平成16年10月28日(木)(第3回)

◎ 会議に付した案件

日本国憲法に関する件(国民投票制度について)

上記の件について、委員間で自由討議を行った。


●各会派一巡目の発言の概要

保岡 興治君(自民)

  • 96条は、憲法改正を国民の代表機関である国会と憲法制定権者である国民との共同行為として位置付けており、議会制民主主義と直接民主主義とのバランスをとっている。このような直接民主主義を入れた制度は、79条の最高裁判所裁判官の国民審査制度にもみられる。
  • 憲法改正の国民投票法は最も重要な憲法附属法であり、本来、憲法制定と同時期に制定されるべきものであった。国民投票制度がないまま60年が過ぎたが、憲法改正が現実化してこなかったから法整備を行わなくてよいという理屈は、国民主権原理に対する冒涜である。
  • 両院に憲法調査会が設置されて4年半が経過し、改正論議が活性化してきた今日、国会における憲法改正案の審査機関や関連する法制度の整備を早急に行う必要がある。
  • 「国民投票法等に関する与党協議会」の実務者会議における諸外国の憲法改正国民投票の調査結果等を踏まえると、平成13年に「憲法調査推進議員連盟」がまとめた国民投票法案は、極めて妥当な線でまとめられている。
  • 国民投票法案を作成する際に検討すべき事項として、(a)「国政選挙」と「国民投票」とを同時に行うことの是非、(b)国政選挙と国民投票の投票権者の範囲、(c)対象となる改正案の趣旨・内容等の周知方法等がある。
  • 憲法は代議制を採用しており、直接民主主義的な制度は限定されている。この構造は維持されるべきであるが、地方自治の場面では、直接の利害関係者である住民の判断に委ねることが適切な事項も少なくない。特定の施策の効果を検証し政策決定の参考に資するような住民投票であれば、十分検討に値する。

田中 眞紀子君(民主)

  • 現行憲法における直接民主主義的な制度としては、(a)憲法改正に関する96条、(b)地方自治特別法に関する95条、(c)最高裁判所裁判官の国民審査に関する79条の三つがある。このうち、(a)(b)は積極的な側面のある国民表決(レファレンダム)であり、(c)は消極的な側面のある国民解職(リコール)である。
  • 国民投票の対象として脳死問題や死刑制度等さまざまな議論がされてきたが、国民投票制度には、(a)政策の一貫性が保持しにくいこと、(b)煽動的言動・論評が横行しやすいこと、(c)少数者の意見がないがしろにされやすいこと等のマイナス面があることも認識しなければならない。
  • ただ、科学技術の進歩や情報化社会の進展など、我々を取り巻く環境は変化してきており、このような現実に対応するためには、やはり議会制民主主義を補完する国民投票制度を導入すべきであると考える。
  • 国民投票のマイナス面を認識しつつ、民意を正確に担保するために、具体的な技術面を含め国民投票制度の実現を図ることが重要である。

太田 昭宏君(公明)

  • これからの憲法は、未来志向の憲法であるという観点から、「国民憲法」「人権憲法」「環境憲法」の方向で議論すべきであるとかねてから主張している。また、権利のみがあり義務が少ないという議論に対しては、「国家」対「個人」という現行憲法の構成を前提にした上で、「責任」の概念を議論すべきであると考える。そして、21世紀に意識すべきものとして、IT、ゲノム、環境、住民参加の4点があると考えており、前者三つは「新しい人権」の観点から語られている。4点目の住民参加については十分な議論がなされていないが、極めて重要であり、NPOやNGO、ボランティアなども含めた「共生」「共助」をどう作り上げるかという観点を含めて考えるべきである。
  • 96条2項の規定は、(a)現行憲法が優れたものであり国民の間に定着していること、(b)諸外国では、時代状況に合わせて憲法を補強する方式をとる国が少なくないこと、(c)同項の「この憲法と一体を成すものとして」と言う表現は、米国憲法のアメンドメント方式が基本になっていることから、公明党の主張する「加憲」は極めて現実的な方式である。
  • 96条1項については、国会での発議のための要件が厳しいという意見があるが、憲法改正の重みにかんがみれば妥当である。ただ、国民投票については、諸外国の制度及び事例を参考にして議論を深める必要がある。
  • 憲法改正案の内容をどのように国民に周知させるかという問題は、国会での発議の在り方と大きくかかわるものであり、これらの点を踏まえ、国会法改正を含む手続法制定の議論を行う必要がある。また、当調査会の後に設置が検討されている機関についても研究していく必要がある。

