質問本文情報
平成二十九年六月五日提出質問第三六一号
政府のTOC条約の解釈に関する質問主意書
政府のTOC条約の解釈に関する質問主意書
平成二十九年三月二十一日、衆議院法務委員会で金田法務大臣は、「テロを含む組織犯罪を未然に防止して、これと闘うための国際協力を可能とするTOC条約を締結することを目的としまして、テロ等準備罪を創設するもの」と述べた上で、「三年後に迫りました東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えております。そうした中で、昨今の国内外のテロ組織による犯罪を含む組織犯罪情勢等に鑑みますと、テロを含む組織犯罪を未然に防止する、そして、これと闘うための国際協力を可能とするTOC条約を締結することは不可欠である、この点が立法事実であります」と表明している。
他方、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のため、各国が立法作業をする際の指針とする国連の「立法ガイド」を執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏は、東京新聞の取材に応え、「条約はテロ防止を目的としたものではない」と明言するとともに、六月三日にロンドン中心部で起きたテロなどを指し、「英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけでは、テロの防止にはならない」と指摘した。さらに「新たな法案などの導入を正当化するために条約を利用してはならない」と述べた。
パッサス氏はこの取材の中で、テロ対策に関して、それぞれの国に異なった事情があり、まずは刑法など国内の制度や政策を活用するものだと述べ、TOC条約はあくまで各国の捜査協力を容易にするためのものであると指摘した。また、TOC条約については「組織的犯罪集団による金銭的な利益を目的とした国際犯罪が対象」で、「テロは対象から除外されている」と指摘し、「非民主的な国では、政府への抗議活動を犯罪とみなす場合がある。だからイデオロギーに由来する犯罪は除外された」と、TOC条約の起草過程を踏まえつつ、「TOC条約はプライバシーの侵害につながるような捜査手法の導入を求めていない」と述べ、TOC条約を新たな政策導入の口実にしないように注意喚起を行った。
これらの見解を踏まえて、以下質問する。
二 金田法務大臣は、「三年後に迫りました東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えております。そうした中で、昨今の国内外のテロ組織による犯罪を含む組織犯罪情勢等に鑑みますと、テロを含む組織犯罪を未然に防止する、そして、これと闘うための国際協力を可能とするTOC条約を締結することは不可欠である」との認識を示している。他方、「昨今の国内外のテロ組織による犯罪」は、六月三日のロンドン中心部で起きたテロ事件においても、IS(イスラム国)は、「ISの派遣した戦士がロンドンで攻撃を実行した」との声明を発表するなど、イスラム過激派が関与する偏向したイデオロギーに由来するものが多くを占める。政府の「テロを含む組織犯罪を未然に防止する、そして、これと闘うための国際協力を可能とするTOC条約を締結することは不可欠である」という見解は、国際的には共有されていない日本政府の独自の考えで、本来のTOC条約の目的に合致していないのではないか。見解を示されたい。
三 パッサス氏は、テロ対策に関して、それぞれの国に異なった事情があり、まずは刑法など国内の制度や政策を活用するものだと述べ、TOC条約はあくまで各国の捜査協力を容易にするためのものであると指摘しているが、政府は刑法などの国内の制度や政策の活用をまず検討し、その上で、不可能だとの結論に至り、テロ等準備罪を新設する法案の成立しかないとの認識に至ったのか。見解を示されたい。
四 パッサス氏は、「英国は長年TOC条約のメンバーだが、条約を締結するだけでは、テロの防止にはならない」と指摘し、TOC条約の批准、ひいてはテロ等準備罪法案の成立そのものは必ずしもテロの防止にはつながらないということを示唆している。他方、金田法務大臣は、「テロを含む組織犯罪を未然に防止する、そして、これと闘うための国際協力を可能とするTOC条約を締結することは不可欠である」と述べているが、国際的には共有されていない日本政府の独自の考えで、本来のTOC条約の目的に合致していないのではないか。見解を示されたい。
五 パッサス氏は、TOC条約では「イデオロギーに由来する犯罪は除外された」と指摘しているが、参議院で審議中のテロ等準備罪法案では、「イデオロギーに由来する犯罪は除外され」ているのか。政府の見解を示されたい。
六 五に関連して、「イデオロギーに由来する犯罪は除外され」ていないとすれば、TOC条約が求めている以上のものを日本政府は準備しているのであり、テロ等準備罪法案は、国際的には共有されていない日本政府の独自の考えに基づくものであるという理解でよいか。
七 パッサス氏は、「新たな法案などの導入を正当化するために条約を利用してはならない」と指摘しているが、政府のこれまでの答弁を鑑みれば、イデオロギーに由来する犯罪は捜査や処罰の対象に含まれると解され、テロ等準備罪法案はこのようなパッサス氏の指摘に該当するのではないか。政府の見解を示されたい。
右質問する。