質問本文情報
平成二十年四月十七日提出質問第三〇三号
有明海の浄化と漁業環境の改善に関する再質問主意書
提出者 赤嶺政賢
有明海の浄化と漁業環境の改善に関する再質問主意書
諫早湾干拓事業・潮受け堤防の締め切りによって「死の海」になりかねない、「宝の海」である有明海を取り戻すことは、有明海漁民、環境改善等にとって緊急の課題である。
そのためには、有明海漁業と干拓農業の共生、有明海再生のために諫早水門の早期開放が求められている。
こうした観点から、私は、本年、三月十七日に、有明海の浄化と漁業環境の改善に関する質問主意書を提出したところである。これに対する同年三月二十五日付け政府答弁書(以下「答弁書」という。)は、私の質問に対して、明確に答弁されていない点があるので、以下の事項について、再度、質問したい。
1 答弁書はタイラギ不漁の原因についての質問に答えていない。農林水産省は、漁民の生活に責任を持つ行政省庁である。タイラギ不漁の原因解明に取り組むべきと考えるが、見解を伺いたい。
2 水産庁の調査は、平成九年に実施した後、平成十三年四月から平成十五年三月の二年間実施して、明らかに平成十三〜十五年の諫早湾の底質の中央粒径値(Mdφ)が増加していることを示している。一方、答弁書では、農林水産省の調査により「この結果のみをもって底質が細粒化しているかどうかの判断はできない」としている。同じ水域で異なった結果となった原因として、水産庁と農林水産省の調査方法の違いによる可能性が考えられる。水産庁は、コアーサンプラーで底泥を採集し、上層五pについて、粒径が〇.五oまでの底質については篩い法を用い、それより細かいものについて自動分析を行っている。農林水産省は、JIS A 一二〇四−二〇〇〇の分析方法を用いている。
(1) 一二〇四は比重計を用いた方法であり、一般には粒径がおよそ七十五μm以下の底質について用いられるもので、それより大きな粒子には向かない。一二〇四−二〇〇〇はどのような方法で粒度組成を求めたのか、明らかにされたい。
(2) 農林水産省は底質をスミスマッキンタイヤー採泥器で調査点あたり三試料を採取して、混合したものを試料としている。このとき、泥の厚さはどの程度(何p程度)か答えられたい。
水産研究所からの論文によれば、底質の堆積速度は有明海の湾奥部ではおよそ〇.七p/年、諫早湾口では〇.三〜〇.六p/年である。妥当と思われる堆積速度を〇.五p/年と仮定すると、水産庁の調査では十年分堆積したもののMdφの平均値を求めていることになる。スミスマッキンタイヤー採泥器では十p以上の泥を採取するものと考えられるので、二十年以上にわたって堆積したものの粒度の平均値を求めることになる。そうであれば、水産庁の調査がより最近の状態を反映していて、そのことが農林水産省の結果と異なる理由であることが推定されるが、農林水産省の見解を示されたい。
3 タイラギ漁業は有明海漁民にとって極めて重要なものであり、農林水産省はタイラギ不漁の原因解明と回復を行う行政責任を有している。諫早湾漁場調査委員会の課題は「干拓事業のために行われた諫早湾口の砂採取と諫早湾におけるタイラギ漁業の不振の因果関係」を明らかにすることであるが、一九九四〜一九九六年の三ヶ年調査を実施して、タイラギ漁業の不振の原因解明はできなかった。また、問題の砂採取は一九九六年に中止となったが、その後もタイラギの生息量は回復しなかった。従って、現在の課題は、砂採取中止後も生じているタイラギの不漁原因を解明し、回復策を明らかにすることであると考えるが、農林水産省の考えを示されたい。
4 有明海奥部の佐賀県と福岡県によるタイラギ漁業も二〇〇〇年からほとんど漁獲がなくなった。答弁書では、タイラギ漁業の不漁について、有明海・八代海総合調査評価委員会がとりまとめた委員会報告の趣旨を述べるに留まっている。タイラギ不漁問題は同評価委員会にまかせてよい問題ではなく、漁業に責任を持つ農林水産省が取り組むべき問題である。早急に農林水産省が原因究明に取り組むべきであると考えるが、どのように考えているのか、見解を示されたい。
二 二〇〇七年八月の諫早湾のアサリのへい死について
1 答弁書は、「諫早湾干拓調整池からの排水については、平成十九年八月二十五日の正午前後に北部排水門から約四百六十万立方メートルの排水を行っているが、これ以前に既にアサリのへい死が確認されている」と答弁している。確かに、八月二十日からへい死が確認されているが、私の質問主意書で指摘したように、長崎県は八月二十六日の調査で、潮受け堤防に近いほどへい死していると報告している。この八月二十六日の調査で明らかになったアサリのへい死は、八月二十五日以前であるとする根拠と理由を示されたい。
