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平成二十六年四月二十五日提出
質問第一四八号

「砂川判決」と集団的自衛権に関する質問主意書

提出者  辻元清美




「砂川判決」と集団的自衛権に関する質問主意書


 安倍総理大臣は、二〇一四年四月八日の民放番組で、集団的自衛権をめぐり、一九五九年十二月十六日の最高裁判所大法廷判決(以下「砂川判決」)の解釈について「個別(的自衛権)も集団も入っている。両方にかかっているのが当然だ」<発言1>と述べ、判決が認めた「(国の)存立を全うするために必要な自衛のための措置」には集団的自衛権も含まれるとの見解を示した。
 安倍総理はかつて以下のように発言している。「当時の岸総理大臣が、(略)外国まで出かけていってその国を守るという典型的な例は禁止をしているが、しかし集団的自衛権というのはそういうものだけではない、学説が一致をしているとは思わない、そこにはあいまいな点が残っているということを答弁しているわけであります。」(一九九九年四月一日、衆議院日米防衛協力のための指針に関する特別委員会)<発言2>。これは下記の質疑について述べていると考えられる。
 <一九六〇年三月三十一日、参議院予算委員会>
〇国務大臣(岸信介君) 日本の憲法におきましては、これを外国に出て他国を、締約国であろうとも、その他国を防衛するということは憲法が禁止しておるところでございますから、私はその意味において(略)集団的な自衛権の最も典型的なものはこれは持たない。しかし、集団自衛権というものが、そういうものだけに限るのだ、その他のものは集団的自衛権に入らないというふうには、私が知っております限り、学説が一致しておるとも思わないのであります。(中略)そこにあいまいな点が残っておるわけであります。<答弁1>
〇国務大臣(岸信介君) しかし、他国に基地を貸して、そして自国のそれと協同して自国を守るというようなことは、当然従来集団的自衛権として解釈されている点でございまして、そういうものはもちろん日本として持っている、こう思っております。<答弁2>
 しかし、続く野党委員の追及によって、岸元総理は事実上の答弁修正を迫られている。
〇秋山長造君 今度の条約の第六条で基地を貸しておるというのは、つまり今総理大臣のおっしゃるような集団的自衛権に基づいて貸していると、こういうふうに解釈していいのですか。
〇国務大臣(岸信介君) 法律的な問題ですから、法制局長官からお答えいたさせます。
〇政府委員(林修三君) (略)集団的自衛権という言葉についてはいろいろ幅のある解釈があるわけでありまして(略)たとえばアメリカが他国の武力侵略を受けた場合に、これに対して一定の基地等を提供する、あるいは経済的援助をするというようなことは、これを集団的自衛権という言葉で理解すれば、これは集団的自衛権の問題じゃないかと思うわけでございます。それから、いわゆる、日本を守るために日本が日本の独力で守れない、そういう場合に、アメリカ軍の駐在を求めて、日本が共同で守る。これはわれわれは実は個別的自衛権というもので説明できることと思っております。個別的自衛権の範囲と思います。<答弁3>(略)
〇秋山長造君 この条約の中で、日米双方の行動について取りきめられておるのですが、少なくとも日本側の一切の行動はこれは全部個別的自衛権による行動に限られておるわけですか
〇国務大臣(岸信介君) その通りであります。<答弁4>(略)
〇国務大臣(岸信介君) (略)私どもが個別的自衛権で説明をいたしておるということは、何かこじつけというようにおっしゃいますが、そうは考えておらないのであります。<答弁5>
 当時の状況と現在の政府の考え方については、安倍委員の質問に対する下記の答弁がある。
その言葉に多様な理解の仕方が当時は見られたことを前提といたしまして、御指摘のような行為につきまして、そういうものを集団的自衛権という言葉で理解すれば、そういうものを私は日本の憲法は否定しているとは考えませんと述べたにとどまるものと考えております。現在では、集団的自衛権とは実力の行使に係る概念であるという考え方が一般に定着しているものと承知しております」(二〇〇四年一月二十六日、衆議院予算委員会、秋山内閣法制局長官)。
 さらに砂川判決について政府は、下記のような答弁をしている。
「判決で言っておりますのは、自衛のための措置をとること、それから自衛権があること、そのことだけを判断をしているわけです。そのほかのことについては触れておりません。(略)あの場合にはアメリカの駐兵の問題が問題だったわけでございますので、その点以外のことについて、判決はそれ以上にわたって判断を下しておりません。」(一九六七年三月三十日参議院予算委員会、高辻正巳内閣法制局長官)<答弁6>
 上記のように砂川判決は「憲法第九条は、我が国に対する武力攻撃が発生した場合における我が国が主権国として持つ固有の自衛権まで否定する趣旨のものではな」(内閣法制局作成『憲法関係答弁例集』一頁)いとしたものであり、「アメリカの駐兵の問題(略)以外のことについて、判決はそれ以上にわたって判断を下して」いない。「アメリカの駐兵」については集団的自衛権について「あいまいな点が残っておる」当時でさえ、集団的自衛権による説明を岸元総理や内閣法制局は否定した。従って砂川判決が認める「自衛権」に「集団的自衛権」が入るとは解釈できない。
 以下、質問する。

