平成16年11月11日(木)(第1回憲法調査会公聴会)

日本国憲法に関する件について、公聴会を開き、公述人から意見を聴取した後、質疑を行った。

◎午前

(公述人)

 弁護士・気候ネットワーク代表      浅岡 美恵君

 社団法人日本医師会会長         植松 治雄君

 埼玉大学名誉教授            暉峻 淑子君

(質疑者)

 加藤 勝信君(自民)

 馬淵 澄夫君(民主)

 福島 豊君(公明)

 佐々木 憲昭君(共産)

 山本 喜代宏君(社民)


◎午後

(公述人)

 元内閣総理大臣        中曽根 康弘君

 元内閣総理大臣        宮澤 喜一君

 元滋賀県知事・元大蔵大臣   武村 正義君

(質疑者)

 枝野 幸男君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 山口 富男君(共産)

 土井 たか子君(社民)

 野田 毅君(自民)


◎公述人の意見の概要 (午前)

浅岡 美恵君

  • 憲法制定以降60年が経過し、かつて認識されてこなかった人権に関する新たな問題が発生してきたが、環境権や消費者の権利等については、13条などを根拠に新しい人権として判例や立法措置によって対応がなされてきた。ただ、消費者保護基本法において、消費者団体が権利主体として位置付けられていないなど不十分な点もある。
  • 97条は、当時の社会を反映して規定されたものであるが、現在、世界共通の認識として確立しており、日本国憲法には先見性がある。
  • 環境権など人権規定の付加とこれに矛盾する9条改正とを一括して憲法改正の国民投票に付することは、国民の選択の自由が妨げられることからも認められない。また、世論調査において、9条の改正に反対の意見が多いことからも、国会における政治的妥協などによって憲法が歪められることがあってはならない。
  • 環境権の実現は憲法改正ではなく、具体的立法あるいは行政措置により行うべきである。仮に憲法で規定をしたとしても抽象的にならざるを得ず、かえって立法府や行政府の裁量を拡大する懸念がある。
  • 環境基本法等で充実させるべき事項としては以下のとおりである。

    a.環境基本法に環境権を明記し、景観法等個々の法律で権利の内容を明確にすること。

    b.生態系や景観の保全のための差止請求権を認めること。

    c.環境政策に対する透明性を確保し、市民参加を充実させるために、情報公開法以外の個別法においても情報開示請求権を認めること。

    d.環境団体に差止請求や情報開示請求を認めること。

  • 9条の政府解釈によれば、自衛のための武力行使をなし得るとされる以上、侵略的行為を意図しない限り、改正を必要としない。また、国際協力のために9条を改正すべきとの意見に対しては、自衛の限度を超えて武力行使を認め、あるいは侵略行為と隣り合わせになり危険である。他の人権と同様、環境権も戦争により非常に影響を受けることからも、9条は維持すべきである。
  • 平和主義は、前文等に明示された現行憲法の根幹的な部分であり、意義深いものであり、これに改変を加えることは憲法改正の限界を超える。


植松 治雄君

  • 戦後、国民が戦争の惨禍に遭わなかったのは平和憲法があったからである。その一方で、近年、自殺の増加や医療事故など生命を脅かす要因が増加している。
  • 13条に表されるように個人の自由な意思が尊重される一方で、過度に個を尊重することによる弊害が生まれている社会状況の中で、生命尊重の思想を憲法の根底に置くべきである。
  • 25条の生存権を担保する医療へのアクセスを保障するために、国民皆保険制度は今後とも堅持すべきである。また、不法滞在の外国人の医療について、憲法上の人権としてどこまで保障するのかを検討する必要があるが、基本的には国民と同様の医療を受けられるようにすべきである。
  • 医療従事者の労働条件を改善し、医療事故のない安全な環境を整備すること等は、国民の生存権を裏から支えるものである。
  • 患者の人権について、インフォームド・コンセントの浸透など医療現場での人権意識は高まっているが、なおも精神医療の現場における人権侵害や個人情報の流出などの問題が生じている。人権に対する教育が必要であるが、生命への畏敬の念を憲法又は法律で宣言することも考えられる。
  • 命の問題は公の秩序に関することであり、終末医療における自己決定を無限定に拡大すべきではない。したがって、積極的な安楽死や自殺の幇助は否定されるべきであり、尊厳死は厳格な要件の下にのみ認められるものと考える。
  • ヒトゲノムの解析等科学の進歩は、新たな差別を生じさせるおそれがあり、初等教育の段階から人の多様性を認めるといった教育を行う必要がある。
  • 人命を尊重し、他者との違いを認め合うことが世界平和につながる。医療従事者の立場から、武力行使には反対であり、イラク戦争の即時終結を求める。また、有事における医療協力は、武力行使に加担することにつながり、反対である。
  • 現行憲法の改正について、第一に現行憲法の枠内での可能な限りの公正な解釈を目指すべきである。その上で、現行憲法の解釈だけでは社会の実態に適合しない場合にはじめて、憲法の部分的な修正を積極的に考えるべきである。また、生命・人体の尊厳といった包括的な概念を憲法に明記することも検討すべきである。


