質問本文情報
平成二十年五月二十八日提出質問第四三九号
有明海の浄化と漁業環境の改善に関する第三回質問主意書
有明海の浄化と漁業環境の改善に関する第三回質問主意書
有明海の漁業環境の悪化と漁業被害は甚大であり、漁民の生活の窮状は想像を絶する深刻な事態にある。有明海の漁業者は、有明海の再生のために潮受け堤防の開放を求めている。
公共事業チェック議員の会(鳩山由紀夫幹事長、保坂展人事務局長)主催で、本年五月八日及び五月二十二日に、有明海再生のための諫早湾干拓潮受け堤防の開門に向けた農林水産省からのヒアリングが、衆参国会議員等の参加のもとに行われた。
ヒアリングにおいては、@潮受け堤防を開門すれば、有明海が良くなることは、二〇〇二年に実施された堤防排水門の短期開門調査で効果が実証済みであり、漁民が、タイラギやアサリが獲れたということを実感している、Aもぐり開門の方法によって、漁業被害や排水門の安全性の問題は生じないことが立証され、漁業被害等を理由に開門を拒否していた農林水産省の主張には合理性がない、B農業用水確保の目的で貯水している調整池は、本明川河口の堰や溜池の設置等の代替水源の対策により、干拓地の営農に必要な農業用水が十分に確保できる−ことが浮き彫りにされた。
これまで、諫早湾干拓潮受け堤防を開門できないとの農林水産省の主張がことごとく科学的根拠のない非合理的なものであることが明白になった。
有明海再生のために堤防の開門は、農林水産大臣の政治的な決断によって早期に実施されるべきである。
私は、このヒアリングでの議論や観点を踏まえて、本年四月十七日に提出した「有明海の浄化と漁業改善に関する再質問主意書」(以下「再質問主意書」という。)に対する四月二十五日の政府答弁書(以下「答弁書」という。)に関して、以下の事項について質問したい。
1 諫早湾のタイラギ不漁に関してはすでに一九九四〜一九九六年に調査を実施し、それ以降すでに十年以上経ているのに、いまだに原因不明としている。漁民からは、「いつまでも調査をし続けるのか」と、調査に対する疑問が出されている。原因不明とした根拠を述べていただきたい。さらに、現在独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所が行っている「有明海におけるタイラギ資源の減少要因の解明に向けた調査」が、具体的に何を明らかにしようとしているのか伺いたい。
2 再質問主意書では、諫早湾の妥当と思われる底質の堆積速度を〇.五cm/年と仮定することによる農林水産省の泥試料の堆積年について質問した。これに対して答弁書は、「厚さ十二センチメートル程度の底泥」と答えているが、そうだとすれば堆積するのに約二十四年間経過したことになる。このような試料によって五〜十年程度の粒度組成の変化が明らかになると考えているのか、答えられたい。
二 二〇〇七年八月の諫早湾のアサリのへい死について
1 二〇〇七年八月二十四日にアサリへい死の聞き取り調査を行って、二十六日に一斉調査を実施したというが、なぜ八月二十五日正午以後の二十六日早朝の上層に顕著に示された貧酸素によるアサリのへい死を除外するのか、また大量のアサリのへい死が二十六日以前に起きたという根拠と理由を示されたい。
2 答弁書は、「赤潮を形成する植物プランクトンが死滅すると海底に沈降してバクテリアによって分解されるが、その際、海水中の溶存酸素が消費されて底層が貧酸素化し、アサリがへい死することがある」と答弁している。農林水産省は、赤潮がアサリのへい死の直接の原因ではなく、貧酸素にあると考えているのかどうか答えられたい。
三 再生事業について
1 答弁書は、下水道整備事業及び農業集落排水処理施設整備事業の事業評価の結果については、それぞれ『個別公共事業の評価書』及び『公共事業の事業評価書』に記述しており、関係省庁のホームページ等で公表している旨、答えているが、なんら説明はなされていない。これらの事業により、水質がどのように変化したのかなど、根拠を示して具体的に説明されたい。
2 漁業環境保全創造事業の事業評価の結果についても、漁業環境がどのように変化したかなど、根拠を示して具体的に説明されたい。
3 答弁書では、汚水処理人口普及率が向上すれば、河川等の公共用水域に流入する化学的酸素要求量(以下「COD」という。)の総量は減少する旨、答えているが、どの程度、CODが減少しているのか、根拠を示して具体的に説明されたい。
4 漁業環境保全創造事業の費用対効果について、答弁書は「農林水産省が行った事前評価において、事業の実施により見込まれる効果が事業の実施に要する費用を上回っていたところである」と答えている。その根拠と理由を明確に説明されたい。
