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平成二十二年十一月二十九日提出
質問第二〇九号

「奨学金返還延滞増加」と「回収策強化」、「教育無償化」を巡る問題についての政府の認識に関する質問主意書

提出者  服部良一




「奨学金返還延滞増加」と「回収策強化」、「教育無償化」を巡る問題についての政府の認識に関する質問主意書


 独立行政法人・日本学生支援機構は、貸与された「奨学金」の返済延滞理由の多くが「失業」「借金返済」「低収入」など経済的に困難な状態に陥っている実態が明らかであるにも関わらず、本年四月に、全国銀行個人信用情報センターへの延滞個人情報提供に向けた「同意書」提出者への通知を開始した。
 日本学生支援機構による「奨学金の延滞者に関する属性調査結果」の平成二十一年度結果によると、延滞六ヶ月以上の者の延滞理由(複数回答)は「本人が低所得」四九・一%、「親の経済困難」三四・一%、「滞納額増加」二二・一%、「本人が失業(無職)」二〇・三%、「本人の借入金の返済」一九・四%となっている。この傾向は各年度調査で一貫してみられるものであり、サンプル調査ではあるが、平成二十一年度結果では「本人が低所得」との回答が前年度より約一〇%上昇し、約半数の者が挙げるに至っている。
 そもそも多くの延滞債権を生み出した原因は、有利子貸与を政策的に増加させて、大学・大学院卒業と同時に多額の「借金返済」を背負った労働者を大量に生み出し、「教育の機会均等の原則」に反する、「奨学金」制度の「教育ローン化」を進めてきたからである。
 日本学生支援機構の奨学金貸与は人数・金額ともに一貫して大幅に増加しているが、その多くは有利子奨学金によるものであることが統計上も明らかとなっている。平成二十一年度の有利子奨学金貸与額は平成十年度の約十一倍にも達する。逆に無利子奨学金貸与額は金額ベースでは増加しているものの、人数ベースでは減少傾向にある。
 今日、全労働者の約三分の一が「不安定雇用」の状態に置かれ、年収二百万円以下の労働者が一千万人を超え、格差の拡大と貧困化が急速に進んでいる。文部科学省が平成二十三年度予算「元気な日本復活特別枠」要望に係る資料においても引用がなされているOECD(経済協力開発機構)のデータ及び国際比較でも明らかとなっているが、日本は「大学の授業料が高く、学生支援が遅れている」国である。一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合も、公財政教育支出の対GDP比もOECD平均を下回り、主要国中最下位層に位置する。その結果、高等教育費の家計負担は特に高い水準となっている。大学生の三分の一が奨学金の貸与を受けている中で、返還延滞層と不安定雇用層が重なる状況となっていることは十分予想できる。
 前掲の平成二十一年度延滞者属性調査では、延滞六ヶ月以上の者の内、「正社員・正職員」は二八・五%に止まっている。これに対して、「アルバイト等」三六・九%、「無職・休職中」一九・二%と、合わせて約五六%に上る。これは無延滞者の正社員・正職員比率が六九・七%であることと顕著な対照を成している。また、延滞六ヶ月以上の者の年収は、「三〇〇万円未満」八七・五%、「二〇〇万円未満」六八・六%、「一〇〇万円未満」四〇・七%となっている。以上も毎年度の調査結果に一貫した傾向である。
 これらの数字は返還延滞層の困窮を十分に予想させるものであり、日本学生支援機構自身も同様の認識を持っていることは前掲調査結果をはじめ、諸文書からも明らかである。そうであるならば、「回収強化」に偏重し、延滞個人情報提供や民間債権回収業者への業務委託等の「返還促進策」を矢継ぎ早に講じるのではなく、まず、奨学生の進路や就労・生活状況、特に無収入又は低収入となっている返還者の存在とその実態を正確に把握し、緊急対策を講じることこそが求められる。
 返還困難者の実情を無視した強行かつ柔軟性のない対応に終始しているかに見える日本学生支援機構側の姿勢は、将来ある若者の未来をいたずらに奪うことに帰結するものであり、憲法第二十六条に規定される教育を受ける権利の保障の観点からも大変問題であると言わざるを得ない。
 よって、以下質問する。

