質問本文情報
令和七年六月十七日提出質問第三〇〇号
「地方創生二・〇基本構想」に関する質問主意書
提出者 神津たけし
「地方創生二・〇基本構想」に関する質問主意書
政府は、石破総理が肝いり政策として掲げている地方創生二・〇に関して、令和七年六月十三日に「地方創生二・〇基本構想」(以下「基本構想」という。)を閣議決定した。基本構想は、二〇三四年度末までの 十年間を対象とした構想として策定されたものであり、国は、本基本構想で示した方針を踏まえ、速やかに関連施策の展開及び新規施策の具体化を進めるなど、地方創生二・〇の取組に早急に取り掛かるとした上で、地方に対しても、地方創生二・〇を推進する取組に早期に着手するとともに、地方版総合戦略の検証及び見直しに取り組むよう求めている。
これに関連し、次の事項について質問する。
一 基本構想については、令和七年六月十三日の閣議決定に先立ち、同月三日の「新しい地方経済・生活環境創生会議」において案が示されたが、通常国会の会期末近くになって案を公表し、国会での議論を避けたことについては、国会によるチェック機能の形骸化、国民への説明責任の不履行、多様な意見を反映する機会の喪失などの問題があるほか、行政の透明性の確保という理念からも逸脱していると考える。国会での議論を経た上で閣議決定することにより、戦略や計画の質を高め、国民の理解と合意形成を促進し、政府に対する信頼を向上させ、実効性の高い政策への転換を図るべきであり、基本構想についても、可能な限り早い段階で案を示すべきであったと考えるが、政府の見解を伺いたい。
二 「新しい地方経済・生活環境創生本部」で令和六年十二月に決定された地方創生二・〇の「基本的な考え方」においては、地方の役割として、「地域自らが真剣に考え、行動を起こし、自主的・主体的に取り組む」ことが求められているが、地方がその役割を果たすためには、十分な権限と財源が必要である。しかし、基本構想では、これまでの地方創生一・〇と同様に、地方への権限・財源の移譲は盛り込まれておらず、地方は、国が定めた政策の方針に沿った補助金・交付金に頼らざるを得ない構図となっている。その結果、地方自治体において、「地域の雇用を支えるために既存の地場産業や中小企業を活性化すること」や、「生活インフラとなる医療・介護・公共交通を維持すること」といった、地域社会を維持するための死活問題への対応が難しくなると考える。さらに、人手不足・財源不足が顕著な小規模自治体では、政府が促進する新しい取組を実施する余裕がないと考える。
地方創生二・〇について、地方が自ら考え、自主的・主体的に取り組んでいくためには、地方自治体への思い切った権限・財源の移譲が必要であると考えるが、政府の見解を伺いたい。
三 日本は、もともと食料自給率(カロリーベース)が低いが、今回の米騒動では、主食である米さえも購入することができない事態に陥った。また、約二十年後には、基幹的農業従事者数が現在の四分の一となる三十万人にまで激減すると指摘されており、今後ますます食料自給率が低下するおそれもある。他国においては、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻時に、多くの国が食料の輸出を禁止した。さらに、世界的には、今後、水不足や気候変動によって食料の生産が減少する可能性も指摘されている。そのため、日本の食料安全保障の観点からは、食料自給率の向上を図った上で、何があっても国民が食料には困らないという環境を作る必要があると考えるが、政府の見解を伺いたい。
また、基本構想では、スマート農業、農産物の高付加価値化、輸出拡大の加速化などがうたわれているが、地方創生においては、都会との間で比較優位にあるという観点や、食料自給率の向上という観点からも、農業に重点を置いて取組を進めるべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
四 基本構想に示された「新しい日本・楽しい日本」について
1 基本構想では、「新しい日本・楽しい日本」について、「若者や女性にも選ばれる地方」「誰もが安心して暮らし続けることができ、一人一人が幸せを実現できる地方を創っていく」などと説明されているが、具体的にどのような国を目指すのか、分かりやすく説明されたい。
2 「楽しい日本」という言葉は、公共交通や医療等の生活基盤の維持が困難となっている地域では、ややもすると浮ついた印象を与えかねず、国民との間に認識のギャップを生む可能性がある。また、「新しい日本・楽しい日本」というスローガンは、具体性を欠き、行動のきっかけとして国民に当事者意識を醸成できないと考えるが、「新しい日本・楽しい日本」に対する国民の理解をどう醸成するのか、政府の見解を伺いたい。
五 これまでの地方創生の取組では、まち・ひと・しごと創生総合戦略における個々の施策の重要業績評価指標を達成することはあったものの、人口減少や東京一極集中の大きな流れを変えるには至っていない。施策の目標設定を誤れば、地方創生の本質を見過ごして、目標を達成すること自体が目標となってしまう可能性があり、目標設定の在り方は極めて重要であると考えている。