5 答弁書では、漁業環境保全創造事業についての農林水産省の事前評価では、「福岡県及び熊本県の行う事業についてもアサリ等の漁獲量の増加が期待できること等を確認し、事業の実施は妥当であると判断した」と答えている。その根拠を示して具体的に説明されたい。
四 開門について
1 答弁書は、「開門により予測される濁りの分布」については、平成十六年五月十一日に農林水産省が公表した「有明海の漁業関係者の皆様へ」の補足説明の「中・長期開門調査を実施することによる海域への影響と有明海の再生への取組について」の「中・長期開門調査実施の検討結果」において示されている旨、答えている。この答弁は、おそらく農林水産省九州農政局ホームページの農村振興局−諫早湾干拓事業−中・長期開門調査の取扱いについて−排水門の常時開放によりガタ土が有明海に広がる様子(開門三十日後)の図をさしているものと思われる。この図では有明海湾口部の濁り:懸濁物質(SS)濃度は一〇〜三〇mg/Lとなっている。再質問主意書では、「諫早湾干拓事業以前の濁りと、開門により予測される濁りの分布を示し、その上で漁業被害の根拠と理由を明確にされたい」旨の質問をしたが、これに対する答弁はなされなかったので、改めて、明確に答弁されたい。
2 再質問主意書では、「(九州大学大学院総合理工学研究院)経塚教授の示した開門方法で成果が得られないというなら、その根拠と理由を具体的に示されたい」と質問した。これに対して答弁書は、「短期開門調査で得られた成果以上の知見は得られない」と答弁し、なんら具体的な根拠と理由を示していない。
また、再質問主意書では、短期開門調査において諫早湾内の流動も大きくなり、調整池内の水質も劇的に改善されたことも指摘した。これに対する政府の見解を含めて、経塚教授の示した開門方法では、成果が得られないと考えているならば、改めて、その根拠と理由を具体的に示されたい。
五 調整池の水質について
1 答弁書は、平成十六年度、十七年度、十八年度及び十九年度におけるCODの濃度をそれぞれ、九.四、八.七、七.九及び八.六mg/Lである旨答えているが、これは七十五%値(五十二週の場合、小さい値の順に並べて三十九番目の値)と思われる。
そこで、農林水産省の調整池のB1、B2、S11、P1及びP2地点の週一回のモニタリングデータを用いて、各年度のそれぞれの七十五%値を求め、それを平均すると、九.一、九.五、九.四及び一一.五mg/Lの濃度となった。
これらの値は、農林水産省が示した値と比べると、平成十六年度は農林水産省の値の方が大きいが、それ以降は小さい。何故、このような違いが生じるのか、答えられたい。
2 答弁書は「調整池に流入するCOD、窒素及びリンの総量についてのデータは採取していない」と答弁している。しかし、九州農政局に設置された諫早湾干拓調整池等水質委員会において、平成十九年度に行った水質シミュレーションモデルを用いた検討結果による、平成十五年の調整池のCODの量を明らかにしている。データがなければシミュレーションの妥当性が検証できず、水質シミュレーションは、信頼できないものと考えられるが、見解を伺いたい。
3 答弁書は、諫早湾干拓調整池等水質委員会が、平成十九年度に行った水質シミュレーションモデルによる検討結果によれば、平成十五年における、底泥の巻上げ、流入各種排水、植物プランクトンの発生による調整池のCODの量は一六,三九三kg/日となっていると答弁している。
また、同委員会は、潜堤による巻上げ抑制効果によってCODを二,九九六kg/日減少させると推測している。潜堤は平成十八年度に完成しており、平成十九年度には約二十%のCOD濃度減少が期待されたが、実際にはむしろCODは増加している。潜堤の効果はみられなかったと考えられるがどうか、見解を伺いたい。
4 答弁書は、「諫早湾干拓調整池等水質委員会が、調整池の水質シミュレーションモデルによる水質予測結果を検討したところ、中長期的には、水質保全目標値の達成は可能であると判断されている」と答弁している。しかし、これまで、何回も期限までに水質保全目標値の達成は可能としながら、達成されてこなかったことについて、どのように考えているのか。また、一九九七年の潮受け堤防の締め切り以後の水質予測とその結果に関する考察資料の概要を示して具体的に説明されたい。
5 答弁書は、調整池の水質については、中長期的には、水質保全目標値の達成は可能なので、岡山県の児島湖のようにはならないという趣旨の答弁をしている。先に指摘したように、これまで目標値を達成すると言いながら実際には達成されてこなかった。このようなことを繰り返していて、調整池が児島湖のようにならないという根拠はない。児島湖でCODが少し減少したのは、大規模な浚渫を行ったことによるものと考えられるが、児島湖のCODの減少の原因について、説明されたい。
右質問する。