暉峻 淑子君

  • 人権保障、福祉、環境の保護等が不十分ながらも達成されてきたのは、平和憲法があったからであり、人権保障と9条は一体をなすものである。こうした考えに対しては、一国平和主義との批判があるが、北欧諸国のように国民の人権保障レベルが高い国ほど、国際紛争解決や外交の能力は高い。自国の平和と人権を守れる国こそ、他国への貢献ができる。
  • 政府は、国民の自立を援助すべきであるが、競争をあおり、その結果、失業者やホームレスの増大、フリーターと正規雇用者との賃金格差の増大等が生じ、社会の格差が広がっている。また、教育では、人格の全体的発達が目指されるべきであるにもかかわらず、市場原理に基づく過度の競争が持ち込まれ、序列化が進み、考える力が育っていない。また、子どもの人格を抑え込むような管理主義的道徳教育が行われている。
  • 24条で両性の本質的平等が定められ、女子差別撤廃条約の成立、男女雇用機会均等法の制定等がなされるなど、女子差別撤廃は国際的流れである。自民党憲法改正プロジェクトチームの「論点整理」は、家族や共同体の価値を重視する観点から24条を見直すべきであるとしているが、家族は、本来、自立した人間の愛情と信頼に基づくものであり、同「論点整理」の方向性は、差別撤廃の流れに反し、時代錯誤である。
  • 「公共の福祉」とは、個人の福祉の増大のためのものである。同「論点整理」は、これを「公共の利益」に改めるとしているが、「利益」は、短期的なものとなりがちであり、権力に都合よく解釈されるおそれがある。
  • 9条は空洞化しておらず、我が国が米国とともに世界の至るところで戦争することを阻止している。力によって解決しようとする「軍事文化」は、情報を隠そうとし、競争による弱肉強食へとつながっている。他方、「人権文化」は、情報公開、対話、政治への参加を進めるものであって、9条はその結実である。
  • 戦争と差別は表裏一体である。また、9条が改正されると、自衛隊に対するシビリアン・コントロールが失われるという危惧がある。


加藤 勝信君(自民)

<植松公述人に対して>

  • 医療の現場における経験を踏まえ、30〜40年前と今日の患者の死生観に変化があるかについて伺いたい。
  • 核家族化が進むことにより死の実感が希薄化していることから、教育を通じて生をとらえ直すことが大事である。生について考えることは、宗教心にもつながると考えるが、医療と宗教との関係について見解を伺いたい。
  • 25条の生存権規定を受けて、医療保険をはじめとする社会保障制度が創設されていると考える。25条は、医療にどのような対応を求めていると考えるか。
  • 社会が豊かになったことを反映して、医療に求められるニーズが多様化してきている昨今、医療は、国民の権利や国の義務に対応する医療と、ニーズの多様化に対応する医療とに分かれてくるのではないかと考えるが、この点について見解を伺いたい。
  • 科学技術の進展による遺伝子操作などの医療技術と生命・人体の尊厳との関係をどのように調整すべきかについて、見解を伺いたい。

