衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成十五年九月二十六日提出
質問第九号

諫早湾干拓事業の進行に伴う環境破壊拡大と短期開門調査結果の評価に関する質問主意書

 提出者
 小沢和秋    赤嶺政賢




諫早湾干拓事業の進行に伴う環境破壊拡大と短期開門調査結果の評価に関する質問主意書


 今年五月に有明海で発生し、沿岸漁業に深刻な被害をもたらした粘質状浮遊物は、諫早湾干拓事業の進行に伴い有明海の環境破壊が新たな段階に進んだものとして、沿岸漁民などから大きな不安の声が上がっている。七月十日に我々が提出した質問主意書に対し、八月二十九日に閣議決定された答弁書では、「浮遊物と干拓事業とは一切関係がない」と、国はなおも強引に事業を進めていく立場を示し続け、沿岸漁民などの間では改めて大きな怒りの渦が沸き上がっている。
 また、調整池の水質については問題がないという認識を示し、短期開門調査結果についても、この調査によって調整池からの負荷に変化がないとしている。しかし、調整池の水質が潮受堤防閉め切り以前と比べ悪化していることは、農水省のモニタリング結果でも明らかである。さらに、昨年の短期開門調査結果の評価は重要であると考えられるが、この問題に関する答弁書の内容はあいまいである。
 よって、次のとおり再質問する。近く衆議院が解散されることが取沙汰されているので、国会法第七十五条遵守のうえ、必ず解散前に答弁されたい。

