質問本文情報
平成二十四年三月十二日提出質問第一三四号
教科書問題及びILO/ユネスコ『教員の地位に関する勧告』に関する再質問主意書
提出者 服部良一
教科書問題及びILO/ユネスコ『教員の地位に関する勧告』に関する再質問主意書
本件提出者は平成二四年一月三一日付「教科書問題及びILO/ユネスコ『教員の地位に関する勧告』に関する質問主意書」(以下「一月三一日付質問主意書」と表記する)を提出し、同年二月一〇日付で内閣より答弁書(以下「二月一〇日付政府答弁書」と表記する)を受領したものである。
「一月三一日付質問主意書」に対する「二月一〇日付政府答弁書」の内容には、見解・認識等において、いくつか不明瞭な点がある。よって、再質問書を提出する。
以下、質問する。
二 「一月三一日付質問主意書」質問二で、扶桑社・自由社版中学校歴史教科書の本文記述「王政復古の大号令の中では(中略)『維(こ)れ新たなり』という言葉が用いられた。そこで幕末から明治維新にいたる一連の変革を明治維新とよぶ」に対し、二〇一〇年度の検定において「誤りである」との検定意見が付され、削除されたが、同様の記述が二〇〇〇年度の検定に提出された扶桑社版中学歴史教科書以来、二〇〇八年度検定までの「四回の検定では」何らの検定意見が付されることなく検定合格とされた。この事実に基づいて、「このような杜撰な『検定』を行ったのはなぜか」と質問した。
しかし、「二月一〇日付政府答弁書」の回答「二の1について」では、右の本文記述については二〇一〇年度の検定において「(右の通りの)検定意見を付したものであり、『杜撰な「検定」を行った』との御指摘は当たらないと考える」としているのみであり、過去四回の検定では何らの意見も付さなかったという点については言及していない。
右の「明治維新」の語源に関する誤った本文記述については、以下の通り、扶桑社版及び自由社版中学校歴史教科書の二〇〇〇年度以後、四回の検定に付された事実が判明している。
@ 扶桑社版「新しい歴史教科書」・二〇〇〇年度検定申請本
「王政復古の大号令は、神武天皇の建国の精神に立ち戻ることをうたった。その中で、旧来のものすべてを改め、すべてを新たに始めることを意味する『維れ新たなり』という言葉が用いられたので、幕末から明治初期にいたる一連の変革を明治維新とよんだ。」(一九一ページ)
A 扶桑社版「改訂版・新しい歴史教科書」・二〇〇四年度検定申請本
「王政復古の大号令の中では、旧来のものを改め、すべてを新たに始めることを意味する『維れ新たなり』という言葉が用いられた。そこで、幕末から明治初期にいたる一連の変革を明治維新とよぶ。」(一四二から一四三ページ)
B 自由社版「新編・新しい歴史教科書」・二〇〇八年度検定・初回申請本
「王政復古の大号令の中では、旧来のものを改め、すべてを新たに始めることを意味する『維れ新たなり』という言葉が用いられた。そこで、幕末から明治初期にいたる一連の変革を明治維新とよぶ。」(一四二から一四三ページ)
C 自由社版「新編・新しい歴史教科書」・二〇〇八年度検定・3)が不合格後の再申請本
(右記Bの記述と同一)
これら四回の検定において、いずれの年度の場合もこの本文記述に検定意見が付されることなく検定は終了している。
以上の事実経過に基づき、以下の質問をする。
1 「二月一〇日付政府答弁書」においては、二〇一〇年度検定では検定意見を付して上記の記述の誤りを是正したとされている。しかしながら二〇〇〇〜二〇〇八年の検定においては、一度も検定意見を付していない。その理由を質問する。なお、検定実務者は四回で数十人に及んでいたはずであるが、なぜこのような事態となったのか、特に明らかにされたい。
2 いわゆる「旭川学力テスト事件」に対する最高裁判所大法廷判決(一九七六年五月二一日)では、教育行政において「例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法二六条、一三条の規定上からも許されないと解することができる」と判示している。
「明治維新」の語源に関する教科書記述の誤りを是正するべき検定上の義務を、政府が長年に渡って怠ったことにより、この大法廷判決で例示された憲法違反の事態が生じている。前記四回の検定で合格した@ACの教科書の供給本で学んだ中学生の多くはすでに卒業しているため、正確な知識を知る権利を侵害されたままになっている。
そこで、何らかの方法でこれらの既卒者たちに正確な知識を知らせ、人権侵害の状況を解消する必要があると考えるが、政府の認識及び具体的な対応方針を明らかにされたい。
3 前掲ACの教科書供給本は、二〇一一年四月の中学一年生に渡され、地理と歴史は並行学習で二年間その教科書を使用するため、杉並区や大田原市、横浜市(一八採択地区のうちの八採択区)などの公立中学では、二〇一三年三月までの中学校在籍生徒にも前記卒業生と同様の人権侵害が生じることになる。
幸い、中学校に在籍中の生徒については、現在の二、三年生を含め、中学校を通しての是正及び救済措置が比較的確実かつ容易に実施可能と考えられる。そこで政府(文部科学省)は現在の中学校在籍生徒に対する上記人権侵害状況是正等の措置をどのように講じるのか、年度末を控え迅速な対応が必要な状況を踏まえ、具体的な方策を明らかにされたい。
三 「二月一〇日付政府答弁書」の回答「二の1について」では、「一月三一日付質問主意書」で扶桑社及び自由社の教科書について「数々の誤りが指摘されてきた」と明記したことに対し、「御指摘の『数々の誤り』が具体的に何を指すのか明らかでない」としているが、前出の「明治維新」の語源の誤記を是正させた二〇一〇年度の検定で、自由社版申請本に検定意見を付したのと同じ記述が前出Cの申請本にも載っていることは、文部科学省の検定実務者の手元にあるC申請本を精査すれば、容易に判明することである。
