質問本文情報
平成二十八年五月三十日提出質問第三一九号
理学療法士・作業療法士の臨床実習に関する再質問主意書
提出者 阿部知子
理学療法士・作業療法士の臨床実習に関する再質問主意書
理学療法士・作業療法士の臨床実習について、平成二十八年三月九日付質問主意書に対する答弁書を踏まえ、以下質問する。
一) 理学療法等学生の臨床実習において、学生が患者に理学療法等行為を実施しなければ達成できない教育上の目的は何か。見解を示されたい。
二) 理学療法等学生の臨床実習において、学生が患者に理学療法等行為を実施することを認めるのであれば、医学生や看護学生の臨床及び臨地実習と同様に、侵襲性のそれほど高くない一定のものに限られるべきであるが、理学療法等学生の臨床実習に関して侵襲性のそれほど高くない技術項目とは何か、具体的に示されたい。
三) 理学療法等学生の臨床実習において、学生が患者に理学療法等行為を実施することを認めるのであれば、医学生や看護学生の臨床及び臨地実習と同様に、一定の要件を満たす指導者によるきめ細かな指導・監督の下に行われることが必要であるが、理学療法等学生の臨床実習地での指導体制はどのようにあるべきか、具体的に示されたい。
四) 理学療法等学生の臨床実習において、学生が患者に理学療法等行為を実施することを認めるのであれば、医学生や看護学生の臨床及び臨地実習と同様に、学生の技量の修得が実践可能な水準に達していることを確認する必要があるが、理学療法等学生の臨床実習前の技量についてどのように評価を行うべきなのか、具体的に示されたい。
五) 理学療法等学生の臨床実習において、学生が患者に理学療法等行為を実施することを認めるのであれば、医学生や看護学生の臨床及び臨地実習と同様に、患者の同意を得る必要があるが、患者の同意はどのようにして取られるべきか見解を示されたい。
六) 右記の一)から五)が具体的に示され担保されない限りは、学生が行う理学療法等行為は理学療法士等が行う理学療法等行為と同程度の安全性が確保される保障はない。理学療法等学生が臨床実習で患者を担当して一連の理学療法を実施するのは、患者の安全性確保の点から不適切であり、現状の臨床実習は直ちに中止し、資格取得後の研修へ切り替えるべきではないか。
七) そもそも、理学療法士等が実施した検査・評価・治療・訓練は全て保険医が承認して初めて診療報酬請求できるものであるが、理学療法士等の資格のない学生の行為について診療報酬を請求することについて、違法性はないとする根拠は何か。
八) 患者にとって治療の本来の目的は病気の治癒及び症状の改善であり、理学療法士等学生の経験に資するためではないのは当然である。しかし、一部の理学療法士等学生の臨床実習では、すでに治療方針が立てられて治療が相当程度進んでいるにも関わらず、新規の患者に対して行われる初期評価から学生に実施させている実態がある。このことは、不必要な様々な検査を患者に強いることを意味し、病気の治癒及び症状の改善という患者にとっての本来の目的が無視されているといえる。このような実習は、例え患者が同意していたとしても倫理上問題があり、実習として適切ではない。この点について見解を示されたい。
二 臨床実習の実態について
一) 理学療法等学生の臨床実習に関して具体的な内容を明確にしているというが、その内容は医学生や看護学生と比較してきわめて不十分である。また、学生が臨床実習において理学療法等を行うのであれば、「臨床実習検討委員会最終報告」及び「看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書」のような細かく具体的な指針を作らない限り、患者及び学生に対する安全性の確保は不可能である。厚生労働省も理学療法学生の臨床実習に関する指針はないと認めているが、「臨床実習検討委員会最終報告」及び「看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書」に相当する指針が必要ではないか。見解を示されたい。
二) 理学療法士等の入学定員が二万名を超える現状で、これらの学生に対して十八単位(八百十時間)の臨床実習を指導する理学療法士等は何名必要であると考えるのか具体的に示されたい。
三) 理学療法士等学生の臨床実習においては、実習指導者のうち一人が三年以上の業務経験を有したものであれば臨床実習地の指導者の要件は満たしたことになる。看護学生の臨地実習において定められている実習調整者・実習指導教員に相当する規定もなく、さらに実習指導者に実習指導者講習会の受講義務もない状態である。このため、臨床経験一〜二年で指導者等講習会に参加したことのない理学療法士が、実習指導者として独断で学生を指導する実態がある。理学療法士等学生の臨床実習について指導方法を標準化し、現状のカリキュラムに即した実習を学生に保証するため、臨床実習指導者の研修を義務化すべきと考えるがどうか。
四) 専門科目の卒業要件単位の約三割を占める臨床実習は、療法士等養成課程において極めて重要な科目として位置付けられる一方で、臨床の理学療法士等の業務は年々過重を極め、臨床実習を引き受けることは負担でしかないと言われている。このような状況で、現状のような無償を前提とする臨床実習指導体制は今後維持不可能である。臨床実習指導者の地位向上及び臨床実習指導に対する対価の支払いが必要と考えるがどうか。
