質問本文情報
令和六年十月二日提出質問第一三号
原口五原則とマイナンバー制度との整合性に関する質問主意書
提出者 原口一博
原口五原則とマイナンバー制度との整合性に関する質問主意書
平成二十二年三月十五日に開催された「第三回社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」において、当時、総務大臣だった私は、「番号に関する原口五原則(以下「原口五原則」という。)」を提示した。原口五原則は、@「権利保障の原則」(国民の権利を守るための番号であること)、A「自己情報コントロールの原則」(自らの情報を不正に利用・ストックされず、また、自らこれにアクセスし確認・修正が可能な、自己情報をコントロールできる仕組みであること)、B「プライバシー保護の原則」(利用される範囲が明確な番号で、プライバシー保護が徹底された仕組みであること)、C「最大効率化の原則」(費用が最小で、確実かつ効率的な仕組みであること)、D「国・地方協力の原則」(国と地方が協力しながら進めること)の五つである。
平成二十三年には、原口五原則を踏まえた「社会保障・税番号大綱」が取りまとめられた。同大綱に基づき、平成二十五年にいわゆるマイナンバー関連四法が成立し、社会保障、税及び災害対策の各分野においてマイナンバーを利用することにより、行政運営の効率化や国民の利便性の向上等を図るためのマイナンバー制度が導入された。
これらを踏まえ、以下、政府に対し質問する。
一 番号に関する原口五原則
原口五原則において示された考え方は、現在のマイナンバー制度においてどのように反映されているのか、端的に伺う。
二 原口五原則とマイナンバー制度との整合性
1 権利保障の原則
マイナンバーは社会保障給付や種々の行政サービスの提供を適切に受ける国民の権利を守るための番号である。当該提供を受けるに当たり、マイナンバーカードが必要となる場面が増えてきているが、マイナンバーカードの交付には時間を要している。
令和五年のマイナンバー法の改正(以下「令和五年改正法」という。)により、マイナンバーカードを申請から一週間以内(最短五日)で交付できる仕組みが創設されたが、交付までの期間を最短五日から更に短縮することは可能か。また、現行の運転免許証の紛失時において、運転免許試験場で即日再交付できる仕組みを参考に、マイナンバーカードの紛失時においても、市区町村の窓口で即日再交付できる仕組みを創設することは可能か。
2 自己情報コントロールの原則
憲法第十三条で保障されるプライバシーの権利には、個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し、本人が関与できる権利(以下「いわゆる自己情報コントロール権」という。)が含まれるとする憲法上の学説が多くある。これに対し、政府は、いわゆる自己情報コントロール権については、その内容、範囲及び法的性格に関し、様々な見解があり、明確な概念として確立しているものではないと答弁している。
ア 現行の個人情報保護制度又はマイナンバー制度において、いわゆる自己情報コントロール権に関連する仕組みはあるのか。
イ マイナポータルでは、行政機関等が保有する利用者の個人情報の検索・確認や、行政機関等同士が利用者の個人情報をやりとりした履歴の確認等を行うことができる。これらは、いわゆる自己情報コントロール権の担保に資する仕組みではないか。
ウ マイナンバーカードを取得していない者が、マイナポータルで提供されている自己情報を確認するには、書面による開示請求を行うしかないが、多大な時間と手数料の負担を伴う。マイナンバーカードを取得していない者が、いわゆる自己情報コントロール権の行使に際して差別的な取扱いを受けることになるのではないか。
3 プライバシー保護の原則
マイナンバーは、従前、社会保障制度、税制、災害対策の三分野において利用を促進することとし、マイナンバーの利用及び提供ができる事務は法律又は条例において限定列挙されており、立法府による民主的な統制が機能していた。
ア 令和五年改正法により、法律でマイナンバーの利用が認められている事務に「準ずる事務」においてもマイナンバーの利用を可能とするとともに、同法でマイナンバーの利用が認められている事務の範囲内において主務省令で定めることで情報連携が可能とされた。これに対し、利用範囲及び情報連携の拡大に際して立法府の関与の度合いが低下することを懸念する声があるが、当該改正の趣旨を伺う。また、「準ずる事務」か否かを判断する主体は誰か。
イ 政府において、利用範囲及び情報連携の拡大について協議する会議体はあるのか。ある場合、当該会議体へは国民は傍聴可能か。傍聴できない場合、国民はどのような過程で協議決定されるに至ったのかを知る権利が阻害されているのではないか。
ウ マイナンバー制度がプライバシー権を侵害するか否かが争われた訴訟の上告審においては、マイナンバーの利用範囲は法律で限定されていること、個人情報は行政機関によって分散管理され、不正アクセス対策も採られていることなどから、情報漏えいの危険性は極めて低く、合憲とされた(最判令和五年三月九日民集七十七巻三号六百二十七頁)。マイナンバーの利用範囲を法律で限定列挙せず、「準ずる事務」へと拡大することは、自己情報の利用及び提供に関する国民の予見可能性を失う上、法律により利用範囲が限定されていることや個人情報の分散管理等を理由としたマイナンバー制度に対する最高裁判所の合憲判断に影響を及ぼすことになる可能性はないか。
