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平成十八年十二月十一日提出
質問第二二九号

障害者自立支援法に基づく制度の改善に関する質問主意書

提出者  赤嶺政賢




障害者自立支援法に基づく制度の改善に関する質問主意書


 障害者自立支援法は、四月に一部施行され、十月一日に本格的に施行された。
 障害者が福祉サービス等を利用した場合の自己負担が応能から応益に変わり、一割を負担する「定率負担」が導入された上、食費や光熱水費などについても実費負担することとなった。
 法施行後八ケ月を経過し、障害者と家族からは、「負担額が大幅に増え、とても耐えられない」という切実な悲鳴が上がり、生活不安や制度に対する疑問の声が拡がっている。将来の生活を苦にした親子の無理心中事件も起き、関係者に衝撃を与えている。
 障害者団体の調査では、負担の大幅増に伴いサービスの利用を断念せざるを得ない多くの障害者がいることが明らかになっている。
 また、障害者程度区分によって施設入所等の対象者が限定され、施設を退所せざるを得ないという事態も生じている。
 障害者自立支援法は、その目的である「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」に逆行し、障害者の自立への道を閉ざし、障害者の生活と権利を脅かすものとなっている。
 障害者自立支援法の施行に伴う影響について国自らが全国の実態を調査し、速やかに制度の改善を図ることは喫緊の課題であると考える。
 従って、以下の事項について質問する。