<浅岡公述人に対して>

  • 環境権は、自由な経済活動を公共の福祉の観点から制限するものであり、他の人権と違い、公共的な利益の側面を持つ。こうした違いがあることも考慮して、憲法に環境権を規定してもよいのではないかと考えるが、規定を設ける場合、どのような形で盛り込むべきと考えるか。
  • 公述人は、環境権規定を憲法に設けることと9条の改正について、一括して国民投票に付することに反対しているが、これは、逐条的に国民投票を行うべきとする趣旨なのか、あるいは、9条と環境権とが矛盾するために反対であるのか。
  • 憲法改正の要件が厳しいことが改正論議を困難にし、憲法と国民の距離を離れたものにしている。憲法改正を容易にして憲法に国民の声を反映しやすくすることにより、憲法が国民にとって身近になるのではないかと考えるが、そうした観点を踏まえて、改正要件や国民投票の仕組みについて、見解を伺いたい。

<暉峻公述人に対して>

  • コソボ紛争について、報道によりつくられたイメージと、NGOの活動を通じて知った現地の状況との違いについて、見解を伺いたい。


馬淵 澄夫君(民主)

<全公述人に対して>

  • 社会権は一義的には日本国民に対して保障され、財政上の余裕があれば外国人にも保障する立法が可能であるとの学説がある。しかし、外国人と共生する社会を考えたとき、日本人だけを念頭に置いた現行の諸制度は制度疲労に陥っていると考える。医療、教育、雇用等の分野における外国人の社会権、市民権の保障の在り方についてどのように考えるか。

<植松公述人に対して>

  • 日本に不法滞在する外国人に対して、生存権を根拠にどこまで医療行為を行うべきであると考えるか。

<全公述人に対して>

  • 憲法は、子どもについて26条、27条に規定するのみで、その権利についての記述はない。日本も批准している「子どもの権利条約」では、子どもを権利主体として位置付けているが、他方で、子どもを十分な責任能力を持たない保護客体として扱うべきとの議論もある。この点についてどのように考えるか。

<暉峻公述人に対して>

  • 保護客体としての子どもの権利について、我が国と途上国とを同一に論じることはできないと公述人は主張するが、子どもが、虐待などにより逆に主体としての権利を侵害されるという事件が多い。この点について、どのような観点から取り組むべきと考えるか。

<植松公述人に対して>

  • 中絶胎児の取扱いについて、生命倫理や一般感情からすると、12週以前ならば廃棄物として取扱う現状には違和感を持つが、いかがか。また、痴呆症になっても基本的人権を享受すべきであり、成年後見制度も含め、その人の自己決定権をどう補完していくべきかが問題となると考えるが、医師としてどのように考えるか。

<暉峻公述人に対して>

  • 先日のイラクの人質事件は不幸な事件としてショックを受けた。その際、退避勧告は法的拘束力を持たないため、罰則を科すことも含めた規制をすべきであるという意見もあったが、憲法の保障する海外渡航の自由を制限することについてどう考えるか。


福島 豊君(公明)

<植松公述人に対して>

  • 医療・社会保障については、25条の生存権に基づく医療へのアクセスの自由が保障されている。いま混合診療が議論となっているが、これを一旦認めると医療保険の財政は危機的状況になり、その結果、国民の高額な自己負担が定着し、裕福な人しか医療にアクセスできなくなるため、将来的には重大な禍根を残すことになると考えるが、いかがか。
  • 我が国において、憲法に生命倫理を規定するとした場合、どのような規定を盛り込むべきと考えるか。
  • 生殖医療について、産科学会のコンセンサスに反して、なし崩し的に診断や治療がなされている。専門家の間に倫理を確立しなければならないと考えるが、医師会での議論はどうなっているのか。
  • 25条は生存権を規定するが、国家財政が悪化する中で、社会保障を一律に抑制すべきとの議論もある。国家財政の破綻を防ぎ、安定させることはもちろん大事だが、国民の生存に関わる社会保障について、財政の観点からのみ議論するのは問題と考える。この点、社会保障制度の在り方についてどのように考えるか。


佐々木 憲昭君(共産)

<暉峻公述人に対して>

  • イラク戦争について、ブッシュ大統領は、イラクに自由と民主主義をもたらしたと述べたが、外国軍の武力により自由と民主主義がもたらされることがあり得るのか。また、9条と国際貢献との関係について、どのように考えるか。

