平成16年2月26日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

日本国憲法に関する件

各小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。


◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪天皇制(皇室典範その他の皇族関連法に関する調査を含む)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長

  • 皇位の世襲を定める2条が、憲法それ自体が認める「例外的な規定」であることは、各会派に一致した見解であると思われるが、そこに我が国の歴史や伝統を読み込むのか、14条の男女平等の原則を適用するのかについては、なお隔たりがあるように感じられる。
  • 我が国の歴史や伝統と近代立憲主義との「調和」については、明治憲法の制定以来、問題とされてきた点であり、この問題を、今後、どのように解決していくべきかは、皇位継承の問題のみならず、国の在り方を考えていく上で、大きな課題の一つであろう。


●自由討議

計屋 圭宏君(民主)

  • 憲法を考えるに当たっては、将来からの視点が必要である。
  • 我が国の歴史において、天皇制が大きな役割を果たしてきたことはいうまでもない。現在の象徴天皇制は、歴史的に見るとむしろ本来の姿である。また、天皇の有する「国民統合能力」は、他国には見られない貴重なものである。
  • 実質的に天皇の役割を担う摂政に皇后が就けること、男女共同参画社会の精神等の観点から、女性の天皇を認めるべきである。
  • 天皇の自主退位を認めない現行制度は、非人道的である。天皇についても基本的人権を認めるべきである。


船田 元君(自民)

  • 横田参考人は、天皇の公的行為に否定的であったが、私は、象徴天皇の地位・意義について、国事行為のみで明確にするのは無理があるため、補完するものとして、公的行為を幅広く認めるべきであると考える。
  • 女性の皇位継承を認めるか否かについては、早く方向性を示さないと、天皇制そのものの存続が不可能になるおそれがある。私は、女系女子を認める必要があると考えるが、その際、宮家の増加に伴う皇室財政への影響、皇族女子の範囲など多くの検討すべき課題を抱えることになる。
  • 横田参考人の意見とは異なり、私は、女性の天皇を認めることは、世間に残る男女差別問題の改善にも寄与するのではないかと考える。


山口 富男君(共産)

  • 象徴天皇制は、主権在民の下に置かれた制度であり、近代立憲主義下では、法規範の問題と伝統の読込みとは厳格に区別すべきとするのが、横田参考人の立場であったと考える。
  • 憲法に規定される国事行為以外の天皇の行為は、私的行為として厳格に区分すべきである。
  • 女性の天皇については、憲法ではなく皇室典範という法律事項の問題であり、そこで議論されるべきである。


小野 晋也君(自民)

  • 私は、1条の「日本国民」とは、現在・過去・未来の日本に生きる人すべてを含むものであり、憲法では、この広い範囲の「日本国民」の象徴として天皇が描かれているとの認識を持っている。


下村 博文君(自民)

  • 天皇制と基本的人権・男女共同参画を同列で論じるのは難しいが、法治国家である以上、憲法・法律の中で天皇制の位置付けを改めて明確にしていく必要がある。
  • 女性による皇位継承について、男系男子の枠組は維持されるべきであるが、過去にも例外として女性の天皇は存在しており、それに準じる形式で、皇室典範を改正する必要がある。

◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪憲法第9条特に、自衛隊のイラク派遣並びに集団的安全保障及び集団的自衛権≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

近藤 基彦小委員長

  • 集団的自衛権及び集団的安全保障並びに自衛隊のイラク派遣に関して、前文の平和主義や9条2項の戦力の不保持・交戦権の否認の理念を今後も維持するのか、あるいは我が国の自衛上の必要性や前文の国際協調主義の観点から、この問題を捉えるべきか等といった点について見解の相違があった。
  • これまでの議論の積み重ねにより、9条をめぐる問題について、次第に論点が明確になっており、今後もこの争点に関する憲法上の問題について議論を深める必要があると考える。


●自由討議

武正 公一君(民主)

  • 国際協調主義と日米同盟では、憲法上に根拠を有する前者が上位概念と考えるが、両者の関係や今後の自衛隊の活動範囲に係る憲法上、法律上の根拠についての検討が必要な時期に来ている。
  • 国際協調主義を論拠に、自衛のための必要最小限度の武力行使が認められることもあると考える。
  • テロ特措法やイラク特措法における手続では、事後承認などの点で国会の関与が弱い。今後はシビリアン・コントロールの観点から、国会は、事前承認を行うなど積極的に関与すべきである。
  • 国連軽視ではなく、国連中心主義の立場で国連改革などを進めていくべきである。


仙谷 由人君(民主)

