質問本文情報
令和六年十月四日提出質問第五四号
原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務運営に関する命令における経理的基礎の毀損に関する質問主意書
提出者 山崎 誠
原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務運営に関する命令における経理的基礎の毀損に関する質問主意書
一 二〇二二年度、東京電力ホールディングス(以下、東電HD)が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、支援機構)に支払った特別負担金の金額は零円であった。その決定文書には以下のように記されている。
「令和四事業年度については、東電HDの経常損益及び純損益が赤字となることが見込まれることから、支援機構の業務運営に関する命令(平成二十三年内閣府・経済産業省令第一号)第八条第二号の規定に照らし、特別負担金額を零円とした。」
ここで示されている支援機構の業務運営に関する命令では、特別負担金額の設定基準について、以下のように定めている。
「第八条 法第五十二条第二項に規定する主務省令で定める基準は、次に掲げるものとする。一 認定事業者による電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に必要な事業資金を確保できるものであること。二 収支の状況に照らして経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであること。」
これらの資料に基づいて考察した上で、以下政府に対して質問する。
1 「経理的基礎」の毀損の一つの事例として、経常利益や余剰金がなくなり赤字決算となる財務状況が含まれると、解してよいか。見解を示されたい。
2 特別負担金零円の決定がされた二〇二三年三月三十一日、東電HDの財務状況は、「経理的基礎」を毀損する状態であった。だから、支援機構が、特別負担金をゼロとすることを決定した、という理解で良いか。見解を示されたい。
3 特別負担金はゼロであっても、一般負担金及び廃炉等積立金は優先的に資金確保されている。特別負担金よりも一般負担金、廃炉等積立金が優先的に資金確保されている理由を、それぞれ明確に示されたい。
二 二〇二一年十二月十五日付けで、経済産業省(以下、経産省)は「日本原子力発電株式会社東海第二発電所の発電用原子炉設置変更許可(発電用原子炉施設の変更)に関する意見の聴取について及び東電HDについて(意見聴取)回答」という文書を原子力規制委員会(以下、規制委員会)に提出している。その文書から、以下、引用する。
「なお、当該意見照会において言及のあった東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)による日本原子力発電株式会社に対する資金的な協力(以下「資金的協力」という。)を含め、東京電力による個別の経営判断は、賠償や廃炉、安定供給に大きな支障を及ぼすようなおそれがある場合を除いて、取締役会のガバナンスの下、経営陣の責任において行われるべきものである。その上で、東京電力からは、今回の資金的協力に係る経営判断を行うに当たっては、第四次総合特別事業計画(令和三年八月四日認定)に示された「廃炉や賠償の費用の捻出に向けて、企業価値を高め、国民負担の抑制と国民還元を実現する」との方針に適合するか否か、またそれにより賠償や廃炉、安定供給に大きな支障を及ぼすおそれがないかを確認しているとの説明を受けている。したがって、資金的協力を含め、東京電力の経営判断のあり方は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の趣旨及び第四次総合特別事業計画の内容に照らして問題はないものと考えている。さらに、令和三年十二月一日付け原規規発第二一一二〇一一号により意見照会のあった標記の件について、経済産業省としては、従来通り、個別の経営判断に左右されることなく、引き続き東京電力を適切に監督・指導していく。」
東京電力エナジーパートナー(以下、東電EP)は、日本原子力発電株式会社(以下、日本原電)に対する資金的協力を前払金(日本原電にとっては前受金)で行っている。特別負担金を出せば、「経理的基礎」を毀損するおそれのあった二〇二二年度、日本原電の会社概況書によれば、東電EPは日本原電に対して前払金を五百四十一億円支払い、前払金の累計額は千二十七億円となっている。
1 二〇二二年度、特別負担金を支出すれば「経理的基礎」を毀損するような経営状態にあった東電HDが、五百四十一億円の前払金を支払った。「経理的基礎」を毀損するおそれがある経営状態の東電HDが、日本原電に資金的協力することは認められるのか。政府の見解を示されたい。
2 先に示した二〇二一年十二月十五日付け経産省回答によれば、「東京電力による個別の経営判断は、賠償や廃炉、安定供給に大きな支障を及ぼすようなおそれがある場合を除いて、取締役会のガバナンスの下、経営陣の責任において行われるべきもの」とある。「経理的基礎」を毀損するおそれがあって、特別負担金を出せなかった東電HDの状況は、まさに「賠償に支障を及ぼしていた」のではないか。政府の見解を示されたい。
3 東電HDは、二〇二二年度、福島原発事故の賠償よりも、日本原電への資金的協力を優先したという理解で良いか。経産省は、そうした東電HDの対応を認めたとの理解で良いか。政府の見解を示されたい。
4 東電EPは、二〇二二年度、五千億円の赤字予想から五千億円の増資をしている。このような財務状況にもかかわらず、「前払費用」という形で、原電へ資金協力をしている。監督、指導する経産省は、「経理的基礎」の毀損のおそれがあっても、損害賠償に優先して「前払費用」の資金協力を容認したこととなるが、その理由はなにか。明確に示されたい。
5 そもそも東電EPが、日本原電に前払金をもって資金的協力をしている理由は、東海第二原発の認可にあたっての「経理的基礎」を担保するためである。東海第二原発を認可するための「経理的基礎」を、「経理的基礎」を毀損するおそれのある東電EPの資金的協力で担保できるのか。
規制委員会は、「経理的基礎」を毀損するおそれのあった東電EPの資金的協力による、東海第二原発の「経理的基礎」を認めるのか。見解を示されたい。
6 規制委員会の求める「経理的基礎」と、支援機構が毀損をおそれる「経理的基礎」とは定義が違うと推測される。規制委員会の適合性審査で求められる「経理的基礎」とは何か。また、支援機構がいう「経理的基礎」とは何か。できるだけ具体的かつ明確に、政府の見解を示されたい。
右質問する。