質問本文情報
平成二十二年十二月一日提出質問第二四二号
非正規労働者の雇用、保険、労働者性についての政府の認識に関する質問主意書
提出者 服部良一
非正規労働者の雇用、保険、労働者性についての政府の認識に関する質問主意書
非正規労働者の増加と、労働条件の悪化・不安定性が大きな問題となり、社会的関心を集めている。非正規労働者には様々な形態があるが、共通して、労働条件の不安定性が大きな問題として指摘されている。中でも、非正規労働者の弱い立場に乗じた形で、意図的に現行法の適正適用を行わない事例が散見され、改善が必要である。よって、以下質問する。
(1) 協会けんぽ及び厚生年金保険について、強制適用事業所でありながら、被用者(とりわけ非正規や有期雇用社員)の被保険者資格取得を届け出ない事業主が多いとの指摘がある。健康保険法第四十八条と厚生年金保険法第二十七条において、適用事業所の事業主による被保険者資格取得届出は明確に義務づけられており、適用除外については日雇、一般公務員、船員などに限定され、おのおの第三条但書と第十二条に明記されているところであり、その他に適用除外基準を定めた法律は存在しない。
よって、労働時間数を理由として被保険者資格が否認された場合には法的根拠がないと考えるが、見解を明らかにされたい。
(2) 一九八〇年六月六日付社会保険庁「内かん」は、「当該事業所において、同種の業種に従事する通常の就労者の、所定労働時間及び所定労働日数の、おおむね四分の三以上の就労者については、原則として、健康保険及び厚生年金の被保険者として取り扱うべきもの。これはあくまでパート労働者を対象とする」としている。
この「内かん」は、パート労働者の急増に鑑み、「社会保険加入促進のための行政指導例示」として、社会保険庁内部で説明されたものと承知しているが、現在、社会保険事務所の窓口において、当該「内かん」が法定の適用基準のように誤解され、結果窓口応接に混乱がみられる事例が多いとの指摘がある。また、一部の事業主がこの「内かん」に基づき、常勤労働者の週労働時間を二九.五時間として契約を行い、これを「四分の三に満たない」として健康保険及び厚生年金への加入義務を果たさない事例が後を絶たないという指摘も多く聞かれるところである。
このように「内かん」を唯一の根拠として、被保険者資格の否認や、被保険者資格の確認請求の却下を続けている社会保険事務所が一部で存在する。
これらの事実を承知しているか。また、指摘するような事例が発覚した場合には、どのような対処方針を持っているか。見解を明らかにされたい。
二 社会保険事務所ならびに厚生局が認めた雇用関係において、被用者の保険資格取得が行われていない場合の指導のあり方について
(1) ある企業(製造業)が、その企業(親会社)と同一の住所に子会社を設立し、親会社の被用者の多くを形式的に子会社の所属としている事例において、その被用者が、実質的な使用者は親会社であるとして社会保険事務所に被保険者の確認請求を行ったが、あくまでも子会社が使用者であるとされて当該社会保険事務所により請求を却下され、また係る審査請求について管轄の厚生局にも同様の理由により却下された場合の、管轄社会保険事務所ならびに厚生局のあるべき対応のあり方について、見解を明らかにされたい。
(2) この場合、管轄の社会保険事務所ならびに厚生局は、被用者と子会社の雇用関係を認めたことになると考えられる。雇用関係を認めつつも保険資格が認められていない場合には、雇用主に対して被用者の被保険者資格取得を指導すべきと思われるが、見解を明らかにされたい。
三 外国語指導助手(ALT)の雇用・契約形態の適正化について
(1) 近年、地方公共団体が設置する学校(小学校、中学校、高等学校)で、ALTを導入する例が増加しているが、教育の質の確保や授業の管理向上といった要件を満たす必要に鑑みれば、間接雇用や外注は困難なため、JET(国際交流事業)を含め、地方公共団体が講師を直接雇用するのが最良の方法と考えられる。しかし、外国人教師の雇用において、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下、労働者派遣法)が遵守されていない実態が指摘されている。
