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平成十二年十一月三十日提出
質問第六二号

諫早湾干拓水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策および農地造成に関する質問主意書

提出者  小沢和秋




諫早湾干拓水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策および農地造成に関する質問主意書


 十月十三日に「諫早湾水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策に関する質問主意書」を提出し、十一月十四日に答弁書を受領した。しかし、以下に述べるとおり、事実に則していないきわめて不十分な答弁といわざるをえない。
 よって、次の事項について再度質問する。

一 答弁書別表一で主要魚介類の推移を示しているが、これでは有明海全体の魚介類の推移はつかめない。質問主意書で例にあげたにもかかわらず、アゲマキ、シタビラメ、コノシロ等の推移が示されていないし、有明海では他にもボラ、アナゴ等数多くの種類の魚介類の水揚げがある。しかし、同表ではわずかに七項目が示されているにすぎない。また、統計年も一九九八年(平成十年)で終わっているし、漁獲量も有明海沿岸四県の合計を示したものと思われる。しかし、これでは試験堤防着工以後ここ十数年間の水揚げ高の変動はもちろん、諫早湾干拓潮受堤防閉め切り後の劇的変化は全く明らかになっていない。あくまでも漁獲量に著しい変化がみられないというのであれば、実態を正確に示した資料に基づいて答弁すべきである。漁獲量は政府にその気があれば直近の月まで把握できる。最新の資料を含め、過去十五年間の有明海の県別、漁協別の主要十五種以上の漁獲量の推移を示した上で、漁獲量の変化についてどう認識しているか明確に答えられたい。
二 調整池の水質を検討する「諫早湾干拓調整池等水質委員会」(農水省九州農政局設置)が十一月十六日に福岡市で開かれ、事業完成時点での「水質再予測」を今年度中に行うとのことだが、水質汚染は漁業被害という目に見える形で現実に進んでいるのであり、完成時点などといっている場合ではない。長崎県小長井漁協での一時は年間約五億円もあったタイラギの水揚げは皆無で、アサリも全滅に近い。佐賀県大浦漁協のタイラギの水揚げも一九九五年に約二〇〇トンあったものが昨年は皆無である。廃業してしまった漁家もある。干拓事業に際して諫早とその周辺漁協はわずかな補償金しか受け取っていない。第三者による水質調査、底質調査等漁業への影響を解明する調査を行い結果を明らかにすることと、被害状況を反映させた補償を改めて行うのが当然ではないか。
三 「国営土地改良事業等再評価実施要領」に基づく再評価の際、意見聴取を行う関係団体の範囲に長崎県以外の有明海沿岸各県や漁協等を含める考えはないとのことだが、事業の影響は土地だけでなく水質にも現れている。潮流は県境には関係なく循環しており、水産被害は諫早湾を越えて広範囲に広がっている。土地改良法に固執して逃げるのではなく、影響を受ける関係者すべての意見を聴取するのが行政の当然の責務ではないか。
四 周辺漁協からの求めにより、潮受堤防排水門の開閉操作をほぼ毎日行うようになった。これは調整池内の水質が予想外に悪化したため、頻繁に排水せざるをえなくなったとしか考えられない。このこと自体が、調整池の水質が良好に保たれているという宣伝が破綻したことを示すものではないか。
五 干拓事業が防災機能を高めるともされてきた。しかし、昨年七月に起こった集中豪雨の際には死者一名、多数の床下・床上浸水の被害が出て、諫早市内の九割の世帯に避難勧告が出された。その後、建設省があわてて既設堤防側のクリークの大幅拡張としゅんせつ工事を行い、本明川ダム建設工事も計画されている。このことも、調整池をつくれば諫早市の水害はなくなるという宣伝が破綻していることの証明ではないか。
六 干拓事業によってかんがい用水が確保された優良農地が造成されるというが、かんがい用水は具体的にどのような方法で確保されるのか。汚染された調整池の水では耕作に利用できないと考えられるがどうか。
七 調整池の絶対高はマイナス一メートル、農地の最低位の絶対高はマイナス三メートルだが、このような土地でなぜ塩害が起こらないのか。今後も地下への海水の浸透が続くことは避けられないと考えられる。また、実証栽培を行ったのはまだ小江干拓地だけで、ここは干陸でない埋め立て地である。埋め立て地だけの実証結果で、干陸による干拓地域で塩害が起こらないという保障はどこにあるのか、明らかにされたい。
八 干拓事業によってつくり出される耕作地(畑)は、計画では千三百二十六ヘクタールになっている。一方、農水省の統計資料によると一九八九年から一九九九年までの十年間に、長崎県内で消失した畑の面積は二千九百ヘクタール(一九八九年の二万八千二百ヘクタールが、一九九九年に二万五千三百ヘクタール)である。この変化の理由についてどう認識し、今後どう推移していくと考えているか。これ以上新たに耕作地を造成しなくても、今ある耕作地の消失に歯止めをかけることが現実的かつ有効で、焦眉の課題と考えられるがどうか。
九 干拓が完成した後の土地価格は、十アール当たり七十万円と提示されている。夫婦の労働力が主体の農家一戸で仮に十ヘクタールを耕作するとして、この価格で購入すれば七千万円となる。農水省の統計調査によると、長崎県の一九九九年の農家一戸当たりの所得は四百七十三万五千円である(農業百三万五千円、農業外三百七十万円)。全国統計でも、五ヘクタール以上の露地野菜農家の同年度の平均耕作地面積は約十三ヘクタール、平均農業所得は十アール当たり約十万四千円、一戸当たり平均所得は約八百五十三万円である。「諫早湾干拓営農構想検討委員会」で示されたモデルでは、バレイショ・タマネギ・ニンジンの組み合わせで、農業所得は年間三千三百万円が示されている。全国平均から考えても、現在の農作物の生産者価格の暴落も勘案すれば、このモデルはとても現実的なものとは考えられない。ここに入植しても農業経営は全く成り立たないのではないか。
十 いったいどれだけの人が、新しい造成地で営農しようとしているのか。その正確な動向を把握して干拓事業を進めているのか。来年度に諫早周辺の農家に対し、アンケート・面接を行って営農の動向を調べるというが、結果としてどのくらい入植希望者がいれば、この干拓事業が成り立つと考えているのか。また、入植者の見込みが少なければ、どうするつもりなのか明らかにされたい。
十一 これ以上の漁場破壊、環境破壊は絶対に許されない。事業中止はすでに国民的世論となっている。環境破壊により周辺漁民を苦しめ、優良農地造成の保証も入植者の見通しもない干拓事業は即刻中止すべきである。少なくとも有明海の漁業を元の状態に戻すために、すみやかに潮受堤防を開くことを改めて強く求めるがどうか。

 右質問する。



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