一 障害者自立支援法施行に伴う影響の実態調査について
 1 新たな利用者負担、報酬体系の導入等の影響により、障害者及びその家族や施設、事業者などから多くの深刻な不安の声が上がっている。利用者負担増による利用停止や利用抑制がある。また、事業者についても減収による事業経営の困窮、事業の廃止などが起こっている。国は、二〇〇六年六月十五日付の質問主意書(第一六四回国会第三六七号)に対する答弁書で、障害者自立支援法施行後の実態調査について、「今後、関係者の協力を得つつ、内容に応じ、適時適切にその把握に努めてまいりたい」と答弁し、今国会の厚生労働委員会等における質疑なども受け、サービスの利用状況の実態調査に着手した。都道府県を通じ地域の施設に回答を求めた「施設利用者状況調査票」は、月毎の施設の退所者数、通所サービスの利用抑制者数等を所得区分別・退所等理由別に把握するものとなっている。この調査の結果はいつ公表されるのか。
 また、この調査においては精神障害者関係サービス、障害児関係サービスが対象となっていない。こうしたサービスについても同様の調査を実施すべきと考えるが、政府の意向を伺いたい。
 2 調査の実施は実態把握の第一歩であるが、調査項目が限定的であり、全体像の把握にならないと考える。利用者負担の導入によって負担増になった利用者数、個別の負担の実情、報酬の見直しによる事業者への影響及び事業所の職員の給与などの就労条件への影響、報酬設定等を受けての事業者の参入・廃止状況など、詳細に調査すべきと考える。こうした調査の実施について、政府の見解を伺いたい。
二 利用者負担の見直しについて
 1 全国的な実態調査の結果は示されていないが、障害者自立支援法の施行に伴う深刻な影響は明らかである。応益(定率)負担の導入と食費、光熱水費の実費負担化による負担増のため、長年過ごしてきた施設を退所せざるを得ない、通所授産施設への通所を断念せざるを得ないなど、障害者とその家族が必要なサービスを受けられない重大な影響が出ている。政府は、障害者団体をはじめ地方公共団体等から聞きおよんでいると思うが、この深刻な事態を招いた障害者自立支援法について、現状においてどのような認識をもっているのか伺いたい。
 2 定率負担制度においては、障害の重さに応じたサービス利用量が増加するほど、利用者の負担が重くなる。利用者にとっては日常生活を営むために必須のサービスを受けるに過ぎないにもかかわらず、障害の重さに応じたサービス量の増加によって負担が増すことは、利用者である障害者の自立に悪影響を及ぼすものである。所得段階に応じた利用者負担上限額設定とは別に、サービス利用量の多い重度障害者に配慮した利用者負担上限額制度を設けるべきと考えるが、政府の見解如何。
 3 低所得者対策として、所得に応じた四段階の利用上限額の設定、食費等に対する補足給付、その他個別減免措置など、利用者の軽減策が講じられているが、負担の重さを訴える声は大きい。低所得者の利用上限額の大幅な引き下げなど更なる低所得者対策を講じるべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
 4 個別減免等のための所得認定にあたっては、世帯の所得が算定される。政府は世帯の範囲について一定の措置をとっているが、すべての利用者について、個人の所得のみを算定すべきと考えるが、政府の見解如何。
 5 障害者の保護者は多くの場合若年であり、負担能力が低く、サービス利用料の負担が重荷となっている。特に、障害児施設に入所する場合、特別児童扶養手当も支給されず、負担ばかりが過重となり、退所を余儀なくされるということが生じている。障害児が療育の場から離れることは、その後の発達・成長に大きな打撃を与えることになる。政府は、障害児施設の利用者について、「特段の利用者負担緩和措置を講じ、在宅の場合と同程度までの負担とした」としているが、障害児については特別の支出も伴い、その負担が継続的に続くために家計への負担が重くなる。
 従って、障害児施設の利用に関しては、更なる負担軽減策が必要と考える。この点についての政府の見解を伺いたい。
 6 施設やグループホームの利用料は、利用者の所得と貯金等の条件に応じて個別減免が行われるが、預貯金等の上限額は三五〇万円とされている。その際、本人名義の信託や年金保険等についてのみ、預貯金等の対象から除外される。
 所得の算定にあたっては世帯で算定されることが多いにもかかわらず、預貯金等の算定においては家族が障害者のために保有している信託等を除外対象としないのは、世帯の見方について一貫性に欠けると考える。
 預貯金等の上限額と預貯金等の範囲について、障害者の生活実態に見合った額、範囲とすべきと考えるが、政府の見解如何。
 また、預貯金等の調査にあたっては、個人のプライバシーにかかわることであり、行き過ぎた調査にならないように十分な配慮が必要と考えるが、政府の見解如何。
 7 法施行後、地方公共団体においては、厳しい財政事情の中で、独自に利用者負担に対する軽減策等を取らざるを得ない状況が生まれている。一方で、軽減策等を取れない地方公共団体もある。このように、市町村によって対応が異なり格差が生じている現状について、政府の見解を問う。
 8 授産施設などにおいては、工賃が支払われているが、法施行後、利用料等が工賃を上回り、施設利用の意欲が阻喪するとの指摘がある。政府は、本年八月、「障害者自立支援法の円滑施行に向けて」(以下「円滑施行策」という。)で、「工賃控除の拡充等」の対策を講じているが、それが実効性のある対策とは思われない。就労意欲を高め、障害者の自立を促進するために、工賃が手元に残るようにすることなど、本格的な対策を講ずるべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
三 事業者に対する報酬、指定基準について
 1 事業者に対する報酬は、従来月単位で設定されていたが、障害者自立支援法施行後においては、利用状況にあわせた日払いになり、しかも報酬の設定水準が従来と比べ低いために、障害者の地域生活を支える事業者の収入は減り、経営が不安定となるだけでなく、事業を継続することが難しくなっている状況が生じている。良質なサービスの提供を安定的に維持・持続させるために、グループホーム、ケアホーム等における入院・外泊に係る報酬上の取扱について、政府は、「通所施設が行う通所以外の支援等」の「円滑施行策」をとったが、このようなびほう策でなく、従前の月単位に戻すなどの措置を講ずべきと考えるが、政府の見解を問う。
 2 事業の指定基準における人員配置等の要件が高く、小規模作業所などは、新体系に移行するのが困難である。一方、人員配置等の基準が低く、利用者に対し十分なサービスを提供することができないとの指摘がある。例えば、新しい職員の配置基準は、多様で個別的な支援が必要な知的障害者の場合、適切なサービスができない。安心して利用できるようにすべきである。
 そのためには、政府が、「円滑施行策」で示した「通所施設の定員規制緩和の経過措置」ではなく、配置基準の見直しを検討すべきである。その場合には、利用者の負担増にならないようにすべきと考える。これらのことについての政府の見解を問う。
四 障害程度区分の見直しについて
 1 サービス量などの決定にあたって勘案される障害程度区分に関しては、その認定方法は、介護保険制度の要介護度を基本にしたものであるために、知的障害者や精神障害者の「程度区分」、「障害程度」を適正に判定することが著しく困難である。