山口 富男君(共産)

  • レファレンダムは、主権者意思を直接に表現する民主主義の制度の一つであり、各国においても採用されているが、対象や発議者等の組合せによって多様であり、各国の歴史や政治状況を反映したものとなっている。日本国憲法は、代表民主制を基本としながら、96条、95条、79条の三つで直接民主制を規定し、両者によって国民主権を実質化している。
  • 憲法改定のための国民投票法の整備は、憲法改定の具体的な合意や要求のない現状においては課題にはなっておらず、憲法改定を政治日程に乗せることを目的とした国民投票法の制定は、国民の意思に反するものである。
  • 憲法施行当初、地方自治特別法は15件制定されるなど、95条は豊かな展開を見せていたが、1951年以降、例はない。これは、95条がないがしろにされた結果であり、1997年の駐留米軍用地特措法改正をはじめ、同条が適用されるべき多くの事例においても、適用されなかったためである。このことは、憲法学者からも同条の潜脱であるとして強く批判されてきた。
  • 地方自治体における条例に基づく住民投票の運動の広がりは、住民の意思・要求を地方の政治に反映するものとして大きな意義を持ち、共産党は住民投票法案大綱を提案している。また、国政レベルでも、住民投票の意義について光を当てることが極めて重要である。

土井 たか子君(社民)

  • 近代国家は、議会を通じて国民の意思を具体化する間接民主制を基本とし、一方で、住民投票など直接民主制の制度も有する。両者は二律背反のものではなく、互いに補完するものである。
  • 住民投票の根拠は条例であるが、条例は、憲法上、法律の範囲内で定めることとされており、憲法を活かして地方自治や住民自治を促進するのは法律であると言える。国会は、閣法ではなく議員立法によって、責任を持って法律を整備しなければならない。
  • 憲法改正のために国民投票が必要なのは、国民が主権者であり憲法制定権力を有しているからである。その前提として、改正を発議する国会が国民に信頼されていることが必要であるにもかかわらず、国会が国民の意思を反映せず、国民が国会を信頼しているとは言い難い現状では、国民投票を行う条件すら整っていないと言える。

●各会派一巡後の発言の概要

枝野 幸男君(民主)

  • 二大政党制やマニフェストによる政権選択が実現していくと、国民はマニフェストの一部に反対であっても、その政党を選ばざるを得ない事態が生じることが予想される。こうして発生する国会の多数派と国民の民意の「ずれ」を修復する手段として、国民投票制度を活用すべきである。
  • 少数者の人権については、直接民主主義的手法であっても侵害することができないように、憲法裁判所の設置等これを担保する仕組みを構築する必要がある。
  • 二大政党間で政権政党を選択するという国民意思と憲法を改正するという国民意思とは異なるものであるから、憲法改正の国民投票は国政選挙と同時に実施すべきではない。
  • 憲法改正の国民投票においては、国民間で広範な議論が行われることが重要であるため、公職選挙法のように厳しい規制をして、その活動が制限されることのないよう留意すべきである。

柴山 昌彦君(自民)

  • 条約や税制等の専門的な分野については、国会議員が継続的・組織的な検討等を加えることが必要であり、それらを欠く有権者に国民投票という手段で判断を委ねることは適切ではない。

<枝野委員の発言に関連して>

  • 各政党が公約を掲げて選挙を行い、それを国民が選択したという「重み」は無視できるものではなく、その「重み」を国民投票という手段で左右することができるのか疑問がある。

葉梨 康弘君(自民)

  • 憲法改正の国民投票は、明治憲法で天皇が有していた憲法制定権が日本国憲法で国民へと引き継がれ、それが制度化されたものである。
  • マニフェストは、哲学を持った政策体系であり、一つのパッケージとして政党間で争われるものであるとすれば、マニフェストに書かれた個々の政策について、国民投票に付することには反対である。
  • 各種世論調査によれば、6割の国民が憲法改正すべきだと考えている。そのような中で、憲法改正の手続を定めないのは国会の責任放棄である。国民投票制度を用意し、国民と議論をさらに深めることが大事である。

