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令和五年五月二十九日提出
質問第六九号

戸籍謄本等の交付にあたり使用する言語に関する質問主意書

提出者  徳永久志




戸籍謄本等の交付にあたり使用する言語に関する質問主意書


 令和五年三月十七日、岸田総理が議長を務め、齋藤健法務大臣も構成員である教育未来創造会議で、岸田総理は二〇三三年までの留学生に関する目標を示し、外国人留学生を四十万人受け入れ、日本人留学生を五十万人送り出すとの意向を示した。日本からの留学生は二〇二一年度に一万人だった。新型コロナの感染対策の影響もあり、二〇〇九年度以降で最も多かった二〇一八年度の一割ほどにとどまった。
 四月二十七日の教育未来創造会議では、「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)」が決定され、その中で、日本人の海外留学者数は韓国、フランス、ドイツなどの国と比べて相対的に少なく、停滞していることから、「このような状況を打開する」必要があることが示されている。
 留学には経済的負担が伴うが、中でも戸籍謄本の翻訳等にかかる費用に戸惑ったという留学生や家族の声は少なくない。戸籍謄本や住民票の翻訳は、留学ビザ申請時はもとより、国際結婚や離婚する場合のほか海外移住や就業する際に提出が求められる。ワーキングホリデービザなどの申請でも求められる場合も多い。
 しかしながら、留学をしようとする者や国際結婚を望む者が戸籍謄本の翻訳を求めても、それを市町村長が行っている例はほとんどない。あるいは戸籍謄本の翻訳を地方自治体が行う例は極めて少ない。
 兵庫県西宮市は、請求者である市民が翻訳した内容を英語翻訳担当職員が添削した上で、戸籍の英訳証明書を発行している。東京都練馬区は、請求者自身が英訳した戸籍謄本に英文証明を付すことを行っている。福岡県大野城市では、英訳された戸籍謄本の英文を市で審査し、英訳証明書として認証することを行っている。
 このように数少ない事例においても統一的な方針はなく、翻訳した戸籍謄本などが必要な者への利便性に著しく欠けるといってよい。
 現行では、戸籍や住民票は公文書であるものの、その翻訳したものは私文書として扱われるため、多くの場合、公証人役場で公証人がその翻訳したものに公証(Notarization)することで公的認証を得ることになっている。さらに、海外の公的機関へ提出する場合、公証人役場での公証のあとに「法務局での公印証明」と「外務省でのアポスティーユ」を取得しなければならないケースがほとんどである。ハーグ条約未締結国の場合、外務省の公印確認手続きのあとに各国の在日大使館あるいは領事館で「領事認証」を受ける必要がある。ハーグ条約締結国でもアポスティーユだけでは不十分なケースもあり、極めて利便性に欠ける制度となっている。
 例えば、兵庫県西宮市では戸籍の英訳証明書の発行手数料は一通三百円だが、戸籍謄本の英訳を委託し、公証人役場で公証する場合は一万五千円から二万円ほどの費用が必要になる。
 このような現状を鑑みれば、「日本人学生の海外留学者数を全体で五十万人にまで引き上げることを目指す」ことを提唱している岸田政権としては、まず国内での戸籍に関する事務について改善を行い、留学生の費用負担を軽減するとともに、日本のどこに住んでいても同じ行政サービスを受けられるような社会インフラを整備することが求められるのではないか。
 戸籍法第一条では「戸籍に関する事務は、この法律に別段の定めがあるものを除き、市町村長がこれを管掌する」とあるものの、同条第二項で、この事務は「地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務」であることが明示されている。すなわち、国が本来果たすべき役割に係る事務であって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものであり、政府による是正の指示、代執行等、国の強い関与が認められているものの、戸籍の翻訳業務については十分かつ適切な指示等が行われているとは言えない。