  • 国連の集団安全保障については、我が国は安保理の中で関与を強めるべきであり、そのためには憲法に明確な規定を置くことも躊躇すべきでない。
  • 我が国も米国も武力攻撃を受けているわけではなく、今回の自衛隊のイラク派遣を集団的自衛権の行使と結び付ける議論は法理上容認できない。
  • 集団的自衛権と国連による集団安全保障は、概念や要件が異なることを改めて確認すべきである。


中谷 元君(自民)

<仙谷委員に対して>

  • 自衛隊のイラク人道復興支援は武力行使に至るものではないので、集団的自衛権の発動ではない。
  • 国際貢献については、他国との協力において必要な部分と、集団的自衛権の行使として不可能な部分という二面性があり、今後とも議論を進めるべきである。

<武正委員に対して>

  • 国連が十分に機能しない状況では、現実的に安保条約に依存せざるを得ず、現状の国連に依存できるのか。
  • 現在では、日本は後方支援にとどまっているが、国連の集団安全保障活動であるならば全面的に平和回復等の活動ができるのか。

>武正公一君(民主)

  • 日本が中心となって、国連が機能するために不断の努力を行うべきである。
  • 国連による集団安全保障における我が国の活動としては、PKFへの参加も選択肢としてはあるが、現状ではPKOまでと考える。

>仙谷由人君(民主)

  • 私的な見解であるが、(集団安全保障活動一般は)法律論としては可能である。しかし、どこまで関与するのかは政策問題である。


渡海 紀三朗君(自民)

  • 集団的自衛権については、国際法上の用語であり、国家の問題であることを踏まえて、その定義を明らかにする必要がある。
  • 我が国が国際協調主義の中で何を行うべきかについて、当調査会で意見を集約すべきであり、現行憲法のままでよいのであれば国民がそれを確認し、不都合であれば国民の選択の下で新たな憲法をつくることも考えられる。


船田 元君(自民)

  • 9条の解釈によって自衛隊の行為等を拡大していくことには限界があり、憲法上自衛権を明記する必要がある。安全保障基本法なるものを憲法の下位法として制定し、そこに自衛権を明記することには無理がある。
  • 集団的自衛権の行使や国連の集団安全保障は、一定の条件の下に認められると考える。
  • 集団的自衛権の行使については、同盟国間や条約締結国に限るなど、あるいは地域に限定して、一部認めるということを考えてもよいのではないか。
  • アジアでの集団安全保障の枠組みについても議論できるようにすべきである。
  • 国連待機軍構想は、人材や費用の面で無駄である。また、それは、9条を変更することなく集団安全保障を認めることになるため、慎重に対応しなくてはならない。


土井 たか子君(社民)

  • 主権国家における自衛権の保有は否定できないが、その発動は各国の憲法に委ねられている。我が国において、自衛権の発動について規定しているのは9条である。
  • 集団的自衛権については、国連憲章の中でどのように取り上げ、問題とされているかを基本とすべきである。また国際的には認められるが行使しないとする歴代内閣の見解が存在する以上、勝手な解釈をすべきではなく、原点に戻って考えるべきである。

<近藤委員に対して>

  • 小委員長報告において「早急に合意形成を図る」と述べられたが、当調査会には議案提出権がないのにこのように報告したことに何か目標・目的があるのか。

>近藤基彦君(自民)

  • 当調査会において十分に議論をして、調査をした上で、可能なものについて合意を図ることは問題ないのではないか。深い意味はないとご理解いただきたい。

>土井たか子君(社民)

  • 小委員長報告について検討する努力をしていただきたい。


山口 富男君(共産)

  • 9条の法規範としての力は、過去の侵略戦争への反省、もう二度と繰り返したくないという国民的一致に由来している。また、9条や前文は、積極的な平和創造を求めているものであるから変える必要はないと考える。
  • 国連憲章発効以降の50数年間の歴史をみる時、集団的自衛権は、現実には、「攻撃権」・軍事同盟の根拠となってきた。軍事同盟に参加しないということが世界の主流となっている中で、これを認めることはできない。


小野 晋也君(自民)

<土井委員に対して>

  • 憲法に関する解釈が一定しないことが問題である。当調査会は、調査を行い、ある程度の方向付けを期待されているものと考える。各党が見解を述べるだけではなく、合意を図る努力をすべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 集団的自衛権について、首相の発言が研究の余地があるという方向から議論をすればいいという方向へと後退していることは残念である。ただ、解釈を変更して、直ちに集団的自衛権を認めるということには賛成できない。
  • 憲法改正に伴って集団的自衛権を認めるとしても、いわば「能動的集団的自衛権」と、「受動的集団的自衛権」に分けて考えるべきであり、後者は認められるが、前者は断じて認められない。


