質問本文情報
令和七年十一月十一日提出質問第六一号
介護職による医療的ケア行為の範囲拡大に関する質問主意書
提出者 水沼秀幸
介護職による医療的ケア行為の範囲拡大に関する質問主意書
我が国の高齢化は世界に類を見ない速度で進行しており、令和七年現在、要介護認定者数は約七百五十万人に達している。介護職員数は約二百万人であるが、看護職員の確保が困難な中、現場では医療的ケアを必要とする高齢者や障がい者への対応に限界が生じている。
平成二十三年の社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)の一部改正(平成二十三年法律第七十二号)により、喀痰吸引及び経管栄養に限って介護職が医療的ケアを実施できるようになったものの、その後の医療的ケアニーズの多様化に制度が追いついていない。
たとえば、皮膚トラブルに対する軟膏塗布、点眼、湿布貼付、座薬挿入、内服薬の投与補助、軽微な創傷処置、酸素吸入器の調整、気管切開周りのガーゼ交換など、医師の指示のもとでリスクの低い行為であっても、法的に看護師しか実施できない現状により、利用者や家族は介護・保育・教員等の支援者にゆだねることができず過度な負担が生じている。
また、医療的ケア児や重度障がい者への支援の場では、「喀痰吸引等一・二・三号資格の認定保持」の介護職は法律上「咽頭の手前まで」の吸引しかできず、違法性阻却枠の見直しも看護師が不在である時間帯や地域において、必要なケアが提供できず生命や健康が脅かされるケースも報告されている。その他医療的ケア児の在宅療養中の死亡が、二十四時間体制で在宅療養を支える家族の刑事事件として扱われる判例もあり、体力的、精神的負担事例が後を絶たない。今こそ、厚生労働省は医療的ケアの違法性阻却枠の見直しを実現するために医師会・看護師会と協議を図り早急な改善を行うべきである。
かかる状況は、国が定める地域包括ケアシステム及び自立支援型介護の理念と整合せず、制度的欠陥が放置されている可能性を想起せざるを得ない。改善に向け、介護職による医療的ケア行為の範囲を見直し、現場で安全かつ迅速に対応できる法的環境を整備することが急務であると考える。
以上を踏まえて、以下質問する。
一 介護職員が行う医療的ケアの範囲拡大について
喀痰吸引及び経管栄養に加え、注射を除く家族や本人が在宅療養で行っている低侵襲な医療的ケア(点眼、外用薬塗布、軽度の創傷処置、湿布貼付、内服薬投与補助、軽微な創傷処置、酸素吸入器の調整、気管切開周りのガーゼ交換など)について、一定の研修を修了した介護職が医師または看護師の指示のもとで安全に実施できるよう、社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)及び関連政省令の見直しを行うべきと考える。
高齢者・障がい者の在宅生活を支えるためには、医療職と介護職の役割分担を再定義し、チームケアの実効性を高めることが不可欠であると考えるが、政府の見解を示されたい。
二 違法性阻却に関する法的整備について
現行法上、介護職による医療的ケアは、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十七条における医行為の枠組みに関し、違法性阻却の考え方のもとで限定的に扱われている。医療的ケアを求める利用者が急増する中、この枠組みのままでは現場対応に法的リスクが生じ続ける。
安全性が確認された行為については、社会福祉士及び介護福祉士法(昭和六十二年法律第三十号)及び保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)との関係を整理し、法律上明確に介護職の実施を認め、責任と権限を制度的に保障することが必要であると考える。
政府は、介護現場の現実を踏まえ、違法性阻却の範囲を明文化・拡大する法改正(平成二十三年法律第七十二号による改正趣旨の更なる発展)を検討しているか、見解を示されたい。
三 安全性確保と研修制度の拡充について
平成二十三年改正以降、喀痰吸引等研修修了者による重大事故は極めて少なく、安全に実施されていることが特定認定行為登録事業者等で確認されている。
政府として、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則(昭和六十二年厚生省令第四十九号)の改正及び、同施行規則の一部改正(平成二十三年厚生労働省令第百二十六号)で整備された枠組みを拡充し、より多様な医療的ケアを安全に実施できる新たな医師会・看護師会・介護福祉士会共同の「医療的ケア総合研究機関」を創設する考えがあるか。
また、研修修了者の法的地位や登録制度(事業所登録・行為登録)の在り方を見直す考えがあるか、見解を示されたい。
さらに、現行の喀痰吸引等第一号・第二号・第三号研修については、現場実態に即した内容に改訂すべきである。特に、介護職員等が医師の指示の下で行う喀痰吸引に関しては、「医師が発行する指示書」において、気道内吸引の際は利用者ごとに適した吸引圧と挿入深度を定め、迅速かつ安全に喀痰を吸引する旨を明記することが望ましいと考える。
また、注射を除く医療的ケア(点眼、外用薬塗布、湿布貼付、酸素吸入器の調整、気管切開部周囲のガーゼ交換、内服薬投与補助等)については、医師・看護師及び家族の同意を前提として、介護職員が実施できる制度的枠組みを設け事業者の選択肢を整備すべきである。
このような制度整備に向けて、厚生労働省は医師会・看護協会等と協議を行い、指示書記載内容の見直しを含めた十分な検討を進める考えがあるか、政府の見解を示されたい。
四 人材確保と処遇改善について
介護職員等に新たな医療的ケア業務を担わせることは、職責とリスクの増加を意味する。したがって、医療的ケア業務を行う介護職員等に対しては、専門的役割に見合った賃金水準や資格手当、処遇改善加算の優遇など、具体的なインセンティブ措置を講じるべきであると考える。
特に、前記のような特定行為登録事業者としての医療的ケア業務を実施する事業者については、介護報酬・障害福祉報酬及び処遇改善加算において報酬の割増を行い、医療的ケアを担う介護職員の職位向上を図るべきと考える。政府の見解を示されたい。
五 今後の検討体制と省庁横断的取組について
本件は、厚生労働省の医政局、社会・援護局、老健局の連携のみならず、内閣官房、こども家庭庁、地方自治体を含めた包括的な検討が求められる。政府は、介護職による医療的ケア行為の範囲見直しに関する検討会を設置し、現場の声、事故データ、安全性検証、国際比較などを踏まえた法制度設計を速やかに行う考えがあるか。併せて、法改正の検討スケジュールを示されたい。
右質問する。