また、検定においては前例との整合性が問われるので、そうした不整合の事例が多数生じたことに検定実務者たちがまったく気付いていないとすれば、不作為の疑いが生じる。
さらに、すでに情報公開された関係資料などに拠って、民間団体などが精査作業を実施し、その結果も公表されている。それらによれば、Cの申請本に記載されていながら二〇〇八年度の検定では意見を付されずに供給本に残り、二〇一〇年度の検定では意見を付され書き換えられた事例が、合計四〇件超あることが判明している。
よって、次の事項について質問する。
1 前記のような不整合の事例多数の存在が指摘されてすでに半年以上になるが、政府(文部科学省)はこの事態を把握しているのか、明らかにされたい。把握していないのであれば、不作為であると指摘するが、そうした指摘に対しての所見を明らかにされたい。
2 すでに把握しているのであれば、同一の記述に対し、ある時は不問とし、ある時は意見を付すという検定の恣意的、便宜的な運用実態に対して、「職権濫用であり違法である」との判断が司法の場では確定しているという事実に照らし、この事態にどう対処する所存か明らかにされたい。ちなみに、ここで言う司法の判断とは、いわゆる第三次家永教科書訴訟の東京高裁判決(一九九三年一〇月二〇日)と、最高裁判決(一九九七年八月二九日)のことであり、この時の判決により国(文部省)側は賠償金の支払いを命じられている。
四 「二月一〇日付政府答弁書」においては、「一月三一日付質問主意書」で「検定済教科書にも誤りがある」と説明することも正当な指導であるとの判断に対しての見解を問われ、「各学校においては、学習指導要領に基づき、教科用図書を使用して、適切な指導が行われるべきものと考える」とのみ、回答している。具体性に欠ける回答であり、再度以下の質問をする。
1 「二月一〇日付政府答弁書」の「教科用図書を使用して、適切な指導が行われるべきもの」との回答は、「検定に合格した教科用図書であれば、たとえ記述の誤りが判明しても、そのまま使用して指導が行われるべき」とも解され、「明白に誤りが判明している記述部分の学習では、その部分に限り教科用図書を使用しない」という教育現場の判断も許容しない見解であるようにも読める。この回答は、こうした見解を表明したものであるのか、明らかにされたい。
2 二〇〇七年六月に改正された学校教育法に新設された「第二章・義務教育」の「第二一条・普通教育の目標」では、その第一号において「公正な判断力」の育成を明示している。判断力の育成には、多面的、弾力的で相対的に社会現象を把握できる学習環境が不可欠であることから、検定を経た教科書といえども学習の場では相対的存在として位置づけるべきものと考えられ、その点において文部科学省令に準じたものとされる学習指導要領の規定に優越した解釈が認められるべきものである。
また、文科省自身が二〇〇〇年一一月一七日の『文部広報』一〇二六号において、それまでの「学習指導要領は上限基準」としてきた指導は誤りで、「最低基準」であると訂正した事実がある。
従って、「二月一〇日付政府答弁書」にある「適切な指導」には「検定済教科書にも誤りがある」と生徒に説明することも含まれるとの解釈が成り立つことになる。この解釈についての可否を、抽象化することなく明確に示されたい。
五 「二月一〇日付政府答弁書」は「一月三一日付質問主意書」の「三から五までについて」回答をひとくくりにしている。よって以下について明確に回答されたい。
1 「二月一〇日付政府答弁書」回答には「御指摘の『勧告』については、旧文部省から、都道府県の各教育委員会に対して送付し、周知を図った」とあるが、その日時、及び、その態様について、本「勧告」コピーを配布したのみか、本「勧告」が採択された背景についての解説を付したか等、具体的に明らかにされたい。
2 「この『勧告』の内容については、我が国の実情や法制に適合した方法で取り組むべきものと考えており、各教育委員会に対して御指摘のような指導を行う予定はない」という回答は、「勧告」六一項(教員は……教科書の選択、教育方法の採用などについて不可欠な役割を与えられるべき)、四九項(教員団体は懲戒問題を扱う機関の設置に当たって、協議にあずからなければならない)、八四項(教員と使用者との間の紛争を処理するため、適切な合同の機構が設置されなければならない)について、「我が国の実情や法制に適合した方法ではない」と政府が考えていることを意味すると解釈されるが、この解釈は正当であるか、明らかにされたい。
また、これ以外の本「勧告」項目で、「我が国の実情や法制に適合していない」とされる項目があれば、該当項目を明らかにされたい。
3 「一月三一日付質問主意書」の質問五は、本年一月一六日最高裁判決が、東京都教育委員会による「日の丸・君が代」不起立教員への減給以上の懲戒処分を違法と断罪したことにかんがみ、本「勧告」の四九項、八四項が実践されれば、当該違法処分も避けられるのではないか、という趣旨のものであった。
しかし、「二月一〇日付政府答弁書」によれば、「また、この『勧告』の内容については、我が国の実情や法制に適合した方法で取り組むべきものと考えており、各教育委員会に対して御指摘のような指導を行う予定はない」としている。政府としては、今後、当該違法処分のような違法行為を各教育委員会が犯し、教職員の人権を侵害することのないよう、どのような指導を考えられているか、明らかにされたい。
右質問する。