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令和三年二月二十四日提出
質問第五三号

公衆衛生政策の観点から拡充すべき死因究明制度に関する質問主意書

提出者  阿部知子




公衆衛生政策の観点から拡充すべき死因究明制度に関する質問主意書


 我が国における死因究明制度は、二〇一二年に「死因究明等の推進に関する法律(以下、推進法)」と「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(以下、調査法)」が成立し、調査法に基づく新たな解剖制度が創設されたことで大きく前進するかに見えた。しかし推進法は時限立法のため二〇一四年に失効し、しばらく理念法の空白状態が続いたが、ようやく二〇一九年に新たに成立した「死因究明等推進基本法(以下、基本法)」によって設置された死因究明等推進本部において、死因究明等推進計画の策定に向けた検討会が継続されている。この経緯を踏まえて以下質問する。

一 死因究明に関する施策は、従来の推進法では総合調整的な役割が必要とされ、内閣府の所管とされたが、二〇二〇年四月一日に施行された基本法では、厚生労働大臣を本部長とする死因究明等推進本部に所管が移された。推進法の成果はどのように評価され、どのような経緯で厚労省の所管とされたのか。
二 推進法において「実施されるべき施策」の第一に掲げられた「死因究明を行う専門的な機関の全国的な整備」については、ほとんど進捗がなかった。このことについて、課題はどのように総括され、その結果が基本法及び現在策定中とされる「死因究明等推進計画」にはどのように位置付けられているのか。
三 二〇一二年から現在までに警察が取り扱った遺体のうち、司法解剖、行政解剖(監察医解剖・承諾解剖)、調査法解剖に付した数の年次推移について、政府が把握しているところを都道府県ごとにそれぞれ示されたい。聞き及ぶ限りではこの期間に剖検数も地域差も大きな改善はないと認識しているが、この結果をどのように分析したのか。
四 欧米の先進国の多くが、死因究明の最終目的を「国民の健康と安全の増進」としている。一方、日本においては、解剖の要否を決める判断基準は事件性、犯罪性の有無であり、医学的、衛生学的視点で解剖を行うことは原則ないとされ、警察主導の制度となっている。さらに、司法解剖は原則非公開のため剖検情報が共有されず、事件の再発防止や公衆衛生には活かされにくい実態があるが、死因究明の目的について、基本法においては何と位置付けられているのか。
五 基本法は基本理念として第三条第二項で、「死因究明の推進は(中略)死因究明により得られた知見が疾病の予防及び治療をはじめとする公衆衛生の向上及び増進に資する情報として広く活用されることとなるよう、行われるものとする」と定めている。
 現在、拡大の一途をたどっている新型コロナウイルス感染症などの新興感染症対策は、まさしく公衆衛生上の最も重要な目的の一つと考えるが政府の見解は如何。
六 本年二月十七日の衆議院予算委員会において、警察庁は令和二年三月から令和三年二月十日までに警察が検視等により取り扱った新型コロナウイルス感染症陽性であった遺体二百六十一件のうち、新型コロナウイルス感染症百十四件、肺炎五十一件、その他四十七件、不詳九件、合計二百二十一件を内因死、外因死三十二件と答弁している。しかし、その多くは検案医が外表検査のみで判断した病名である可能性が高い。そもそも同期間に警察が取り扱った遺体は何件あったのか。そのうち解剖されたのは何件か。また、PCR検査を行ったのは何件か。政府の把握しているところについて答弁を求める。
七 新型コロナウイルス感染症は急速に進行する呼吸不全や血栓塞栓症による原因不明の突然死という転帰をとることが明らかになっている。自宅や救急搬送後に亡くなったご遺体の中に、新型コロナウイルス感染症の感染事例が見逃されている可能性は否定できない。検査や解剖を行わず、外表のみで病名を決定するこうした実態は、長期的には死亡統計にも影響を与えかねないと懸念されるが、この点について政府の見解を示されたい。
八 感染症における公衆衛生を担う保健所は、自宅や搬送中の死亡者に対しても行政検査を行い、新型コロナウイルス陽性であった場合は、その方のご家族やご遺体に触れた警察官や検視官、葬儀関係者などに対し、積極的疫学調査を行う義務があると考えるが、それらは現状どのような実態にあるか把握しているか。
 また、保健所の抜本的な体制整備の必要性をどのように認識しているのか。
九 法医学教室を持つ大学によっては、遺体解剖の前にPCR検査を自前で行い、医師等の安全確保を図っている大学もあると聞くが、そもそも検査費用は行政検査として当然公費から支弁すべきものである。また、解剖に当たる医師等に対しては、包括支援交付金による慰労金等は支給対象外であるという。「患者」が生者と死者で違うのは不合理ではないか。改善すべきと考えるがどうか。
十 ところで、現在、日本では感染防止対策に対応した解剖施設はわずかしかない。最大の設備を誇る東京都監察医務院でも、医師等の安全に配慮して新型コロナウイルス陽性患者の遺体の解剖は行っていないと聞く。解剖室の陰圧、空調と換気、防護服装着のための前室等の設置など、基本的なインフラ整備がおろそかにされているのではないか。こうした剖検体制の整備については、国として十分な予算をつけて早急に取り組むべきと考えるが、どうか。
十一 剖検情報は、感染症の病態やその経過、臓器の障害などに対する知見や治療法の開発などに重要である。新型コロナウイルス感染症に関しても二〇二〇年二月に中国から発表された肺の組織所見に始まり、世界各国からびまん性肺胞障害、血栓塞栓症、血管内皮細胞障害等の病態の解明と治療につながる重要な剖検情報が世界各国から報告されている。
 日本でも新興・再興感染症対策を視野に入れた剖検情報のデータベース化と共有化は喫緊の課題である。しかし、現在の日本において公衆衛生目的で解剖を行うのは監察医解剖だけであるが、監察医制度があるのは東京都二十三区、大阪市、神戸市の三自治体のみである。これをどのように拡充していくのか、あるいは別途新たな制度を作るのか。また、死因究明等推進計画に人材育成をも含めた中・長期的なビジョンを明確に盛り込むべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

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