<植松公述人に対して>

  • 日本医師会は、小泉内閣が進める三位一体改革に対して、国の責任を放棄するものであるとして反対する抗議文を出していると聞いたが、その趣旨を伺いたい。
  • 日歯連事件に見るように、公益法人の活動と政治団体の活動の在り方が問題になっており、寄付の受入れ等に関して両者を峻別すべきであるとする厚生労働省の通達も出され、日本医師会等についても厚生労働省の調査において不適切と指摘される事項があるようである。どのような団体に所属し、どこに献金するかについては、構成員たる個人の思想信条の自由が保障されなければならないと考えるが、現状認識とあるべき改革の方向について伺いたい。

<浅岡公述人に対して>

  • 憲法上に義務規定をさらに盛り込むことについては、そもそも憲法は国民の基本的人権を保障し、国家の権力行使を規制するものであるという近代立憲主義思想を後退させるものであり、適当でないと考えるが、いかがか。


山本 喜代宏君(社民)

<浅岡公述人及び暉峻公述人に対して>

  • 新しい人権の追加は、国民の憲法改正に対する抵抗感を薄めるという意味で、9条改正の呼び水に使われることを危惧している。環境権については、現行憲法上も認められるという公述人の意見を詳しく伺いたい。

<植松公述人に対して>

  • 医療保険制度における自己負担割合が3割とされたことや、過疎地の医療提供体制が十分でないといった問題があるが、25条の理念を医療の分野において、どのように活かしていくべきと考えるか。

<暉峻公述人に対して>

  • 9条に対して一国平和主義との批判もなされているが、9条は、積極的平和外交を義務付けているものであるから、世界平和に貢献し、自衛隊によらない国際貢献の可能性を開くものと考えるが、いかがか。

◎公述人の意見の概要 (午後)

中曽根 康弘君

  • 現憲法を全面的に点検し、必要な改革をなすべきである。
  • 以下のような憲法改正案を提唱したい。

    a.前文に、過去を踏まえ、未来の日本国家全体の理想像を謳う。

    b.天皇の地位は、「国民主権下の象徴的元首」とする。

    c.9条について、1項は現状のままとし、2項に平和の理念を尊重する自衛のための防衛軍、3項に安全保障基本法の定めるところによる武力行使を含めた国際的協力活動への参加、4項に防衛軍に対する内閣総理大臣及び国会による文民統制を規定する。

    d.国民の権利及び義務について、人格、環境、私的活動、学術的創造活動の自由、国の平和と独立を守る責任等を新たに規定する。

    e.国会について、参議院による行政・司法の人事権の専有、両院による内閣総理大臣・同副総理大臣に対する弾劾権等を規定する。その上で、行政について、首相公選制を規定し、行政権の内閣総理大臣への帰属等を規定すべきである。公選された首相と天皇との関係については、歴史的・伝統的地位を有する天皇と、事務的・機能的な統合力を保持する内閣総理大臣として、両者は区別される。また、法案等を国民投票に付託できる規定を設けるべきである。

    f.裁判所について、最高裁判所よりも上位の性格と機能を持つ憲法裁判所を設け、その際、両者の構成に違いを持たせるべきである。

    g.財政について、健全財政主義を貫徹する規定を置く。

    h.地方自治について、「地方自治の本旨」というあいまいな規定を改める。

    i.憲法改正手続について、国会の発議要件を過半数とし、国民投票を義務付ける。

  • 第1回の憲法改正としては、総議員の3分の2という国会の発議要件を獲得できるような妥協案も必要である。
  • 憲法が占領下に制定されたという異常性と9・11以降の国際情勢の変化、現行憲法の欠陥の露呈等により、現在、21世紀の国家像を示すため、憲法改正を求める気運が高まってきており、国家的課題として国会議員がその責任を果たすことが期待されている。