一 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約/国際人権A規約)第十三条第二項(C)は「高等教育は…無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」と規定している。政府は、同規約を一九七九年に批准しながら、この条項については留保し続け、GDPに対する公財政支出学校教育費の割合を低く抑えてきたことが「私費負担率が高く高学費の高等教育」を生み出し、「教育の機会均等」を歪めてきた。しかも、「高等教育を受ける機会」が奪われないように制度設計すべき「奨学金」が返還義務のない「給付制」ではなく「貸与制」であり、有利子貸与のみを政策的に増加させて返済する経済基盤のない学生を「多額の債務者」として社会に送り出す事実上の「貸金業」に奨学金制度を変質させてきた。文部科学省も前掲「元気な日本復活特別枠」関連資料で「国際人権A規約の留保・撤回」に言及しているところ、政府は「高等学校無償化」に続き、大学・専門学校等における無償教育の漸進的な導入を図るべきと考える。
 ついては、高等教育の漸進的無償化に関する基本的認識と道筋、具体的には授業料減免措置及び「給付型」奨学金等の関係施策の抜本的拡充につき、見解と方針を明らかにされたい。
二 政府は、日本学生支援機構の「高等学校等奨学事業」を都道府県に移管し、制度・財源の均等化を図ることなく「都道府県格差」を生み出してきた。
 現在、「高等学校授業料無償化」が進められている中で、各都道府県で独自に授業料以外の負担軽減措置や私学負担軽減、高等学校等奨学事業の返還免除での「都道府県格差」が生み出されてきている。所得に応じた負担軽減の制度設計を行い、公・私立高等学校等の退学者理由として「経済的な理由」が生み出されないよう抜本的に制度を改善していく必要があると考えるが、その見解と方針を具体的に明らかにされたい。
三 日本学生支援機構による奨学金返還負担軽減策としては、「減額返還制度」の導入が本年度に実現したが、返還が最も困難な「延滞者」は対象外とされている。また、奨学金の返還促進に関する有識者会議「日本学生支援機構の奨学金返還促進策について」(平成二〇年六月一〇日)においても「いわゆる所得連動型」等の「諸外国のスキームについて研究を進めることも重要である」と指摘されているが、さらなる返還負担軽減策の検討及び導入が必要であると考える。
 延滞者には「延滞金」が返還額に加算されるが、日本学生支援機構の「業務方法書」において、返還者の支払金の充当順位は、@督促等に係る費用、A延滞金、B利息、C元金の順位と定められており、延滞者の中には返還しても一向に元金が減らず、更なる生活困難に陥る状況さえ生み出している。さらには、延滞金の減免制度が存在するにも関わらず、その存在が隠されている、申請をしようとしても門前払いをされた等の声が数多く聞かれる。
 全国銀行個人信用情報センターへ延滞個人情報を提供することは、このような背景と相俟って延滞者の生活困難状況に拍車をかけるものである。奨学金事業の根拠法となる憲法・教育基本法の原則に立ち返って、実務作業を凍結し、根本的な見直しをすべきと考える。
 独立行政法人日本学生支援機構法では、「教育の機会均等原則」を保障する公的機関として奨学金事業を行うことが明記されている。しかしながら、その趣旨に反する事業となっている現状を改めるべきであり、具体的には以下の点につき改善を図るべきと考えるが、各項につき見解を明らかにされたい。
 (1) 全国銀行個人信用情報センターへの延滞個人情報提供を凍結し、抜本的に改めること。
 (2) 業務方法書の支払金充当順位に係る規定を改定し、元金が減らず延滞者の困窮を深めることとなる現行の仕組みを見直すこと。
 (3) 「延滞金の減免に関する施行細則」(平成二十二年細則第九号)を積極的かつ柔軟に運用し、延滞者の事情に即して減免措置を適用すること。必要ならば、裁量的な適用拒否又は門前払いを防ぐために、細則を改定し運用の改善を図ること。
 (4) 奨学金返還延滞者や低所得者・生活困窮者に対する所得に応じた負担軽減等の制度設計を行い、早急に実現すること。
 (5) 債権回収業者への業務委託や法的強行手段などの督促・回収強化策を見直し、対策の前提として、奨学生の進路、就労・生活状況等の全体像を明らかにする実態調査を行うこと。
四 日本学生支援機構は「債権の償却に関する細則」(平成二十一年細則第七号)があるにも関わらず現実的には運用せず、返還が不能と判断できる「奨学生」への返還免除を実質的に切り捨てている。
 また、障害年金から返済している人がいることから考えると、「死亡又は精神若しくは身体の障害による奨学金返還免除に関する施行細則」(平成十七年細則第四号)についても、心身障害要件に該当する返還困難者が返還免除制度を知らない、または申請を不合理に却下される結果となっている懸念もある。
 「返還猶予」制度は『経済的理由で返還困難(年収三百万円以下・事業主は二百万円以下)』な「奨学生」を対象としているが、一年ごとの更新で最大五年までとなっている。失業や不安定雇用による生活困難状況が五年で改善されない「返還猶予者」も長期の不況と雇用環境の中で現出している状況にこの制度では対応できない。また、病気による返還困難の場合は五年という期限はないが、完治しない病気の場合でも「債権償却」規程の要件を満たすまでは返還猶予更新の手続きのために「診断書」を添付した猶予願いを提出し続けなければならない。制度として「債権償却」が想定されている以上、運用によって救済していくことが人道上必要であり、「奨学金」の趣旨を活かすものと考える。
 そもそも、前掲の平成二十一年度延滞者属性調査では返還猶予制度の認知度が低いという実態が明らかになっている。延滞六ヶ月以上の者で猶予制度を「知らなかった」と回答した者は五六・三%に達する。日本学生支援機構は制度の周知に努めているとしているが、それが十分にされないまま「回収強化」あるいは返還者側から見れば「強制」が先行していることが懸念される。
 ついては、以下の各項につき、見解と方針を具体的に明らかにされたい。
 (1) 「返還猶予」、「返還免除」、「債権償却」の各制度の運用を抜本的に改善し、その周知に努めるとともに、返還困難者の個別事情に即して積極的かつ柔軟に制度を適用すること。
 (2) 特に、要件の解釈や提出書類に関して、対応が硬直的であり、門前払いや誤った説明さえなされているという声も聞かれるところであるが、各制度に係る細則等の規定に即した適切なかつ透明性の高い対応を改めて徹底すること。
 (3) 各細則中の「但書」や「特例」規定が過度に厳格に解釈され、返還困難者の個別事情に即した適用を排除しているのであれば、これらの規定の一般化、要件の明確化等の必要な改定を行うこと。

 右質問する。



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