労働者派遣法によれば、ALTの外注は原則として一年限りで継続はできず、一年を超える場合、派遣先の地方公共団体は派遣労働者を直接雇用しなければならない。しかし、一部の教育委員会や契約業者が、一学期と三学期は授業を半分しか実施しない、一年間に九ヵ月の契約を反復するなどの手法により、継続雇用ではないと主張していると承知している。こうした事例を認識しているか。また、指摘のような事例については、地方公共団体による直接雇用を促すべく指導を行う必要があると考えるが、見解を明らかにされたい。
(2) 労働者派遣法上の義務を回避しようとするあまり、一部の教育委員会と契約業者が、実質的には派遣労働であるにもかかわらず、契約上は「委託」とする偽装委託が拡大しているとの指摘がある。文部科学省と厚生労働省は、各都道府県・指定都市教育委員会主管部長に対して、ティーム・ティーチングでの委託は不可能であるとする通知(平成二一年八月二八日、二一初国教第六五号)を行っている。しかし、一部の教育委員会と契約業者は、教諭とALTが一〇分ずつ交互に授業しているとすれば、委託は可能、授業の打合せをせず口をきかねば、ティーム・ティーチングにはあたらず、委託は可能等の見解のもと、当該通知に則らない契約を行っていると報告されている。
こうした事例を承知しているか。また、偽装委託と指摘される行為について、調査・摘発等の措置をとる方針はあるか。
(3) 文部科学省が実施した都道府県・指定都市教育委員会を対象に「外国語指導助手(ALT)の雇用・契約形態に関する調査」を行い、文部科学大臣も二〇一〇年七月一四日の会見で、「この実態を、いずれにしても私どもとしては把握する必要があると思いますし、やはり労働者派遣契約などで対応していく必要があると思っています。いずれにしても、実態をしっかり受けとめた上で、また改めて指導をしていきたいと思っています。」と述べているが、調査結果に基づく全般的な問題認識を明らかにされたい。同時に、本調査により、少なくない数の教育委員会が偽装との指摘がある前述の委託契約を継続していることが伺えるが、雇用・契約形態に係る法律の遵守を徹底するため、今後の指導の予定を明らかにされたい。
(4) ALTの雇用・契約形態に関する労働者派遣法や職業安定法違反の認定数ならびに改善勧告件数を、労働局毎、業者毎、教育委員会毎に、それぞれ過去一〇年度分明らかにされたい。また、法令違反を認定されても入札先を変更して同様の委託業務契約を繰り返す業者も散見される現状に鑑みると、違反をした契約業者名の公表等、再発を防止する手段が必要と思われるが、具体的な方針の有無ならびに内容を明らかにされたい。
(5) これら労働者派遣法違反とされる事案の中で、教育委員会が、改善策として「より委託に近づく変更」をあげている例も報告されている。しかし、こうした策では、外国語指導助手に対する派遣先の学校の指揮命令を完全になくすことにはつながらず、また、学校からの指揮命令がなくなるのであれば、学校教育法などで禁止されている一括下請負を容認する結果となる。係る認識も踏まえた上で、教育委員会、学校長、教諭のそれぞれについて、ALTに対する管理責任に関する根拠を明らかにされたい。
四 民間企業が運営する英会話教室講師の雇用・契約形態の適正化について
(1) 英会話教室を運営する民間企業の多くが、講師を労働者でなく個人請負としているとの指摘がある。結果、多くの講師に対して、労働基準法や公的保険の遵守義務が適用されておらず、年次有給休暇取得や健康保険、年金への加入が出来ないといったトラブルが多発している。都道府県労働委員会が、講師を労働者とした判断と命令を決定した例(二〇〇九年一二月、大阪府労働委員会)があるが、当該命令は守られていない。なお、講師が労働基準監督署に対し、年次有給休暇を取得できないと申告をした事例において、監督官が、「労働基準監督署は労働者性を判断できない」と判断した事例も報告されている。
実態として労働者であるにもかかわらず、請負契約を行って雇用責任を回避している使用者に対しては、講師の労働者性についての判断ならびに社会保険等の適用について適切に指導を行うべきと考えるが、見解を明らかにされたい。
(2) 講師を個人請負とし雇用保険にさえ加入させない一方で、厚生労働省による「授業料還付の教育訓練給付金」コースの指定を受けている企業も存在する。違法とされる偽装委託を行う企業に対して、厚生労働省が助成金を支給するのは不適切だとの指摘があるが、見解を明らかにされたい。
右質問する。