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平成三十年七月十七日提出
質問第四五六号

武力行使容認決議に基づく国連PKOへの自衛隊派遣に関する質問主意書

提出者  篠原 豪




武力行使容認決議に基づく国連PKOへの自衛隊派遣に関する質問主意書


 国連PKOは、当初は、武力紛争または戦闘行為が終結していることが活動の前提としていた。そのため、和平合意が結ばれた後に、停戦監視部隊を派遣して紛争の再発防止を図ることで、和平が定着するよう支援することを任務としていた。こうした活動は伝統的なPKOと呼ばれ、PKO部隊が戦闘に巻き込まれる危険はあっても、紛争当事者が和平合意に署名していることが活動の前提である以上、PKO部隊が「武力紛争の当事者」になることは想定されていなかった。
 我が国が自衛隊の部隊を国連PKOに派遣する際の条件となっているPKO参加五原則は、そうした時代に作られたものである。
 しかし、一九九四年のルワンダ大虐殺を経て、国連PKOはこうした悲劇の再発を防止するため、停戦が破られたから即撤収するのではなく、住民を攻撃する勢力がいた場合は、PKO部隊が武力を行使してでもそれを排除し、住民を保護するべきだという考え方に変化した。つまり、住民が攻撃されている時には、PKO部隊自身が「武力紛争の当事者」になってでも住民を守るという、「文民保護」の考え方を取り入れた。
 一九九九年、国連のコフィー・アナン事務総長が、国連部隊に適用される国際人道法の基本原則および規則に関する告示を出した。これによって、平和維持活動を行うPKO要員も、戦闘員として武力紛争に関与し、武力行使する場合には国際人道法が適用されることが、国連の一般原則となった。
 現在、国連安保理決議に基づいて派遣される国連PKOは、国連憲章第四十二条の武力行使が容認されているが、こうした新しい事態に、これまで憲法第九条が禁じる武力行使の歯止めとされてきた政府見解が、その歯止めとしての役割を必ずしも果たしていないのではないかと考えるので、以下質問する。