4 最大効率化の原則
マイナンバー制度のシステム整備に当たっては、既存インフラを有効活用するとともに、最小の費用で確実かつ効率的な仕組みとする必要があると考える。
ア 令和六年五月に公表された会計検査院の調査報告書「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」において、約四割の事務手続で照会件数が皆無となっているなど、自治体による情報照会の利用が進んでいないことが明らかとなった。一部の事務手続で情報照会が進んでいない理由について伺う。
イ マイナンバー情報照会の利用がより一層推進されるよう、政府としてどのような取組みを進めていくのか。また、情報照会が利用されていない事務手続については、照会可能な事務から削除するなど、実情に応じて合理化する必要はないか。
ウ クラウドコンピューティング(以下「クラウド」という。)の手法により、システム上の安全措置と制度上の保護措置を講じた上で、各分野でのシステムの共同利用を積極的に進めることは重要であると考える。現在、政府は行政機関等が共同利用するガバメントクラウドの整備を進めているが、クラウドの提供事業者として選定されている五社中四社は米国企業である。米国企業のクラウドを利用する場合、米国法に基づき連邦政府が日本国民の個人情報を閲覧することが可能な場合はあるのか。
エ 複数の自治体がガバメントクラウドを共同利用することは、情報の分散管理の原則に反し、一元的に管理する主体を作ることにならないか。物理的に情報を分散管理する安全確保措置を講ずる必要はないのか。
5 国・地方協力の原則
一連の地方分権一括改革で、国と地方自治体は「対等・協力」の関係となり、国が自治体に命令することは原則としてできない。しかし実態は、マイナンバー関係事務におけるトラブル対応や国からの相次ぐ指示に、自治体が疲弊しているとの指摘がある。
ア マイナンバーのシステムや管理マニュアルの更改について、どのような手段で自治体に通知しているか。また、更改に当たり、自治体からの要望を受け付ける機会はあるのか。ある場合、自治体からの要望を受けて改修された主な事例について伺う。
イ 次期マイナンバーカードの導入など、今後、更に自治体の負担が増すことが想定される中、マイナンバー制度の円滑な実施に向け、人員体制の確保など、自治体の負担軽減のための財政措置や支援策の在り方について政府の見解を伺う。
三 マイナ保険証
1 政府はこれまで、マイナンバーカードと健康保険証の一体化のメリットを早期に最大限発揮するため、従来の健康保険証の発行を本年十二月二日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行するとしてきた。しかし、単に従来の健康保険証を廃止するだけでは、災害時における通信障害などの際に、オンライン資格確認ができないというデメリットがあるのではないか。
2 政府はオンライン資格確認等システムの導入を全ての医療機関等に対して義務付け、導入に反対するならば保険医療機関等としての登録を取り消すという圧力をかけてきた。しかしながら、様々な事情でオンライン資格確認等システムの導入が困難な医療機関等の中には、廃業を余儀なくされたところも多い。オンライン資格確認等システムの導入を一律に強制することは、地域医療の崩壊を促すことになるのではないか。
3 政府は、マイナ保険証のメリットの一つに不正な利用のリスクの低下を挙げている。公的医療保険制度においては、医療機関等から提出されたレセプトに記載された診療行為が保険診療のルールである「保険医療機関及び保険医療養担当規則」等に適合しているか否かを社会保険診療報酬支払基金が審査することとされ、一定の不正な利用を防止する仕組みが備わっている。従来の審査では不十分ということか。また、従来の健康保険証を廃止することによって、不正な利用を防止できるという根拠は何か。
4 オンライン資格確認等システムにおいては、被保険者の資格取得から保険者のデータ登録までに一定程度の時間を要しており、登録完了までオンライン資格確認が行えず、紙の「資格情報のお知らせ」と併せて医療機関等へ提示する必要があるが、交付後直ちに利用できる従来の健康保険証と比べて利便性が低下しているのではないか。
5 河野前デジタル大臣は、救急活動の迅速化・円滑化に繋がるとして、災害時にマイナンバーカードを持って避難することを呼び掛けていた。災害による通信障害等により、その場でオンライン資格確認ができない場合、マイナ保険証のみでオフラインで資格確認できる仕組みはあるのか。また、災害時にはバッテリーの不足などスマートフォンでの対応が困難となる事態も想定されるところ、今後は、災害時にマイナ保険証に加え、紙の「資格情報のお知らせ」も携帯するように国民に呼び掛けるのか。
6 平常時、災害時を問わず、マイナ保険証の利用登録の有無にかかわらず、公的医療保険の資格情報や医療情報等にいつでもどこでもアクセスできるよう、システム上の安全措置と制度上の保護措置を講じたクラウドにおいて、これらの情報を管理する仕組みが必要であると考える。こうしたクラウドシステムの整備を行う考えはあるか。
右質問する。