答弁本文情報
平成十三年一月二十三日受領答弁第七〇号
内閣衆質一五〇第七〇号
平成十三年一月二十三日
衆議院議長 綿貫民輔 殿
衆議院議員中川智子君提出インフルエンザ予防接種の問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員中川智子君提出インフルエンザ予防接種の問題に関する質問に対する答弁書
一の1について
インフルエンザに起因する高齢者の死亡者数については、毎月、厚生労働省大臣官房統計情報部が行っている人口動態統計により把握している。また、インフルエンザの流行に伴う超過死亡(インフルエンザの流行期における死亡者数が、インフルエンザが流行していないと仮定した場合の死亡者数の予測値を上回る値をいう。)については、国立感染症研究所感染症情報センターで分析しており、その結果は「病原微生物検出情報(月報)」等において公表している。
公衆衛生審議会感染症部会予防接種問題検討小委員会の平成十一年七月五日付けの報告書においては、「高齢者等のインフルエンザに罹患した場合の高危険群の者を対象と考えた場合等において、国内外の報告においてその一定の有効性は証明されている。」とされている。同報告書は十八回にわたる同小委員会の審議の結果取りまとめられたものであるが、同小委員会に提出され、同報告書の前提とされたインフルエンザ予防接種の有効性に関する主な論文は、米国疾病対策予防センター(CDC)の千九百九十七年四月二十五日付けの週報(以下「MMWR」という。)及び平成十年度厚生科学研究費補助金により神谷齊氏が主任研究員となって行った「インフルエンザワクチンの効果に関する研究」(以下「神谷研究」という。)以外には、別表のとおりである。
MMWRにおいては、老人介護施設に入所している高齢者に対してインフルエンザワクチンを接種した場合、非接種者と比較し入院及び肺炎を五十パーセントから六十パーセント減少させ、死亡を八十パーセント減少させる等重症化及び死亡を予防する効果が認められるとされている。
また、神谷研究においては、老人福祉施設又は病院に入所又は入院している六十五歳以上の高齢者に対するインフルエンザワクチンの一回接種の有効性を評価しており、重篤な副反応は認められなかった一方、非接種者と比較して発病を三十八パーセントから五十五パーセント減少させ、死亡を八十二パーセント減少させる効果が認められる等重症化を十分阻止できることが示されたとされている。
第百四十七回国会に提出した予防接種法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)においては、御指摘のとおり現行の予防接種の対象者に課されている予防接種を受けるように努める義務を二類疾病に係る定期の予防接種の対象者には課さないものとしており、この点については法律に基づかない任意の予防接種との違いはない。しかしながら、平成十二年一月二十六日付けの公衆衛生審議会の意見において「高齢者を対象としてインフルエンザの予防接種を行うため、予防接種法の対象疾病にインフルエンザを追加するべきである。」、「市町村が実施しやすく、被接種者や接種医が、安心して、接種を受けやすくまた接種することができるように、定期の予防接種としての体制を活用していくべきである。」等とされていること、健康被害が生じた場合に公費による救済制度を設ける必要があること等から、法案においてはインフルエンザを二類疾病として位置付けることとしたものである。
予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)においてどのような疾病を二類疾病として位置付けるかについては、各々の年齢層において等しく感染又は発病する可能性がある疾病のうち予防接種の安全性及び有効性が確認されているもの(一類疾病を除く。)の中から、当該疾病の発生予防や公費による健康被害救済の必要性等を総合的に勘案して選定されることになると考えている。
法案は、高齢者を対象としてインフルエンザの予防接種を行うことを目的として、予防接種法の対象疾病にインフルエンザを追加すること等を内容としていたものであり、政府として、同法に基づき児童に対してインフルエンザの予防接種を行うことは考えていない。なお、現行の予防接種法に基づく予防接種の実施に当たっては、市町村等に対して各医療機関で行う個別接種を原則とする旨の技術的な助言を行っているところであり、インフルエンザが同法の対象となった場合にも、個別接種を原則とする旨の徹底を図っていく考えである。
法案は、現行の予防接種の対象者に課されている予防接種を受けるように努める義務を、二類疾病に係る定期の予防接種の対象者には課さないこととしており、高齢者の入所する施設におけるインフルエンザの予防接種についても、被接種者各々の意思は尊重されるものである。
予防接種の実施者たる市町村長は被接種者の意思を個別に判断する必要があるが、意思表示が困難な者等についての具体的な判断方法は、今後検討してまいりたい。
予防接種法第十一条第一項の規定に基づく予防接種による健康被害の認定に当たっては、同条第二項の規定等に基づき疾病・障害認定審査会の意見を聴くこととされているが、予防接種との因果関係等は個別具体的な状況を総合的に勘案して技術的かつ科学的な見地から判断されることとなる。
予防接種による健康被害に係る情報の収集については、同法第十九条第三項の規定を踏まえ、市町村等を通じて医療機関等から予防接種後副反応の報告を受けるとともに、都道府県を通じて予防接種後健康状況調査を実施している。また、これらの調査結果等については、個人情報の保護に留意しつつ、その報告書等を都道府県に配布するとともに、広く公開しているところである。
別表
題名
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掲載誌
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報告者
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概要
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インフルエンザワクチンをめぐる論点 | 綜合臨牀 第四十六巻第十一号 | 廣田 良夫 加地 正郎 |
インフルエンザワクチンは、発病防止効果が認められるほか、極めて死亡等のリスクが高い老人施設入所者については、接種しない場合を一とした死亡のリスクを〇・二に低下させる。リスク評価の立場から見れば、現在使用されている種々の薬剤と比較しても、質的及び量的な面からの効果は疑う余地がない。 |
高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果と安全性 | 日本臨牀 第五十五巻第十号 | 池松 秀之 柏木 征三郎 |
インフルエンザ流行時の六十歳以上の入院患者を対象に行った検討では、ワクチン接種群のインフルエンザのり患は有意に少なく、死亡率も低値であった。現行のインフルエンザワクチンは、り患防止及びインフルエンザに関連する病態予防に十分有効であると考えられる。 また、現行のインフルエンザHA不活化ワクチンはワクチンとして極めて安全なものであり、高齢者に対する接種の障害になるような副反応は現在のところ見当たらない。 |
The Efficacy of Influenza Vaccination in Elderly Individuals (高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果) |
JAMA(日本語版) 千九百九十七年七月号 | Th.M.E.Govaert ほか(廣田良夫訳) | ハイリスク群に該当することが判明していない六十歳以上の高齢者に対し、無作為化二重盲検プラシーボ比較対照試験を行った結果、インフルエンザワクチンの接種は血清学的及び臨床的にインフルエンザのり患を半減させた。 |