(一) 有明海で発生した粘質状浮遊物について、独立行政法人西海区水産研究所と沿岸四県の関係研究機関は実態解明に取り組み、その結果として「介類や底生生物の生殖活動等に伴って海水中に放出された粘質物が、変質しながら海底上や海水中を浮遊する間に、底泥や動・植物プランクトン等が付着したものと考えられた」という取りまとめを行った。答弁書でもこの取りまとめ結果をそのまま引用しているが、取りまとめ作業を行った熊本県水産研究センターに、直接その詳細を質したところ、調査を行ったのは熊本県と長崎県の研究機関だけで、取りまとめ方法は各々の調査結果を、いわば「切り貼り」したというものにすぎなかった。その後、西海区水産研究所と沿岸四県の関係研究機関は「原因を特定するまでには至っておりませんので、今後も発生原因の解明に向けて調査研究を行っていきます」と、我々に対し文書で回答している。粘質状浮遊物の発生原因は特定されておらず、未解明と考えてよいか。未解明なら、今後も解明を続けるべきではないか。
(二) 粘質物を観察した太田扶桑男氏の調査によれば、石灰粒子によって海藻の細胞内粘質物が溶かされ、薄い膜状になった海藻が有明海の浮泥に付着して浮遊物になったと考えられている。粘質状浮遊物の発生原因が特定されていない現状では、「調整池の排水が今回の粘質状浮遊物の発生の引き金になっていない」とは断定できず、生石灰が調整池に溶け込み、諫早湾に流出しているのではないか。
 干拓工事現場での大量の生石灰の使用については、「工事に伴う排水対策を講じているので、生石灰が調整池の水質、ひいては諫早湾の水質に影響を与えていない」と答弁しているが、我々が行った現地視察の結果では、pHの監視が排水対策のすべてであった。pHの監視だけで、なぜ調整池に生石灰が溶け込まず、海域に生石灰が流出していないと断言できるのか。
(三) 閉め切り後の調整池の水質は、「基本的に流入河川の水質を反映し、本明川下流の水質と比較して特段汚染していない」と答弁しているが、そうであれば、これは調整池が浄化機能を全く失っていることを示すものではないか。「特段汚染していない」とする根拠となっている本明川上流・下流の水質観測結果と、調整池の水質観測結果を、ともにすべて明示されたい。
(四) 調整池の水質保全対策は、「関係機関が連携して対処していくことが重要である」と、国は責任を地元に転嫁する方針であるが、水質の保全は本来事業の主体である国が全面的に責任を負うべきではないのか。
 また、調整池の水質は、諫早湾干拓調整池水質保全計画(第二期)に基づいて、事業完了までに目標値を達成することになっている。現在の水質状況を見ると、それは非常に困難と考えられるが、必ず達成できるのか。達成できなければどうするつもりか。
(五) 調整池水質保全計画に示された水質保全のために必要な生活排水処理施設とは、下水道、農業集落排水、合併処理浄化槽等と考えられるが、これらの整備のために必要な事業費と、そのための地元負担はどの程度と算定されているか。算定していないとすればなぜか。
(六) 有明海ノリ不作等調査検討委員会は、干拓事業による有明海の環境変化の一つとして水質浄化機能の喪失と負荷の増大を想定し、その検証のために中・長期開門調査の必要性を指摘した。しかし、農水省は自らが設置した委員会の意見すら無視し、短期調査でお茶を濁して工事を強引に進めている。元中央水産研究所室長・佐々木克之氏らの研究グループは、農水省が公表している資料や独自調査の資料を基に、諫早干潟の浄化力を定量的に示した。さらに、閉め切りによって失われた有機物の浄化力を回復させるために下水処理場を建設するとすれば、約一千億円の経費が必要と算定している。この佐々木氏らの研究結果と中・長期開門調査の必要性について、調査の論点取りまとめを行う「中・長期開門調査検討会議」で検討させ、調査実施を判断すべきではないか。
(七) 事業の計画変更に伴って新たに建設を予定している海域環境施設(導流堤)の目的は、調整池からの排水を潮受堤防設置前のミオ筋(流路)の方向に近づけ、小長井などの諫早湾浅海域にあるアサリ漁場などから調整池の排水を遠ざけるためというが、なぜその必要があるのか。導流堤がなければ、有明海の環境にどのような影響が現れるのか。それぞれ答えられたい。
(八) 導流堤と同様、計画変更に伴って調整池内に潜堤の建設が予定されている。その目的は、東工区の干陸化の中止により、調整池内の浅水域の増加に伴って起こる調整池内底泥の巻き上げ抑制のためと説明している。潜堤は平面的には、当初計画の東工区内部堤防に近い形で建設されることになっているが、これによって調整池内の貯留水の循環は大きく妨げられることが予想され、調整池の水質はますます悪化するのではないか。潜堤を建設することによって、どういう効果をもたらそうとしているのか。
(九) 中・長期開門調査の実施については検討中の段階であり、調査の実施が決まらぬ前に導流堤や潜堤を建設し、この調査の意義を失わせることは許されないことである。導流堤の建設で諫早湾内の潮流は少なからず変化し、潜堤の建設によって調整池内の水の循環も変化する。この二つの施設の建設は、中・長期調査実施の障害となるのではないか。