土井 たか子君(社民)

<小野委員に対して>

  • 当調査会において、わざわざ合意形成を図る必要はない。内閣憲法調査会の報告書が両論併記だったことは示唆に富む。その意味で、小野委員の意見は、奇異に感じた。

>小野晋也君(自民)

  • 当初からある目的のために、議論を強引に誘導するというわけではない。
  • 当調査会の議論も、国民の意識や国際情勢の変化等の中で、憲法がいかにあるべきかを議論し、でき得ることなら合意を形成して国家の進路を国民に示す努力をすべきである。


山花 郁夫君(民主)

  • 内閣法制局は、憲法の有権解釈において大きな地位を占めているが、議会のあるべき姿として、法規範については、内閣法制局ではなく、各議院がそれぞれに判断すべきであり、そのため、各議院法制局の強化を図るべきである。


棚橋 泰文君(自民)

  • 前提として、憲法改正によっても改正できないエッセンス部分と、改正できるものとを区別して議論すべきである。国際環境の変化の中で、9条の目指す平和主義において、何がそうしたエッセンスであるかの合意ができていないために、議論が錯綜している。
  • 集団的自衛権については、直ちに解釈や憲法改正により認めるべきであるとは考えないが、わが国がより良い国際貢献を行うため、集団的自衛権を認めることが必要であるか、虚心坦懐に議論すべきである。


土井 たか子君(社民)

<小野委員に対して>

  • 争点について、異なる意見を同じにすることは無理である。小委員長のご努力を待ちたい。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪法の下の平等(平等原則に関する重要問題〜1票の格差の問題、非嫡出子相続分等企業と人権に関する議論を含む)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

山花郁夫小委員長

  • 人権の領域では憲法改正の必要性は少ないという参考人の意見に対し、これを支持する意見がある一方で、プライバシーの保護等の「新しい権利」を憲法に明記することが必要であるとの意見も示された。
  • 憲法14条の「平等」の意味については、14条は「形式的平等」のみを要求しているとの意見が提起された一方、「実質的平等」までも保障していると捉えるべきではないかとの意見も出された。
  • 憲法の人権規定の私人間効力について、私人間にも憲法の趣旨が十分に及ぶような理論構成を引き続き議論していくべきであるとの意見が多く見られた。
  • 平等の理念は、自由の理念と並び、身分制社会を打破し、近代立憲主義を確立する推進力となったという歴史的意義を持ち、日本国憲法には人権の総則的な意味を持つ重要な原則として14条に規定されている。憲法制定以来、14条の精神が、国民の人権保障に果たした役割は大変大きく、これをより十分に活かし、時代の要請に応じていかなければならない。


●自由討議

平井 卓也君(自民)

  • 「法の下の平等」に関する問題は、14条のみならず13条の幸福追求権の切り口からもあわせて考えるべきであり、それにより多くの問題に対する解決の糸口が見つかるのではないか。
  • 平等原則という観点から少子化を考えた場合、非嫡出子の問題は重要である。子どもは自分の意思にかかわりなくこの世に生を受けることを考えれば、非嫡出子に対する差別は受け容れがたい。人間の生き方を深く考え、思いやる社会こそ、成熟した社会としての日本に求められていることであり、その方向性を13条は示している。これは、個人の尊重と家族との関係をどう規定していくかという点とも関連する。
  • 平等原則から少子化問題を考えた場合の企業と男女差別の問題については、憲法全体の趣旨や日本全体の方向性という視点から考えるべきである。男女ともに自律的な生き方を追求すること、この国を支える主体として積極的に国の行く末を考えることこそ、こうした問題の解決への道筋を示すものになるのではないか。
  • 21世紀の日本がどうあるべきかという国家の歩む道を、国民一人一人が見据えることこそ、未来の日本を託すべき子どもたちを育てていくことにつながり、これは14条とともに13条にも示されている。


古川 元久君(民主)

  • 憲法は民主主義を基本原則と定め、間接民主主義を採用しているが、法の下の平等の観点からみると、その正統化の前提である有権者の一票に格差が存在することは民主政治の過程を歪めている。にもかかわらず、なかなか抜本的な解決がなされていない。一票の格差を是正しうるシステムをどう構築していくかを考えなければならない。


船田 元君(自民)

