答弁本文情報
平成十五年十月七日受領答弁第九号
内閣衆質一五七第九号
平成十五年十月七日
衆議院議長 綿貫民輔 殿
衆議院議員小沢和秋君外一名提出諫早湾干拓事業の進行に伴う環境破壊拡大と短期開門調査結果の評価に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員小沢和秋君外一名提出諫早湾干拓事業の進行に伴う環境破壊拡大と短期開門調査結果の評価に関する質問に対する答弁書
(一)について
独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所、福岡県水産海洋技術センター、佐賀県有明水産振興センター、長崎県総合水産試験場及び熊本県水産研究センター(以下「関係研究機関」という。)は、平成十五年七月二十二日に、「有明海において、平成十五年五月六日に発見され、五月二十日頃まで継続が確認された粘質状浮遊物は、介類や底生生物の生殖活動等に伴って海水中に放出された粘質物が、変質しながら海底上や海水中を浮遊する間に、底泥や動・植物プランクトン等が付着したものと考えられた」という取りまとめを行っているが、粘質物を放出した生物の種までは特定していない。関係研究機関においては、発生原因の解明に向けて、引き続き調査研究を行っていくこととしている。
御指摘の粘質状浮遊物の発生が確認された最初の日は、平成十五年五月六日であり、一方、国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)においては、平成十四年九月二十七日から平成十五年五月七日までの間、生石灰を使用していないことから、本事業で使用された生石灰が御指摘の粘質状浮遊物の発生原因となったとは考えていない。
なお、本事業においては、生石灰を使用する工事の施工に当たっては、水素イオン濃度の監視に加え、諫早湾干拓事業の進行に伴う漁業被害と環境破壊拡大への対応に関する質問に対する答弁書(平成十五年八月二十九日内閣衆質一五六第一二五号。以下「前回答弁書」という。)(四)から(六)までについてで述べたとおり、周辺への生石灰の飛散を防止するための施工条件を設定するとともに、必要に応じ工事に伴う排水を処理する等の対策を講じていることから、諫早湾の水質に影響を与えることはないと考えている。
調整池は、水質の浄化を目的として設置したものではない。また、本明川上流・下流及び河口並びに調整池中央の各地点における水質観測結果については、別表一のとおりである。
前回答弁書(十)についてで述べたとおり、調整池の水質は基本的には流入河川の水質を反映しており、その水質保全対策は、調整池の浄化対策だけでなく、流入河川の水質を改善するための生活排水対策や水質保全規制等が必要であるため、国、長崎県、関係市町等の関係機関が連携して対処しているところであり、これらの対策を推進し、事業完了時には、環境保全目標を達成できるよう努めてまいりたい。
なお、下水道、農業集落排水施設、合併処理浄化槽等の整備による生活排水対策については、長崎県が策定した諫早湾干拓調整池水質保全計画に従い、関係機関が協力して順次事業が進められているところであり、各事業主体により実施されていることから、事業費及び地元負担については承知していない。
農林水産省に設置されている中・長期開門調査検討会議(以下「検討会議」という。)においては、様々な立場の者から意見を聴いた上で、中・長期開門調査に係る必要な論点を整理することとしている。御指摘の佐々木氏らの研究結果については承知していないが、検討会議に提出された御意見については、検討会議の委員に紹介し、必要に応じ検討会議で検討する考えである。
海域環境施設は、前回答弁書(十九)についてで述べたとおり、事業実施に伴う環境の変化をできる限り小さくする観点から設置するものである。
海域環境施設を設置しなければ、排水門からの排水が潮受堤防設置前のミオ筋(流路)の方向と異なる諫早湾浅海域に達する場合があると考えられ、そのような影響をできる限り小さくする必要があるが、いずれにしても諫早湾外の海域環境に影響を与えるものではない。
