質問本文情報
令和七年六月十六日提出質問第二八七号
円借款の国内経済波及効果及び財源構造に関する質問主意書
提出者 杉村慎治
円借款の国内経済波及効果及び財源構造に関する質問主意書
我が国は、開発途上国支援の一環として、国際協力機構(以下JICAという。)を通じ、有償資金協力いわゆる円借款を実施している。
この円借款は、円建てで供与されることにより、資金が原則として日本国内で消化され、国内企業による調達・建設・技術供与等を通じて雇用と需要を生み出す。また、円借款の財源は、日本銀行の信用創造によって供給される資金が事実上の原資となり得るため、外貨準備を取り崩すことなく実施できるという点で、我が国にとって大きな国益となり得ると考える。
しかしながら、こうした「円建て・国内消化」という円借款の国益上の特性を裏づける制度的・統計的な説明は十分に整備されておらず、政府としてその資金調達構造、日本銀行の金融政策との関係、さらには国庫収益や債務管理の在り方について、国民に対して明確に説明責任を果たす必要があると考える。
これらを踏まえ、以下の事項について政府の明確な説明を求める。
一 円借款の財源の資金調達構造と日本銀行との関係について
1 政府は、円借款の財源に用いられる財投債の発行からJICAへの資金貸付に至るまでの資金フローについて、発行主体、購入者、最終的な資金負担者の関係性をどのように整理しているか、制度的・実務的な実態をそれぞれ可能な限り詳細に説明されたい。
2 財投債購入に当たって民間金融機関が用いる資金について、その原資の大部分が日本銀行の公開市場操作(公開市場買入れ、国債購入プログラム等)によって供給されていると考えられるが、政府としてこの認識が正しいかどうか、明確に示されたい。
3 円借款により供与された資金のうち、契約支出の実行段階において、円建てのまま日本国内で使用される割合はどの程度か示された上で、円がドル等に転換されるケースが存在する場合、その割合と主な契約類型について政府の見解を示されたい。
4 円借款供与に伴う国内円支出に必要な通貨供給は、制度上、日本銀行の信用創造に基づく流動性供給によって担保されていると解されるが、政府としてその実態をどのように認識しているか示されたい。
二 円借款財源の統計的処理と開示制度について
1 円借款の財源のために調達された財投債は、政府全体の国債発行残高統計においてどのようにカウントされているか示された上で、国民が理解できる形での統計上の表示状況について示されたい。
2 円借款を通じた政府債務は、いわゆるオフバランス債務として温存されている認識で相違ないか。政府の見解を問う。
3 円借款の財源及びその管理状況について、国民に対してどのような情報提供・開示を行っているか、具体的な取組状況を示されたい。
三 通貨発行益と国庫帰属資源の整理について
1 円借款のための資金調達とそれに伴う貨幣供給の関係性において、潜在的に発生している通貨発行益は誰に帰属していると政府は認識しているか。
2 政府は、通貨発行益を財源とした場合の財政負担軽減効果について、円借款制度との関係でどのように整理しているか示されたい。
四 円借款の返済リスクと財務的責任分担の所在について
1 円借款の返済に延滞や債務免除が生じた場合、JICA、財政投融資特別会計、日本銀行、あるいは一般会計のいずれが最終的な損失を負担することになるか、政府の整理を示されたい。
2 ODA債務救済措置としての債務免除等が過去に実施された事例において、その会計上の処理及び政府全体の財政統計への反映状況はどのようになっているかそれぞれ示されたい。
3 ODA債務救済措置が実施される場合の政府決定プロセス(国会承認の要否を含む)と、財務的責任分担の所在についてそれぞれ政府の見解を示されたい。
4 JICAにおける円借款貸付金は独立行政法人会計基準で処理されると承知しているが、同基準に基づく帳簿価額と政府の財政統計(財政投融資特別会計・一般会計)との整合性を政府はどのように確保しているか示された上で、債務免除・条件変更が発生した場合の会計処理と国庫負担の責任の所在をそれぞれ示されたい。
五 円借款供与が金融市場に与える影響の定量評価について
円借款の年間供与額が日本国内のいわゆるマネタリーベース、金融市場の流動性、為替レートに与える影響について、政府として定量的な試算を行っているか。行っているのであれば、前記の試算において、日本銀行の量的緩和政策との連動や市場吸収能力の限界についても考慮されているか。今後の分析方針を含めて政府の見解を求めたい。
右質問する。