(十) 短期開門調査により調整池の水質が改善された理由について、我々は「導入された海水によって調整池に漂う浮泥が凝集し、窒素や燐を吸着して沈降・堆積したもの」と考えている。たとえ短期間の海水導入と、わずか二十pの潮位変動でも、調整池の水質が改善された以上、もっと大量に海水を導入する中・長期開門調査で、さらに水質を改善できるかどうかを検証する必要が急務になっているのではないか。答弁書では「短期開門調査報告書においても、調整池の浮遊物質量が海水導入によって低下した原因について、『負荷収支等の結果から海水導入による希釈及び凝集効果に伴う現象と考えられる』と記述しているとおり、希釈効果に加えて、凝集効果についても考慮している」と答えている。しかし、この記述は上記報告書の浮遊物質質量(SS)の項目にあるだけで、COD(化学的酸素要求量)、窒素、燐の項目には一切記述されていない。この答弁は不正確ではないのか。
(十一) 報告書の概要版には「調整池のCOD、栄養塩類は海水導入によって、低下しており、海水導入が進むにつれて海域の値に近づく傾向が見られており、これは、海水導入による希釈効果等に伴う現象と考えられます」という記述があり、農水省は「等」の中に凝集効果が含まれており、無視してはいないと説明している。しかし、一般の人が容易に見ることができるのは概要版だけであり、そこには凝集効果については何の説明もなく、今のままでは希釈効果が調整池の水質改善の主たる理由と受け取られるといってよい。窒素や燐などの凝集効果も考慮しているというなら、概要版を含めて報告書は正確に記述し、訂正すべきではないか。
 また、報告書の不正確な記述について、「開門総合調査運営会議」と、「中・長期開門調査検討会議」に対しては、正確に説明、報告する義務があると考えるが、いつどのようにして行うか。
(十二) 農水省は、短期開門調査で有明海の環境回復の可能性が示されたと考えていない理由として、答弁書で「海域への排水量は増加し、海域への負荷量は海水導入前に比べむしろ増加する結果となっており」と答えている。短期開門調査において海域への負荷量が海水導入前に比べむしろ増加する結果となった原因は、調整池内の汚濁物質が、導入された海水によって凝集・沈降し一時的に排出された結果ではないのか。
(十三) 短期開門調査終了時には、調整池の水質が希釈と凝集効果によって改善されているので、調整池の水質が改善された以後の海域への負荷量は、開門以前に比べて減少したと考えるがどうか。そうでないと断言するなら、その根拠を示されたい。
(十四) 短期開門調査では、凝集効果によって窒素や燐の濃度が、希釈効果以上に減少したが、COD濃度の減少は希釈効果で説明できる範囲でしか減少しなかった。これはCODを除去する底生生物が、開門調査中に調整池内で十分に回復しなかったからと考えられる。そうであればなお、諫早干潟の浄化機能の正確な検証には、底生生物の回復が可能となる中・長期開門調査が不可欠と考えるがどうか。
(十五) 調整池内部で進められている北部承水路掘削工事は、一九九九年度に五洋・りんかい建設工事共同企業体(代表者・五洋建設)が、一般競争入札で契約し、それ以後今年度まで同企業体が随意契約で工事を進めている。昨年度までのこの工事に対する支出金額は六十一億七千八十五万円にのぼるが、一昨年度は二億七千三百万円の増額、昨年度は二億八千三百五十万円の増額で、それぞれ契約変更を行っている。農水省はこの合計五億五千六百五十万円の大幅な契約額変更の理由について、漁民の阻止行動による工事中断に対する損料支払い、三県漁連からの申し出によって潮受堤防上に設置した仮設ポンプの運転管理費、短期開門調査の際の背後地排水樋門周辺での土のう積み上げ作業、漁民の工事阻止行動に伴う防護柵設置などの工事費と説明している。北部承水路掘削工事とは全く関係ないこれらの工事費を、五洋・りんかい共同企業体に対し支出した理由は何か。
 また、損料、仮設ポンプ運転管理費、短期開門調査の背後地対策工事費、防護柵設置工事費はそれぞれいくらか、明らかにされたい。
(十六) 諫早湾干拓事業の事業費総額は、計画変更に伴い二千四百九十億円から二千四百六十億円とわずかに減少したが、費用対効果は農水省の分析でも〇・八三と、仮に計画どおりに農地に入植者が入っても、採算がとれない無駄な公共事業であることが明らかになっている。これまでに要した事業費額と、今後要すると見込まれる事業費額とを、年度別に国・長崎県・受益農家に区分して明らかにされたい。
(十七) 国の委託を受けて長崎県は、潮受堤防・調整池・干陸地などを、レジャー・観光面も含めた地域資源として有効に利活用するための方策を検討する「諫早湾地域資源等利活用検討協議会」を開設した。これにあわせて、国はすでに今年度「調整池水環境保全検討業務」を発注している。優良農地造成を目的とし、淡水化した調整池を農業用水として利用するはずのこの事業が、今になってなぜ事業目的とは全く別の利活用策を検討しなければならなくなったのか。これ自体が事業の破綻を覆い隠すものではないのか。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.