質問本文情報
平成二十年十二月十七日提出質問第三五三号
学齢期をすぎた義務教育未修了者の教育の保障に関する質問主意書
学齢期をすぎた義務教育未修了者の教育の保障に関する質問主意書
わが国には、学齢期にやむをえない事情から義務教育を受けられず、「字が読めなくて切符も買えない」など就労や社会生活などで深刻な不利益を被り、かつ、「死ぬ前に勉強がしたい」と願っているにもかかわらず近隣に夜間中学もなく修学の場が得られない方々が多数いる。全国夜間中学校研究会は、学齢期をすぎた義務教育未修了者を百数十万人と推計している。
憲法二六条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、なかでも義務教育を無償教育としている。この規定は、少なくとも本人の意思に反して義務教育を受けられないまま放置される人間を一人も出さないことを、国家につよく義務づけているものである。
ところがこの間政府は、関係者のつよい要望にもかかわらず、義務教育未修了者の実態把握をおこなわず、夜間中学増設などの施策をとることもしなかった。これらは行政の不作為の謗りを免れえないものである。
二〇〇三年二月二〇日、こうした状況にたいし夜間中学関係者らが、日本弁護士連合会に義務教育未修了者の救済を求める「人権救済申立」をおこなった。日本弁護士連合会は、「人権救済申立」を受け独自に調査・研究を重ねた結果、二〇〇六年八月一〇日、政府に「学齢期に修学することのできなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書」を提出するに至った。
同意見書は、憲法及び教育基本法、国際人権規約(社会権規約)及び子どもの権利条約等にもとづいて、「自己の意思に反し、又は、本人の責めによらずに義務的かつ無償とされる普通教育を受ける機会を実質的に得られていない者については、学齢を超過しているか否かにかかわらず、国に対し、合理的な教育制度と施策等を通じて義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを要求する権利を有するものというべきである」と認定し、政府による全国的な実態調査、調査をふまえた夜間中学設置の必要な地域の市町村・都道府県にたいする設置についての指導・助言等の実施を求めている。
問題の解決をこれ以上先延ばしすることは許されない。その立場から、以下質問する。
憲法二六条は「すべて(の)国民」に「教育を受ける権利」を保障し、教育基本法四条は「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければなら(ない)」としている。
やむをえない事情から学齢期に義務教育を受けられず、かつ普通教育を受ける意欲のある者は、義務教育レベルの教育を受ける権利を有すると考えるがどうか。
また、そうした者は、義務教育レベルの教育を受ける機会を与えられなければならないと考えるがどうか。
二 二〇一〇年国勢調査で、義務教育未修了者が判明できるように調査項目を改善することについて
すべての人々に義務教育の機会を提供するためには、学齢期をすぎながら義務教育を受けられずにいる人々がどれほどいるかを把握することが必要不可欠である。
それを調査しうる機会に、国勢調査がある。現在の国勢調査の質問項目では、政府も国会答弁で認めたように(二〇〇三年三月二六日参議院文教科学委員会、畑野君枝議員への答弁)、学齢期を超えた者について、「未就学者」(小学校に通ったことがない者又は小学校を中途退学した者)はわかるが、中学校を卒業したかどうかはわからない。このことは、義務教育の重要性に照らせば不合理である。
政府は畑野君枝議員に「(質問項目を)これ以上詳細に(すること)はなかなか難しい」と弁明したが、必要な改善は「在学中・卒業」の選択肢にある「小学・中学」を、「小学」及び「中学」に分けるだけにすぎない。義務教育の重要性に比べれば、政府の弁明に合理性があるとは言いがたい。
また、その後は、「教育に関する事項」は「多くの方々が回答しづらい……デリケートな項目」で「正確性の担保ということが難しい」から、分けることが困難だとの弁明もしているが(二〇〇七年四月二三日参議院決算委員会、神本美恵子議員への答弁)、それならば、教育に関する調査自体が、無意味なことになる。
義務教育の重要性に鑑み、次回二〇一〇年の国勢調査では、義務教育未修了者がわかるように調査項目を改善すべきと考えるがどうか。
三 未修了者の教育を受ける権利を保障するための政府の施策の強化について
政府は「勉強の意思を有する者がいる以上、何らかの学習の機会を提供することは必要なこと」であるとの認識を示してきた。ところが学習の機会を提供している唯一の公教育の場である夜間中学は、八都府県にわずか三五校しかない。そのため、たとえば埼玉県在住の未修了者は通う場所がない、あるいは夜間中学に通うために秋田県から東京都へ転居せざるをえない、など深刻な事態が引き起こされている。それを改善するための施策について質問する。
(1) 義務教育未修了者の実態に応じて、夜間中学校の設置の必要性が認められる地域について、当該地域を所轄する市町村及び都道府県に対し、その設置についての指導・助言をおこなうとともに、必要な財政的措置をおこなうべきだと考えるがどうか。
(2) 必要に応じて、@既存の学校の受け入れ対象者の拡大、Aいわゆる自主夜間中学校への施設提供や財政支援、B個人教師の派遣の実施、C遠隔地に通う場合の交通費の支給などの施策及び制度の確立をすすめるべきだと考えるがどうか。
右質問する。