質問本文情報
平成二十四年三月二十七日提出質問第一五六号
原子力発電所の安全に対する認識等に関する質問主意書
提出者 服部良一
原子力発電所の安全に対する認識等に関する質問主意書
原子力発電所の再稼働問題については、その手続き、判断基準はもちろん、原発の「安全」の定義も未だ不明瞭である。そこで、以下、政府の見解を質問する。
1 総理大臣らの政治的判断とは、何をいかなる基準によって判断するものであるのか、具体的に示されたい。
2 政府は、原発の安全は専門家が科学的に確認し、地元や広く国民の安心が得られるかどうかを政治的に判断すると説明しているが、再稼働問題に係る説明において政府が用いている「安全」「安心」「科学的」「政治的」という言葉の定義及びこれらの間の関係を明瞭に説明されたい。
3 政府が言うところの「安全」とは「絶対的な安全」であるのか、「相対的な安全」であるのか、政府の「絶対的」及び「相対的」の考え方を示しつつ、立場を明確にされたい。
4 政府は、国会答弁等において、一〇〇%の安全はあり得ないと言明している。その場合には、一定の要件によってリスク・ゼロとみなす等して「安全」の範囲を画することとなると思われるが、政府はそのような立場を取っているのか。そして、それは科学的判断であるのか、政治的判断であるのか、また、そのような「安全」は客観的に定義可能なものであるのか。以上につき、政府の認識を明確に示されたい。
5 政府は、安全については最新の知見に照らして不断の見直しが必要であると答弁してきたが、何を以て最新の知見とし、その時点での安全が確認されたとするのかは不明瞭である。これらに係る判断につき、いかにして科学的合理性を確保するのか、その方策を明らかにされたい。
6 班目春樹原子力安全委員会委員長は、浜岡原発差止め訴訟の証人として静岡地裁に出廷した際に、原発の設計には一定の割切が必要であるとの証言をした。福島第一原発事故後に、この証言について国会や記者会見の場において質された際には、割切の仕方が適切でなかった等の反省の弁を述べている。政府の認識として、それぞれの発言は科学的言明であるのか、あるいは政治的言明であるのかを明らかにされたい。さらに、以上の班目委員長の見解と比して政府の立場はいかなるものであるのか、4及び5の質問に関連して、政府は「安全については一定の割切が必要」と考えているのかという点を含めて、示されたい。
7 政府は、客観的に科学的真理が存在し、課題はそれを発見し、適切に説明することであるといった本質主義の立場を取っているのか、そうではなく、社会構成主義又は社会構築主義の立場を取っているのか、あるいはこれらの学術用語では定義できない見解を有しているのか、その科学観を明瞭に説明されたい。
8 大飯原発三・四号機ストレステスト一次評価結果の確認作業は、原子力安全・保安院意見聴取会及び原子力安全委員会検討会を中心に行われた。しかし、外部有識者の人選や利益相反問題をはじめ、選任された有識者以外の外部からの意見聴取は保安院ホームページでの受付のみであったこと、一部委員の強い異議に反して保安院意見聴取会の議論が打ち切られたこと、及び、四で指摘する事項や制御棒挿入性評価、機器・構造物の強度評価等の本質的な疑問点が解消していないことなどに照らすと、一連の検討過程が十分なものであったのか疑念が残る。しかるに、科学的合理性及び合意形成のあり方という両面から政府の見解を示されたい。
二 福島第一原発事故の検証においては、原子力規制のあり様も重要なテーマとなっており、言うまでもなく原子力安全・保安院及び原子力安全委員会はその中心的な検証対象である。事故の反省故に、政府は環境省に原子力規制庁を設置する等の改革法案を提出したのであるが、これに対しては国会事故調査委員会の黒川清委員長より、「今般の事故を踏まえた「行政組織の在り方の見直し」を含め提言を行うことを任務の一つとして」いる同委員会の調査中に政府が法案を決定したことは「理解できません」との厳しい批判声明が発せられている。そこで一の質問を踏まえつつ、以下の点について政府の見解を明らかにされたい。
1 福島第一原発事故後もなお原子力安全・保安院及び原子力安全委員会が原発の安全について科学的その他の判断をする主体足り得ると政府が判断しているのであれば、科学論的見地を含め、その根拠を明示されたい。
2 新たな原子力規制機関(政府案では原子力規制庁)が原発の安全確認を行うべきであるとの意見及び新たな原子力規制機関は国会事故調査委員会の結論を待って設立されるべきであるとの意見について政府はそれぞれどのような見解を有しており、その根拠はいかなるものであるか。
三 原子力安全・保安院及び原子力安全委員会による大飯原発三・四号機ストレステスト一次評価の確認結果に係り、一次評価の性格及び正当性に関して政府の見解を問う。
1 班目委員長は去る三月二三日の安全委員会記者ブリーフィング(以下、単に「記者ブリーフィング」という)において、「我々は、安全性の確認を求められているとは思っていません」と発言し、従来よりの見解を繰り返しているが、それでは、ストレステスト一次評価に係り原子力安全委員会が何を確認したのかを端的に説明されたい。