潜堤は、調整池の浅水域で生じる風による底泥の巻上げと、これに伴う燐等の濃度上昇を抑制するものであり、調整池の水質保全の効果を有するものである。
海域環境施設及び潜堤が調整池への海水の導入及び排水に支障になるとは考えていないことから、これらの施設の設置が、中・長期開門調査の実施の障害となるとは考えていない。
中・長期開門調査の取扱いについては、検討会議で取りまとめられる論点を踏まえ、これを判断することとしている。
また、前回答弁書(十五)についてでは、浮遊物質量には、懸濁態の有機物及び栄養塩類(窒素、燐)が含まれていることを前提に、浮遊物質量の低下の原因として、凝集効果についても考慮していることを答弁したものである。
なお、平成十五年五月八日に農林水産省九州農政局(以下「九州農政局」という。)が公表した短期開門調査報告書概要版及び短期開門調査報告書の要約の部分においては、海水導入により化学的酸素要求量(以下「COD」という。)及び栄養塩類の濃度が低下した原因について、凝集効果を含む趣旨で「希釈効果等」と記述している。
短期開門調査における観測結果に基づいて、調整池の負荷収支を計算したところ、希釈効果が海水導入によるCOD及び栄養塩類の濃度低下の主たる理由であると考えられたことから、九州農政局に設置されている開門総合調査運営会議における学識経験者による検討を踏まえ、短期開門調査報告書概要版及び短期開門調査報告書において「希釈効果等」と記述したものである。
前回答弁書(十六)についてにおいては、短期開門調査における観測結果に基づいて、河川からの流入量、巻上げ量、沈降量、海域への排水量等を算定して、調整池におけるCOD、栄養塩類等の負荷収支を総合的に解析した結果として、海域への負荷量は海水導入前に比べむしろ増加したと答弁したものである。
この計算によれば、海水導入期間中の巻上げ量が海水導入前と比較して減少していることから、海域への負荷量が増加する結果となった原因は、御指摘の「汚濁物質が、導入された海水によって凝集・沈降し一時的に排出された結果」ではないと考えている。
調整池から海域への負荷量は、基本的には調整池に流入する負荷量を反映しており、ある時期の調整池の水質が改善されていたからといって、海域への負荷量が長期的に減少するとは言えないと考えている。
(十)についてで述べたとおり、中・長期開門調査の取扱いについては、検討会議で取りまとめられる論点を踏まえて、これを判断することとしている。なお、諫早干潟の浄化機能については、九州農政局が実施している開門総合調査の一環として、過去の調査データ等を用いた数値解析により検討しているところである。
北部承水路掘削工事を受注している五洋・りんかい諫早湾干拓事業北部承水路建設工事共同企業体に対して、漁業者等の工事阻止行動により工事が中断した期間における掘削重機等の損料を支出することとし、また、北部承水路掘削工事の工期内において、工事を円滑に進めるために必要な仮設ポンプの運転、短期開門調査の背後地対策工事及び防護柵設置工事を緊急に実施する必要が生じたことから、現場の諸条件を熟知しており、近くで工事をしていて、速やかに対応できる当該共同企業体に対し、これらの工事を追加発注したものである。
なお、工事中断に伴う損料は約五千百万円、仮設ポンプ運転管理費は約一億二百万円、短期開門調査の背後地対策工事費は約六千二百万円、更には防護柵設置工事費は約八百万円となっている。
本事業の事業費の年度別の実績及び見込みは、別表二のとおりである。また、国、長崎県及び受益農家それぞれの負担額は、本事業の土地改良事業計画の変更に伴い新たに造成される農地面積が当初予定のほぼ半分となった経緯を踏まえ、今後、決定する予定である。
諫早湾地域資源等利活用検討協議会は、潮受堤防、内部堤防及び調整池について、本事業におけるこれらの本来の目的に供することを前提とした上で、これに加えて、魅力ある地域づくりに寄与する地域資源として利活用する方策を検討することを目的として設置したものであり、本事業の目的を変更するものではない。