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平成二十八年五月九日提出
質問第二六八号

「子どもの死因究明制度」の構築に関する質問主意書

提出者  阿部知子




「子どもの死因究明制度」の構築に関する質問主意書


 虐待による子どもの死亡事例は、厚生労働省による直近の二千十三年度検証報告書によれば、心中を除き年間三十六人である。死亡した子どもの年齢は、零歳が十六人(四十四・四%)と最も多く、零歳から二歳までを合わせると二十四人(六十六・七%)と大部分を占めた。
 子どもの虐待死が発生するたびに緊急対策や再発防止の取り組みが議論になり、先月二十五日には厚生労働省が児童虐待への対応強化のため、児童福祉司などの専門職を現在の四千三百十人から二千十九年度までに千百二十人増やす「児童相談所強化プラン」を発表した。専門職の増員や警察との連携強化、一時保護所の環境改善などが盛り込まれたことは、一定の評価をしたい。
 一方、こうしたいわば予防のための対策強化に対して、死因究明のシステムは確立されておらず、「虐待死見逃しの可能性」が指摘されている。先の報告書でも、前年の二千十二年度は五十一人であったことから、三十六人は大幅に減ったように見えるが、わが国の不十分な死因究明体制を見ると単純には肯定できない。
 諸外国では、「予防できる子どもの死亡」をなくすために、子どもが死亡した場合にその原因や状況を詳細に検討して対策につなげるための「チャイルド・デス・レビュー」制度を活用して成果を上げている。虐待死を減らすには潜在する死亡把握が不可欠であり、そのためには子どもの死亡全体の把握と検証が必要と考えられるが、わが国にはそのために必要な情報を収集し分析する機関はいまだ存在しない。
 従って、とりわけ子どもの死亡に対する公的な死因究明制度の早期の創設を求め、以下質問する。

一 死因究明等推進計画の執行状況について
 一) 過去、ガス湯沸かし器による中毒死事件、力士暴行事件など、死因の究明が十分にされなかったことによる事件の見逃しが社会問題化したことを背景として、二千十二年九月に施行された「死因究明等の推進に関する法律」により、内閣府に置かれた「死因究明等推進会議」において死因究明等推進計画が策定(二千十四年六月公表)された。その中の重点的施策として「死因究明を行う専門的な機関の全国的な整備」が第一に上げられ、政府において関係省庁間の管理・調整を行う体制の構築と推進計画の実施及び検証・評価・監視が義務付けられたが、これらの取組の経緯と現状について具体的に示されたい。
 二) 都道府県においては「死因究明等推進協議会」の設置が義務付けられたが、直近の設置・活用状況について、政府の承知するところを都道府県ごとに可能な限り詳しく示されたい。
二 死因究明のための解剖実態について
 一) 刑事訴訟法による司法解剖は警察が取り扱う死体のうち何例か。解剖に付された実数と割合を年次ごと、都道府県ごとに示されたい。また、解剖に係る年間予算と費用負担について明らかにされたい。
 二) 現在、監察医制度のある自治体はどこか。また、警察が取り扱う死体のうち監察医解剖に付された実数と割合を年次ごと、都道府県ごとに示されたい。また、解剖に係る年間予算と費用負担について明らかにされたい。
 三) 犯罪による死かどうか分からない場合でも、死因究明や身元確認は警察署長の義務とされ、裁判所の令状や遺族の承諾なしに遺体の解剖を可能とする「死因・身元調査法」が二千十三年四月に施行された。この「新法解剖」下で、警察に届けられた遺体のうち、解剖に付された実績を年次ごと、都道府県ごとに示されたい。また、解剖に係る年間予算と費用負担について明らかにされたい。
 四) 「新法解剖」下で遺体を解剖する際の判断基準として統一されたマニュアルやガイドラインがあれば示されたい。また、ないとすれば各都道府県の実施基準をどのように把握しているか、示されたい。
 五) 以上一)から四)を踏まえ、死因究明のための解剖実態の現状について、政府の認識と今後の取り組み方針を示されたい。
三 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等報告のあり方について
 一) 厚生労働省社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会に対し、子ども虐待による死亡事例等の検証結果が報告されており、現在のところ、二千十五年十月に報告された第十一次報告(対象期間二千十三年四月〜二千十四年三月)が最新である。心中以外の死亡者数は第一次報告から累計で五百八十二人とされているが、この五百八十二人について解剖の有無はどうか。また、解剖は病理解剖、司法解剖、監察医解剖、新法解剖のいずれか、実数と割合を示されたい。
 二) 言うまでもなくこの報告書の五百八十二人が児童虐待による死亡事例のすべてではない。医療機関等の見過ごしにより警察への通報が行われない場合、あるいは直接警察が把握する場合であっても事故死等、犯罪性がないと判断されれば、「新法解剖」下においても解剖による死亡原因の究明が行われない実態があるからである。こうした「見逃し」の可能性について、どう認識しているか。
四 すべての子どもの虐待死を積極的に発見するシステム構築について
 一) 二千九年改正の臓器移植法により小児の脳死臓器移植が可能となったことを受け、被虐待児からの臓器提供を回避するため、ガイドラインに「虐待を受けた児童への対応等に関する事項」が新設され、臓器摘出医療機関に虐待対応の体制構築とマニュアル整備、虐待の有無の確認、児童相談所や警察への通報及び関係機関との連携が義務付けられた。以来、六歳未満の脳死判定は六例目、十五歳未満の脳死判定は十二例目であるが、このすべてにおいて虐待の有無をどのように判定したのか、その手順を可能な限り具体的に示されたい。
 二) 本来は移植医療を前提とするのではなく、すべての虐待死を積極的に発見するシステムを全医療機関に構築すべきではないか。少なくとも交通事故など、第三者の目撃可能性のある場合を除き、とりわけ家庭内や保育園等で死亡した事故の場合には、原則として解剖して死因を検証する制度を整備する必要があるのではないか。
 三) 最近の事例では睡眠中に心肺停止で救急搬送された生後二か月の乳児が、虐待が疑われるとして司法解剖に付された結果、A型インフルエンザとRSウィルスが検出され、ダブル感染したために急激に状態が悪化して死に至ったためと判明した。当時はRS感染症の流行の兆しが表れ始めた時期で、この事例は解剖による死因究明が、子どもの事故死、病死などについても死因を検証しデータベース化することで、死亡に繋がる事故の防止、病気に対する予防等、広く子どもの健康と安全増進のために有益であることを示している。
 各地域の法医学教室、変死体などを検査する医師、警察、行政の連携の推進と、予算の確保等、死因究明等推進計画の執行について、早急に政府を挙げて取り組むべきと考えるがどうか。

 右質問する。



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