質問本文情報
平成十八年九月二十八日提出質問第一三号
孤児作品(著作権者等不明作品)問題に関する質問主意書
提出者 川内博史
孤児作品(著作権者等不明作品)問題に関する質問主意書
本年一月、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)議会図書館著作権局(以下「著作権局」という。)は「Report on Orphan Works」と題する二百ページ超の報告書(以下「報告書」という。)を公表し、議会に提出した。この報告書では「Orphan Works」、すなわち「孤児作品(著作権者等不明作品)」の問題について報告しており、公表後相当期間が経過し商業的価値が失われたにも関わらず、権利継承者の所在が不明であるため実質的に利用が不可能となっている著作物が膨大な量にのぼり、深刻な問題となっていることを指摘している。報告書はそのうえで、立法によりこの問題を解決すべきである旨を勧告している。この勧告を受けて、本年五月二十八日には下院へ「Orphan Works Act of 2006」(法案番号HR5439 IH。以下「孤児作品法案」という。)が提出されているが、成立の見通しは立っていない。
以上の事実を踏まえたうえで、政府の孤児作品問題に対する見解について質問する。
二 本報告書において列挙されている孤児作品に関する事例と同様の原因により、我が国において発生していると考えられる事例について質問する。
1) 国立国会図書館は明治期に刊行された蔵書をインターネット上で公開する「近代デジタルライブラリー」事業を平成十四年度に開始しているが、著者の没年が不明の蔵書については「著作者情報公開調査」を実施している。平成十六年度は約五万名を対象に調査を実施しているが、没年の判明は約一パーセントの五三二名に過ぎず、権利継承者の連絡先判明は六十件に留まったと公表されている。そのため、権利継承者の連絡先が判明しない蔵書については著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)第六十七条に基づく裁定制度により補償金を国庫に納付しているが、その金額の内訳を事業開始から昨年度まで年度毎に示すと共に、没年の判明と権利継承者の連絡先の判明がこれほど困難を極めている理由は何であると考えられるか。政府の見解を求める。そして、これらの文化的な所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与するためには、政府は何をすべきか見解を求める。
2) 平成十五年十二月より翌十六年二月八日まで東京都写真美術館で開催されたコンピュータゲームの展示会「レベルX」では、昭和五十八年に発売された家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」用の全部で千二百十九点にわたるソフトを上映展示することが企画されたが、内五十一点については企業の倒産・合併に伴い権利継承者の所在が不明との理由により上映展示が見送られた。この事例は発売から二十年弱の作品であっても権利保有者と連絡を取ることが不可能となることも有り得るという実例であるが、こうした事例を発生させない為に関係省庁ないし民間でどのような取り組みが為されているのか。答弁を求める。
3) 報告書が米国の状況について指摘している通り、1)及び2)で挙げたような事例が、さらに増加する可能性について、政府はどのように認識しているのか。答弁を求める。
三 裁定制度について質問する。
1) 米国の孤児作品法案は、我が国における著作権法第六十七条と同様の裁定制度創設を目指すものであると解されるが、我が国の他に裁定制度を導入している国は存在するのか。答弁を求める。
2) また、米国内のコンテンツ産業界を中心に主張されている孤児作品法案に反対する意見には、裁定制度が文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(昭和五十年三月六日条約第四号。以下「条約」という。)等の国際条約に違反するとの理由を挙げるものが存在すると伝えられるが、当該反対意見が孤児作品法案を条約違反と主張する理由について、政府はどのように認識しているか答弁を求めるとともに、条約違反であるという主張に対する政府の見解を求める。
3) 我が国の裁定制度について国内外から条約違反の可能性を指摘されている事例は存在するのか。答弁を求める。その事例が存在する場合、その指摘に対して政府はどのように対応したのか答弁を求める。
四 当該報告書において指摘されている孤児作品問題の深刻な事例は、前述した通り我が国においても決して「対岸の火事」ではなく、この問題を真剣に議論し、解決に取り組まなければ著作権法第一条に掲げられた「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」目的を達成し得ないと思料されるが、政府の見解を問うとともに、この問題に対する政府の取り組みについて答弁を求める。
右質問する。