一 安倍総理の<発言2>について。
 1 安倍総理が<発言2>で「集団的自衛権(略)にはあいまいな点が残っている」と答弁しているが、それは岸元総理大臣の<答弁1>を指しているのか。
 2 一九六〇年三月三十一日の段階で、政府は集団的自衛権の解釈例として、「他国に行ってこれを守る」という「典型的なもの」をのぞき、「アメリカが他国の武力侵略を受けた場合に、これに対して一定の基地等を提供する、あるいは経済的援助をする」をあげている。当時、上記以外に政府が想定していた集団的自衛権の解釈例はあったか。
 3 岸元総理は<答弁2>で「他国に行ってこれを守る」以外の集団的自衛権の解釈例として、「他国に基地を貸して、そして自国のそれと協同して自国を守る」ことをあげ、「日本として持っている」と述べた。しかし当該委員会で政府は、日米安保条約に基づく米軍基地の提供について<答弁3>で「日本を守るために日本が日本の独力で守れない、そういう場合に、アメリカ軍の駐在を求めて、日本が共同で守る。これはわれわれは実は個別的自衛権というもので説明できる」と答弁しており、岸元総理大臣も<答弁4、5>で追認している。これは「あいまいな点が残っておる」一九六〇年当時でさえ、例え「典型的なもの」以外の集団的自衛権の解釈例があった場合でも、その行使が不可能である政府見解を示した答弁である。現在も政府は同じ見解か。
 4 <答弁6>によれば、砂川判決は「アメリカの駐兵の問題(略)以外のことについて、判決はそれ以上にわたって判断を下しておりません」としており、「アメリカの駐兵の問題」について岸元総理は「個別的自衛権で説明をいたしておる」と答弁している。したがって、<答弁6>における「自衛権」は「個別的自衛権」を指していると考えるが、政府の見解はいかがか。
 5 そうであるならば、「あいまいな点が残っておる」一九六〇年当時でさえ、「砂川判決は、集団的自衛権の行使を認めたものではない」という政府見解をもっていたことで間違いないか。
 6 これまで<答弁6>で示されてきた「砂川判決は、集団的自衛権の行使を認めたものではない」とする政府見解は、安倍政権でも変わらず受け継がれているか。変わったのであれば、なぜ、どのように変わったのかを示されたい。
 7 政府はかつて、砂川判決において「集団的自衛権の行使を認めている」という判断がされたとする答弁をしたことがあるか。
 8 現在の安倍政権は、砂川判決において「集団的自衛権の行使を認めている」という見解か。
 9 砂川判決が「集団的自衛権の行使を認めている」と政府が解釈した場合、「集団的自衛権は保持しているが行使できない」とする従来の政府見解に、何らかの変更を加えることになるか。
二 安倍総理の<発言1>について。
 1 安倍総理が<発言1>で「砂川判決が集団的自衛権の行使を認めている」とする根拠は何か。
 2 安倍総理は、<発言1>のあった番組に「私人」として出演し、発言したのか。それとも「内閣総理大臣」として出演し、発言したのか。
 3 内閣法制局は、安倍総理から砂川判決と集団的自衛権の関係について、問われたことがあるか。それはどのような内容で、どのように答えたのか。
 4 安倍総理が砂川判決と集団的自衛権の関係について、従来の政府解釈と異なる発言を公的にしているならば、修正すべきと考えるがいかがか。
三 砂川判決について。
 1 「日本国民は(略)いわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意した」とした砂川判決が、「わが国の防衛力の不足(を)……補(う)」軍事力として、日米安保条約による米軍の駐留を合憲とした根拠は、個別的自衛権か、集団的自衛権か、両方か。政府の見解を問う。
 2 個別的自衛権ならば、<答弁3、4、5>との整合性がある。しかし集団的自衛権または両方ならば、<答弁3、4、5>との整合性がないのではないか。
 3 個別的自衛権ならば、自衛隊は、合憲とされた「わが国防衛力の不足を補う」軍事力によって補われる防衛力であると解釈される(これをもって砂川判決が自衛隊の合憲性を間接的に示した、という議論があるが、政府は<答弁6>で否定している)。しかし集団的自衛権または両方ならば、自衛隊は「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」(自衛権発動の三要件)を発動要件としない、米軍の軍事力の不足を補う防衛力ということになり、「我が国を防衛するための必要最小限度の実力」を超えるため違憲となる。従って「砂川判決が集団的自衛権を認めた」という解釈を採用した場合、これまでの政府解釈に従えば自衛隊は違憲ということになるのではないか。
 4 福島みずほ議員の質問主意書に対し、政府が閣議決定した答弁書(二〇一四年四月十八日答弁、内閣参質一八六第六七号)によれば、集団的自衛権の行使に当たって国連安全保障理事会に報告されたものは十四件である。このなかに日本のケースは入っていないが、日米安保条約に基づく基地提供や米軍の駐留については、日本は米国に対して集団的自衛権を行使したが報告しなかったのか。米国は日本に対して行使したが報告しなかったのか。

 右質問する。



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