宮澤 喜一君

  • 私は、敗戦後の諸問題に対する内閣の取組を、大蔵大臣秘書官をしていた頃から見てきたが、成立した日本国憲法は、占領軍の主導によりつくられたことは明らかであった。
  • しかし、今考えてみると、憲法が手続的には問題なく制定されたとはいえ、もし独立回復後にもう一度、民意を問う機会を設けていれば、憲法が占領下において定められたという批判を免れることができたかもしれない。そして、結果は、おそらく同じ内容のものが当時の国民の大多数の賛成を得られたであろう。
  • 当時、私は日本国憲法を翻訳調の不思議な日本語で書かれた憲法であると感じていたが、公布されてから50数年を経て、憲法の言葉が普通の言葉となっていった。そして、憲法の言葉を自分の言葉として多くの国民が育ち、言葉だけではなく、実は日本自身も変わったのである。国と憲法とが相互に影響しながら、今日の我が国があり、今日の憲法があると感じている。
  • 過去50数年を振り返ってみると、憲法の解釈と運用についての最高裁の役割は高く評価することができる。
  • 日本国憲法は公布以来、その務めをよく果たしてきた。我が国は、この憲法があったおかげで発展できた。
  • 私は、日本国憲法は柔軟に書かれており、その運用によって対処できるという立場をとっている。ただし、事態によっては憲法を変えざるを得ないという場面もあるかもしれず、その場合には国民の判断を待つべきである。

武村 正義君

  • 憲法は、政治・経済・社会にすっかり定着し、この憲法があったからこそ、ここ60年間の日本があった。その意味で、現行憲法を素直に評価すべきである。特に、国民主権、基本的人権の尊重、戦争放棄の平和理念の三原則を否定する論拠は見当たらない。私は、憲法調査会の論点整理として、三原則の堅持を国民に向かって表明してほしい。
  • 安全保障については、時代に流されず腰を据えて議論してほしい。9条は国連憲章の精神を我が国が世界に先駆けて憲法に盛り込んだものであり、これこそが日本の顔であり、世界に示した旗であることから、軽々しく変えるべきではない。
  • 自衛力の明文化の是非については、今後の国民的議論に委ねたい。ただ、明文化するにしても、専守防衛、文民統制、非核の考え方を明確にし、最小限の自衛力の保持に限定すべきである。
  • 国際的な集団安全保障への参加については、憲法前文の国際協調の理念を具体化するものであり、妥当な結論が得られることを望む。ただ、この場合でも武力行使は避けるべきである。
  • 自然を尊び、自然との調和の中で生きるという日本人の優れた伝統を前文において「環境主義」の理念として謳うべきである。私は、「環境主義」を「象徴天皇制」と並ぶナショナル・アイデンティティとして、新しい憲法に期待する。
  • その上で、本則においても「環境への責任」という章をおこすべきである。これは、国民に健全な環境を保障する国の責務を謳うと共に国民一人ひとりの環境に対する責任を明らかにするものである。
  • 日本の非軍事的な国際貢献として、地球環境への積極的な関与を明らかにする「環境安全保障」を世界に先駆けて明示すべきである。「環境安全保障」と「平和主義」は、日本の顔として明らかにしてほしい。
  • 今日、財政民主主義が崩壊しつつある。限度を超えた債務に歯止めをかけ、収支を多年度にわたり継続的に均衡させる健全財政運営への責任と財政民主主義の原則を明文化することを提案したい。

◎公述人に対する質疑の概要(午後)

枝野 幸男君(民主)

<武村公述人に対して>

  • 滋賀県知事等を歴任された経験から、地方自治についての見解を伺いたい。
  • 昨今、財政民主主義が壊れつつあるのではないかとのことであったが、具体的には、どのような点について財政に問題があると捉えているのか。

<宮澤公述人に対して>

  • 大蔵大臣や財務大臣等を歴任された経験から、財政の在り方についての所見を伺いたい。
  • 憲法改正の必要性の有無については明確な発言がなかったが、どのように考えるか。また、憲法制定以来60年近くを経過した今日において、現在のままでは対応しきれない状況が現出していると考えるか。もし、現出しているとした場合、どのように対処すべきと考えるか。
  • できるならば憲法を改正せずにいきたいという気持ちには、どのような背景があるのか。

<中曽根公述人に対して>

  • 制定以来今日に至るまで憲法が改正されてこなかった理由は、何であったと考えるか。

赤松 正雄君(公明)

<中曽根公述人に対して>

  • 公述人は、21世紀の日本の国家観を示す平成憲法がつくられるであろうと指摘したが、戦前までの日本の国家観を皇国史観、戦後の国家観を東京裁判史観と整理したとき、これからの日本の国家観はどのようにあるべきと考えるか。