坂本 剛二君(自民)

  • 憲法改正の国民投票の結果に対し、投票無効訴訟の濫発などによって何年間も結果が確定しないというようなことのないように、きちんとした制度を確立しておく必要がある。

枝野 幸男君(民主)

<葉梨委員の発言に関連して>

  • 私もマニフェストが政策体系であることは認識しているが、マニフェストの中でも、理念・哲学と結びつく部分とその外周部といった濃淡は存在すると考える。本質から遠い部分については、再考の余地が生じることも稀にあり得ると思われ、そのような点に関して国民投票で意見を問うことがあってもよいのではないか。

<発言>

  • 国民投票を導入する場合、投票に付する案件を国会において自律的に判断することを前提として行うべきである。

保岡 興治君(自民)

  • 憲法改正の国民投票の公正な実施の確保のためのルールや瑕疵が生じた場合の取扱いは、憲法改正の国民投票法制定の重要なテーマであり、あらかじめ各党で議論を深めていくことが肝要である。
  • 現行憲法は国政レベルでの国民投票を限定している。したがって、諮問的な国民投票を導入する場合であっても、憲法の改正が必要である。

山花 郁夫君(民主)

  • 新たな国民投票制度を導入するのであれば、諮問的なものとし、かつ、国民に広く意見を聴いた方がよいと思われるテーマを対象とすべきである。
  • また、選挙後に新たに争点として浮上し、かつ、党派的な拘束になじまないテーマについても、国民投票で意見を問うことがあってもよい。

辻 惠君(民主)

<葉梨委員の発言に関連して>

  • 世論調査は断片的なものであり、また、問いの立て方によっても左右されるので、改正に6割の国民が賛成しているという結果が出たとしても、そのことから憲法を改正すべきという結論を導くことはできない。また、政治的にもいまの段階ではまだ議論が熟しているとはいえない。

<保岡委員の発言に関連して>

  • 「住民自治は強くならない方がよく、団体自治を強めるべきだ」などという意見に見られるように、自民党は、直接民主制的な制度の導入を恐れているのではないか。しかし、いま国民の価値観は多様化しており、さまざまな意見を政治に反映させるためにも、国民投票制度等の直接民主制的な制度の導入は検討されるべきである。

<発言>

  • 自民党では、前文に国柄について明記せよとか、義務規定を増設せよなどという議論がなされているようだが、それらは、立憲主義から外れたものではないか。

永岡 洋治君(自民)

  • 憲法の改正手続が現実的なものであるかどうかは、重要な問題である。日本国憲法の改正手続では、一院において3分の1の反対があればそれだけで発議できないことになっており、現実的ではない。
  • したがって、改正手続の改正についての議論を先行させるべきである。
  • 個人的には、憲法改正は、各院の総議員の3分の2以上の出席、かつ、過半数の賛成で国会がこれを発議し、国民投票による承認を得ればよいと考える。なお、国民投票のための法整備は、早急に行うべきである。

加藤 勝信君(自民)

  • 市町村合併の是非をめぐっては、住民投票で合併に反対の意見が多数を占めた後、それを受けて行われた首長の選挙で合併推進派の候補者が当選するという事態も生じている。このような場合は、首長の判断や選挙の公約が重視されるべきであり、そうしなければ無用な混乱を招くだけである。
  • 一般的な国民投票や住民投票を実施する場合は、問題となっている事項について十分な議論が尽くされた後で投票に付することで、初めて民意を問うことの意義が出てくると考える。
  • 憲法の改正手続については、早急に具体的な法整備を行うと同時に、その要件の緩和も必要であると考える。

大出 彰君(民主)

  • 我が国は間接民主制を中心に据えているが、国民主権である以上、できる限り国民の意思を国政に反映させていくべきである。そうした観点からは、諮問的な国民投票であれば成り立つのではないか。

葉梨 康弘君(自民)