 政府は、「円滑施行策」で、若干の対策を講じているが根本的な解決にはならないと考える。
 適正な判定を行うためには、知的、精神障害等の障害特性やニーズを十分に考慮したものとするよう抜本的に見直すべきである。政府の見解を伺いたい。
 2 障害程度区分により、画一的にサービスの利用制限を行うのではなく、一人一人のニーズに応じた支給決定の仕組みにすべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
 3 高度の支援が必要な重度障害者の重度訪問介護、行動援護サービスは、介護保険制度の要介護度を基本にした障害程度区分等によって判定されるために、障害程度が低い結果となり対象者が限定される。障害が重く、更にサービスが必要であるにもかかわらず、その対象とならない者がでている。障害程度区分を判定する基準は、「重度訪問介護は外出時の介護を含むが、判定項目の聞き取りは居住内が想定されている」、「行動援護では該当項目が月一回あっても〇点にしかならない」等、地域の実情とかけはなれた、厳しい内容となっているとの指摘がある。これについての政府の見解を伺いたい。
 4 重度障害者の重度訪問介護、行動援護サービスの対象者の判定基準については、対象者の条件を緩和するなどの見直しを行い、必要な人が必ずサービスを受けることができるようにすべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
五 就労支援について
 障害者自立支援法の目的及び趣旨には、障害者の就労支援の強化が謳われている。
 企業への就労支援の施策を強めることは重要なことであるが、同時に、働き方の多様性を認めて、企業のみならず授産施設等においても、障害者が働けるように働く場を拡充させる方策を講ずべきであり、この点で、政府の「円滑施行策」の就労支援の対策は、極めて不十分なものと考えるが、政府の見解を問う。
六 地域生活支援事業について
 1 小規模作業所は、無認可の通所施設でありながら、障害者の日中活動の場として、大きな役割を担ってきた。しかし、新制度においては、地域活動支援センター(地域生活支援事業)に移行することになるが、これに係る運営は裁量的経費によることとしており、この事業遂行の確実性、持続性、更には地域格差について不安の声が上がっている。これについての政府の見解を伺いたい。
 2 地域生活支援事業への国の予算が余りにも少ないので、適切な規模の予算措置を講ずるべきであるとの強い意見があるが、政府の見解を問う。
七 九州・沖縄県等の地方議会の意見書及び地方自治体の要望書について
 1 本年四月、障害者自立支援法の施行後、同法の見直し等についての地方議会の意見書がどれくらい出されているのかは、法制度の見直し等を検討する上で重要な要素と考える。
 例えば、福岡県北九州市議会、同県大牟田市議会、同県遠賀郡水巻町議会、大分県県議会をはじめ、埼玉県川口市、同県春日部市、同県蕨市、新潟県新潟市議会、福島県相馬郡新地町議会、岐阜県高山市議会、同県下呂市議会等から、障害者自立支援法の抜本的改正、同法の見直し、障害者自立支援制度の充実等を求める意見書が、衆参の両院議長及び政府に対して提出されている。
 従って、これまで全国の地方議会から地方自治法第九十九条に基づく意見書が何件提出されているのか、都道府県別に明らかにされたい。
 2 熊本県、長崎県、長崎市及び長崎市議会などからは、障害者自立支援制度の充実・強化等を求める要望書が政府に対して提出されている。前記理由により法施行後、全国の地方公共団体及び地方議会から何件の要望書が提出されているのか、都道府県別に明らかにされたい。
八 障害者自立支援法の境界層該当者の取扱について
 1 障害者福祉サービスを利用している障害者が、応益負担の導入による過重な負担のために、サービスの利用はもとより生活が困難となり、障害者自立支援法の制度に基づいて国の実施している境界層減免の措置を受けようとする場合には、「境界層該当者」になることが要件とされている。そのためには、当該市町村において生活保護申請書を提出することになっている。障害者の方々は、生活保護を受ける意思がないにもかかわらず、障害者自立支援法の境界層減免の措置を受けるのに、何故、生活保護と同内容の書類申請をしなければならないのか、プライバシーに関わることであり、絶対に納得できないとしている。
 そこで、生活保護申請書ではなく、「境界層減免申請書」を作成すべきではないか。
 2 また、審査にあたっては、生活保護申請と同様に、資産調査、扶養照会など厳しいチェックが実施されている。扶養照会や資産調査は省略して、所得調査によって「境界層該当者」としての判定はできないのか。また、一度、「境界層該当者」と判定されても、毎年、同様の申請と審査を行うことが義務とされているが、一度、判定されたらその後は、各自治体の裁量に委ねるなどの対応にすべきではないのか。
九 障害者自立支援法の根本的見直し等について
 1 政府は障害者自立支援法の施行にあわせて、障害者(児)施設入所者を地域生活に移行させるとしている。「平成二十三年度末時点の施設入所者数を七パーセント以上削減することを基本としつつ、地域の実状に応じて目標を設定する」との方針を打ち出しており、地方自治体は、この方針に基づいて、二〇〇七年度の社会福祉施設(障害者・障害児関連施設)整備方針を作成している。文言に「地域の実状に応じて」とはあるものの、国が入所者数削減の方針を出すということは、「増やすべからず」と地方自治体は受け止めがちであり、「入所者締め出し」の方向に向かうことを非常に危惧する。政府はこの方針が入所者を締め出すことになるとは考えないのか、入所者を締め出すことにならないというならその根拠と理由を明確にされたい。
 2 この方針の基に整備を進めようとすれば、施設入所者の減少、それに伴う障害者(児)施設に係る国の予算の削減が想定されるとの懸念が指摘されている。
 現在でも、障害者(児)施設の整備は充分とは言えず「入所したくても入所するところがない」と、入所を断念せざるを得ない障害者(児)が少なくない。
 こうした待機者解消のためにも、むしろ早急な施設の整備こそ必要であると考えるが、政府の見解如何。
 3 従って、いわゆる「削減目標」については、再検討して取り消すべきであると考えるが、政府の見解如何。
 4 障害者自立支援法は施行後三年を目途として見直すこととされている。現状においては、一定の経過措置等が講じられているにもかかわらず、法施行後多くの混乱が起きている。政府は、障害者の自己負担を一時的に軽減する措置等を講ずるとの方針を決め、補正予算において、具体化すると報道されているが、その内容を明らかにされたい。
 5 この措置によってサービス利用者は、どのくらい増加するものと試算しているのか。
 6 法施行後の深刻な事態を考慮すれば、政府が行う更なるびほう策ではなく、障害者自立支援法による制度全体を根本的に見直す必要があると考える。三年を待つことなく、障害者自立支援法の見直しに向けて直ちに検討を開始すべきである。これについての政府の見解を問う。

 右質問する。



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