質問本文情報
令和七年八月一日提出質問第二一号
外国資本による不動産市場におけるマネー・ローンダリングの防止に関する質問主意書
提出者 松原 仁
外国資本による不動産市場におけるマネー・ローンダリングの防止に関する質問主意書
産経新聞は、本年七月、日本人を主なターゲットにした交流サイト(SNS)型投資詐欺の詐取金約五百億円がマネー・ローンダリングされていた事件で、警視庁等の合同捜査本部が逮捕した男が、不正に得た犯罪収益で購入した日本の不動産を中国人らに売却して二億円以上の利益を得ていたことが捜査関係者への取材により判明した旨を報じた。我が国の不動産市場に、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産(以下「犯罪収益等」という。)が流入していることは、極めて憂慮すべき事態であり、早急に適切な措置が講じられるべきであると考える。とりわけ、犯罪収益等の不動産市場への流入が不動産価格の高騰を招き、我が国の住宅事情を悪化させている可能性も鑑みる必要があると考える。政府には断固たる措置を求めたい。
現行の不動産取引に係るマネー・ローンダリング対策は、依然として不十分な点が多いと考える。本職が、令和四年三月三十日の衆議院外務委員会において指摘したとおり、東京都渋谷区に、米国及び英国から制裁対象に指定されているロシアの財界人が実質的に所有するとされるビルが存在し、ロシアのラブロフ外務大臣も訪問したと報じられている。しかしながら、当該物件の登記記録からは、所有者として英国領バージン諸島の郵便私書箱を所在地とする法人が登記されていることが確認できるに過ぎない。日本国外において当該英国領バージン諸島籍法人の持分又は株式の全部が移転し、これにより当該ビルの所有権が実質的に移転した場合、我が国当局がその事実を把握する手段は限定されており、我が国の不動産市場を舞台に、巨額のマネー・ローンダリングが行われかねないと考える。
本職は、これまで、「不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集に関する質問主意書」(第二百十回国会質問第一八号)を提出し、また、衆議院外務委員会において本問題を取り上げることを通して、本邦で不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集体制の構築を政府に求めてきた。今般、これに加え、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)第八条第一項に規定する疑わしい取引の届出義務の履行徹底を図るよう提言する。これは我が国不動産市場におけるマネー・ローンダリングの防止を強力に推進するよう求めるものである。
そこでお尋ねする。
一 令和六年度に、国家公安委員会及び警察庁が、特定事業者の所管行政庁から通知された疑わしい取引の届出件数は何件か。そのうち、届出事業者が宅地建物取引業者である年間の通知件数は何件か。また、宅地建物取引業者を届出事業者とする通知件数は全体の何パーセントを占めるか、それぞれ明らかにされたい。
二 政府は、宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出義務の履行が全体として適切に行われていると認識しているか、見解如何。
三 令和三年に公表された、FATF(金融活動作業部会)による第四次対日相互審査報告書は、宅地建物取引業者を含む特定非金融業者及び職業専門家のマネー・ローンダリングのリスクへの理解について、どのように指摘したか、明らかにされたい。
四 宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出義務の履行徹底を図ることは、FATF勧告等に基づく我が国の責務であると考えるが、政府の見解如何。
五 近年、富裕層向け資産管理サービス(ウェルスマネジメント又はプライベートバンキング)を手がける欧米の金融機関は、顧客からの資金受入れに際し、資金の源泉について詳細に質問し、必要に応じて疎明資料を求めるようになったと承知している。宅地建物取引業者が外国人又は外国法人と取引をする場合、いわゆる反社チェックが機能せずリスク評価が困難な場合が多いことから、政府は、資金の源泉について詳細に質問し、疎明資料を求めるよう指導すべきであると考えるが、見解如何。
六 公益財団法人不動産流通推進センターが公表した令和五年度の統計によれば、宅地建物取引業者の約七割は資本金一千万円未満の法人であり、銀行等の金融機関と比較して小規模事業者が多数を占める状況にある。このような業界構造の特性を踏まえると、宅地建物取引業者によるマネー・ローンダリング対策の実効性を確保するためには、資金の源泉に関する質問事項を含む具体的な対応マニュアルを政府が作成するとともに、犯罪収益移転防止法上の義務の履行を繰り返し強力に指導していくことが必要と考えるが、見解如何。
右質問する。