<辻委員の発言に関連して>

  • 世論調査で憲法改正に6割が賛成というのは、もちろん、それが憲法改正についての総論的なものであることは承知しており、それを梃子にして改正しようと考えているわけではない。私が憲法改正の手続を具体化すべきと主張するのは、国会議員の責任として憲法改正の道筋を示すことで、憲法問題を国会と国民との間での議論すべきであると考えるからである。

<発言>

  • 憲法改正手続の改正を先行して行おうとする議論については、果たしてそのような議論が国民からの納得を得られるのか疑問である。

中川 正春君(民主)

  • 私は、選挙の都度、国民は自らの意思がきちんと政治に反映・集約されているのかについて疑念を持っているのではないかと痛感する。地方議会では総与党化が進み、また、国政選挙では二大政党化の中でシングル・イシューのみを争点として掲げる政党が登場する余地が失われており、これらが国民の政治に対するフラストレーションにつながっているのではないか。
  • したがって、間接民主制と二大政党制とを中心に据えつつ、それだけでは酌み取ることのできない民意を直接民主制の手法によって補完するという考え方を定着させていくべきである。
  • 住民投票については、住民投票法を制定することで一般的な住民投票制度の整備を進めさせ、地方議会の判断を尊重しつつ、住民投票を実施していくべきである。
  • 一般的な国民投票についても同様に法整備をすることで、国民の政治に対する新しい見方が生まれるものと考える。

渡海 紀三朗君(自民)

  • 憲法改正の国民投票法については、国会としてこれを制定することで国民に対する国会の義務を果たすべきである。
  • なお、改正手続それ自体については、国民投票法の制定とは次元の異なる話として議論していくべきである。

園田 康博君(民主)

  • 憲法改正の国民投票法が制定されていないこと自体は、国会が憲法に定められた役割を果たしていないということになり、「立法の不作為」である。
  • 92条の謳う地方自治の本旨とは、住民自治と団体自治との両側面を規定したものである。住民主権の延長に国民主権があると考える立場からは、中央集権から地方主権へという流れにとって、この92条は重要な規定である。住民投票はそのような中で実施されてきており、国民投票制度もその延長線上にあるものとして位置付けるべきである。

<永岡委員の発言に関連して>

  • 憲法改正手続を改正するという考え方には賛成できない。米国は我が国よりも厳しい憲法改正手続を有しているが、これまでに20件以上の改正を行っている。我が国で憲法改正が行われていないのは、これまで憲法についてのきちんとした議論がなされてこなかったことに原因があると考える。

土井 たか子君(社民)

<永岡委員の発言に関連して>

  • 憲法改正手続を改正すると言うが、いったいどのような方法で改正するというのか。国会議員には憲法尊重擁護義務が課せられているということについて、基本認識を持つべきである。
  • 96条の規定する内容やその意義について議論する必要はあるだろうが、改正手続を改正するという議論は、国民自らが定めた手続を否定することになり、自殺行為である。

山花 郁夫君(民主)

  • 法的拘束力のある国民投票制度を導入するのであれば、憲法改正が必要と考える。
  • 先ほどの発言は、憲法改正をしてまで法的拘束力を持つ国民投票制度を設けることについては消極的に考え、その意味において、国民投票制度を設けるとしても諮問的なものにとどまるのではないかという趣旨である。
  • 憲法調査会における国民投票制度の導入に積極的な意見は、憲法改正を前提としない諮問的国民投票制度を念頭に置いているのか、憲法改正まで前提として法的拘束力ある国民投票制度を念頭に置いているのか、やや不明確であり、この点を整理して議論することが必要である。
  • 本来、市町村合併などの重要なテーマについては、議会や行政が説明責任を尽くすべきであり、その責任を放棄して安易に住民投票にかけてしまう傾向は好ましくない。
  • 国民投票の活用の仕方として、例えば、生命倫理に係る問題のような個人の政治哲学に関わる問題について、諮問的な国民投票の結果を見て政党が党議拘束を外すといった効果が考えられるのではないか。
  • 国民投票制度の設計に当たっては、現行の選挙法制による規制をそのまま適用すべきではない。

田中 眞紀子君(民主)