2 二〇一一年七月一一日付「我が国原子力発電所の安全性の確認について」では、ストレステスト結果につき、「原子力安全・保安院が確認し、さらに原子力安全委員会がその妥当性を確認する」とされており、同月二一日付原子力安全・保安院の「評価手法及び実施計画」においても「同委員会の確認を求める」とされていたところである。これらの文書においては、安全性そのものについても原子力安全委員会が一定の確認をすることが想定されていたのではないか、政府の明確な説明を求める。
3 記者ブリーフィングにおいて、班目委員長は、「安全性というのは……総合的に見なければいけない」のであって、「それに対して、非常に簡略的な方法で一次評価が出てきた」ので、「二次評価に向けていろいろと意見を付けさせていただいた」と発言している。これらは、複数のレベルないしは種類の「安全」があることを示唆したものである。さらに班目委員長は、一次評価が簡略的評価であることに関し、「現実的な評価を是非、お願いしたい」と述べ、その文脈において、「また変な安全神話が生まれかねない」との懸念も表明している。以上に鑑み、今回の一次評価で確認された安全とはいかなるものであるのか、また、原発再稼働にあたっては、ストレステスト二次評価を要することなく安全が確認できるとする科学的根拠は何であるのか、明瞭に説明されたい。
4 班目委員長は記者ブリーフィングにおいて、「安全性の確認」や「再稼働の是非」に係る質問に対しては直接的に答えていないが、「総合的安全評価としては、一次評価では不十分」であり、「世界的に納得を得られるものではない」ので、「是非今後、二次評価まで含めてやっていただきたい」との見解を表明した。そして、昨年七月六日に安全委員会として「総合的安全評価」を求め、それを受けて保安院から一次評価と二次評価とに分けるとの計画が出てきたのを了承したことについては、「二次評価まで当然、やってくださいますよね」という前提があり、また「当時はまさかこんなに時間がかかるとは思ってない」から「一次評価というのは、さっとやるので、設計許容値等を判断基準にしますよ、ということで了承してしまった」と苦言を呈している。この経緯を踏まえると、ストレステスト一次評価及びそれを用いて原発再稼働の判断を行うことの正当性が失われたと考えるべきではないか。
四 大飯原発三・四号機のストレステスト一次評価の確認結果の内容に係り、以下の点につき説明されたい。
1 原子力安全委員会は、三月二三日付文書(「関西電力株式会社大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する原子力安全・保安院による確認結果について」をいう。以下同じ)において、「緊急安全対策は、上記(=炉心損傷に至り得るような)シナリオの発生を防止する効果を持つものではないが、発生した場合には……炉心損傷を回避して安定的な冷却に至る成功パスの可能性を高める効果を持つ」としている。原発再稼働にあたっては、この水準の安全対策で十分であるとする根拠はいかなるものであるのか。
2 同様に、三月二三日付文書では「シナリオ同定の頑健性」について指摘をしており、「施設の潜在的な脆弱性を把握する際の地震起因シナリオの同定、特に進展速度の速いシナリオのふるい落としにおいては慎重を期すべきである」としている。記者ブリーフィングで班目委員長は、「成功パスをひとつに絞らないで、他のもっと現実的な対策での成功パスみたいなものもちゃんと評価してもらいたい」と解説している。再稼働にあたっては複数シナリオの同定をせずに確認された安全で十分であるとする科学的根拠はいかなるものであるのか。
3 前問にも関連するが、福島第一原発事故の検証作業に係り、政府事故調査委員会は中間報告段階であり、国会事故調査委員会の調査開始からは三カ月余りに過ぎず、事故原因究明はまだまだ途上である。この時点でなされるストレステストにおいては、福島第一原発事故の原因や実際の事象進展がイベントツリー等に十分に反映されていない懸念が強いが、それにも関わらず、科学的に安全が確認できるとする根拠や合理性はどこにあるのか。
4 大飯原発については耐震バックチェックも完了していない。政府はその時点での評価を示し、そのことを含めて地元や国民の理解を求めるとしているが、新たな知見が得られる可能性が抽象的、論理的なものに止まっているのではなく、東日本大震災の知見や教訓を踏まえ、現実に調査・検討が開始または再開されていること、特に、若狭湾の津波痕跡の調査や断層の三連動の検討などが進んでいることに鑑みれば、知見追求の具体的な要請があり、かつ新たな知見が得られる一定の蓋然性が存在するのであって、その帰趨を待たずに判断を下すことは合理性に欠け、瑕疵ある判断をもたらす可能性が高いと考える。政府はそれでもなお安全の確認は可能であるとするのか、そうであればその根拠は何であるのか。
右質問する。