1 基本構想で「十年後に目指す姿」として掲げられた十四の目標値(東京圏から地方への若者の流れを倍増、関係人口を延べ人数一億人創出等)は、達成されれば地方創生が実現したといえるようなものとなっているのか、政府の見解を伺いたい。
2 地方創生の実現に資する目標として、地方自治体ごとの域内総生産の向上や、地方の一人当たり労働生産性をOECD加盟国平均以上に向上させること等を基本構想における目標とすべきではないかと考えるが、政府の見解を伺いたい。
六 厚生労働省の発表によれば、令和六年の出生数は約六十八万人であり、急速に少子化が進んでいる。平成二十六年十二月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」においては、二〇六〇年に一億人程度の人口を確保するとの中長期展望を示していたが、基本構想では、既存の推計のみで、将来の人口に関する数値目標は示されていない。
そこで、基本構想において、将来の人口に関する数値目標を示さなかった理由について、政府の見解を伺いたい。また、日本において経済・社会保障・公共交通・伝統文化等の社会機能を維持していくために、最低限必要と考える国民の総人口は何人程度であるか、政府の見解を伺いたい。
七 基本構想では、「人口減少を正面から受け止めた上での施策展開」を掲げているが、人口減少を受け入れてしまうことは、新しい産業の発展や教育環境の整備といった未来への積極的な投資の縮小を招き、ひいては人口減少を加速させてしまうおそれがあると考える。また、採算の合わない地域のインフラを維持しない政策が正当化されやすくなり、そうした地域が「居住不適格」とされインフラへの投資が停止・縮小されると、結果として「居住エリアの切り捨て」が起きる可能性も否定できないと考える。
そこで、人口減少が続く事態を正面から受け止めた上で、どのような施策を展開するつもりなのか、政府の見解を伺いたい。また、これにより、「居住エリアの切り捨て」などの悪影響が生じる可能性について、政府の見解を伺いたい。
八 基本構想では、関係人口を可視化する仕組みとして「ふるさと住民登録制度」を創設するとともに、十年後に目指す姿の一つとして「関係人口を実人数一千万人」創出することを掲げているが、実人数一千万人の関係人口(ふるさと住民)を創出するため、具体的にどのような取組を行うのか、政府の見解を伺いたい。
また、ふるさと住民登録制度では、地方自治体が登録証を発行し、「ふるさと住民」であることを公的に証明すると報じられているが、この登録証を、運転免許証やマイナンバーカードのような公的身分証明書として扱うことも想定しているのか、政府の見解を伺いたい。
九 地方創生二・〇にて推進する二拠点居住やふるさと住民登録制度では、移住を受け入れる、又は促進する自治体にとっては大きな負担が発生すると考えられることから、自治体の収入面でも何らかの手当てをする必要がある。
現在でも、住所を有しない市町村内に家屋敷等を有する場合には、個人住民税の非住所地に係る均等割課税(いわゆる家屋敷課税)の仕組みがあるが、均等割のみではなく、所得に応じた住民税所得割を関係自治体で按分することも考えられるのではないか。政府の見解を伺いたい。
十 基本構想では、十年後に目指す姿として、「地方の魅力を高め、地方への転入希望を増やす環境整備を進めること等により、東京圏から地方への若者の流れを倍増する」としているが、具体的にどのような取組によって倍増を達成しようと考えているのか、政府の見解を伺いたい。
また、若者の流れが倍増したことを評価するための定量的な指標について、報道では、十五歳から二十九歳の若者が、東京圏から地方へ転出する割合を二〇二四年の二・五%から二〇三四年度末までに五%とするとされているが、基本構想では明確にされていない。政府は、若者の流れが倍増したことを評価するため、具体的に何の指標を用いることを想定しているのか、見解を伺いたい。
十一 東京には、行政・司法・立法の最高機関のほか、日本経済を代表する企業や金融取引の中心的な企業、人・モノ・カネ・情報が集中している。そのため、南海トラフ地震や首都直下型地震が発生し、東京に集中する主要機能に深刻な障害が生じた場合には、日本中が壊滅的なダメージを負う可能性がある。
そこで、南海トラフ地震や首都直下型地震が発生しても国全体が機能不全に陥らないよう、政治・経済・金融・人口・物流・情報などが一都市に集中しないようにすべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
十二 内閣府によれば、南海トラフ巨大地震では約二百三十五万棟の建物が全壊・焼失、首都直下型地震では約六十一万棟の建物が全壊・焼失すると想定されている。しかし、日本では、家を建てる大工の人数も急激に減少しているため、南海トラフ地震や首都直下型地震が発生すれば、深刻な大工不足とそれに伴う復旧・復興作業の遅延が懸念される。
そこで、南海トラフ地震や首都直下型地震によって全壊・焼失すると想定される全ての家を建て替える場合、どのくらいの年月がかかると見込まれるか、政府の見解を伺いたい。また、震災後に、速やかに家の建替えが行われるよう、適切な対策を講じるべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
右質問する。