 その背景として、戸籍法第六条に「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する」と示されるものの、言語規定がなく、そもそも日本語で編製すべきという法的根拠すらない点があげられるであろう。日本語で編製しているのは慣習上のものと理解しているが、その明確な定義がない以上、多言語への翻訳もなしえない。他方、戸籍法第三条では「法務大臣は、市町村長が戸籍事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」ことが示されている。このような利便性を欠く戸籍制度について法務大臣は、教育未来創造会議の構成員でもあり、何らかの改善を行うべきではないか。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 現行では、戸籍や住民票は公文書であるものの、その翻訳したものは私文書として扱われるため、多くの場合、公証人役場で公証人がその翻訳したものに公証することで公的認証を得ることになっている。このような制度の元になるものは、「昭和二十八年十月二十二日付日記戸第四一一七号静岡地方法務局長照会・同月三十一日付民事甲第二〇二六号民事局長回答」に拠るものであり、交付人がかねて交付を受けた戸籍抄本を英訳し、外国官憲に戸籍の英訳文を提出することに関して、英文による戸籍抄本は交付できないものの、市町村長の一般事務として戸籍抄本の英訳であることを証明することは差支えないとの見解を踏襲しているとの理解で良いか。
二 一に関連して、なぜ言語規定がないにもかかわらず、英文による戸籍抄本の交付はできないのか。政府の見解如何。
三 岸田政権が「日本人学生の海外留学者数を全体で五十万人にまで引き上げることを目指す」のであれば、戸籍の多言語への翻訳を政府や自治体が行うように方針を変更すべきではないか。翻訳した戸籍謄本も公文書とすべきであろう。政府の見解如何。
四 日本における戸籍の編製については、日本語で行うことの法令上の根拠はなく、慣習上、日本人のものであるから日本語で編製されてきたという理解で良いか。
五 四に関連して、戸籍の正本は日本語で編製することを明示し、かつ、昨今の社会状況の変化にともなうとともに、海外留学者数の増加や国際結婚の妨げにならないように、英語、フランス語、中国語などを副言語として位置づけ、希望する者にはその言語での戸籍謄本などの交付をしてはどうか。政府の見解如何。
六 戸籍そのものは記述すべき内容も複雑ではなく、仮に戸籍謄本を英語に翻訳するとしても、その分量は多くはない。戸籍謄本の翻訳に関して、法務大臣は戸籍法第三条でいうところの「市町村長が戸籍事務を処理するに当たりよるべき基準を定め」るべきではないか。政府の見解如何。
七 現在の戸籍謄本は横書きで記述されており、英文による記述にそのまま使用できる体裁を取っていると思われるが、そもそも戸籍が横書きとなった理由は何か。英文等での記述を想定していたのか。政府の見解如何。
八 戸籍はその者の国籍を公証し、氏名、本籍などを明示する重要な公文書であり、国の責任でその謄本は日本語以外でのものも交付できるようにすべきである。そのための検討を政府内で行うべきではないか。また現在かかる検討は全く着手されていないのか、ないとすればその理由は何か。政府の見解如何。
九 一に関連して、この「昭和二十八年十月二十二日付日記戸第四一一七号静岡地方法務局長照会・同月三十一日付民事甲第二〇二六号民事局長回答」により現行の制度のひずみ、利便性の欠如が生じていると考える。この効力を停止するために、法務大臣は「市町村長が戸籍事務を処理するに当たりよるべき基準を定め」、戸籍謄本の翻訳を公文書として交付する制度を整備すべきではないか。政府の見解如何。
十 戸籍謄本の翻訳に関して事務を所掌すべき省庁があるとすればどこになるのか。各省に照会しても法務省、外務省、文科省の担当者の押し付け合いが現状で、多言語での戸籍謄本の交付を求める者は非常に困惑しているのが現状である。これでは「日本人学生の海外留学者数を全体で五十万人にまで引き上げることを目指す」ことは困難である。政府はこの現状を改善すべきではないか。政府の見解如何。

 右質問する。

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