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平成十六年六月十八日受領
答弁第一一四号

  内閣衆質一五九第一一四号
  平成十六年六月十八日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員島聡君提出政府の憲法解釈変更に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員島聡君提出政府の憲法解釈変更に関する質問に対する答弁書



一について

 憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものであり、政府による憲法の解釈は、このような考え方に基づき、それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたものであって、諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮すべきことは当然であるとしても、なお、前記のような考え方を離れて政府が自由に憲法の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えている。仮に、政府において、憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことをするとすれば、政府の憲法解釈ひいては憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねないと考えられる。
 このようなことを前提に検討を行った結果、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと考えられるが、いずれにせよ、その当否については、個別的、具体的に検討されるべきものであり、(二)のお尋ねについては一概にお答えすることは困難である。
 また、御指摘の事例についての政府の考え方をお示しすれば、次のとおりである。すなわち、政府は、一般に、国又はその機関の行為が憲法第二十条第三項の禁ずる「宗教的活動」に当たるかどうかは、いわゆる津地鎮祭判決(昭和五十二年七月十三日最高裁判所大法廷判決)において示されたいわゆる目的効果論の考え方に従い、当該行為の宗教とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものか否かを社会通念に従って客観的に判断して決すべきものであるとの解釈を採っているところ、御指摘の内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することに関しては、昭和六十年以前は、前記のいわゆる目的効果論の考え方に基づき同項の規定との関係で問題がないかどうかを判断するために必要な社会通念を見定めるに至っていなかったことから、同項の規定との関係で違憲とも合憲とも断定しないものの、違憲ではないかとの疑いをなお否定できないため、これを差し控えることとしていた。しかし、昭和六十年に、当時の「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」の報告書等を参考として鋭意検討した結果、前記のような国務大臣の靖国神社へのいわゆる公式参拝のうち、専ら戦没者に対する追悼を目的として、靖国神社の本殿又は社頭において一礼する方式により行われるような参拝については、社会通念に照らし同項の規定に違反する疑いはないとの判断に至ったので、このような参拝は、差し控える必要がないという結論を得たものである。このように、国務大臣の靖国神社へのいわゆる公式参拝については、前記のいわゆる目的効果論の考え方を踏まえ、これを具体の事案に当てはめるに際し、その対象となる参拝の方式を特定し、これを前提とすれば社会通念に照らして憲法に違反することはないという結論を得るに至ったものであり、このことは、前記のいわゆる目的効果論の考え方の範囲内にとどまるものである。
 その上で、御指摘の「憲法の解釈・運用の変更」に当たり得るものを挙げれば、憲法第六十六条第二項に規定する「文民」と自衛官との関係に関する見解がある。すなわち、同項は、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」と定めているが、ここにいう「文民」については、その言葉の意味からすれば「武人」に対する語であって、「国の武力組織に職業上の地位を有しない者」を指すものと解されるところ、自衛隊が警察予備隊の後身である保安隊を改めて設けられたものであり、それまで、警察予備隊及び保安隊は警察機能を担う組織であって国の武力組織には当たらず、その隊員は文民に当たると解してきていたこと、現行憲法の下において認められる自衛隊は旧陸海軍の組織とは性格を異にすることなどから、当初は、自衛官は文民に当たると解していた。その後、自衛隊制度がある程度定着した状況の下で、憲法で認められる範囲内にあるものとはいえ、自衛隊も国の武力組織である以上、自衛官がその地位を有したままで国務大臣になるというのは、国政がいわゆる武断政治に陥ることを防ぐという憲法の精神からみて、好ましくないのではないかとの考え方に立って、昭和四十年に、自衛官は文民に当たらないという見解を示したものである。

二について

 憲法第九条の文言は、我が国として国際関係において実力の行使を行うことを一切禁じているように見えるが、政府としては、憲法前文で確認している日本国民の平和的生存権や憲法第十三条が生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を国政上尊重すべきこととしている趣旨を踏まえて考えると、憲法第九条は、外部からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされるような場合にこれを排除するために必要最小限度の範囲で実力を行使することまでは禁じていないと解している。
 これに対し、集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利と解されており、これは、我が国に対する武力攻撃に対処するものではなく、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とするものであるので、国民の生命等が危険に直面している状況下で実力を行使する場合とは異なり、憲法の中に我が国として実力を行使することが許されるとする根拠を見いだし難く、政府としては、その行使は憲法上許されないと解してきたところである。
 お尋ねのような事案については、法理としては、仮に、個別具体の事実関係において、お尋ねの「同盟国の軍隊」に対する攻撃が我が国に対する組織的、計画的な武力の行使に当たると認められるならば、いわゆる自衛権発動の三要件を満たす限りにおいて、我が国として自衛権を発動し、我が国を防衛するための行為の一環として実力により当該攻撃を排除することも可能であるが、右のように認めることができない場合であれば、憲法第九条の下においては、そのような場合に我が国として実力をもって当該攻撃を排除することは許されないものと考える。
 御指摘の答弁書のお尋ねに係る部分の趣旨及び集団的自衛権に関する政府の憲法解釈の変更についての考え方は、平成十四年五月九日の衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会における赤松正雄委員の質疑及び本年二月二十七日の参議院本会議における山本香苗議員の質疑に対する小泉内閣総理大臣の答弁において述べられているとおりである。



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