2 現在までの調査研究ではシャトネラ赤潮でアサリやカキなどの二枚貝がへい死したことを明らかにした論文はない。答弁書ではアサリのへい死の要因の一つとして赤潮を挙げているが、その根拠と理由を示されたい。
三 再生事業について
1 答弁書では、「有明海及び八代海の海域の特性に応じた当該海域の環境の保全及び改善並びに当該海域における水産資源の回復等による漁業の振興に関し実施すべき施策に関する計画」に掲げられた事業について、「費用対効果分析等による事業評価を行いつつ、実施している」と答弁している。事業評価結果を記した文書の件名を示すとともに、その概要を明らかにされたい。
2 答弁書は「指定地域を含む市町村における汚水処理人口普及率は、平成十四年度末時点の五十六パーセントから、平成十八年度末現在で六十七パーセントまで向上している」と答弁している。普及率が向上すれば処理場における化学的酸素要求量(以下「COD」という。)の減少が見込まれ、河川のCODは減少しているはずであると考えるが、政府の見解を示されたい。また、その根拠を示されたい。
3 答弁書は、漁業環境保全創造事業による漁場の保全・整備について、「平成十五年度から平成十八年度までの有明海における実施状況は、覆砂四百四十二ヘクタール、作れい十四・五キロメートル、耕うん五千四百七十七ヘクタールとなっている」と答弁している。これらの費用対効果について説明されたい。
4 答弁書は、漁業の保全・整備事業について「政策効果を定量的に測定・把握することを原則として事前評価を行ってきている」「例えば、福岡県や熊本県によれば、アサリの漁獲量が増加する等の漁場改善の成果がみられている」と答弁している。福岡県や熊本県のアサリその他に関する事前評価を行った結果について、詳細に説明されたい。
四 開門について
1 答弁書は、「平成十六年五月十一日に農林水産省が公表した『有明海の漁業関係者の皆様へ』の補足説明の『中・長期開門調査を実施することによる海域への影響と有明海の再生への取組について』において示されている」と答弁している。
この文書のどこに示されているのか明示していない極めて不誠実な答弁であることを指摘しておきたい。同文書には、「十日後に佐賀沖、三十日後に熊本沖に広がる」との記述があるが、それを指して言っているのか、具体的かつ明確な答弁を伺いたい。
2 私の質問主意書の「有明海における、干拓事業以前の濁りと、開門により予測される濁りの分布を示し、その上で漁業被害の根拠と理由を明確にされたい。」との質問に対する答弁はなされていない。これについて、改めて具体的に答弁されたい。
3 被害を小さくできる開門方法については、例えば、九州大学大学院総合理工学研究院経塚雄策教授は、「有明海の生態系再生をめざして」(日本海洋学会編)で示しているが、これについての政府の見解を伺いたい。
4 答弁書は、経塚教授の示している、排水門により調整池内の水位を管理しつつ海水を導入する開門方法について、「この方法では、潮位や潮流に与える変化が小さいため、短期開門調査で得られた成果以上の知見は得られない」と答弁している。
短期開門調査においては水門を通過する流量は開門以前に比べ遥かに大きくなり、諫早湾内の流動もかなり大きくなった。また、調整池内の水質は劇的に改善されたので、諫早湾や有明海に及ぼす影響は大きいことが予想される。経塚教授の示した開門方法で、成果が得られないというなら、その根拠と理由を具体的に示されたい。
五 調整池の水質について
1 答弁書は、「近年、化学的酸素要求量(以下「COD」という。)の改善傾向が認められる」と答弁しているが、平成十九年度までのデーターを踏まえて、改善効果の根拠と理由を明確に示されたい。
2 また、答弁書では、「調整池に流入する河川等からの有機物、窒素及びリンの削減が進んでいないこと等により、水質保全目標値に達しない状態が続いている」と答弁している。
しかし、潮受け堤防を締め切った一九九七年以降に下水道の整備などさまざまな対策を行ってきている。一九九七年時と比較して現在、調整池に流入するCOD、窒素及びリンの削減量等の状況について具体的に説明されたい。
3 諫早湾干拓調整池等水質委員会によるCOD濃度の高い原因に関する検討結果について、具体的に説明されたい。
4 諫早湾干拓調整池等水質委員会による、巻き上げ対策やその他の対策によって水質保全目標値が達成可能であるとした根拠と理由を具体的に示されたい。
5 児島湖での水質改善のために多額の費用をかけても水質改善されない原因について調査し、検討しているかどうか、また、児島湖で行われている流入負荷削減対策によって水質改善ができないのに、調整池では今後水質改善が実現できると考えている理由は何か、併せて伺いたい。
右質問する。