  • 都合の悪い国民投票は行わず、都合のよい国民投票はどんどん行うであろうから、内閣を国民投票の発議者にはすべきではない。
  • 国民投票の発議者を誰にするかは重要な問題だが、参議院改革の一環として、参議院に発議権を与えるということもあり得る。
  • 市町村合併を住民投票にかける際、事前に住民に対してどれだけの説明がなされたのか、自治体がどれだけ将来の姿を真剣に考えた上で住民投票にかけているのか疑問である。憲法調査会を含む国会においても、このような問題について、原点に立ち戻って問題提起をしていかなければならない。

柴山 昌彦君(自民)

<土井委員の発言に関連して>

  • 仮に、先行して96条を改正するにしても、96条の手続にのっとって改正することは当然である。
  • 「96条先行改正論」の問題意識は、制定以来、解釈改憲の積み重ねによって運用されてきた憲法の現状を反省し、それならば、きちんと憲法を改正すべきであって、改正手続を現実的なものに改正すべきであるというところにある。
  • 憲法が最高法規であるからこそ制度化された憲法制定権力である国民投票が要求されているのであって、この国民投票を廃止することを主張しているのではない。例えば、国会による発議の要件を3分の2から2分の1に緩和することに憲法上の問題はないはずである。

<発言>

  • 国民投票のテーマについては、生命倫理に係る問題などが考えられるが、専門的・継続的な検討が必要である。また、外交・防衛に係る問題は、国民投票にはなじまない。

伊藤 公介君(自民)

  • 96条にいう「総議員」の意味、発議者が誰か、国民投票の「過半数」の意味など、憲法改正の手続を早急に明確にしておかなければならないことは、当然である。
  • 国民の意思をストレートに反映する方法としての首相公選制は、憲法改正の際、検討の重要課題とすべきである。
  • 産廃処理施設などの「迷惑施設」について住民投票をしても、まず反対が多数を占める。たとえ法的拘束力のない住民投票といっても住民の意思を無視することはできないのであって、廃棄物処理行政がストップすることになりかねない。住民投票制度は必要であるが、住民投票制度について議論するに当たっては、公共の利益と個人の権利の兼ね合いをよく考慮しなければならない。

赤松 正雄君(公明)

  • 憲法改正の国民投票法が制定されなかったことをいわば「立法の不作為」であるという意見があるが、これについては違和感を覚える。
  • すなわち、今まで、憲法改正が議論されるとき、すべてを改正するか又はすべてを改正しないかという議論だったため、改正手続に関する議論の余地があまりなかったのではないか。
  • 昨今の憲法改正の議論は、必要な部分を必要な限りにおいて改正するというものであり、そのような状況の下、ようやく憲法改正の手続論が議論されるようになってきたのであると理解しており、とするならば、「立法の不作為」とは言えないのではないか。

坂本 剛二君(自民)

  • 住民投票の現状を見るに、賛成派・反対派ともに戸別訪問を繰り返し、原発や産廃処理施設の賛成・反対等を訴えて回っている。このような住民投票と国民投票を同列に論ずることがあってはならないのであって、国民投票の対象は、憲法改正や最高裁判所裁判官の国民審査等重要なものに限定すべきであるし、また、国民投票の際の運動の制限なども厳格に行い、公正性を担保すべきである。

和田 隆志君(民主)

  • 今回この議題について有権者にメールで問うたところ、国民投票にぜひ臨んでみたいという意思はあるが、テーマは憲法改正よりももっと生活に密着したものの方がよいという意見が多かった。
  • 諸外国では、憲法改正のみならず法令・政策の判断のための国民投票制度を採用しているところもあるので、我が国でも、小選挙区制に基づく代議制及びその欠点を補完し、国民の意見を正確に汲み上げるために、そのような国民投票制度を採用してはどうか。その際、制度の濫用を防ぐための要件を設けると同時に、私案だが、国政選挙の際、政策や法令についても有権者の意見を問うことが考えられる。

保岡 興治君(自民)