一 武力紛争の当事者となった国連PKO
 一九九七年、国連はPKO地位協定を改定して、国連のPKO部隊が一九四九年採択のジュネーブ諸条約及び一九七七年採択の追加議定書、いわゆる「戦争法」に従って作戦を遂行すると地位協定に明記するようになった。これは、国連PKO部隊が「武力紛争の当事者」になる可能性を認めたことを意味する。
 日本のPKO法は、PKO参加五原則に基づき、自衛隊員の危害射撃を正当防衛・緊急避難の場合に限定している。しかし、国連のPKOの一部部隊が武装勢力との間で戦闘状態に入った場合、「敵」である民兵たちにとっては、同じブルーヘルメットをかぶり、国連PKO司令部の指揮下にあることを示す国連章を右上腕に付ける別の部隊を、現に交戦している部隊と区別する国際法上の義務はない。その結果、自衛隊が武力紛争の当事者として振舞うことは憲法上できないが、「敵」である民兵は、自衛隊の部隊も武力紛争の当事者たる国連PKO部隊として認識し、攻撃することになる。
 つまり、憲法第九条で武力行使が禁じられた自衛隊も現在の国連PKOに参加する以上、「敵」である民兵からは、武力行使と一体化していると見なすことにならざるを得ないことになる。
 ところで、「武力行使の一体化」論は、自己評価ではなく、相手側からどのような評価を受けるのかということが論点となる。従って、国連PKOが武力紛争の当事者となった時点で、憲法第九条に基づき、自衛隊は直ちに撤収しなければならないと考えるが、この点に関する政府の見解を伺いたい。
二 国際人道法違反への対処
 国連は、PKO要員が犯罪を犯した場合、あるいは国際人道法違反の行為をした場合、その要員の派遣国が自国の法律に基づいて処罰することを求めている。一九九九年の国連事務総長告示でも、「国際人道法に違反した場合、国連部隊の軍事要員は、それぞれの国内裁判所で起訴の対象となる」(第四条)と定めている。
 しかし、自衛隊には軍法も軍法会議も存在しない。そもそも、憲法は、海外での武力行使を禁じ、自衛隊員がPKOで国際人道法違反を犯すことを想定していないので、そのような法整備をすべきでもない。
 従って、国連の要請に応えるために、少なくとも、正当な理由がない自衛隊の武器の使用の罪、上官の職務上の命令に対する多数共同しての反抗の罪、部隊の不法指揮の罪、防衛出動命令を受けた者による上官命令に対する反抗又は不服従の罪等自衛隊法に規定する一部の罪について、日本国外において犯した者にも適用できるように法整備すべきだと考えるが、政府の見解を伺いたい。
三 南スーダン情勢
 南スーダンPKOも、二〇一三年十二月に内戦が勃発しても撤収せず、二〇一四年十一月には、最優先の任務をそれまでの「国づくり支援」から「文民保護」に変更し、兵力も増強して活動を継続した。
 二〇一五年八月に大統領と反政府勢力のトップである前副大統領の間で和平合意が結ばれ、いったん両者による暫定統一政府が発足したが、二〇一六年七月に戦闘が再燃。国連安保理は、同年八月、さらに四〇〇〇人規模の「地域防護部隊」の増派を決めた。
 この「地域防護部隊」には、国連要員や民間人、空港などの重要施設を守るために「必要なあらゆる措置」をとる権限が付与され、国連要員や住民への攻撃が準備されているとの信頼できる情報がある場合は「先制攻撃」さえも認められている。
 つまり、二〇一三年十二月から二〇一五年八月まで、また、二〇一六年七月以降は、内戦状態にあると考えられ、日本のPKO参加五原則に照らせば、遅くとも、二〇一六年七月には撤収すべきであったと考えられる。
 しかし、日本政府は、そうした時点でも以下のような認識を述べて、撤収しようとせず、自衛隊施設部隊に駆け付け警護の任務を付与しようとさえしていた。
 「政府としては、従来から、PKO法上の『武力紛争』に該当するか否かについては、事案の態様、当事者及びその意思等を総合的に勘案して個別具体的に判断することとしている。
 これを南スーダンに当てはめた場合、当事者については、反主流派の内、『マシャール派』が武力紛争の当事者(紛争当事者)であるか否かが判断材料となるが、少なくとも、
 〇 同派は系統だった組織性を有しているとは言えないこと、
 〇 同派により『支配が確立されるに至った領域』があるとは言えないこと、また、
 〇 南スーダン政府と反主流派双方とも、事案の平和的解決を求める意思を有していること
 等を総合的に勘案すると、UNMISSの活動地域においてPKO法における『武力紛争』は発生しておらず、マシャール派が武力紛争の当事者(紛争当事者)に当たるとも考えていない。
 南スーダンの治安状況は極めて悪く、多くの市民が殺傷される事態が度々生じているが、武力紛争の当事者(紛争当事者)となり得る『国家に準ずる組織』は存在しておらず、PKO法上の『武力紛争』が発生したとは考えていない。」(出典 二〇一六年十一月十五日の「新任務付与に関する基本的な考え方」)
 しかし、こうした評価は、内戦が勃発した時点で即撤収した伝統的PKOの時代のもので、現在の国連PKOは、自ら「文民保護」のために敢えて「紛争当事者」として内戦状態の南スーダンにとどまり、反主流派の「マシャール派」、場合によっては南スーダン政府側と対峙しているのである。
 自らを「文民保護」のために「紛争当事者」として位置付けながら、敵対する反主流派の「マシャール派」や、場合によっては南スーダン政府軍を「紛争当事者」ではないとするのは、論理矛盾でしかないと考えるが、政府の見解を伺いたい。

 右質問する。



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