  • 私は、参考人と同様、14条が保障するのは形式的平等であると考えるが、憲法の精神は、合理的範囲内で、実質的な平等を立法政策によって解決する努力を求めているものと考える。
  • アメリカでは、実質的平等を達成するためアファーマティブ・アクション等の措置が多く導入されているが、その行き過ぎによる逆差別といった問題に直面し、90年代以降その見直しが議論されている。私は、アファーマティブ・アクション等の導入の必要性は認めるが、その導入に際しては、整合性を考慮し限界を見極めることが重要であると考える。


山口 富男君(共産)

  • 人権条項について「憲法改正を主張するより現憲法下で諸施策を充実化させよ」という内野参考人の意見に賛成である。
  • 現行憲法は21世紀に活きる詳細な人権規定を有しているが、その背景には20世紀前半に人権規定を有していなかった反省と積極的に社会権を取り入れようとした時代の要請とそれに対する努力があったことを認識すべきである。
  • プライバシー権などは、既に13条に根拠を有しているのだから、憲法改正をする必要はなく、それを実現していく政策こそが大切である。
  • 3年前、ハンセン病熊本地裁判決は、国の強制隔離政策を否定し、これに対して立法府はきちんとした対応をすることを表明したが、その根拠となったのは13条である。現在、ハンセン病療養所入所者の介護問題等の深刻な問題が現実に突きつけられており、我々はこの3年間、13条の理念を実現すべく何をしてきたのかが現在問われている。


辻 惠君(民主)

  • 14条が保障するのは、形式的平等であるとの意見を支持する。
  • しかし、14条は「合理的差別は許している」という部分で問題は生ずる。例えば、非嫡出子法定相続分問題(民法900条4号ただし書)において、「合理的」かどうかを考えるとき、法律婚の尊重と基本的人権の尊重という衡量の場面において、基本的人権により高次の価値を見出すべきである。
  • 裁判所がこの民法900条4号ただし書を合憲としていることは、司法の消極的な態度を示すものであり、問題である。


山花 郁夫君(民主)

  • 形式的平等・実質的平等という概念は社会経済上の展開のことであり、解釈概念として絶対的平等・相対的平等という概念が重要である。相対的平等として妥当かどうかを考える上で、実質的平等の中身に結果の平等まで要求するのか、条件の平等に止めるのかを考えるのが解釈上妥当である。
  • 衆議院と参議院の選挙制度における憲法上の差異は「半数改選制」のみで、参議院の地域代表的性格は公選法上の問題である。憲法上は、衆議院・参議院ともに「全国民の代表」であるのだから、法律レベルの位置付けである参議院の地域代表的性格を根拠に衆議院と参議院の選挙で一票の格差についての相違を認める最高裁の判断には賛成できない。
  • 選挙における一票の格差を1対1に近づける責務が国会議員に課せられている。


山口 富男君(共産)

  • 我が国の婚外子に対する差別は、国際社会から強い批判を受けている。
  • 今回の小委員会の討議のために作られた事務局作成の資料は、参考人の学説に引っ張られたのではないか。


土井 たか子君(社民)

  • 国際水準から考えると、日本は先進国と言っても人権問題、特に女性差別問題についての取組みはかなり遅れており、「憲法改正を主張するより現憲法下で諸施策を充実化させよ」という内野参考人の意見にはまったく同感である。
  • 現憲法下での諸施策が、人権の充実化を実現する内容としては努力不足であるのに、たとえ改憲を問題にしても、現在の憲法よりも良い内容の憲法を創ることはできない。


古川 元久君(民主)

  • 衆参両院の役割にほとんど違いが見られない現状において、裁判所が、議員定数不均衡問題について衆参で異なる基準を設定していることには疑問を覚える。衆参で異なる基準を設けるのであれば、平等原則に反しないためにも、衆議院とは異なる参議院の役割を憲法に位置づけていくべきである。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪司法制度   特に、国民の司法参加、利用しやすい司法制度等の司法制度改革≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

木下 厚小委員長

  • 現行の違憲審査制の運用が消極的であり、活性化の必要があるとの認識から、現行憲法の下で抽象的違憲審査制を認めるべきとの見解や、憲法裁判所を設置すべきとの見解等が示された。また、いわゆる裁判員制度に対する考え方についても、司法の「非民主的な」性格、独立性、客観性等との関係、被告人の裁判を受ける権利の保障や我が国の社会的土壌との関係、制度を定着させるためにはいかなる措置が必要か等をめぐり、多様な見解が示された。
  • 法の支配の見地から、国民の権利の侵害に対して、実効的な救済が図られるような司法制度を整備することが政治の責務であること等にかんがみれば、引き続き総合的見地から議論を深める必要があると感じた。


●自由討議

岩永 峯一君(自民)