<土井委員の発言に関連して>

  • 憲法尊重擁護義務と憲法改正に対する努力や提案は全く別の話である。

<発言>

  • 現行憲法の体系は、代議制を基本とした上で、その例外として憲法制定権者である国民が直接判断しなければならないものとして最高裁判所裁判官の国民審査制度と憲法改正規定を置いたものとなっている。これらについて、個別案件について国民投票制度の導入を考えるのであれば、憲法改正が必要になるのではないかも含め、慎重に議論していくべきである。
  • 憲法制定権者の意見を聴くという観点からも、あまりにも厳しい発議要件によって有名無実化している国民の憲法制定権を国民の手に取り戻すために、憲法改正の発議要件の緩和がなされるべきである。
  • 違憲審査制が働いていないという認識は調査会共通の認識になりつつあると考える。したがって、最高裁判所への抽象的審査権の付与や憲法裁判所の設置等違憲審査制についての改革を図るべきである。
  • 裁判所によって違憲の判断が示されたときに国会が対応できるように、各議院の総議員の3分の2という憲法改正の発議要件については、憲法保障という観点、憲法全体の制度設計の観点等から考えるべきである。

枝野 幸男君(民主)

<坂本委員の発言に関連して>

  • 住民投票の場合、狭い地域で、狭いテーマで行われるため、完全な選挙活動の自由が私生活の平穏を害する等の問題があり、一定の規制に服さざるを得ない。しかし、憲法改正の問題は、全国民を対象とした幅広いものであり、調査会で多くの参考人を呼んで議論したように、さまざまな意見に触れる機会がなければならない。メディア規制など公職選挙法のような規制がなされるべきではなく、国民の政治活動の自由は、広範に保障されるべきである。

<発言>

  • 硬性憲法であるべきか否かは一つの検討事項であるが、従来、憲法が改正されなかったのは、改正要件が厳しかったからではなく、憲法改正を肯定する国民の意見が過半数に達していなかったという歴史的背景を考えるべきである。国の基本法たる憲法改正をするには、国民的コンセンサスが必要であり、その確認として国民投票があるべきであるとすると、国会の発議要件の3分の2という数字にも一定の合理性があると言える。

土井 たか子君(社民)

<保岡委員の発言に関連して>

  • 国民は、憲法が完全に実施されていると考えているのか。憲法を変えるには、厳しい改正要件を超えても改正する必要があるという熱意や切実な気持ちが重要な条件となる。国民は、憲法の三原則の中心である9条の改正には少なからぬ危惧を抱いており、この条件は満たされておらず、国民の賛同を得られるとは思われない。
  • 99条の憲法尊重擁護義務は、三原則を変えるようなものは許されないという意味であり、憲法を現実に合わせるのではなく、現実を憲法に合わせていく必要がある。

柴山 昌彦君(自民)

  • 住民投票に関して、一定の重要なテーマについては採用することも合理性があるが、国家施策の基本に関わる問題や、住民の生活に密接に関わる事項であっても反対されることの多い「迷惑施設」建設の問題は住民投票になじまないと考える。住民投票は重要であるが、投票の結果を必ずしも遵守しなくてもよいようにするなど、住民投票の結果を唯一絶対のものとしないことが必要である。

保岡 興治君(自民)

<土井委員の発言に関連して>

  • 現行憲法の規定がすべて理想的に実現されているとは思っていない。一連の司法制度改革に努力しているように、日々憲法の理想に近づくように努力している。一方で、憲法が果たしてきた役割を高く評価するものの、過去60年の反省と将来を見据え、憲法の理念の充実・強化をなす努力もなされるべきである。
  • 調査会においてさまざまな意見があり、議論が深まってきた。護憲の立場からの意見も高く評価する。今後も、将来を思い、深く議論をなすよう努力していきたい。

<辻委員の発言に関連して>

  • 自民党は、地方において住民の声を聴くことや、党の憲法調査会の会議録をインターネットで公表するなど、来るべき憲法改正の国民投票に向け、国民からの意見を求め、また、国民への情報公開の努力を行っている。

土井 たか子君(社民)

  • 本来は、憲法の理念を実現していかなければならないのに、現在は逆に実態に合わせて憲法を変えようとしている。最近の有事法制等の制定を主権者である国民は不安に思っており、国会に対する国民の信頼を取り戻すために、憲法を誠実に履行することこそが求められている。
  • 硬性の96条の規定を軟性に変更することは、99条の憲法尊重擁護義務にも反する、いわば憲法の自殺行為である。