<宮澤公述人に対して>

  • 以前、朝日新聞から出版された中曽根・宮澤両公述人の対談において公述人は、憲法を変えるための国民的なエネルギーを思うと、そのための努力はあまり有益ではないと述べているが、この考えに現在も変わりはないか。
  • これからの日本の国家観として、文化・教育など人間力を高める史観が必要であり、たとえ国民的エネルギーを費やしてでも、この史観に基づき、加憲という手法を使って憲法改正を行うべきであると考えるが、この「加憲」についてどのように考えるか。

<武村公述人に対して>

  • 集団的自衛権の行使について、どのように考えるか。

山口 富男君(共産)

<中曽根公述人に対して>

  • 公述人は、全面的な改憲を提案し、9条については、自衛のための防衛軍の規定や国際協力の名の下に一定条件下での武力行使を可能とする規定等を設けるとしているが、(a)現行憲法においても集団的自衛権の行使は可能であるとの立場の公述人が9条改定を主張する理由、(b)公述人の提案する憲法改定が実現した場合、イラク戦争時の英国のように、米軍とともに武力行使を実施することが可能と考えているのか、について伺いたい。
  • 公述人は、前文に日本の国家像を示すべきであると述べたが、それは、国民の権利や自由を守るために国民が政治権力に対し縛りをかけるという近代立憲主義の憲法の考え方を思い描いた上でのことか。

<宮澤公述人に対して>

  • 公述人は、現行憲法は柔軟に書かれており、時代の変化に対応できる力を持つと述べたが、現行憲法がこのような力を持っていると考える理由は何か。また、現行憲法は21世紀においても生きる力を持っていると考えるか。
  • 9条には、自衛隊は海外に派遣しない、武力行使を行わないという越えられない一線があると考える。公述人は、憲法は激変する国際環境や国内の中で、その務めを全うしてきたと述べたが、それは9条についてもそのように評価できると考えるか。

<武村公述人に対して>

  • 公述人は、9条は国連憲章の精神を初めて日本で具体化したものであり、日本の顔・旗であって軽々に変えるべきではないと述べたが、現状においても9条は遵守されていると考えるか。
  • 9条が今後も日本の顔・旗であり続けるためには、政治家や日本国民はどのような努力をなすべきか。

土井 たか子君(社民)

<中曽根公述人に対して>

  • 公述人は、戦後まもなくの国会で、当時の吉田茂首相に対して、永世中立化に疑義ありとした吉田首相の発言は、憲法制定当時の国民の総意に反し、無責任もはなはだしいと非難している。当時の公述人の主張は、日本は中立国を目指すべきだという立場だったのか。
  • 公述人は、かつて、衆議院本会議における私の質問に対して、「国際関係においては、国際的に通用する常識あるいは通念によって政策を行うのが正しい」「日本がアジアから孤立しないよう国益全般を考え、また、日本は民主主義に応ずる正しい反省力もあることを国際的に示すべきである」などと答弁を行ったが、この見解は現在も変わりはないか。

<武村公述人に対して>

  • 現在、社会の大転換が起こっているから、これに対応するために改憲が必要だという意見がある。しかし、今日そのようなことが起こっているかどうかは疑問であると考えるが、いかがか。

<中曽根公述人及び宮澤公述人に対して>

  • 改憲論は、初期には、憲法が米国の強要によってつくられたからであるとの論調が多かった。しかし、最近では、米国の対外政策に対応するために改憲すべきだという論調が多いが、これは、米国への従属的立場を是認するものであり、初期の改憲論とのつじつまが合わないのではないか。

野田 毅君(自民)

<中曽根公述人に対して>

  • 憲法改正の発議には各院の総議員の3分の2以上の賛成を要することから、与野党が対立した状態のままでは改正の発議は不可能である。したがって、憲法改正のためには大連立を組む等の必要があると考えるが、この点について、具体的な考えを伺いたい。

<宮澤公述人に対して>

  • 公述人は、憲法の解釈運用によって柔軟に対応すべきであるとのことであったが、そのような対応を続けていては、憲法の規定と実際の運用との間の遊離が拡大し、ひいては憲法そのものが規範性を失いかねない。やはり、何らかの歯止めを設けることが必要と考えるが、いかがか。