五) 理学療法士等学校養成施設指定規則第二条第十号で「臨床実習を行うのに適当な病院、診療所その他の施設を実習施設として利用し得ること」とされているが、「適当な病院、診療所その他の施設」とは具体的にどのような施設か。看護学生の臨地実習施設の規定と対比して示されたい。実習指導者に対する研修の義務づけがなく、養成施設側のサポート体制も不十分であるなど、実習施設として必要な要件が具体的に示されていないことが、臨床実習における様々な問題発生の根本原因となっている。実習施設の要件について具体的に検討されたい。
六) 看護学生の臨地実習に関しては、「実習施設には、実習生の更衣室及び休憩室が準備されているとともに、実習効果を高めるため討議室が設けられていることが望ましいこと。」とされているが、理学療法士等学生の臨床実習に関しては、一部の実習施設では、実習生の更衣室及び休憩室どころか、実習生のロッカーや机さえ提供されないため、休憩時間中に施術台の上にパソコンを置いて作業をしている実態が見られる。このような病院及び診療所等は実習施設として適切か。見解を示されたい。
七) 医学生の臨床実習に関しては、学校と臨床実習先病院との間で臨床実習に関する取り決めを文書で交わすよう「医学教育モデル・コア・カリキュラム−教育内容ガイドライン−平成二十二年度改訂版」で指針が示され、指導者は大学で決定された『臨床実習の指針』に則った学生の学習を支援すべきであることが明確に示されている。一方、理学療法士等学生の臨床実習ではこれに相当する指針が出されていないため、実習施設と養成施設との連携がなく、養成施設は実習施設へ実習を「丸投げ」している現状がある。理学療法士等養成のための臨床実習というのは、理学療法士等学校養成施設指定規則で定められたカリキュラムの一環であり、法令・関係団体の指針・養成校の方針のもとに実施されるのは当然のことで、臨床実習を受け入れた実習施設の裁量は、法令・関係団体の指針・養成校の方針の範囲内でのみ許されるものである。実態を調査のうえ、養成施設及び臨床実習施設を指導すべきではないか。
八) 重大な問題として指摘されているのは、多数の学生が臨床実習を終了できず、留年・退学・実習のやり直しとなっている事実である。政府は早急に以下の調査を行い、実態把握を急ぐべきである。
@臨床実習を終了できず、留年・退学・実習のやり直しとなる学生の発生頻度とその原因及び背景。
A実習中の学生の平均睡眠時間。
B徹夜などの対応が必要となる背景。
C臨床実習期間中に精神疾患に罹患する学生の発生頻度とその原因。
D臨床実習期間中に自殺あるいは自傷した学生の人数とその原因。
九) 平成二十一年五月十四日に全国リハビリテーション学校協会・社団法人日本理学療法士協会・社団法人日本作業療法士協会から、抜本的な教育制度の見直しを行うよう要望書が提出され、具体的提言まで行われているにも関わらず、現在まで見直しが行われなかった理由は何か。
また、上記要望書にも記載されている専任教員の基準見直しについて、何故七年間も放置されたのか。その理由を具体的に示されたい。
十) 今回、理学療法士等学校養成施設のカリキュラム全体の見直しを行うということだが、どのように見直すのか大枠の基本を示されたい。
十一) 現行制度下であまりにも多くの問題が発生し実際に自殺者まで発生している以上、理学療法士等学校養成施設の養成カリキュラム全体の見直しについては、公開で議論し広く意見を求める必要があると考えるがどうか。
三 養成施設について
一) 高齢化社会を前に理学療法士等養成の必要性が高まり、養成校の新規設立が促され、理学療法士等が急増したが、それに見合う法令の整備を怠ったため、養成教育の質の低下ひいては理学療法士等の質の低下を招く事態となっている。一部には、理学療法士等は飽和状態に達しているとの指摘もあり、量から質へという観点で、養成に関しては高等教育への移行が必要という声も上がっていることについて見解を示されたい。
二) 理学療法士等養成施設の「専任教員」とはどのような教員を意味するのか、具体的に示されたい。
三) 一部の理学療法士等養成施設が法令を軽視していることについて、関係団体は養成教育の質を担保するために地方厚生局へ報告し指導を仰いでいるとのことである。また、厚生労働省内でも養成施設の「質の確保が重要」と認識していた。しかしこうした改善指導にも関わらず翌年以降も定員を超える学生を入学させたり、専任教員の人数が足りない等、理学療法士等学校養成施設の指定基準を満たさない養成施設が放置されてきた実態がある。理学療法士及び作業療法士法施行令第十三条第一項の規定に基づき、毎年提出される報告に関しても、不備が明らかな内容であるにも関わらず受理し、その後、指導が行われた形跡がない。指定養成施設に対するこのような杜撰な管理監督は、立ち入り調査権や罰則の規定がない等、指定取り消しのための具体的手続きが明らかでないからではないか。この点についての見解を求める。
四) 一部の養成施設で行われている学生の勧誘は、養成校の評価と結果の公表及び情報の公表の点からだけではなく、消費者契約法及び景品表示法の観点においても重大な疑義がある。修業年限内に卒業する学生数が入学時の学生数の半数程度であるにも関わらず、その事実を秘匿し学生を勧誘することは不利益事実の不告知に、養成校の新卒学生のみの合格率を、全国の新卒及び既卒者合計の平均合格率と比較して表示するのは優良誤認表示にあたる可能性がある。養成施設は国から指定を受けた教育機関であり、特に新設の養成施設に対しては「理学療法士等養成所初度設備整備事業の実施について」(平成四年)に基づき公費まで投入されているのであるから、高い規範意識が求められるのは当然である。養成施設の学生勧誘方法について、早急に実態を調査し是正すべきと考えるがどうか。
右質問する。