」に参加する連合国は押しなべて、自らの行動を国連憲章第五十一条の個別的及び集団的自衛権に基づいて正当化している。
従って、海上自衛隊が補給支援活動を行った「不朽の自由作戦」(OEF)は、自衛権に基づく作戦行動であるとする認識に間違いはないか。
二 国連安保理決議一三六八号
国連憲章第七章の冒頭の第三十九条が「安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第四十一条及び第四十二条に従っていかなる措置をとるかを決定する。」と述べていることに端的に示されているように、自衛権を根拠とする場合を唯一の例外として、強制措置がとられる場合には必ず、国連憲章第四十三条に定める国連軍の編成を含め、国連安保理事会の明白な承認がなければならない。
ただし、国連安保理決議が武力行使を容認した国連憲章第四十二条に基づくものである場合、慣例上、当該の安保理決議の文言に以下の三要件が備わっていることが必要とされている。
「国連憲章第四十二条決議の形式的三要件」
(1)安保理決議が問題とする事態が、「国際の平和と安全に対する脅威」(a threat to international peace and security)であるとの認定がなされていること。
(2)「国連憲章第七章の下に行動し」(Acting under Chapter Z of the Charter of the United Nations)の文言を受けて、主文に規定される措置が国連憲章第七章下の強制措置である旨が明確になっていること。
(3)上記を踏まえつつ、主文中に、武力行使を含む軍事的措置を安保理が容認した旨を示唆する「・・・に対し、・・・のためにあらゆる手段を取ることを認める」(Authorizes…to take (use) all necessary measures (means) to fulfill its mandate)の文言があること。
国連安保理決議一三六八号は、上記の(2)と(3)の要件を欠いているが、前文中に「憲章に従って、個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識し」の文言が明記されているという特徴がある。
なお、この自衛権に言及したフレーズの前に、同じ前文中に「テロ活動によって引き起こされた国際の平和と安全に対する脅威に対してあらゆる手段を用いて闘うことを決意し」の文言があるが、これは、米英等に代表される国際社会が自衛権発動の意思を固めていることを踏まえて書かれたものと考えられ、あくまでも、前文である以上、安保理事会として国連加盟国に武力行使を含む対応を求めたものと解釈すべきではない。
また、決議一三六八号の主文第五項の中にある「あらゆる必要な手順を取る用意がある」との文言であるが、「手順」(step)とは、非軍事的措置を意味する慣用語であるので、これを国連憲章第四十二条に基づく軍事的措置を含むものと解釈してはならない。
従って、国連安保理決議一三六八号は、米英等の連合国が自衛権を行使することを容認したものであり、テロ攻撃に対する対処方法として、国連が国連憲章第五十一条に基づく武力行使を初めて認めた画期的な決議ではあるが、決して国連加盟国に対し、国連憲章第四十二条に基づく軍事的措置を求めてはいないと考えられる。
政府も同様な見解を有しているか。別の見解を有しているのであれば、違いを詳細に説明されたい。
三 旧テロ特措法
以上を踏まえれば、「旧テロ特措法」は、国連(集団安全保障)に関わる防衛法制ではなく、自衛権を根拠にテロ掃討作戦を続ける米国を支援する法制であったということになるが、政府は、この見解に同意するか。
右質問する。