  • 裁判員制度は、合憲と解される。国民の司法参加が刑事裁判の現状を転換する起爆剤となり、司法制度改革を成功に導くためには、注意深く制度を構築し、国民の司法への参加意識を醸成する必要がある。
  • 三権分立、「法の支配」の理念の徹底、事後チェック型社会への転換などから、司法の行政に対するチェック機能を強化する必要があり、そのため、行政訴訟制度を見直すことが必要である。
  • 世界において知的財産権の保護が重大な課題となっており、知財高裁の創設等による知的財産権関係事件の専門的処理体制を抜本的な強化を見守りつつ適時適切に制度の改革を図る必要がある。


下村 博文君(自民)

  • 我が国は三権分立とされるが、司法の消極主義と行政の優位性、とりわけ行政訴訟においては訴訟要件が厳しいなどの問題があるため、行政訴訟制度をより利用しやすいものとする改正を行い、三権のバランスをとる必要がある。
  • 国民の司法参加は、我が国の開かれた司法制度改革にとって当然のことであり、裁判員制度は当然に合憲と解する。しかし、世論調査を見ると、十分な国民の理解が得られていない等の問題があり、裁判員制度が定着するような制度構築をすることが重要である。


古川 元久君(民主)

  • これまで司法府が消極的で、行政府が恣意的な裁量による法の運用を行うことが多かったが、法治国家を中身あるものとするためには、司法府がより大きな役割を積極的に果たすべきである。そのためには、裁判員制度を通じて国民が司法に参加し、司法が、一部の専門家のものではなく、国民から分かりやすく、信頼されるものとなる必要がある。
  • 裁判官がキャリア官僚のようになって法解釈を行うということが今後も続かないよう、法曹一元を図り、弁護士経験者の中から裁判官を選ぶなど、司法の民主化が必要である。


辻 惠君(民主)

  • 司法の持つ「非民主的な性格」の結果、行政訴訟では原告の勝訴率が低いなど、司法が行政をチェックできていない司法制度の現状があるが、国民の司法参加は、この司法の「非民主的な性格」に風穴を開けようとするものである。裁判員制度がその意味において機能するかが問われるべきである。
  • 国民の司法参加によりかえって国民の「裁判を受ける権利」が弱められるならば、裁判員制度は、市川参考人の言うように厳罰化のための「イチジクの葉」となるにすぎない。
  • 裁判員制度では、法曹三者が半年かけて準備手続ですべての争点を出すことも想定されているが、そうすると、2、3日の公開の法廷での証人尋問に国民が参加しても、国民の常識にかなう結論が出るかは疑問である。被告人の無罪推定の原則を崩すおそれがあるので、戦前の予審の復活とならぬよう慎重に議論すべきである。


山口 富男君(共産)

  • 司法制度改革の一つ目の眼目は、国民に開かれ、利用しやすい、実効的な救済が図られるような司法が望まれるということである。弁護士報酬の敗訴者負担制度については、国民を訴訟から遠ざけるものであり、反対である。
  • 二つ目の眼目は、国民主権原理が現実の裁判の過程の中で発揮される保障をどのように確保するかという問題である。それは結局、76条3項に定める裁判官の独立が基本となる。そうすると、違憲審査制の活性化が望まれ、また、法曹一元の実現の方向で検討が不可欠である。
  • 司法制度改革については、32条の裁判を受ける権利、6章の司法制度の両面から吟味すべきである。


渡海 紀三朗君(自民)

  • 三権分立の下、行政と司法が違う見解を持ったときにどう裁くかについて、特別裁判所としての行政裁判所を設けることも考えられる。その際、76条2項の問題もあるが、民意を反映した制度を担保することが必要である。


永岡 洋治君(自民)

  • 裁判員制度は一つの選択肢だが、司法の独立性、専門性、客観性と国民の司法参加との間にはかなりのギャップがある。また、世論調査では、裁判員制度の内容が十分国民に理解されていない。裁判員制度が国民に負担を課すものである以上、より議論を深めるべきである。
  • 米国と比べて、日本では司法と国民の距離が遠いと感じるので、社会になじんだ真に魂の入った制度となるかは疑問である。小、中学校から、国民の統治への参加意識、特に司法への参加意識を教育することが前提となる。


増子 輝彦君(民主)

  • 現在の最高裁判所裁判官の国民審査が、果たして効果をあげているかどうかについては疑問を感じており、関係規定は早急に削除して、新しい方法を考えるべきである。
  • 裁判員制度の導入について、国民の参加の観点からはあってしかるべきと考えるが、実際の制度が定着するには時間がかかるのではないかと考える。拙速を避けるためにも十分な時間をかけて憲法調査会でも議論していくべきである。